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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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スパルタフラグ

 早めに宿に帰ってこられたのだが……。

 俺が寝るベッドがない。あと1部屋借りているのだが、1人で寝たら夕方まで起きないかもしれない。

 寝心地が悪ければ数時間で目が覚めるんだけどなあ。この宿屋のベッドは悪くない。



 仕方がない。寝るのは諦めよう。

 このまま朝イチで庁舎に乗り込む。詐欺師が出勤する前の方が都合が良いからな。

 庁舎の責任者に直接報告をすれば、いい感じに騒ぎが大きくなると思う。


 内部調査は国の仕事だからな。俺は知らん。とりあえず金だけ返せ。

 あとの処分も知らん。勝手にやってくれ。


 リーズを狙うことも止めたいが、黒幕がわからないから難しいな。目的がわからないので対処のしようがない。



 上手くいけば、今回の失敗で懲りてくれる。……希望的観測だな。

 逃げるようで気に入らないが、どうせ冒険者になって王都を出るんだ。

 その間にリーズを鍛えよう。自衛ができれば問題ない。



『少し外出してくる。すぐに戻る予定だ。起きたら部屋で待っていてくれ』



 書き置きを残して宿を出る。目的地は庁舎だ。王城の近くだから少し遠い。

 まあ、全力で走ればすぐ着くんだがな。



 というわけで本当にすぐ着いた。初日はあれだけ時間がかかっていたのに……。

 今度から王都内の移動は屋根走りと壁這いのコンボだな。


 庁舎の建物は銀行などの施設も一緒に入っているため、無駄に大きい。

 徴税官のカウンターを探すと、庁舎の一等地に陣取っていた。税金取り立てる気満々じゃないか……。


「ちょっといいか?」


 カウンターの向こうに座る、むさい男に話しかけた。ていうか何でむさい男なんだよ! 冒険者ギルドを見習え、税金泥棒め。


「何の御用でしょうか?」


 男は作り笑いを俺に向けた。何故か目が笑っていないが、徴税官というのはこういう人種なのかもしれない。


「おはようございます!」


 上司を連れてこい、と言いかけたところで、誰かの叫ぶような大声が響き渡る。

 誰だ? と思って見渡すと、そこには詐欺師エリックが青い顔をして立っていた。

 何だよ、居たのかよ。じゃあ、この場で不正を告発して吊し上げだな。


「昨日の件だが……」


「昨日は申し訳ございませんでした。こちらの不手際で必要のない徴収を行ってしまいました。

 すぐに返金しますので、そのままお待ちください」


「は?」


 詐欺師は俺の言葉を遮って、頭を下げながら言った。


 すべてが疑問だ。なぜ今謝る? なぜすぐに返す? こいつの思惑が読めない。

 こっちはヤル気満々だぞ? このヤル気はどこにぶつけたらいいの?


