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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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スパルタ教育(午後の部)

 今の時間は夕暮れ。時間を掛けすぎると、辺りが真っ暗になって不利になる。

 しかも今回の戦闘は未知の魔物だ。全力で掛かったほうがいい。

 ただ、ここで戦ってしまうとせっかく張ったテントが台無しだ。

 毛皮と布は高価なのでマジックバッグに仕舞い、移動することにした。


「相手は足が速い。下手に逃げると追い打ちを食らう恐れがある。

 逃げないが、足場の良い場所で戦いたい。ゴブリンと戦った場所で迎え撃とう。

 すまないが、今回はクレアも戦ってくれ」


「わかったわ」


 今回の襲撃は数が多い。気配察知の精度がガンガン落ちていっている。200……下手をすると300を超えるかもしれない。

 一人でも多く戦闘に加わったほうが良い。俺も最初から全力だ。



 予定していた場所に着いたので、迎撃態勢に入る。

 移動速度を考えると、もうすぐ接敵だ。もし気配察知がなければ、戦闘準備をする暇もなく襲われるだろう。


「こんさん、あたしの槍は折れてるよ?」


 しまった、そうだった。寝る前に直そうと思っていたから、まだ折れたままだ。


「リーズ、ナイフで戦え。ナイフにも慣れておいたほうがいい」


 と言い訳をするけど、計算外。できるだけ敵がリーズに行かないように気を付けよう。


「間もなく接敵。移動速度が速いから気を付けろ。正面に見えたら、まずは俺が魔法で攻撃する。

 討ち漏らした敵はルナが始末してくれ。リーズは無理に前に出るな。

 クレアはリーズのサポート。危険だから俺には近付かないでくれ」


 状況を一番よく理解しているのは俺だ。どうしても俺が指示を出すことになる。

 全員が持ち場に着いたことを確認して、アンチマテリアルライフルだ。

 出し惜しみはしない。一気に100発の弾丸を宙に浮かべる。


 今回も森の中からの襲撃だ。こちらの狙い通り、俺たちを追ってきている。

 木が邪魔をして遠距離攻撃ができないのだが、弾丸の射出速度は音速以上。いくら素早くても避けられないだろう。


 ……来る。


『パァン』

 乾いた音を響かせて、木の陰から姿を現した1匹目の魔物を仕留めた。相手はオオカミのような何かで、おそらく体長は2mくらい。

 意外と弱かったな。これなら心配ない。リーズにも少し戦ってもらおう。

 連続して撃ち続け、10匹ほど仕留めたところで一度襲撃が止まった。こちらを警戒しているようだ。



「ルナ、こいつらは何だ?」


「……グレイウルフです。群れを作り、群れで襲ってきます」


「買取金額と素材は?」


「買取金額は金貨5枚、素材は皮と牙です」


「わかった。ありがとう」


 欲しい情報を貰えた。燃やしてしまうのはもったいないな。炎を使わなくて良かった……。

 本当は遮蔽物になっている樹木ごと全部燃やしてやりたかったんだけどね。森が火事になりそうだから遠慮したよ。


 グレイウルフはまだ様子を見ている。自分たちの頭数が揃うのを待っているのかもしれない。


 いつでも攻撃できるように、弾丸はまだ80発ほど浮かべてある。


 魔法で出した物質は、出し続けることも即座に消すこともできる。

 出し続けると魔力を消費するので、長時間出し続けるなら一度消したほうが燃費がいい。

 だが、いつ襲撃が再開されるかわからないので、今は出しっぱなしだ。


「みんな、戦えるか?」


「問題ないわ」「はい」「大丈夫だよー」


 みんなが一斉に返事をした。大丈夫そうだね。状況を動かしてみよう。


『パァン』

 牽制で数発撃ってみた。弾丸が木を抉る。

 維持する魔力がもったいないんだよ。隠れていないで出てこいよ。


 牽制の効果が現れたのか、グレイウルフに動きが見られた。森の入口に固まっていた奴らが、急に散開したのだ。

 遠くから森を脱出する奴も居る。後ろに回り込まれ、囲まれてしまったようだ。

 魔物にしては知恵が回る連中だ……。


 でも、それは悪手だったな。


「囲まれた! 森の外にいる敵は俺が討つ。みんなは森からの襲撃に備えろ」


 俺がアンチマテリアルライフルを撃てないのは、木が邪魔をしているからだ。木が無ければ索敵範囲も一気に広がる。


 あちこち移動しながら弾丸を撃つ。音速を超えた弾丸に、為す術もなく撃ち抜かれるグレイウルフ。

 追加の弾丸を浮かべながら、草原に出た奴らを長距離射撃で仕留めていく。


 次々と減っていく仲間を見たグレイウルフは、少し恐慌状態に陥っているようだ。危険なので、みんなの様子を確認した。



 ルナは……危なげなく対処しているな。相変わらず踊るような動作で首を狩っている。

 あれ? 上達しているな。前回はもっとズタズタにしていたと思うんだけど。

 左手に持ったダガーで牽制しつつ、右手のナイフの鮮やかな一撃で首を斬り裂いていた。


 ちなみに、ルナが戦っている場所は、さっき俺が居た辺り。つまり最前線だ。常に複数に囲まれながら上手く戦っている。



 次はリーズの確認。森から来る敵の大半をルナが請け負っているので、リーズの相手は少ない。と思ったら、そうでもなかった。

