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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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気が強い女の子が不憫になると殊の外かわいそう

 完全に日が暮れ、明かりの魔道具を利用しての作業になった。

 集計の結果、グレイウルフは全部で342匹と、リーダーが1匹。

 ただし、剥ぎ取りはものすごく雑。300匹を超える解体だ。1匹あたり5分以内で終わらせないと間に合わない。

 足などの細かい部分は無視して、とにかく速度重視で解体した。買取金額はとても安いだろうが、捨てて帰るくらいなら少しでも持ち帰りたい。


 最後に大火力で焼却して完了だ。積み上げたグレイウルフに火を付けて、一気に火力を上げた。

 解体を始める前にゴブリンの魔石で試したのだが、どうやら魔石は2000℃で焼いても残るらしい。3000℃あたりでヒビが入ったので安全のために2000℃だ。

 骨まで灰になっているので、焼いて残ったものを回収した方が早い。

 すべての魔物の魔石が同じとは思えないけど、少なくともゴブリンの魔石より脆いということはないだろう。


「ちょっと! 何よこれ!」


 燃え上がる火柱を見たクレアが叫ぶ。

 300匹以上のグレイウルフを燃やすための炎だ。ちょっとした商業ビルくらいの大きさで燃えている。

 熱が強いので、耐熱の魔法で壁を作ってある。


「ただのファイヤーストームだよ。驚くことではないぞ。

 近付くと熱いから気を付けろ」


 火傷では済まない。


「そういう問題じゃないわ! こんな魔法見たことない!」


「コーさんの魔法は、そういうものだと思って受け入れたほうがいいですよ?

 そんなことより、申し訳ありませんが素材の回収を手伝ってください」


 クレアはルナに連れていかれた。倒れていたリーズも復活し、3人で素材をマジックバッグに詰め込んでいる。

 そういえばリーズにも初めて見せる魔法だったのだが「すごーい」と言うだけで、驚いた様子は無かった。


 大方が灰になったようなので、火を消して焼け跡に転がっている魔石を拾い集めた。

 体感では夜の10時か11時くらいだろうか。全員が疲労と空腹で限界なので拠点に戻る。




 テントを設営した場所に着いたのだが……。グレイウルフに荒らされて酷い有様だった。

 設置途中だったかまどは破壊され、木に張ったロープは千切れていた。俺は布類を回収しておいたので、俺の被害はこれだけ。

 でも、クレアのテントは撤収する時間がなかったため、踏み荒らされてボロボロにされていた。


「買ったばかりだったのにぃ!」


 クレアが涙目で嘆いている。さっき高価な剣も折ってしまったし、今日は踏んだり蹴ったりだな。


「それなら俺たちのテントの中に入ればいい。広いから遠慮はいらないぞ」


「ありがと。助かるわ」


「じゃあ、テントの中で食事をしながらミーティングをしようか」


 話し合うのは、明日のことと報酬のこと。クレアがかわいそうなので、今日の分の報酬は明日すぐに換金して1割を渡す。

 王都に戻るついでに、俺も広くて草原でも設営しやすいテントを買おうと思う。

 俺一人ならロープ1本あればいいんだけど、女の子を3人連れているからなあ。



「ねえ、コーがグレイウルフを倒すために使っていた魔法、何?」


 一通りの話が終わった後、クレアが俺に聞いてきた。

 うーん……、アンチマテリアルライフルなんてこの世界には存在しない。

 というか銃という概念が無いよな。火薬も無いし爆弾も無い。火炎瓶くらいは有りそうだけど。

 地球だと、この銃は1900年台くらいの開発だったかな。元々は戦車を貫通するライフルだったが、今は軍用の装甲車や強化ガラスを破壊するための銃。

 俺の魔法は地球のそれを意識して作った魔法だ。本物の銃はよく知らないが、同じくらいの威力があるはず。


 どう説明する? 伝わる気がしないぞ……。


「ストーンバレットの改良だよ。石の代わりに鉄の塊を飛ばすだけだ」


 結局こう説明するしかないんだよなあ。

 石じゃダメなんだよ。魔力の消費量は大して変わらないくせに脆い。石じゃ装甲車を貫通することはできない。

 あと、石を飛ばしたいなら石を拾う。わざわざ魔力で出す必要はない。


「その説明じゃわからないわよ! 音が鳴ったと思ったら、グレイウルフに穴が空いているのよ?」


 やっぱりわからないか……。でも地球の兵器の説明だと、もっとわからないと思うよ?


