表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第三章 冒険者編
36/317

殴ったら折れる棒は武器とは呼ばない

「うっ。おはよう……」


 朝になり、リーズが真っ赤な顔をしながら恥ずかしそうに俺たちの部屋に入ってきた。

 昨日の夜は、結局俺も少しだけお手伝いすることになった。ただし、ルナと2人で自分で処理する方法を指導しただけだ。


 ……俺要らなくね? とも思ったのだが、ルナや俺に抱きつくリーズを引き剥がすという大事な使命があった。



「おはよう。昨日のことは仕方のないことだから気にするなよ。

 で、なにか掴めたか?」


「よくわからなかったー」


 耳をぺたんとさせて答えるリーズ。

 ダメだったようだ。まあ、何度か繰り返すうちにできるようになるだろう。


「そうか。何度か試していればわかるかもしれない」


「じゃあ手伝って」


「一人でやれ」


 リーズは顔を膨らませながら「う~」と唸っていたが、放置。毎回毎回手伝ってなんていられない。主に俺の理性的な問題で。


「部屋の外で待っていてあげますから。ね?」


 ルナが優しく声を掛けた。ルナも昨日は大変な目に遭っていたからなあ。



「おはよう! 何の話?」


 続いて、クレアが部屋に入ってきた。話にも入ってこようとしている。クレアを巻き込むのはちょっと……。


「いや、気にしないでくれ。魔道具作成の話だ」


 言葉を濁す。嘘は吐いてないよ? 魔道具の副作用の問題だから。


「魔道具っ! いいなあ。アタシも作ろうとしたことがあるのよ。

 ママに向いてないって言われて諦めたけど……」


 そういえば職人の娘だった……。予想外に食いついちゃったぞ。

 しかしマリーさんもなかなか辛辣だな。いや、むしろ優しさか。


「そうか……。俺たちはチームで作っている。欲しいものがあったら言ってくれ」




 話を早々に切り上げ、王都を出ることにした。

 今日からは宿代の前払いをしない。帰ってこない日があるかもしれないからな。

 冒険者ギルドで目撃情報を確認したが、王都周辺に危険な魔物は出ていないようだった。



「最近、王都のすぐ近くに大型のオーガが出たらしいけど、討伐済みだからこの辺りに危険は無いはずよ。

 でも警戒を怠っちゃダメだからね」


 俺が蜂の巣にした、でっかいおっさんのことだな。確かにあんな魔物が街に侵入したら大変だ。家が何軒も壊れる。


「そうだな。クレアは索敵をどうしている?

 俺の索敵半径は、見える範囲の倍くらいだ」


 何もなければだいたい10kmくらい。遮蔽物がある時や、大きな生き物が大量に居るところだと大幅に精度が下がる。

 魔物や木が多い森の中では数100mまで落ち込む。


「え? 本当に? 王国の精鋭兵士級じゃない。

 アタシはそんな距離は無理よ。目は良いから見える範囲ね」



 地球の場合、俺の身長だと地平線までの距離はだいたい4.65kmくらいになるらしい。三平方の定理での計算だ。

 この世界の星の大きさがわからないので計算できないが、たぶん似たようなものだと思う。


 ということは、見通し4~5kmくらいがクレアの索敵半径ということでいいのかな。

 俺の半分くらいと思っておこう。



「了解。みんなも何か感じたらすぐに教えてくれ。

 クレア、この辺りにしかない薬草はあるか?」


「無いわね。たまに生えてくるけど、人通りが多いからすぐに採られちゃうわ」


「そうか。ルナ、リーズとクレアに強化魔法を掛けてあげて。一気に森まで行こう」


「アタシは要らないわよ。練気法が使えるわ」


「わかりました。リーズさん、頑張ってついてきてくださいね」



 各々の強化ができたので4人で走る。街道沿いは草原。地面が適度に柔らかいから体の負担が少なくて、かなり楽に走れる。


 ただ、一応魔物らしき物が居ないわけでは無いんだよな。草食であまり人を襲わない、ウサギみたいな魔物。こいつらはこちらの気配を察知するとすぐに逃げる。

 敢えて狩りたい魔物じゃないから無視だ。捕れる時期はアホほど捕れるので売値も安い。


 ちなみに動物ではないよ。魔力を使う立派な魔物だ。たぶん淘汰されたんだと思うが、魔力を持たない野生動物は居ない。動物は都市や農村で飼育されているだけだ。



 半分以上進んだところで、後続が遅れ始めた。ルナは平然とついてくるのだが、リーズとクレアだ。

 リーズはしょうがない。今日が初めてだからな。クレアはどうした? Cランク冒険者だろ?