 2、3匹のグレイウルフに囲まれている。後ろから狙うグレイウルフを上手く躱し、その勢いで前方のグレイウルフにナイフを突き立てる。

 ルナほどの鮮やかさは無いが、ヒットアンドアウェイを繰り返してちょこまかと動き回っている。公園ではしゃぐ子犬みたいだな。


 たった一日なんだけど、ちゃんと身体強化が使えているようだ。意外といえば意外なんだけど、リーズの野生の勘を考えると当然なような気もする……。


 リーズの救援に向かおうと思ったのだが、必要無いな。しばらく自由にしておこう。



 クレアは問題ないと思っていたのだが……。意外とそうでもなかった。複数のグレイウルフに囲まれ、奴らの素早い動きに翻弄されている。

 一応革鎧を着ているので大きな怪我は無さそうだが、何度も攻撃を食らっているみたいだ。

 クレアも何匹かは仕留めたようだが、成果は芳しくない。

 襲いかかるグレイウルフのスキを見つけ、大振りの一撃を当てた瞬間。


『ガキィン』


 鈍い音を立てて剣が折れた。刀身の3分の2ほどを失ってしまった。これはマズイ。

 ただでも拮抗していた状況だ。武器を失ったらグレイウルフに押し切られる。


 俺は狙撃を一時中断し、マチェットを取り出した。扱い方は違うが、折れた剣よりはマシだ。


「クレア、これを使え!」


 クレアを囲んでいたグレイウルフの首を飛ばしながら、俺のマチェットをクレアに渡す。


「ありがと!」


 そう言って戦いを継続するクレア。ちょっと心配だが、まあ大丈夫だろう。終わりが見えている。俺は狙撃に戻った。



 草原に出たグレイウルフの殲滅が終わる頃、森からの襲撃も終わりを迎えようとしていた。

 気配察知の反応はあと僅か。デカイのが1匹いるな……。今のうちに始末しておこう。



 森の中に侵入し、木に登る。気配を消して慎重に接近すると、そこには象くらいの大きさのグレイウルフ? たぶん別種だよな。

 すでに臨戦態勢に入っている。こいつが表に出たら危険だ。誰かが怪我をするかもしれない。


 弾丸を浮かべて準備をする。相手はかなり大型なので、弾丸も大型。100発分くらいの質量があるはずだ。

 いつもよりも大きな魔力で、勢いよく発射する。


『ズバァァァン……!』

 いつもと違う音が鳴る。頭に直撃した弾丸は、そのまま体を貫通して尻から抜けていった。


 素材は……。牙は頭の半分と一緒にどこかへ飛んでいった。尻には大穴が空き、衝撃で後ろ足が1本千切れかけている。しまった、やりすぎた。



 俺が素材の検分をしているうちに、戦闘が終了したようだ。太陽はすでに沈み始めている。タイムリミットはギリギリだったかな。

 たぶん親玉であろうデカイ奴を引き摺って3人のもとへと帰る。


「みんな、お疲れ!」


「「「え?」」」


 みんなはポカーンとした顔で俺を見つめる。どうした? 疲れた? 俺は疲れたよ。早く休みたい。


「どうした?」


「コーさん、それ何ですか?」


 ルナが代表して聞いてきた。


「森の中に大物が居たから狩ってきた。こいつが外に出たら危ないからな」


「それは、おそらくグレイウルフのリーダーです」


「おそらくじゃないわよ! そいつはグレイウルフのリーダー!

 こんな所に出てくるなんて聞いたことないわ。コイツが居るなら、この数も納得ね」


 別種ではなくリーダー? 同種なの? 謎生態すぎるな。雑魚ウルフも成長したらこうなるのか……。


「何でこんなにボロボロなの?」


 興味深そうにリーダーを観察していたリーズが聞く。……ごめん、聞かないで……。


「すまん、やりすぎた」


「どうやりすぎたらこうなるのよ!」


 怒らないでー。反省しているから。たぶんまたやるけど。


「みんな、怪我はないか?」



 話を逸らします。買取金額を激減させた自覚があるからね。たぶん半額以下だよ。みんなに怒られちゃうよ。


「私は大丈夫ですが……みなさんはどうですか?」


 ルナにはあまり心配をしていない。今日一番の功労者だとは思うんだけど、たぶん一人で相手をしても無傷だったと思う。


「大丈夫ー」


 元気に答えるリーズだが、大丈夫なのは今だけだからな? たぶん身体強化を切ったら倒れる。


「問題ないわ」


 腕を庇いながら答えるクレア。ガッツリ怪我してるじゃないか。たぶん折れている。

 あちこちから血を流しているが……、まあ、それはかすり傷だな。


「問題あるだろ、治してやるよ」


 クレアには治癒魔法を掛けておく。これくらいの怪我なら一瞬で治る。

 治癒魔法よりも折れた骨を固定する手間の方が大変なくらいだ。マジ魔法すげー。


「ありがと……」


 クレアは顔を赤らめながらお礼を言う。怪我は恥ずかしいことじゃないぞ?


「みなさんに大きな怪我がなくて良かったです」


 ルナの一言をきっかけに、俺達は戦闘態勢を解く。

 ちなみに、リーズは案の定倒れた。毛皮を敷いて寝かせている。


 辺りはすでに真っ暗なのだが、せっかくの獲物をそのままにしていくのはもったいない。疲れた体に鞭打って回収しておく。

 そして、面倒だがマジックバッグに入り切らないのでこの場で解体することにした。


 今日は休めるのだろうか……。

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