「お待たせ致しました。

 昨日受け取った金貨と、少ないですが迷惑料として、私から金貨5枚をお渡しします」


 本当にすぐ持ってきた。合計23枚のきれいな金貨だ。逆に困るし。


「金貨5枚は必要ない、持って帰れ」


 この5枚は、たぶん口止め料だ。受け取ったらこっちの立場が不利になる。5枚の金貨を強引に詐欺師のポケットにねじ込んだ。


「いえ、そこを何とか……」


 それでも強引に渡そうとする詐欺師。何でそんなに必死なんだよ。

 なんとか揺さぶりを掛けられないかな。


「いや、いらない。問答をするつもりは無いんだ。

 昨晩、例のアパートで野盗の類に襲われてな。対処に追われて疲れているんだ」


「え? あ、はぁ。そうでしたか。失礼しました。では18枚、確かにお返し致しましたので……」


 詐欺師はそう言うと、そそくさと去っていった。

 くそ。結局わからなかった。最悪のケースだ。


 正直、一杯食わされた気分だ。

 自ら非を認めて返金されてしまうと、これ以上の追及が難しい。領収証を提出しても、返金済みなのだから取り合ってもらえないぞ。


 門番兵士に「追及するな」と指示を出したのは失敗だった。ここで騒ぎを起こすための伏線だったのに……。

 兵士にガッツリ尋問してもらった方が確実だったな。


 あー腹立つ。この落とし前はいつか絶対つけさせてもらうからな。



 後悔しても、もう遅い。今後の対策をしなければ。

 まずはリーズを完全武装させて特訓だ。グラッド教官流短期訓練が良いかなあ。




 帰りも全力で走る。走って憂さ晴らしだ。あっという間に宿に着いた。

 部屋に入ると、2人はまだ起きていなかった。


 特にすることが無いので、武器の手入れや洗濯をして過ごす。


 昼の鐘が鳴る頃に、ようやくルナが目を覚ました。


「おはよう。昨日はお疲れ様」


「おはようございます。もう目が覚めていたのですか? お早いですね……」


 ルナは眠そうな目で俺を見た。眠すぎて半目になっているが、それはそれで可愛らしいと思う。


「いや、寝ていないだけだ」


 慣れれば大丈夫。あとは急激に来る眠気の波に抗うだけだ。


「そんな……少しは休んでください!」


「いや、ベッドも空いていなかったからな」


「私のベッドに潜り込めば良かったじゃないですか」


 おう。その発想は無かったわ。それアリなのかよ。


「次からそうするよ」


「今まで何をされていたんですか?」


「庁舎に行って、金を返してもらってきた」


「え……? もうですか? そんなにすぐ返ってくるものでは無いですよね……」


 俺もこんなことになるとは思っていなかったよ。何ですぐ返しちゃうんだよ。

 おかげで予定が大幅に狂っちゃったよ。


「そうなんだよ。結局、詳しい事情がわからなかった。

 リーズについては今後も警戒する。自衛ができるように特訓したいから、ルナも手伝ってくれ」


「わかりました……」



 俺たちの会話がうるさかったのか、リーズが「ううん」と唸り声を上げて起き上がった。


「う。ここは? あれ?」


 寝ぼけているな。状況がよくわかっていないようだ。


「おはよう」


「こんさん?」


「コーだ」


「こ、ん?」


「コー!」


「こん!」


「……こんでいいよ……。

 目は醒めたか?」


 呼び名については諦めた。元よりあだ名だ。


「ここどこ?」


 えー? そこから? コイツはいつから寝ていたんだ?



「俺たちが借りている宿だ。昨日のことはどこまで覚えている?」


「えーと……変な人が部屋に入ってきて、こんさんが捕まえて、家を出て、宿に着いたら寝ちゃった」


 全部覚えているじゃないか!