 はぐれたら拙いので、速度をゆっくりと落として停止した。


「はぁはぁ……やっと……休憩ね……。張り切りすぎよ……」


 クレアがその場で倒れ込んでしまった。草原の上で大の字になって天を仰いでいる。

 気持ちよさそうだな……。日本ではなかなかできないことだぞ。


「クレア、どうした? 体調不良か?」


「どんなペースで走っているのよ! 馬鹿じゃないの!?」


 地面に転がったまま怒鳴るクレア。結構元気じゃないか。一応クソ不味いポーションを渡しておく。

 ……賞味期限大丈夫か? これは王城の魔導院で貰ってきたポーションだ。結構時間が経っているぞ。


「すまないが、腐っていないか確認してくれ。大丈夫なら飲んでもいいぞ」


「ポーションなんてそんなに腐るものじゃないわよ。ありがとう。いただくわ」


 100%天然素材、防腐剤保存料不使用の手作り品が腐らないだと!? すごいな、魔法。

 俺は多少の保存食は作ったことがあるが、結構早い段階で腐ったぞ。保存食なのに。



 クレアの回復待ちなのだが、リーズは元気に走り回っていた。

 強化魔法は切れかけているはずなのに、広い草原を右に左にと忙しく駆けている。


 休憩の意味わかってる? 休めよ。



「今はちょうど半分くらいね。後半はもう少しペースを落としなさい。バテるわよ」


 しばらくルナと一緒に走り回るリーズを眺めていると、クレアが立ち上がって言った。


「俺とルナは平気だ。リーズは強化魔法だから疲れが残らない。クレアも強化魔法にしようか?」


「いらないわよ!」


 なぜか怒るクレアを尻目に、リーズに強化魔法を掛け直してもらう。

 兵士や冒険者が使う練気法や俺たちが使う身体強化は疲労感が残るのだが、強化魔法は効果が切れても疲労感が無いから、移動時は便利。


 強化魔法はどうしてもルナに頼むことになってしまうな。俺は覚える気がないから。詠唱の言葉を覚えるなんて、もう無理。面倒くさい。



 後半はさらにペースを落とした。ルナと俺だけだったら、この倍のペースで走るぞ……。


 少し時間が掛かってしまったが、無事森の近くに到着できた。

 この森は高い山脈に通じているらしく、ここより先に人が住む場所が無いので街道のようなものは無い。獣道があるくらいだ。


 俺たちは森と草原の境界付近で腰を下ろし、休憩することにした。


「ふぅ~。なんて速度で走るのよ。ついていくだけで精一杯じゃない。

 走りには自信あったのよ? アタシ」


「俺が王城で参加していた王国兵士の訓練はもっと速かったぞ。道も平坦じゃない」


 川にも入るし山も登るぞ。何があってもすべて直進だ。障害物が有っても速度を落とさないのが王国兵士流。


「一緒にしないでよ! 王城の兵士の訓練は異常なのよ」


 あー。薄々感じてはいたが、やっぱり異常だったか……。俺も川に突入した時は正気を疑ったものだ。


「俺とルナはその訓練の経験者だから。そのつもりでいてくれ」


「私は違いますよ? コーさんみたいなとんでもない訓練は受けていません」


 ルナが手を横に振りながら首を横に振っている。

 あれー? ルナも早朝訓練やったって言ってたよね?

 戦闘訓練のことかな……。あれも今考えれば多少異常かもしれない。治癒魔法ですぐ治るけど、怪我をする前提の訓練だからな。



「まあいいわ。あんたらは基礎体力の訓練が必要ないってよくわかったわよ。

 戦闘方法の確認をするわ。あんたたちの武器は?」


 俺の武器か。使い慣れているのは正直マチェットの方なんだよな。大剣は買っただけで使っていない。

 武器といえばやっぱり大剣になるのかなあ。


 マジックバッグからクレイモアを取り出した。

 ルナはボウイナイフ、リーズは(ランデベヴェ)をそれぞれ取り出して構えた。



「コーとリーズはそれでいいわね。ルナの武器はそれでいいの? ただのナイフじゃない。

 魔法使いなら、杖とかロッドを使ったほうがいいんじゃない?」


 ルナは一応パーティの魔法使い枠だ。実際、魔法による遠距離攻撃もできる。

 でも杖を使うメリットがなあ……。杖は武器というより魔道具だ。詠唱を補助したり、消費する魔力を抑えたりしてくれる。


 確かに魔法使いには便利なんだけど、素材が弱いんだよ。殴ったら折れる。

 高価な魔道具が、一発殴ったらポッキリだ。修理もできない。


「問題ないよ。接近戦ができないことのほうが問題だ。

 それよりも、リーズの槍だ。未経験だからまともに扱えるレベルではない。

 できればリーズに槍の扱いを教えてやってほしい」


 持ち手が逆になるレベルの未経験だぞ。一筋縄ではいかない。俺は戦闘のプロではないから、槍の使い方なんかわからないし指導できない。

 クレアならそれなりに戦闘経験があるはずだし、武器の扱いも俺よりも慣れているはず。


「わかったわ。でも、まずはあんたたちよ。

 いざとなったらアタシが助けてあげるから、適当な魔物と戦ってみなさい」


 保険があるのは助かるな。万が一武器が壊れても安心だ。

 クレアはどんな武器を使うのかな。


「ところでクレアの武器はなんだ?」


「アタシのはこれ。結構高かったのよ」


 クレアは「フフン」と鼻をならしながら、1本のロングソードを出した。両刃の直刀、刃渡り80cm程度の何の変哲もない普通の片手剣。

 確か善が国から貰った剣もこんな感じだったな。豪華さでは善の剣だが、使い勝手はクレアの剣のほうが上かもしれない。


 自慢するだけの物ではあるな。


「いい剣だな、了解だ」


 クレアとの打ち合わせを終え、森に入ろうとしていた時、リーズが急にそわそわし始めた。

 それと同時に、何か嫌な気配を感じる。これは魔物の気配だな。


 リーズ、俺より先に気が付いたの? 早くね? 獣人の勘というやつかもしれない。


「敵襲! まだ遠いがこちらに向かってきている」


 この気配に似たものを知っている。ゴブリンが8匹くらいか。前回はここから急激に数が増えたんだけど……。

 気配察知で確認したが、500mくらいの距離には怪しい気配はない。これならリーズの訓練にはちょうどいいな。

 読んでいただいて、ありがとうございます。


 この話から第三章になります。

 章タイトルは仮です。今のタイトル案だと盛大にネタバレするので……


 これからもよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