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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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新しいおもちゃはすぐにでも試したい

「ねえ、みんなは今までどんな仕事を受けていたの?」


 リーズからの質問に、今まで受けた3つの依頼を説明した。

 配達、掃除、店番。まるで高校生のアルバイトだな……そういえば俺も高校生か。



「リーズは今日登録したばかりのランク無しだ。早めにFランクにしたい」


「じゃあ、薬草の採取ね。森の中で狩りもできるから、ちょうどいいわよ。

 それにアタシは薬草に詳しいから」


 薬草採取の依頼は多い。というか高ランクから低ランクまで一番多い依頼は薬草採取だ。

 ポーションの材料なので需要は多いが、栽培ができないから危険な森で採取しなければならない。


 怪我を治す薬のために怪我をしながら森に入る……。ひどい矛盾を感じるがそういう仕事だ。


 薬草にはよく似た猛毒の草があったりするので、難易度は高め。Fランクの依頼であっても詳しくない人は受けるべきではない。

 だから俺たちは避けた。依頼はいっぱいあったんだけどね。



「そうだな。俺も薬草を知りたい。というか毒草を詳しく知りたい。特にヤバイやつ」


「え……? 何に使うつもり?」


 怪訝そうな顔をするクレア。

 俺、何かおかしなことを言ったか?


「毒草を知らないと、間違って採ってしまうかもしれない。

 薬草とよく似た毒草は特に注意が必要だ」


 セリとドクゼリみたいにね。ドクウツギだって知らなければ実を食べてしまうこともある。

 食べられる野草を知ることも大事だが、毒草を知ることも同じくらい大事なんだ。


「そういうことかあ。びっくりさせないでよ。

 危ない毒草は森の奥まで行かないと無いわよ。近い所は兵士が全部刈り取ったから」


「そうか。じゃあ、わかる範囲でいいから教えてくれ」


 この国の兵士はなんだかんだで仕事ができるな。異世界の毒草がどんな物か気になったけど、仕方がない。諦めよう。


「わかったわ。任せておいて。明日は王都の外に出て薬草の採取ね」


 ルナとリーズは特に異論は無いようで、明日の予定はそのまま決まった。




 夕食まで時間が余ってしまった。狩りに行ける時間でもない。

 中途半端な時間なので、自由行動にした。俺はその間に王への報告をしようと思う。


 王から引き受けた数少ない俺の任務だ。忘れていたわけではないんだよ?



