他人と違う物を持ちたいお年頃
おっさんが持ってきた剣は、薄くて幅が広いが一定ではなく、刀身の真ん中あたりが湾曲して広くなっている。
長さは80cmほど。基本は片刃なのだが、先端のみ両刃だ。
刀身が日本刀の逆に反っているのが特徴的だな。
うん、イカれた形状だ。何かで見たことがあるぞ。ファルカタだな。
いいね。こういうやつだよ。冒険者の武器というのなら、こういう剣を持たないとね。
何故こんな形状にしたのか俺には理解できないが、中二心をくすぐるいい剣だ。
「意外と悪くないわね」
クレアは、剣を細かく検分しながらつぶやいた。
口元が緩んでいるな。たぶん気に入ったんだろう。
「おっさん、これいくらだ?」
「金貨10枚だな」
俺には安いのか高いのかわからないが、クレアは開いた口が塞がらない様子だ。
「安すぎよ!」
安いのか。判断基準がわからない……。
「どういうことだ? ちょっと教えてくれ」
「まずは鉄ね。かなりいい鉄を使っているわよ。アタシが使ってた剣と同じくらいね。
それに鍛冶技術。丁寧に鍛えられているわ」
「お嬢ちゃん、詳しいね。その通りだ。
これは、ある鍛冶職人が伝説の剣マクハエラを真似て作った剣だ。
本物は、持てば一騎当千と言われていた剣だよ」
マクハ……? 知らないな。伝説とかいうならデュランダルとかエクスカリバーあたりを持ってきてほしい。
「アタシ、そんな伝説知らないわよ?」
現地人でも知らないのかよ。それはもう伝説ではないぞ。伝わっていないのだから。
「ははは。知らないのは無理もない。伝説とは言っても量産の剣だからな。大昔、どこかの国の兵士が使っていた剣だ。
しかし、切れ味を求める鍛冶職人なら皆一度は聞く話だ」
「じゃあ、その国に行けばもっといい剣が手に入るってことよね」
「それが、その国はもう無いんだよ。ずいぶん昔に滅んだ国だそうだ。
魔族に滅ぼされた国の一つだと聞いた」
「そうなの……。うーん……」
クレアは話を聞いて考え込んだ。しばらく悩ませてやろう。たぶんかなり買う気になっている。
“伝説のレプリカ”とか言われたら、つい欲しくなるのは仕方がないと思う。
でも俺は、面白い形状の剣だからそれだけで満足だ。なんだったらちょっと欲しい。
「店主さん、その『どこかの国』というのは、どこにあるかご存知ですか?」
いつもは武器屋では自己主張しないルナが、珍しく口を挟んだ。
「いや、知らないな。こっちこそ教えてほしいんだ。
なんせ、実物のマクハエラは現存していないからな。国中の鍛冶職人が探しに行くだろう。」
おそらく鍛冶職人の間では、マクハエラの資料だけが出回っているのだろうな。
噂と勘と僅かな資料で、なんとか復元しようと頑張っているのだと思う。
「どうした? いきなり。珍しいじゃないか。そんなに気になる剣だったか?」
「そうですね……。気になることがありましたので。すみませんでした」
「いや、謝ることではないが……。そんな言い方をされると、俺も気になるじゃないか」
「そうですか……。では、後でお話ししますね」
ルナが気になること? 魔道具関連しか思い浮かばないぞ。剣に興味を持った? いやー違うな……。まあいいや。後で聞こう。
今はそれよりも武器だ。
「クレア、決まったか?」
「そうね。この剣、使ってみるわ。でも新しいロングソードを買うまでのつなぎよ。やっぱり冒険者ならロングソードを持つべきだと思うわ」
クレアは剣先を持ち上げて、刃を眺めながら言った。
思想の不一致だなあ。みんなと同じだなんて面白くないよ。お揃いの武器は兵士だけで十分だ。
「まあ、慣れるまでは大変だろうが、いい剣だと思うぞ」
クレアは正式メンバーではないので、支払いは別だ。
支払いについてなにか交渉している。どうやら上手く値切って金貨9枚にしてもらったみたいだ……。
さっき「安すぎ」って言っていたじゃないか!
