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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
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スパルタ教育

 ゴブリンの襲撃。索敵範囲が狭い森からだ。まだ遠いが、すぐに接敵するだろう。


 木の間から出てきたところを、広い草原で迎え撃つ。

 割と簡単な作業だ。


「まもなくゴブリン8匹の襲撃が来る。クレアは離れたところで待機してくれ。

 危険だと思ったらサポートを頼む。

 俺とルナはリーズのサポート。リーズが危険ならルナがとどめを。

 リーズ、槍を構えろ。持ち手はこうだ」


 全員に指示を出し、リーズに槍の持ち方と使い方を教えた。戦い方は知らない。

 まあ、槍だから正面から突くだけなんだけどな。

 幸い、ゴブリンはバカだから正面から突っ込んでくる。頭の良いゴブリンは道具を持っているから、そういう連中だけを警戒すれば問題ない。


 ちなみにこれはグラッド教官流新兵強化訓練のやり方。あの人の場合はアシストもサポートも無いから、もっと厳しいけどね。


「了解」「わかりました」「わかったー」


 3人が返事をして、各自の持ち場で武器を構えた。

 今はリーズには強化魔法を掛けていない。たぶん魔法では自分の体力を使っていないからだ。魔法の訓練にはなっても、戦闘の訓練にはならない。



「来るぞ。まずは4匹。残りはまだ距離がある」


 森の中から4匹のゴブリン。俺はやつらの通り道になりそうな場所を陣取っていたから、最初に接触するのは俺だ。

 リーズに対応させたいから、武器を使わずに回し蹴りで牽制する。


 牽制のつもりで放った蹴りは、ゴブリンの顔面にクリーンヒット。『ぼぎゃっ』と音を立ててゴブリンから頭だけが飛んでいった。


 仲間をやられたゴブリンは、俺のことを警戒したのか、俺ではなくリーズとルナに狙いを定めたようだ。

 それは困るよ? 2匹のゴブリンの首根っこを掴んで足止めしておく。


「え? 怖いよ? 魔物ってこんなに怖いの?」


 初めて見るゴブリンに、すっかり萎縮してしまったリーズ。でも大丈夫、これは誰もが通る道。

 しかし、なぜリーズは魔物を見たことがないんだろうか。外を歩けば「こんにちは」って出てくる物だろうに。

 もしかしたら王都みたいな防壁の中にいれば見たことがないのかもな。


「誰でも初めてはビビるし怖い。でも一度倒せば大丈夫だ」



 ゴブリンは最も弱いと判断したのか、真っ先にリーズを狙った。

 慌てたリーズはルナの背中に隠れてしまったので、ゴブリンはルナにナイフを突き立てられて倒されてしまった。


 これでは訓練にならないぞ。


「リーズ、隠れるな。前に出ろ。

 ゴブリンに殴られたくらいで死にはしない。ちょっと痛いだけだ」


「やだー! 死ぬよー! やだー! 帰るぅ!」


 ルナの陰に隠れて駄々をこねるリーズ。気持ちはわかるが、このままでは強くなれない。

 気持ちを落ち着かせる必要があるな。


「昨日の夜の感覚を思い出せ」


「え? 今……?」


「そうじゃない! 魔道具を使うな。

 あの感覚を自分で掴めば、例の副作用は出ない」


 顔を赤くしながらとんでもないことを言い出したので、焦って止めた。いや、リーズならこの場でも例の魔道具を使いかねないんだよ。

 身体強化の基本は瞑想だから、リラックスさせる効果がある。今リーズに必要なのは平常心だ。


「ん~、何かわかったかも」


 強化するには至っていないが、リーズの中に正常に循環する魔力を確認した。これで多少は戦いになるだろう。


「じゃあ1匹そっちに送る。リーズが相手をしろ」


 掴んでいたゴブリンを突き飛ばしてリーズの前に出した。


「わかったー」


 平常心を取り戻したのはいいけど、イマイチ緊張感がないな。

 殴り掛かってくるゴブリンを器用に避け、「えい」と声を出しながら槍で突いている。


 残念ながらまだ有効なダメージを与えられていないが、このまま時間を掛ければ怪我もなく倒せるだろう。


 リーズの突きが数発命中したところで、ようやく急所に入った。ズタズタになったゴブリンは、前のめりに倒れた。


「やったー!」


「よくやった! まだ行けるか?」


「大丈夫!」


「問題ないと思います」


 リーズとルナが同時に答えた。

 ルナは一番近くでリーズを見ているので、ルナの意見は重要だ。


「早く!」


 リーズは、さっき平常心に戻したばかりなのに今は少し興奮気味だな。まあこれは戦いの高揚感だろうから問題ないだろう。

 というわけで次の1匹をリーズに送り込んだ。


 次も同じように器用に避けながら少しずつダメージを与えている。

 でも、あまりのんびりはしていられない。次が来る。


 残りの4匹だ。2匹をサクッと始末して、残りの2匹を両手で首根っこを掴んだ。ジタバタと暴れているが、手足が短いので俺には届かない。

 安全に捕らえることができたので、リーズの相手をしてもらおうと思う。



 これでもう近くに魔物の反応は無い。リーズを見ていよう。


「おわった! まだ大丈夫だよ!」


 2匹目はかなり早かった。リーズの被ダメージは無いようだ。さすが獣人というか、避ける勘と反射神経は素人離れしているな。

 体力的にもまだ余裕がありそうなので、次の1匹。ストックはあと1匹。