「コーさん、私たちはお買い物に行こうと思います。何か欲しい物はありませんか?」


 ルナとリーズは買い物に行くらしい。そろそろ本格的に旅をすることになりそうだから、必要そうな物を頼んでおこう。


「塩と飯盒を買っておいてくれ。あと、リーズの作業台として折りたたみができる机だな」


 そう言って金貨を5枚持たせた。相場がわからないから適当に。


「え? 多すぎます……。塩は交易品としてですか?」


「いや、俺たちが使う分だ。2人の買い物もその金で賄ってくれ」


「え? でも……」


 と恐縮するルナに強引に金を持たせ、見送る。2人は「行ってきます」と言って出掛けていった。

 部屋割りは、俺とルナ、リーズとクレアの2部屋。クレアは一人で部屋に残るようだ。



 ちなみに、初めての報告は【役人の不正の可能性について】と【通貨単位の制定について】の2件。

 どちらも早急に対処してほしい。




 報告が終わる頃にはもう日が暮れていた。食事の時間に合わせたかのように、ルナとリーズが帰ってきた。

 2人は服を買ってきたようだ。装備品ではなく、普段着。


 ルナは白いワンピースと丈が長いカーディガン。ロングスカートで足を隠しているが、開いた首元が眩しい。

 リーズは地味な色合いだがゆったりとしたワンピースで、フリフリのスカート。膝上数センチの長さで、白っぽいタイツを履いている。


 この世界はワンピースが大流行なのか? いや、縫製が簡単だからかもしれないな。地球のような凝った作りにはなっていない。



 リーズは新しい服が余程気に入ったのか、部屋を歩き回りながらスカートを手で持ち上げてみたり、クルッと回ってみたり。……パンツ見えているぞ? 言わないけど。


 ルナは嬉しそうに「どうですか?」と言いながらくるくる回っているが、俺は「よく似合うよ」と答えるだけの機械になるしかなかった……。

 いや、本当によく似合っているんだけどね。それを表現する力は鍛えたことが無いんだよ。


 今日の買い物は同行しなくて良かった……。




 俺たちはファッションショーを終え、食事を済ませた。

 その時はクレアも居たのだが、食事を終えると自室に戻ってしまった。まあパーティメンバーと言うよりお客様扱いなので当然と言えば当然なのだが。


 今日は体力的にも時間的にも余裕がある。なので、今のうちにリーズに仕事を与えようかと思う。


「さっそくだが、リーズに魔道具作成を頼みたい」


「うん。任せて!」


 リーズは耳をピクッとさせ、尻尾をふりふり。やっぱりリーズも魔道具が好きなんだな……。


 任せたいものはいくつもあるのだが、今必要なものは二つ。

 一つ目は、ウォッシュ。体や服を洗うために早めに欲しい。

 二つ目は、魔力を体に通す魔道具。名前は付けていない。不便だから適当に名付けておこう。

 リーズにも身体強化を教えなければならないが、さすがに俺が魔力を通すわけにはいかない。リーズが発情期になってしまう。自分でできるなら自分で処理するだろう。



「ルナ、『ウォッシュ』と『身体強化の魔力を通す魔道具』だが、設計を教えてやってくれ。

 それから、この魔道具は『身体強化強制ギプス』と呼ぶことにする」



 俺たちの魔道具の作成プランは、まず俺が魔法を試す。次にルナが解析して設計、そしてリーズが作る、という流れになっている。

 出来上がったらルナが魔法陣を刻み、俺がエンチャントして完成だ。完全分業だな。


 本職の職人なら全工程が自分なんだけどな。できるやつが居るなら任せたほうが早いじゃないか。



「材料はどちらも銀と魔石だけです。できそうですか?」


 ルナの説明が終わったみたいだ。銀と魔石をバッグから取り出し、リーズに渡した。

 魔石はゴブリンのものが大量にある。銀は鉱石が大量にある。


 魔石は質によって必要量が変わるのだが、ゴブリンの魔石は最低品質だから大量に必要だ。


「大丈夫。すぐ作れるよ」


 そう言って、その場で作業を開始してしまった……。自分の部屋でやれよ、とも思ったが、本人は一生懸命なのでしばらく見守る。

 何も心配は無かったな。あっという間に成形してしまった。


 細かい修正をするリーズの周りには、細かい銀のクズと砕けた魔石のカスが散乱している。


 魔道具職人はこうやって部屋を散らかしていくんだな……。サンプルは少ないが、リーズとマリーさんはどちらも魔窟を作っていたぞ。

 リーズの観察を止め、散乱したゴミを回収しておく。



「できたよ!」


 リーズは両手に金属片を掴んで突き出した。俺がお掃除をしている間に終わったみたいだ。

 どちらも手のひらサイズで角が丸い板状。見た目の違いは『身体強化強制ギプス』の方が少し大きいくらい。


「お疲れ様です。良い出来です。ありがとうございます」


 リーズは褒められたことが嬉しかったのか、尻尾を元気に振り回している。そして、作業を進めるルナを興味深そうに覗き込んだ。


 俺の仕事は最初と最後だけ。「これやっといてー」と命令するだけのバイトリーダーみたいでなんだか嫌だな……。

 まあ、本人が好きでやっているのだから、これからも任せよう。



 しばらくすると、ルナの作業が終わったみたいだ。後片付けをしている。


「終わりました。次、お願いします」


 ここでようやく俺の出番。そして一瞬で終わる。魔道具に調整した魔力を通すだけだから、慣れれば流れ作業なんだよ。


「これで完成だ。お疲れ様。みんなありがとう」


 2人は感嘆の声を上げ、出来上がった魔道具を覗き込んだ。

 なんせ初作品だからな。気合が入るのも当然、完成した喜びも大きい。


 でも、これからもたくさん作るんだ。2人には頑張ってもらおう。



「リーズ、ちょっといいか?」


 寝るまで少し時間があったので、リーズに身体強化のやり方を説明した。

 まずは基本の瞑想なんだけど、やはりリーズの集中力には目を瞠る物があるな。たぶん上達が早いと思う。

 身体強化強制ギプスでブーストしてやれば、すぐに戦えるようになるだろうな。


「本当にこれだけ? こんなの聞いたことないよ?」


 説明を聞いたリーズはあまり納得していない様子だな。

 もし身体強化を習得できなかったとしても、集中力を高める訓練になる。


「大丈夫だ。無駄にはならない。

 そして身体強化強制ギプスだが。これは安全が確保されていて、一人で居る時に使うように」


「わかったー」


 と言いながら身体強化強制ギプスに魔力を通すリーズ……。

 何もわかってないじゃないか!


 あぁ、完全に起動してしまった。


 仕方がないので防音の魔道具を起動した。



「一人の時だと言っただろう……。

 わかるか? それが魔力が循環している感覚だ」


 俺はリーズを刺激しないように、ルナと2人でリーズの前に立って宥めるように言った。


「え……? あっ………何……コレ……」


 リーズは顔を真っ赤にして硬直している。


「あっ……こんな…の…、はじめ…くふっ……」


 どうやら自分の感情がよくわからないようで、戸惑っているようだ。体をくねらせながら悶えている。


「大丈夫ですか? 辛いと思いますが頑張ってください」


「うッ……んっ! ……ぃやっ」


 リーズはもう返事も覚束ない様子で、内股で腰を揺らしながらゆっくりと俺たちの前に寄ってくる。


 そして、リーズは思い切り抱きついた。……ルナに。


 俺じゃないのかよ!

 別にいいけど。


 今リーズに抱きつかれたらルナがどんな顔をするかわからない。

 ルナを悲しませるようなことはしたくないからな。



 初めての感覚だったから同性に助けを求めたんだろう。仕方がないね。


「あっ……リーズさん? しっかりして……あっ…ちょっと……」


 抱きつかれたルナが巻き込まれた……。

 可愛い女の子が抱き合う姿って割と眼福なんだけど、さすがにちょっとかわいそう。


「ルナ、大丈夫か?」


「コーさん、ごめんなさい。ちょっと手伝っていただけますか?」


 いや、手伝えってどういうことだよ。

 抱きつかれるくらいならラッキーで済むんだけどなあ。いくらなんでもそれは気が引ける。というかやっちゃダメだろ。



「それはダメだろう。俺は外に出ているからルナに任せるよ……」



 うーん、明日から本格的な狩りだというのに……。先が思いやられる。

 読んでいただいてありがとうございます。



 第二章はこれで終わりです。

 王都での活動を終了し、次回から第三章に入ります。


 第三章のタイトルはまだ未定です。

 王都周辺で本格的に探索を開始しますが、しばらくは王都⇔フィールドを行き来することになります。



 応援してくださる皆様に感謝しながら、今後も頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] リーズみたいな考え無しのバカ、気持ち悪過ぎ‼
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