新しいおもちゃはすぐにでも試したい
「ねえ、みんなは今までどんな仕事を受けていたの?」
リーズからの質問に、今まで受けた3つの依頼を説明した。
配達、掃除、店番。まるで高校生のアルバイトだな……そういえば俺も高校生か。
「リーズは今日登録したばかりのランク無しだ。早めにFランクにしたい」
「じゃあ、薬草の採取ね。森の中で狩りもできるから、ちょうどいいわよ。
それにアタシは薬草に詳しいから」
薬草採取の依頼は多い。というか高ランクから低ランクまで一番多い依頼は薬草採取だ。
ポーションの材料なので需要は多いが、栽培ができないから危険な森で採取しなければならない。
怪我を治す薬のために怪我をしながら森に入る……。ひどい矛盾を感じるがそういう仕事だ。
薬草にはよく似た猛毒の草があったりするので、難易度は高め。Fランクの依頼であっても詳しくない人は受けるべきではない。
だから俺たちは避けた。依頼はいっぱいあったんだけどね。
「そうだな。俺も薬草を知りたい。というか毒草を詳しく知りたい。特にヤバイやつ」
「え……? 何に使うつもり?」
怪訝そうな顔をするクレア。
俺、何かおかしなことを言ったか?
「毒草を知らないと、間違って採ってしまうかもしれない。
薬草とよく似た毒草は特に注意が必要だ」
セリとドクゼリみたいにね。ドクウツギだって知らなければ実を食べてしまうこともある。
食べられる野草を知ることも大事だが、毒草を知ることも同じくらい大事なんだ。
「そういうことかあ。びっくりさせないでよ。
危ない毒草は森の奥まで行かないと無いわよ。近い所は兵士が全部刈り取ったから」
「そうか。じゃあ、わかる範囲でいいから教えてくれ」
この国の兵士はなんだかんだで仕事ができるな。異世界の毒草がどんな物か気になったけど、仕方がない。諦めよう。
「わかったわ。任せておいて。明日は王都の外に出て薬草の採取ね」
ルナとリーズは特に異論は無いようで、明日の予定はそのまま決まった。
夕食まで時間が余ってしまった。狩りに行ける時間でもない。
中途半端な時間なので、自由行動にした。俺はその間に王への報告をしようと思う。
王から引き受けた数少ない俺の任務だ。忘れていたわけではないんだよ?
「コーさん、私たちはお買い物に行こうと思います。何か欲しい物はありませんか?」
ルナとリーズは買い物に行くらしい。そろそろ本格的に旅をすることになりそうだから、必要そうな物を頼んでおこう。
「塩と飯盒を買っておいてくれ。あと、リーズの作業台として折りたたみができる机だな」
そう言って金貨を5枚持たせた。相場がわからないから適当に。
「え? 多すぎます……。塩は交易品としてですか?」
「いや、俺たちが使う分だ。2人の買い物もその金で賄ってくれ」
「え? でも……」
と恐縮するルナに強引に金を持たせ、見送る。2人は「行ってきます」と言って出掛けていった。
部屋割りは、俺とルナ、リーズとクレアの2部屋。クレアは一人で部屋に残るようだ。
ちなみに、初めての報告は【役人の不正の可能性について】と【通貨単位の制定について】の2件。
どちらも早急に対処してほしい。
報告が終わる頃にはもう日が暮れていた。食事の時間に合わせたかのように、ルナとリーズが帰ってきた。
2人は服を買ってきたようだ。装備品ではなく、普段着。
ルナは白いワンピースと丈が長いカーディガン。ロングスカートで足を隠しているが、開いた首元が眩しい。
リーズは地味な色合いだがゆったりとしたワンピースで、フリフリのスカート。膝上数センチの長さで、白っぽいタイツを履いている。
この世界はワンピースが大流行なのか? いや、縫製が簡単だからかもしれないな。地球のような凝った作りにはなっていない。
リーズは新しい服が余程気に入ったのか、部屋を歩き回りながらスカートを手で持ち上げてみたり、クルッと回ってみたり。……パンツ見えているぞ? 言わないけど。
ルナは嬉しそうに「どうですか?」と言いながらくるくる回っているが、俺は「よく似合うよ」と答えるだけの機械になるしかなかった……。
いや、本当によく似合っているんだけどね。それを表現する力は鍛えたことが無いんだよ。
今日の買い物は同行しなくて良かった……。
俺たちはファッションショーを終え、食事を済ませた。
その時はクレアも居たのだが、食事を終えると自室に戻ってしまった。まあパーティメンバーと言うよりお客様扱いなので当然と言えば当然なのだが。
今日は体力的にも時間的にも余裕がある。なので、今のうちにリーズに仕事を与えようかと思う。
「さっそくだが、リーズに魔道具作成を頼みたい」
「うん。任せて!」
リーズは耳をピクッとさせ、尻尾をふりふり。やっぱりリーズも魔道具が好きなんだな……。
任せたいものはいくつもあるのだが、今必要なものは二つ。
一つ目は、ウォッシュ。体や服を洗うために早めに欲しい。
二つ目は、魔力を体に通す魔道具。名前は付けていない。不便だから適当に名付けておこう。
リーズにも身体強化を教えなければならないが、さすがに俺が魔力を通すわけにはいかない。リーズが発情期になってしまう。自分でできるなら自分で処理するだろう。
「ルナ、『ウォッシュ』と『身体強化の魔力を通す魔道具』だが、設計を教えてやってくれ。