「そこまで覚えていれば大丈夫だ。どうだ? もう動けるか?」


「うん」


 耳がぺたんと寝ている。眠いのかな……。でもせっかく目を覚ましたんだから活動しないともったいない。


「とりあえず外に出て、何か食べよう。その後、リーズの装備品を買いに行く」


「コーさんは大丈夫なんですか?」


「大丈夫だよ。慣れている」


 リーズがキョトンとした顔で首をかしげているが、みんな動けるなら問題ない。


 3人で外に出て、適当に串焼きを頬張りながら『大鷲屋武器店』に向かう。

 俺たちは常連と言っていいと思う。すでに顔を覚えられているからな。




 相変わらず小さな店のドアを潜り、店内に入る。

 狭い店内には色々な種類の武器が並べられているが、やはり俺にはどれが良いかはよくわからない。


「よう、おっさん」


「なんだ? もう壊したのか?」


「違うよ。今日は新メンバーの武器を見に来た。この子だ」


 リーズをおっさんの前に差し出した。


「ふむ。戦闘経験は?」


 リーズはよくわかっていない様子で、店内をキョロキョロと見回している。


「リーズ、聞かれているぞ。戦闘経験はあるのか?」


「ふぇ? 無いよ?」


 無いだろうなあ。そんな気はしていたよ。


「だそうだ。たぶん武器を使う訓練もしていない。誰にでも扱える簡単な武器は無いか?」


「となると、槍か(おおゆみ)だな。お嬢ちゃんだったら(おおゆみ)の方がいいかもな」


 リーズはお嬢ちゃんか……。見た目は俺と同じくらいの年だと思うんだが、言動が子供っぽいから幼く見える。

 でも(おおゆみ)かあ。原始的なボウガンだ。扱いは簡単だし誰にでも使えるけど、身体強化の意味が無いんだよな。


「いや、槍で頼む。護身用のナイフと槍だな。ナイフは小ぶりの片刃だ」


 オーダーを出すと、おっさんは「わかった」と言って店の奥に潜っていった。

 護身用兼実用で考えると、ダガーはダメだ。攻撃以外には貝を剥くくらいしか用途が見当たらない。

 あとはおっさんに任せればいいだろう。



 しばらくして、おっさんが武器を抱えて戻ってきた。

 槍は穂先が両刃で広く、付け根に刺さり過ぎを防止する突起が付いている。柄は木製。投げるには向かない、対騎兵武器だな。


 ナイフはスラリと伸びた細い刀身の片刃。ペティナイフのような形だが、刀身の根本には小さなガードが付いている。ハンティングナイフだな。

 これもしっかりサバイバル用品なのだが……。俺のマチェットやルナのボウイナイフと比べると耐久性が低い。扱いには気を付けないと。


「槍は、初心者用のランデベヴェという槍だ。

 柄の部分は取り外しできるようになっている。お前らならどうせすぐ壊すだろうからな。


 ナイフは、まあ一般的なナイフだ。狩人がよく使っている。

 これは折れやすいから気を付けてくれ」


 おっさんの気遣いがよく表れた選択だ。どちらも初心者用。ナイフは攻撃よりも実用重視。こちらの意図をよくわかっている。



「リーズ、持ってみろ」


 リーズは「わかった」と言って握るが……持ち方もよくわかっていないな。持ち手が左右逆だ。

 もう確認しなくてもいいや。これで慣れてもらおう。



「今日の武器は合わせて金貨6枚だ。いいか?」


 おや? 意外と安い。初心者用なんだからそんなもんか。

 リーズは頭にハテナを浮かべながら槍とナイフを弄っているので、先に支払いを済ませて礼を言う。

 おっさんは「おまけだ」と言って、予備の柄を5本渡してくれた。5回壊せる。


「リーズ、行くぞ」


「え? お金は? 支払い……」


「もう済ませた」


「これがうちのルールですよ。報酬は全部コーさんが受け取ります。

 そのかわり、すべての支払はコーさんが持ちます。

 欲しいものがある時は相談してくださいね」


 戸惑うリーズに、ルナが説明してくれた。気が利くなあ。




 結局今日は買い物だけで終わってしまった。ついでに防具も買ってきたのだ。

 特殊な蜘蛛の糸で紡がれた布とかいう素材でできたチャイナドレスのような服。ロングスカートで、深いスリットが入っている。

 刃物を通しにくく、衝撃も少し吸収するそうだ。見た目がエロいから選んだわけではない。


 でも、犬耳付きの薄茶色のショートボブでチャイナドレスってなんかいいよね……。と、ぼんやり眺めていたら、ルナに睨まれた。



 今日の活動はこれで終わりだ。夕食を摂って寝るだけ。

 今日のところはリーズを1人にしないほうが良いと思ったので、俺が1人部屋。リーズの相手はルナに任せた。




 ちなみに、帰る途中のゴミ捨て場でリーズの家にあった物を捨てようとしたのだが。


「いや~! 捨てないで~!」


 と言いながら縋り付いてきた。さすがに心が痛む……。でもこれは必要なことなのだ。


「また買ってやるから。もっと良いものを買ってやるから。

 な? 今日はもう諦めよう。な?」


 子どもをあやしている気分だったよ……。

( ・`ω・´)

 リーズの特訓メニューがノーマルモードからベリーハードモードに変更されました。


 申し訳ありません。

 今日は午前の更新ができませんでした……。

 そのかわり19時頃に二話目を投稿します。

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