うーん……このおっさん値引き過ぎなんじゃないのかな。
クレアの交渉が終わったようなので、俺の相談に乗ってもらおう。
実際はリーズの武器なんだが、本人は結構早い段階で自由に武器を見て回っているので放置している。
「リーズの槍なんだが、選択を誤った気がするから相談に乗ってほしい」
「なんだ? 槍が合わなかったか?」
「リーズの動きが速すぎて、突きしかできない槍だともったいない気がする。
長物の方が向いているのは間違いないのだが、この槍だとしっくり来ない」
槍にもいろいろ種類があるが、今のランデベヴェはどちらかと言うと初心者用だ。突きに特化しすぎている。
かすってもダメージが入る構造だが、大きな魔物にダメージを与えることは難しい。
「ふむ。扱いが難しい武器でも良ければあるが……」
歯切れが悪いおっさん。めずらしいな。おっさんらしくない。
「何か問題でもあるのか?」
「いや、あまりにも売れない武器でな。
この国では他で扱っている店を見たことがないし、持っているやつも見たことがない」
いいじゃないか! マニアック武器。リーズには武器の師匠を付けることが難しいから、今後は自力で技術を身に付ける必要がある。
であれば、誰も教えることができないマニアック武器でも変わらない。
まあ、リーズの勘の良さを考えると、独学でも使いこなせるようになる気がするんだけどな。
「いいぞ。見てみたいから持ってきてくれ」
俺がそう言うと、おっさんは1本の柄付きの武器を持ってきた。
薙刀ではないな……。槍のような柄の先には幅が広いサーベルのような片刃の刀身が取り付けられていた。
見た目は薙刀なのだが、先だけが違う。西洋式の薙刀? ていうかヨーロッパに薙刀なんてあったっけ?
見た目良し。切れ味も良さそうだ。薙刀と同じく、突きと斬る両方に対応できるな。
確か薙刀の扱いで大事なのは間合いだ。相手の攻撃を受けない距離から相手を斬り付ける。
リーズにはちょうどいい武器なんじゃないかな。
「どうだ、見たこと無いだろう。グレイヴと言ってな、隣のガザル連合王国の一部で使われている武器だ」
使っているやつ居るんじゃん。でも俺は気に入った。あとは本人だな。
「そうだな。初めて見る武器だ。ちょっと待ってくれ。
リーズ!」
店の中をうろちょろしていたリーズを呼び出して、感触を確かめてもらう。
「うーん、わかんないや。槍とどう違うの?」
無駄だった……。
よし。この武器を使わせよう。
「槍と違って、斬り付けることもできる。リーズの戦い方なら合っていると思うぞ。
今使っている槍は直しておくから、合わないようなら槍に戻そう」
折れた柄は直しておこう。面倒だったわけじゃないんだよ? 二度と使わない可能性があったから直さなかっただけ。
ちなみに俺のクレイモアは一度も使っていない。二度と、どころか一度も使わない可能性がある……。
「わかったー」
リーズの「わかったー」は全く当てにならないのだが……。まあ大丈夫だろう。
「おっさん、これも柄の交換はできるのか?」
「できなくはないが……。持ってきてくれ。こいつの修理は少しややこしい。
でも、こいつなら簡単に折れたりしないぜ。トレント製だ」
おっさんが得意げに言うが、トレント? 木の魔物かな。おっさんのドヤ顔を見る限り、いい素材なんだろうけど。
「コーさん、トレントは南の方によく出没する、木に擬態した魔物です。
しなやかで折れにくい、でも硬いという高級品ですよ」
魔物だそうです。助かる。ルナペディアと呼びたい。
「おっさん、いくらだ?」
「金貨14枚だな」
相変わらず相場がわからない。たぶん……安い? 高級品を使っているらしいからな。
気になる時は聞いてみる。
「安い、のか?」
「かなり安いぞ。素材だけで考えると金貨30枚は下らんだろう。
正直売れると思っていないから、高値が付けられん」
おお、半値以下。マジで安いな。高価な素材で売れない物を作る……。誰得だよ。俺は得したけど。
「これを買おうと思う。ルナ、リーズ、いいか?」
「いいよー」
「……私は武器のことはわからないので、コーさんにお任せします」
「ねえ、そんな武器、誰が使うつもり?」
クレアが口を挟む。そういえば一応指導係だもんな。初心者がイカれた物を買おうとした時、止めるのが指導係だ。
でも大丈夫。おかしなものを買っているという自覚はある。
「リーズに使わせるつもりだが、ダメなら槍に持ち替える。問題ないぞ」
クレアは「そうね」と言って納得していたので、支払いを済ませて店を出る。
このまま宿に行って休みたいところだが、まだ買い物が残っている。さっさと済ませてルナの「気になること」を聞こう。
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