それから、この魔道具は『身体強化強制ギプス』と呼ぶことにする」
俺たちの魔道具の作成プランは、まず俺が魔法を試す。次にルナが解析して設計、そしてリーズが作る、という流れになっている。
出来上がったらルナが魔法陣を刻み、俺がエンチャントして完成だ。完全分業だな。
本職の職人なら全工程が自分なんだけどな。できるやつが居るなら任せたほうが早いじゃないか。
「材料はどちらも銀と魔石だけです。できそうですか?」
ルナの説明が終わったみたいだ。銀と魔石をバッグから取り出し、リーズに渡した。
魔石はゴブリンのものが大量にある。銀は鉱石が大量にある。
魔石は質によって必要量が変わるのだが、ゴブリンの魔石は最低品質だから大量に必要だ。
「大丈夫。すぐ作れるよ」
そう言って、その場で作業を開始してしまった……。自分の部屋でやれよ、とも思ったが、本人は一生懸命なのでしばらく見守る。
何も心配は無かったな。あっという間に成形してしまった。
細かい修正をするリーズの周りには、細かい銀のクズと砕けた魔石のカスが散乱している。
魔道具職人はこうやって部屋を散らかしていくんだな……。サンプルは少ないが、リーズとマリーさんはどちらも魔窟を作っていたぞ。
リーズの観察を止め、散乱したゴミを回収しておく。
「できたよ!」
リーズは両手に金属片を掴んで突き出した。俺がお掃除をしている間に終わったみたいだ。
どちらも手のひらサイズで角が丸い板状。見た目の違いは『身体強化強制ギプス』の方が少し大きいくらい。
「お疲れ様です。良い出来です。ありがとうございます」
リーズは褒められたことが嬉しかったのか、尻尾を元気に振り回している。そして、作業を進めるルナを興味深そうに覗き込んだ。
俺の仕事は最初と最後だけ。「これやっといてー」と命令するだけのバイトリーダーみたいでなんだか嫌だな……。
まあ、本人が好きでやっているのだから、これからも任せよう。
しばらくすると、ルナの作業が終わったみたいだ。後片付けをしている。
「終わりました。次、お願いします」
ここでようやく俺の出番。そして一瞬で終わる。魔道具に調整した魔力を通すだけだから、慣れれば流れ作業なんだよ。
「これで完成だ。お疲れ様。みんなありがとう」
2人は感嘆の声を上げ、出来上がった魔道具を覗き込んだ。
なんせ初作品だからな。気合が入るのも当然、完成した喜びも大きい。
でも、これからもたくさん作るんだ。2人には頑張ってもらおう。
「リーズ、ちょっといいか?」
寝るまで少し時間があったので、リーズに身体強化のやり方を説明した。
まずは基本の瞑想なんだけど、やはりリーズの集中力には目を瞠る物があるな。たぶん上達が早いと思う。
身体強化強制ギプスでブーストしてやれば、すぐに戦えるようになるだろうな。
「本当にこれだけ? こんなの聞いたことないよ?」
説明を聞いたリーズはあまり納得していない様子だな。
もし身体強化を習得できなかったとしても、集中力を高める訓練になる。
「大丈夫だ。無駄にはならない。
そして身体強化強制ギプスだが。これは安全が確保されていて、一人で居る時に使うように」
「わかったー」
と言いながら身体強化強制ギプスに魔力を通すリーズ……。
何もわかってないじゃないか!
あぁ、完全に起動してしまった。
仕方がないので防音の魔道具を起動した。
「一人の時だと言っただろう……。
わかるか? それが魔力が循環している感覚だ」
俺はリーズを刺激しないように、ルナと2人でリーズの前に立って宥めるように言った。
「え……? あっ………何……コレ……」
リーズは顔を真っ赤にして硬直している。
「あっ……こんな…の…、はじめ…くふっ……」
どうやら自分の感情がよくわからないようで、戸惑っているようだ。体をくねらせながら悶えている。
「大丈夫ですか? 辛いと思いますが頑張ってください」
「うッ……んっ! ……ぃやっ」
リーズはもう返事も覚束ない様子で、内股で腰を揺らしながらゆっくりと俺たちの前に寄ってくる。
そして、リーズは思い切り抱きついた。……ルナに。
俺じゃないのかよ!
別にいいけど。
今リーズに抱きつかれたらルナがどんな顔をするかわからない。
ルナを悲しませるようなことはしたくないからな。
初めての感覚だったから同性に助けを求めたんだろう。仕方がないね。
「あっ……リーズさん? しっかりして……あっ…ちょっと……」
抱きつかれたルナが巻き込まれた……。
可愛い女の子が抱き合う姿って割と眼福なんだけど、さすがにちょっとかわいそう。
「ルナ、大丈夫か?」
「コーさん、ごめんなさい。ちょっと手伝っていただけますか?」
いや、手伝えってどういうことだよ。
抱きつかれるくらいならラッキーで済むんだけどなあ。いくらなんでもそれは気が引ける。というかやっちゃダメだろ。
「それはダメだろう。俺は外に出ているからルナに任せるよ……」
うーん、明日から本格的な狩りだというのに……。先が思いやられる。
読んでいただいてありがとうございます。
第二章はこれで終わりです。
王都での活動を終了し、次回から第三章に入ります。
第三章のタイトルはまだ未定です。
王都周辺で本格的に探索を開始しますが、しばらくは王都⇔フィールドを行き来することになります。
応援してくださる皆様に感謝しながら、今後も頑張ります。