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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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うっかり情報を漏らしちゃう敵は実はツンデレなんじゃないかな

 目の前のドラゴンはかなり殺気立った様子で、攻撃の手を緩めようとしない。

 大木のように太い腕を振り回して殴り、ぬかるんだ地面に作り物のようにキレイな足跡を残しながら大きな足で踏みつける。


 体格差もあって、ものすごい迫力だ。まるでテーマパークのアトラクションのようにドラゴンの巨体が迫る。

 振り回す腕を避けた瞬間、上から尻尾が襲いかかった。不意に腕を出してガードするが、体を覆った鱗がまるでヤスリのように俺の腕を削り取る。


 服が破れた……。買ったばっかりなのに。ちなみに特に怪我は無い。剣で斬られて平気なのに鱗ごときで傷が付くかよ。

 殺気立ってはいるが、攻撃はさっきとあまり変わらないな。当たっても痛くはないが、服が破れるから懐が痛む。

 そして、せっかく準備した弾丸が撃ち落とされている。躱す時に弾丸まで気が回らないから仕方がないのだが。



 このまま避け続けると、弾丸がすべて撃ち落とされて消えてしまう。

 準備した弾丸が消える前に反撃したいのだが、コイツはつつけばつついただけ情報を吐き出しそうなんだよな。

 先に情報を引き出そう。



「神界の勇者はもう居ないぞ。おっと。今は神の使徒と呼ばれている」


 体当たりからの踏みつけを躱しながら言う。

 ドラゴンの喋りが止まる。口元に魔力を集中させているようだ。火を吐くつもりかもしれない。

 困ったな。木の陰には3人が居る。3人のもとに炎が向かないように調整して……。魔法で壁を作れないかな? できれば不可視の壁がいい。

 ガラス……割れるな。炎だから溶けるか。水晶……も割れるし溶ける。というかどっちもケイ素だ。SiO2から離れよう。

 やるなら、耐熱の壁みたいな魔法の壁だな。空間を遮断するつもりで壁を作ればいいか。とりあえずシールドと呼んでおこう。


 さっそく試すと、見た目は薄い緑色のガラスのような膜になった。俺を基点に半径1.5mくらいの距離で展開されている。

 展開は上手くいった。あとは実証だな。今吐き出される炎が防ぎきれれば成功だ。


 ドラゴンの“溜め”が終わったみたいだ。必殺技か得意技か知らないけど、溜めが長すぎると思うよ?

 シールドの実験がしたいから待ったけど、本来なら適当に弾丸を撃ち込んで終了だ。


 吐き出された炎は、オレンジ色の炎を上げて火炎放射器のように俺に襲いかかる。放射された熱が地面を焦がし、草を燃やした。

 が、シールドに阻まれて俺に到達することは無かった。


『な!? 何故効かぬ? 神界の勇者であっても防ぐことはできぬはず』


「溜めが長すぎるんだよ。待ち時間が長いから簡単に対策できてしまう。

 それから、人違いだぞ。神界の勇者など居ないと言っているだろう?」


『何っ!? 貴様、何者だ!?』


「不慮の事故で迷い込んだ異世界人だよ。帰る方法を探しているだけだ。

 エルフの情報を探っているのはそのためだ」


『エルフは渡さぬ。欲深く強奪するしか能のない寄生生物に、教えることなど何もないわ!

 オォォォォォッ!』


 ドラゴンは、雄叫びを上げながら攻撃を再開した。相変わらず踏みつけと大振りパンチと尻尾振り回しだけ。ワンパターンな攻撃は良くないぞ?

 ドラゴンの攻撃を避けながら考察する。「エルフは渡さぬ」って言ったんだよな。()()()()()()ではなく、()()()()()()()を渡さないと。

 もしかして生き残りが居るのか? 居ても不思議ではないんだけど、居るならぜひ会いたい。


「奪うことも情報を漏らすこともしないぞ。会って話がしたいだけだ」


『人間は信用できぬ。エルフの隠れ里の存在を知られるわけにはいかぬのだ!』


 情報がダダ漏れしているよ? カマをかけたらまんまと釣れた。

 なるほど。隠れ里があるんだな。そして、コイツはその場所を知っていると。


 これ以上の情報を引き出すための手段が見つからない。具体的な場所が知りたかったんだけどなあ。

 牽制の攻撃をすればエルフの里に逃げ込むかもしれないな……。試そう。


 ここでようやく出しっぱなしにしていた弾丸の出番だ。

 回避中に撃ち落とされた弾丸は2発。残りは3発だ。回避しながら狙いを定め、撃つ。


 『ズパァァァン!』と強烈な音が鳴り響く。撃ち出された大根サイズの弾丸は、ドラゴンの左腕を掠めて背後の樹を大きく抉った。


『……貴様、何をした? 何が起きた?』


 ドラゴンは衝撃で体勢を崩しかけたが、それよりも何が起きたのか理解できていない様子だ。ドラゴンは攻撃をやめ、こちらを警戒している。


「逃げるなよ!? この弾丸は命中精度が良くないんだ」


『くぅっ!』


 小さく鳴いたドラゴンは、空に浮かんで飛んでいこうとしたので、おまけの2発を撃ち込んでおく。撃ち出された弾丸は、ドラゴンの鱗を少しだけ削って空に消えた。

 ドラゴンは、俺たちに背を向けて一気に飛び去った。自分が不利になった時に「逃げるな」と言われれば逃げるよね、普通。


 逃げるドラゴンを気配察知で捕捉し続けた。かなり距離が開いたが、凡その行き先がわかったので見失ってもそれほどの痛手にはならないな。




 さて。残念ドラゴンが飛び去った。あんなうっかりさんに情報を持たせたらダメだって。教えないとか言いながら色々喋っちゃったよ?


