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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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冒険者リーズの初めてのお仕事

 今日は森へ行き、調査と採取だ。

 必要な物は一通り買えたのではないかと思うので、今日は森の少し奥まで足を延ばし、そこでキャンプをする予定だ。

 リーズの依頼も兼ねている。依頼内容は森の調査だ。本来ならリーズには荷が重い依頼なので、俺たちのサポートは必須だ。


 買ったばかりの真っ黒中二衣装を身に纏い、さっそく出発だ。中二的衣装……好きだよ? 好きだけどさあ。まさか自分が着ることになるとはね……。

 朝、俺たちの前に姿を現したクレアは、いつもの革鎧姿だった。昨日の服を着てくればいいのに。

 前回と同じように、魔物が少ない草原は無視。一気に走り抜けて森まで来た。


「今日はリーズの調査依頼と薬草の採取だ。クレア、よろしく頼む」


「任せといて。薬草なら誰にも負けるつもりは無いわ」


 戦闘面ではいい所が無かったクレアだが、薬草に関しては本当に頼りにしている。

 魔法がある以上、地球と同じというわけにはいかないからな。


「先頭はリーズだ。危険だとは思うが、依頼のためだからな。何か気になることがあれば何でも言ってくれ」


「わかったー」


 と言って走り出そうとするリーズの腕を掴んで制止する。危ない危ない。油断をするといつもこうだ。


「ちゃんと前と後ろを確認しながら進め。ここは森の中だ。はぐれたら二度と会えないと思え」


 大げさだが、そう思ったほうがいい。どんなに標高が低い山でも遭難すれば危険なのだ。そして、方向と仲間を見失えば簡単に遭難してしまう。


「うっ。わかった。気を付けるね」


 リーズに周囲の確認を頼み、俺は足元の確認をする。主に植生の調査だ。早朝訓練の時はそんな余裕無かったからな。ゆっくり進む分じっくりと調査ができる。

 しばらく歩いてわかったことは、この世界の植物は地球と大差ないということ。見覚えがある植物がちらほらと生えている。わらび的なシダ類など、地球でお馴染みな植物が結構生えている。


「こんさん、キノコ! キノコがあるよっ!」


「待て、触るな!」「待ちなさい!」


 キノコを採ろうとするリーズを、俺とクレアが同時に止めた。

 リーズがビクッとして動きを止め、涙目でこっちを見ている。うーん、悪いことをしているみたいだな……。


「ごめん。驚かすつもりは無かったんだ。キノコの中には触るだけでアウトな物もある。絶対の自信が無いキノコには触らないほうがいい」


 例えばカエンタケみたいにね。他にも、生えている場所でしか見分けられない毒キノコもある。採ってしまうと見分けが不可能だ。


「コー、よく知っているわね。キノコを見たら毒だと思いなさい。見た目、場所、季節、気候、それぞれの条件が揃うまでは手を出しちゃダメよ」


 日本でも昔は訳のわからない理論で判断していたが、この世界では克服されているみたいだ。縦に裂けるキノコは食べられるとか……ほとんどのキノコが縦に裂けるっつーの。

 ルナは興味深そうにキノコを観察している。紙を取り出してスケッチを始めた……。熱心なのはいいが、まだ森の入口だよ?

 ルナを待つ間、俺も観察してみる。上から下まで真っ白なボディ、足元にはツボ。茎にはツバがある。見た感じドクツルタケだよな……。


「クレア、これは何だ?」


「ホワイト・エンジェルね。見間違えようが無いわ」


「かわいい名前ー。採ってもいいの?」


「ダメよ。これを食べたら、死者の国から天使が迎えに来るわ」


 はい、猛毒。名前に騙されたリーズが震え上がっている。無駄にオシャレな名前を付けやがって。日本を見習えよ。


「お待たせしました。行きましょう」


 ルナがスケッチを終えたようだ。割と早かったな……。研究者とはこんなことばかりしているのだろうか。


「ちょっと待って。森の入口にこんなキノコが生えていたら危険よ。コー、悪いけど燃やしてくれる?」


 俺が? 確かにこんな所に生えていたらマズイと思うけど……。ピンポイントでキノコだけを燃やす魔法なんか使えないぞ。

 俺が火を付けたら森の中にミステリーサークルができる。


「いえ、私がやりますよ? コーさんに任せると森が灰になります」


 ルナはそう言って、魔法で器用にキノコだけを灰にした。

 その言い方酷くない? 少しは加減できるよ? でも、俺もこういう微調整ができたほうがいいとは思うんだけどなあ。



 更に奥に進む。森に生えている木は多種多様だ。クヌギやシイ、ナラのような木が多く、たまにそれ以外の木が生えている。

 ドングリが大量に採れそうだ。この国では食べる文化が無いみたいだが、食べられそうなら非常食だな。


「川の音ー。川があるよー!」


 リーズが声を出した。川を発見したみたいだ。俺には何も聞こえない。ルナとクレアにも聞こえていないようだ。


「さすが獣人ね。アタシには何も聞こえないわ。行きましょう」


 クレアの指示、リーズの先導で川に向かう。

 そこにあるのは、川というより沢だな。川幅は1mも無いくらいだ。

 川に近付くにつれて何か臭いはじめた。嗅いだことがあるぞ……青臭い中に渋みと酸味が混じったような匂いだ。ドクダミだな。

 川辺にびっちりと咲いた特徴的な花は、ドクダミによく似た何かだった。花弁の色が白ではなく薄い紫で、大きさが30cmくらいある。


「見つけたわ。この辺りで一番有名な薬草『シブキ』よ。ポーションの主原料だから、たくさん採っていくわ」


 激マズポーションの原料かよ! 日本でも毒消しとか言われていたけどねえ。魔法の力で効能が上がっているのか?


