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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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閑話 とある元宮廷魔導士のお話

 使徒召喚。宮廷魔導士である私に課せられた最後の任務です。

 任務の参加者で知っている人は、私を含めて3人。この儀式を行うと、術者は死にます。


 万が一生き残ることができたら……。魔道具店を開いて魔道具職人になりたいな。

 技術とお金が足りないから冒険者をやりながらの方がいいかな。


 王様には、儀式が終わったら宮廷魔導士を辞めると告げました。

 ずいぶん引き止められました。引き止めるくらいなら儀式を中止すればいいのに。

 私は宮廷魔導士を辞めなくても居なくなりますよ?




 儀式の途中、不思議な感覚に襲われました。体がバラバラにされるような痛みがありましたが、急に無くなりました。

 体の痛みが引くのと同時に、私たちは不思議な温かい魔力に包まれました。

 死んだのだと思いましたが、違います。魔力切れで意識が遠のく感覚があります。


 そして、術式が途中で途切れたと感じました。

 魔道具の起動を失敗して、効果が発生しなかった時によく似ています。




 その後の調査から、とんでもない量の魔力が干渉して術式を破壊したのだとわかりました。

 誰がその現象を起こしたのかはわかりません。

 しかし、使徒の召喚は無事に終わりましたので召喚は成功したと判断されました。


 全く問題が無かったわけではありません。

 使徒ではない人が召喚されてしまったそうです。

 私が倒れてからの話ですので、どういう人かはわかりませんが、私たちの責任です。

 こちらの生活に慣れるまでは、私たちが協力するべきでしょう。




 私には、もう宮廷魔導士としての仕事は回ってきません。

 今の仕事は引き継ぎと雑用のみです。とても暇なので、彼へのサポートは私がやることにしました。


 実際に会ってみると、なんとも不思議な人でした。掴みどころが無いと言うか……。

 彼が使う魔法も、彼が持つ知識も、彼の考え方も。すべてが新鮮で、面白いものでした。


「いいですか? 俺は、王様から部屋の中にある物を自由に使う権利を言い渡されています。

 そして、ここは物が大量にある倉庫」


 初めて会った日、彼が言った一言。倉庫に押し込められた人が、あっさりと言える言葉ではありません。

 王様や周囲の人に苦情を出して、待遇を改めてもらうのが普通の人。

 逆境を利用して有利に行動するのが彼。



 思えば、この時から惹かれていたのかもしれません。



 私には無い考え方。私には無い自由。




 ある日、彼は同僚のリリィさんに連れられて魔導院に来ました。

 魔導院は宮廷魔導士の作業場兼住居がある建物です。

 なんだか悔しいというか、不安というか、初めて感じた不思議な感情です。


「私も、一緒に行ってもいいですか?」


 思わず口に出してしまいました。

 私も、彼のように自由になりたい。彼の考え方に触れていたい。

 私はもう宮廷魔導士ではないのです。私はもう自由なのです。


 彼は快く承諾してくださいました。できればずっと……。




 その後、リリィさんのお手伝いで頻繁に魔導院に顔を出すようになりました。

 リリィさんと仲良くしている彼を見るとなんだかモヤモヤしますが、一緒に働けるのがなんだか楽しいです。




 早く王城から出るために、二人で何度も話し合いをしました。

 私は魔導院に間借りしている状態ですし、彼も早く出発したいと考えていました。

 しかし、出発は急でした。神官さんが何か問題を起こしたようです。

 彼のことですから、問題を利用して、すぐに出発できるよう画策したのでしょう。


 そこが彼の不思議なところです。

 普段は何も考えていないような行動に出るのですが、いつの間にか自分に都合が良い結果を導き出します。

 それでいて、誰にも恨まれていないのです。


 今回の当事者の神官さんはたぶん恨んでいるでしょうけど、あの人は自業自得ですので。




 王城出発の時、初めて近くで使徒さんを見ました。若い男女です。

 使徒さんは恋人同士?

 ……ではありませんね。兄妹か、親類かのどちらか。


 彼とはそれほど仲良くないみたいですね。安心です。



 帰るための方法について話し合っているようです。

 困りました。帰ってほしくありません。

 帰りたいのであれば、彼の意志を尊重するべきなのですが……。


 向こうに連れていってもらう方法を考えたほうが良さそうですね。

 彼が帰る方法を探すなら、私は一緒に行く方法を探すまでです。




 王都の初日。冒険者ギルドに向かうよりも宿を取ることを優先されました。

 変な想像をして顔が真っ赤になってしまいました。恥ずかしい……。


 確かに、宿泊先は重要です。万が一、ギルドで足止めされたら、公園で野宿になってしまいます。

 王都の夜の公園は、ある意味壁の外よりも危険です。

 命の危険はありませんが、持ち物が盗まれてしまいます。


 でも、彼からのオーダー。二人でゆっくりお話ができる、防音がしっかりしてる宿。


 思い当たる宿はアレしかありません。


 さらに顔が赤くなってしまいます。期待してもいいんですか……?


 でも、アレの前に話しておきたいことがあります。私が宮廷魔導士を辞めた理由。

 今後のこともあります。防音はしっかりしていますので、今日が良い機会ですね。




 私は今、期待と希望を抱いています。理想、と言ってもいいかもしれません。


 良くないことも、辛いこともきっとあると思います。


 でも、悪いようにはならないという確信があります。

 彼と一緒に居られれば……。

 読んでいただいてありがとうございます。


 短いですが、今回は閑話です。本編への影響はありません。

 ルナの回想、時系列は第二章の序盤、王都初日の夜です。


 もっと早くに公開したかったのですが、ネタバレ成分を含んでいたので今になってしまいました。

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