「みんな、ドラゴンは去った。こっちに来てもいいぞ」


「コーさん、お疲れ様でした。お怪我はありませんか?」


 沼のほとりに全員を集合させると、ルナが真っ先に駆けつけてきた。


「大丈夫だ。話は聞こえていたよな?」


「はい。聞こえてはいたのですが……何を言っているのかよくわかりませんでした」


 遠かったから聞こえにくかったのかな。


「ドラゴンかっこよかったー! あたしも喋りたかったなあ」


 リーズが平常運転している。次があればリーズにも話をさせてみるか。でも、友好的に話ができる気がしないんだよなあ。


「ドラゴンから得られた情報をまとめると、エルフはまだ生き残っていて、小さな集落を作って隠れているらしい。

 ドラゴンはその関係者で間違いないな。おそらく、今逃げていった方向にエルフの隠れ里がある」


「本当ですか!?」


「ちょっと、どういう意味よ! 何のことかさっぱりわからないわ!」


 クレアはまだ詳しいことを知らないからなあ。巻き込んでしまったことは申し訳ないと思うが、教えてもお互いに害にはならないだろう。

 ちなみに、リーズはすでに興味を無くしてしまったようで、周囲の観察を始めている。


「クレアとリーズには後で説明する」


「そういう問題じゃないわ。あんた何なの? ドラゴンの攻撃は全部避けるし、ブレスも効いていないじゃない!」


「いや、手加減でもしてたんじゃないのか?

 そんなことより、今日はここでキャンプをして、明日に備えようと思う。テントの設営を始めよう」


「そんなことって……。

 でも悪くないわね。ドラゴンが去ったばかりなら、魔物はここから離れた場所にいるわ」


 まあ、それも狙いなんだけど、ここから長距離移動するのが面倒くさいだけなんだよね。魔力を使いすぎたし。

 あらためて沼を確認したのだが、お世辞にもきれいとは言えない、泥水のような水が溜まった水たまりのようなものだ。とても飲める水ではない。

 魔法で水蒸気を水に変え、飲水を確保した。薪は少し歩けばすぐに見つかる。食料は街で買ってきた保存食が残っているので問題ない。




 夜を迎え、テントの中でエルフについて説明をした。

 魔族と呼ばれて絶滅させられたこと、魔道具のルーツがエルフにあること、エルフは特別な技術を持っていたこと。この辺りが現在判明していることだ。

 今日は、少数が生き残って集落を形成しているという情報が新しく加わった。


「リーズ、例のドラゴンの気配は感じるか?」


 ドラゴンは泳がせている。結構遠くに逃げてしまったので、俺の気配察知の範囲からは外れてしまった。リーズは俺よりも感覚が鋭いようなので、広範囲の察知は任せたほうがいい。


「わかるよー。でもよくわかんない」


「ん? どういうことだ?」


「いきなり消えたよ。でも消えた場所はわかるよー」


 説明されてもやっぱりよくわからない。結界魔法か何かかな。消えた場所がわかるなら十分だ。明日はそこに向かってみよう。


 まだ日が暮れる前だが、今日の活動はこれで終了だ。時間があるのでルナとリーズに魔道具作りをお願いしておく。

 さっき使ったシールドの魔法。あれが一瞬で展開できたらいいよね、という発想で、ブレスレット型の魔道具だ。


「ブレスレット本体は銀で作れますが、触媒が必要です。できれば高品位のルビーがほしいですが、水晶でも構いません」


 設計係のルナから材料追加の指示だ。ルビーか……ルビーねえ。確か酸化アルミニウムだったかな。作れるんじゃね?

 魔法で出したら消えてしまうが、元からあるものを加工すれば消えない。水蒸気や鉱石の処理と同じだ。


 山の土の中にはかなりの割合でアルミニウムが混ざっていたはずだ。それを集めて酸素と混ぜ合わせて……完成したのは岩だった……。

 熱が足りないのか? 再度十分に加熱して挑戦したら、透明な石ができた。コランダムになっちゃったよ。

 ルビーの赤はクロムだ。クロムを少しだけ混ぜたら、あっさりとルビーが完成した。こんなに簡単でいいのかよ。


「ルナ、ルビーができたぞ」


「はい? できた? 持っていたんですか?」


「土から材料を取り出して作っただけだぞ。試していないが、たぶん水晶も作れる」


 ケイ素もありふれた元素だからな。ダイヤモンドは試したのだが、ダメだった。どれだけ熱と圧力を掛けても黒い塊にしかならなかったよ……。単純に魔力が足りないだけかもしれない。万全の体調の時に再チャレンジしてみよう。


「そんなことができるんですか……?」


「難しいことではなかったな。大量生産もできると思うぞ」


「この国の経済が崩壊するのでやめてください……」


 売らなければ問題ないな。


「了解だ」



 ルナとリーズは見張りをしながら魔道具を作る。俺は見張りをしながら土を捏ねて遊ぶ。たまに鉱石から銀の生成もする。

 見張りの時間は何かしていないと寝てしまうからな。没頭しすぎないように注意が必要だが、何かの作業をしていたほうがいい、ということが前回の見張りの時の教訓だ。


 明日はエルフの隠れ里に到着できるかな。友好的に接触することはできないかもしれないが……。まあ、何とかなるだろう。

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