「薬草と他の草は何が違うんだ?」


「草には、魔力を貯め込む物と、吐き出す物と、そのどちらでもない物があるわ。どちらでもないものはただの雑草よ。

 薬草と毒草は、貯め込む方か吐き出す方のどちらかよ。どちらにも毒と薬があるから、これは覚えるしか無いわね」


 意外と面倒だな……。ドクダミを見つけた時に楽に覚えられると思ったんだが、逆に地球の知識が枷になるかもしれない。

 地球では野草、こっちでは雑草、なんてことになると混乱してしまいそうだ。


 とりあえず採取だな。まずはリーズにやらせよう。


「リーズ、せっかくだから採取してみ……」


 言い切る前にもうしてた。勝手に沢に降りてぶっちぶっち引き抜いている。ずいぶん乱暴だが、いいのか?


「待ちなさいよ! 採り方があるんだから、勝手なことしないで!」


「ごめんなさい……」


 怒られたリーズは、またもビクッとして動きを止めた。

 リーズは怒られると素直に謝るんだよな……反省しないだけで。良くも悪くも自由人だ。その性格は羨ましくも思う。


 すっかりしおらしくなってしまったリーズは、尻尾を畳んで注意深く説明を聞いている。

 俺も聞いておかなければ。


「いい? この薬草は根っこから抜くこと。逆に根っこを抜いちゃダメな薬草もあるから、しっかりと覚えておきなさい」


 その辺りは地球と同じか。ワサビみたいな弱い植物は、根こそぎ採られると簡単に数を減らしてしまうからなあ。

 ルナは説明を聞きながらシブキをスケッチしている。もう薬草関係はすべてルナに任せても良いような気がするが……。人任せは良くないな。俺も真面目に覚えよう。


 シブキについての説明が終わり、みんなで数本ずつ採取した。売値は1株あたり大銅貨5枚。稼ぎは微々たるものなのだが、大量に売却することができるので悪くない。

 通常の薬草採取依頼は、採取してから受けるそうだ。買い取りしてもらえるかは早いもの勝ちになるという、なかなかシビアな世界だ。



 俺たちはさらに奥へと進む。そろそろ方向の勘が狂い始める深さだと思うのだが、さっき気配察知の応用で方位磁石的な物を試したら、なぜか成功したので安心だ。

 相変わらずリーズが先導している。自信満々でズンズン進んでいるけど……大丈夫か? 帰巣本能が仕事をすればいいのだが。


「奥に入りすぎじゃない? 調査の範囲を越えるわよ?」


 かなり奥に進んだところで、クレアが注意をする。確かにかなり奥まで来た。森に入ってから30kmくらい進んだはずだ。身体強化の為せる技だよな。クレアは強化魔法だけど。


「確かにそうだな。これまでの道程で異常は感じられなかった。引き返しても良いだろう」


「そうね。アタシはこんなに奥まで来たこと無いから、これ以上案内できないわ」


 俺達は一度立ち止まり、方角を確認した。ルナとクレアは何かの魔道具で、俺は方位磁石の魔法。リーズは勘だな。

 みんなで確認しているのは、魔道具や魔法にズレが無いかを確認するためだ。


「何か変だよ?」


 リーズが何かを感じたようで、耳をピンと立てて森の奥を眺めた。

 俺はまだ何も感じないが、リーズのほうが勘が鋭いからリーズに従ったほうが良いな。


「どうした?」


「わかんない。変な感じ。敵じゃないみたいだけど、敵?」


 よくわからないな……。気付かれていないだけなのか、危険がない魔物なのか。何にせよ用心するべきだ。


「変なこと言わないでよ。アタシは何も感じないわよ?」


「私も何も感じませんが、リーズさんがそう言うのであれば何かがおかしいのでしょう。

 コーさんはどうですか?」


「俺もまだわからない。リーズ、その『変な感じ』の方向に案内してくれ。ゆっくりな。くれぐれも、ゆっくり。走るなよ?」


 念を押しておかないと猛ダッシュするからな……。フリじゃないぞ? 押すな押すな的なやつじゃないぞ?


「わかったー」


 リーズは一歩一歩慎重にゆっくりと進んだ。言えばわかるヤツなんだよ。言わないとわからないだけなんだ。



 更に奥に進むと、俺にも違和感が感じられた。確かに魔物の反応なのだが、敵意が感じられないというか……。なんと言うか不自然な気配だ。

 気は進まないが、確認しておいた方がいいよな……。


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