 しかし、小指ほどの弾丸が超音速、というかマッハ3くらいで飛んでいるはずだからなあ。普通は見えないだろ。撃っている俺だって見えてはいない。

 魔力で推進力を与えているだけなので、俺が設定した通りに飛ぶ。


「飛ぶ速度を速くしただけだぞ? 速すぎて見えないんだよ」


「そんな改良の仕方なんて聞いたこと無いわよ。

 ルナとリーズだってそうよ。2人とも何なの? 何であんなに強いの?」


「私たちは、コーさんから特殊な訓練方法を教えていただきました。

 私は元宮廷魔道士なので多少の訓練を受けていましたが、リーズさんは素質の面が大きいと思いますよ?」


「うーん。あたしはよくわかんないな。

 戦わないと死んじゃうから、必死だっただけだよ」


 お。リーズは俺と同じだな。俺も最初は死ぬと思った。人間、限界で追い込むと上達が早いものなんだね。

 でもリーズの素質については同意。初めての戦闘でよく頑張ったよ。


「リーズは戦っている時どうだった?」


 俺はここで気になることを聞いてみた。俺は“相手の少し先の動きがわかる”、ルナは“相手の動きがゆっくりになる”。

 リーズはどっち派だろうか。


「なんだろう……目と耳がよくなったよ?」


 どっちでも無かった。そしてよくわからない効果。リーズにこれ以上の説明を求めるのは酷だよな……。

 たぶん感覚が研ぎ澄まされるとかそんな感じだろう。


「それよ! 何なの? それ。

 それも強化魔法の改良?」


 気になるご様子のクレア。どうしよう、教えてもいいものなのかな。戦闘経験は豊富なはずだから習得も早そうなんだよな。

 3種類目の効果がわかったことだし、この際どんな種類があるか調べてみたい。


「違うよ。それに練気法でも無い。俺が考えた? というか俺が勝手に使っている身体強化の魔法だ」


 もうすでにあるかもしれないからね。俺が考えた(ドヤッ)とは言い切れない。


「ねえ、アタシにも教えてくれない?」


 食いついてきたなあ。さすがにクレアに身体強化強制ギプスを使うわけにはいかない。

 地道に瞑想と魔力を感じる訓練をした方が確実だな。


「あの……この魔法は不用意に広めないほうが良いと思います……」


 ルナが申し訳なさそうに言う。

 そういえばそうだった。絶滅させられたエルフの魔法に近いものだったな。使うこと自体が危険な可能性もある。

 パーティメンバーならフォローできるが、クレアは期間限定の同行者。いずれ離れる予定の人間に教えるのは確かにリスクが高いな。


 でも、絶望の顔をしているクレアがかわいそうだ……。

 というわけで、基本訓練の瞑想だけを伝えた。集中力を高めるから無駄にはならない。


 ついでにルナとリーズには一段階先の訓練を指示する。

ルナはそのうち気配察知が使えるようになると思う。リーズはもっと動けるようになるはずだ。

 クレアは自分に理解できない話を聞き流しながら、とても悲しそうな顔をしていたので心が痛む。


「見張りはどうしましょうか?」


 ルナの提案にハッとする。俺はいつも1人でキャンプをしていたから、見張りのことなんて全く考えていなかった。


「クレア、この場合はどうするんだ?」


「そうね。アタシは1人で活動することが多いから、できるだけ安全な場所を確保して、魔道具で警報を鳴らすようにしているわ。

 今日も安全な場所を選んだつもりなのよ? でも襲われたばかりだし、人が見張った方がいいわね」


 うーむ。警報の魔道具か。考えておこう。高精度なものが作れれば今後見張りの心配が無くなる。

 今日は仕方がないな。1人ずつのローテーションか……。


「みんな交代で見張りをしよう。疲れているだろうけど頼む」


「わかったー」「わかりました」


「わかったわ。警報の魔道具を貸してあげるから、これも使いなさい」


 みんなを信用していないわけではないが、安全のために座ったまま寝ることにする。

 地球でも危険な場所で寝る時にたまにやるのだが、眠りが浅いから少しの気配でも目が覚める。


 ついでに、成功するかはわからないが、寝ながら気配察知を使い続けよう。これも練習だ。

*7/28 16:50追記します

 空気抵抗が発生していないのになぜソニックブームは発生するんだよ……と気が付いてしまったので修正しました。

 ちなみに命中率はそんなに高くないです。頭を狙って胴体に当たる程度。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今更こんな突っ込みをするのも無粋ではありますが、狼の様な肉食獣が300頭以上も一か所に集まることはありません。 通常4-8頭程度の群れが100-1000平方キロの縄張りを持つそうです。…
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