 後から来たゴブリンは少し頭が回るやつだったようで、リーズは少し苦戦している。

 フェイントを駆使しながら殴り掛かるゴブリンに翻弄され、体力を奪われているのだ。


 危ない! と思った時、リーズは槍の柄でゴブリンの拳を受け止めた。さすがの反射神経だ、と感心したのだが……。


「こんさん、折れたー!」


 柄が折れた。武器屋のおっちゃんの予想通りだったな。まさかこんなに簡単に折れるとは。真ん中あたりでポッキリいっている。

 でも戦闘中に武器を交換するのは危険だな。


「短く持って突け。リーチは短くなるが、落ち着いて戦えば大丈夫だ」


「わかったー」


 そう言って折れた槍を器用に振り回すリーズ。槍は短槍並に短くなってしまったのだが、上手く戦えている。

 「当たるか?」とヒヤッとすることはあるのだが、スッと後ろに引いて躱す。逆に、「チャンス!」と思う場面ではしっかりと攻撃をヒットさせた。

 よく見ると、相手の間合いに入ることを極端に避けている。感覚が鋭いみたいだから、相手の攻撃が当たることがわかるのかもしれない。



 でも、本当に槍で良かったのか? もっと向いている武器が有る気がする。

 薙刀みたいな武器の方がいいのかもなあ。この世界にもあるのかな……?


 うーん……。買い替えも視野に入れて武器屋のおっさんに相談しよう。



「終わったよー」


 いろいろ思案をしているうちに戦闘が終了した。うまく相手のスキを突くことができたみたいだ。


「もう1匹いるけど、どうする?」


「やるー!」


「武器が折れているので、やめたほうが良いと思います」


 リーズは戦うことを希望したが、それをルナが止めた。仕方がないのでゴブリンは俺がとどめを刺しておく。

 なんだか弱い者いじめをしているみたいだけど、この世界では害虫駆除と同じ扱いだ。

 生かしておいても悪いことにしかならないんだよ。農村を襲うし、人間を攫って子どもを産ませることもあると聞いた。



 耳と魔石を剥ぎ取って討伐完了だ。今回は数が少ないので、ルナに頼んで死体を燃やしてもらった。

 結局クレアの出番は無かったな。良いことなんだけどね。たぶん彼女は暇だっただろう。


「クレア、終わったぞ!」


 離れた所からぼんやりとこちらを見ているクレアを呼ぶ。


「お疲れ様……。あんたたち、何なの?」


「何って何だよ」


「戦えるなんてものじゃないじゃない。アタシに教えられることなんて無いわよ!」


「そんなことはないぞ。薬草については何も知らないから教えてほしい。

 それに、リーズは意外と良い動きをしていたが、やはりまだ素人だ。見ていて危なっかしい」


「リーズもあれだけ動ければ十分よ。ランク無しなのよ? ランク無しにあんな動きを求めちゃダメよ」


 いや、ゴブリンに苦戦する冒険者は生きていけないだろ。せめて一撃で仕留める技量は必要だと思う。



 何にせよ無事戦闘が終わった。この場所を少し離れ、今日はそこで野営をすることにした。

 テントのために、マジックバッグから厚手の布と防水布、そしてロープを取り出した。全部貰い物だ。


「え? テントはどうしたのよ。アタシは自分の分があるからいいけど、あんたたちはどうする気?」


「ん? これがテントだけど?」


 何か問題でも?

 市販のテントは買っていない。値段が高いからね。一度野営をしてから買うかどうかを決めようと思っていた。


「ただの布とロープだけじゃない。そんなんでどうするのよ」


「布とロープと木があれば、立派なテントになるじゃないか」


 森に生えている木と木の間にロープを張り、そこに布を掛けて天幕にする。天幕の四隅を石で固定して広げた状態に。

 地面に防水布を敷いて、その上に毛皮を重ねる。このままだと横がガラ空きなので、小さな布で塞ぐ。

 これで設営完了だ。


 かなり大きな布を使ったので、テントの中は6畳ほどの広さがある。

 ルナとリーズにも説明しながらの作業だったが、構造が簡単なのですぐに終わった。


 日本ではツェルトと呼ばれる簡易テントの張り方だ。

 木が生えていない草原では、2本の支柱をロープで固定して張ることもできる。



 クレアの方を見ると、円錐型の一人用の小さなテントが完成していた。


「さすがに手際がいいな」


「当たり前じゃない。

 それより、あんたたちのテントの張り方、聞いたことはあるけど初めて見たわ。よく知っていたわね」


 ん? この世界では一般的ではないのか? ああ、地球でも一般的ではないかもしれないな……。もし俺が金持ちだったら市販のテントを買っている。

 幸い、今は金に余裕がある。草原で寝泊まりすることもあるだろうから、少し奮発して良いテントを買おう。




 少し森を歩いて薪を拾い、かまどの準備をしていると、気配察知に反応があった。

 森の奥から複数、かなり多い。俺の知らない気配だぞ。ゴブリンよりも動きが速いみたいだ。

 リーズは落ち着かない様子で、尻尾を立ててキョロキョロと辺りを見回している。やっぱりリーズも気付いているな。


「敵襲! 戦闘準備! 相手はかなり多いぞ!」


 敵の数と動きの速さを考えると、逃走は逆に危険だ。俺とルナが全力で逃げれば問題ないが、リーズとクレアが逃げ遅れる可能性がある。


 さっき戦ったばかりなのになあ。

 この森は思っていたよりも危険なのかもしれない。

 読んでいただきまして、ありがとうございます。


 テントの張り方が伝わったかが少し心配……。

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