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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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交易1

 王から依頼された任務は、無事成功で終わることができた。ギルバートたちが途中で逃さなければ、任務は完遂される。あいつらがそんなヘマをやらかすとは思えないので、完遂したも同然だ。

 まあ、強引に引き摺られていく伯爵たちに、逃げる体力が残るとも思えないしね。


 最後に王から報酬を受け取れば、この任務は完全に終了だ。ついでに必要経費も請求できるから、結構な額の入金になるだろう。


 あとは手元に残った大量のミルジア金貨……。


「とりあえず、これどうしようか」


 いつもの食卓で、みんなに問いかけた。すると、ルナが質問で返してくる。


「何も買ってもなかったんですか?」


 いつもなら、何らかの交易品を買ってくるところだ。一番わかりやすいのは塩で、他にもミルジアでしか手に入らない革などの素材なんかも高く売れる。でも……。


「あの街はどこでどう詐欺られるかわからないからなあ。軽い気持ちで買い物するわけにはいかないんだ」


 あの街は、詐欺、ボッタクリ、悪徳商法が蔓延している。まともな買い物をするなら、かなりの経験が必要だと思う。

 ドンキーなら信用できそうなものだが、あいつは何を取り扱っているかよくわからない。アレンシアとの交易に詳しい様子も無かったから、俺自身が知識をつけないといい取引はできないだろう。


「そうなんですね……」


「いっそ、アレンシア金貨に交換しちゃう?」


 クレアの提案だが、その案はすぐに却下。


「大損するから嫌だな」


 ミルジア金貨をアレンシア金貨に交換する場合、とんでもない額の手数料が取られる。なので、交換は悪手だ。ミルジア金貨をそのままアレンシアで使う、というのも似たような理由で却下。手数料を見越した額での取り引きになる。


「じゃあ、ミルジアの安全な街に行って買い物してくる?」


「それしかないが、今のところミルジアに行く用事なんてないから、しばらく塩漬けだな」


 塩漬け、要するに放置だ。金に困っているわけじゃないから、商品知識をつけてから仕入れに行ったほうが効率がいい。しばらくは利益率が高そうな商品を探す。なんか商人みたいなことをしてるな……。


 なんにせよ、今のところは情報収集に専念しよう。



 ミルジア金貨の使いみちは保留にして、今回の依頼の報酬を請求しにいくことにした。向かう先は、王城のいつもの部屋だ。


 いつもの部屋に転移すると、王は大きなソファでふんぞり返っていた。


「よう」


 と右手を挙げて挨拶をすると、王は平然とした様子で堂々と挨拶を返す。


「うむ。待っておった。無事捕らえることができたようだな」


 突然の来訪にはもう慣れたようだな。


「ああ。詳細はギルバートから聞いていると思うが、依頼は完遂できたよ。何か質問はあるか?」


「概ね問題ないのだが……奴はなぜあんなにボロボロになっておったのだ? そんなに激しく抵抗されたのか?」


 伯爵たちは、死にかけの状態で王城に引き渡されたらしい。まあ、道中ずっと引き摺られていれば、ボロッボロになるのも無理はない。ギルバートたちがなぜそんな運び方をしたかと言うと……。


「……グラッド隊長の指導のせいかな?」


「ふむ……であれば問題ない」


 何が問題なしなのかよくわからないが、納得してくれたのであれば問題ない。


「じゃ、報酬よろしく。経費も結構掛かっているから、それもキッチリ請求するぞ」


 この世界には領収書という文化が無いみたいだから、経費は自己申告に任せられる。たぶん多少の嘘はバレないだろう。でも、バレてこっちが下手にまわるのは気持ちが悪いので、正直に申告する。経費をメモした紙を王に渡した。


 すると、王は顔を曇らせてもらす。


「……高すぎないか?」


 さすがはボッタクリの街。普通よりもバカ高い経費が掛かっている。俺は正直に申告しているのだが、王は俺を疑っているようだ。


「あそこはそういう街なんだよ。まともな宿に泊まろうと思ったら、それくらいの金額になる」


 宿を取って待機しろ、と命じたのは王だ。文句は言わせない。全額払え。


「であるか……ならば仕方がないだろう」


 王は渋々納得したようで、側近を呼び出して俺のメモを手渡した。経費は認められたようだ。


 経費が支払われるまで、まだ少し時間がある。今のうちに商品についての情報収集をやっておこうかな。王は国のトップなんだから、不足している物資には敏感なはずだ。


「なあ、アレンシアで足りてないものは無いか?」


「足りない?」


 王は怪訝そうに聞いてくる。


「手持ちのミルジア金貨を使い切りたいんだよ。アレンシアで足りないものがあれば、ミルジアで買い付けてくる」


「なるほど……食料は我が国のほうが豊富、製鉄技術も我が国のほうが上だ。わざわざミルジアから買うとなると……塩か、酒だな」


「酒? アレンシアでも作ってるんだろ?」


「うむ。基本的には我が国で足りている。しかし、どうしても我が国では作れない酒があるのだ。市井では、どうもその酒が人気のようでな」


 俺たちはみんな酒を飲まないから、その視点は完全に抜けていた。酒と言っても、材料や製法の違いでとんでもない数の種類に分かれる。酒は国の特徴が出るものだから、アレンシアでは作れないというのも無理はないか。


「どういう酒なんだ?」


「酒精が強いがクセが少なく、水で割っても果汁で割っても美味い。乾燥地帯でないと作れないらしく、主な産地はミルジア東部という話だ。アレンシアではエールやウイスキーが主流だが、どちらとも違う味わいなのだよ」


 ずいぶん饒舌だな……さてはこいつ、自分が飲みたいだけなんじゃないのか?


 まあ、利益率は悪くなさそうだな。とはいえ、俺は酒についてまったく知らない。ちょっと難しくないかな。


「買ってきたとして、どこで売ればいいんだ? あいにく酒屋には縁がなくてな。どこで取引されているかを知らないんだ」


「問題ない。すべて王城で買い取る」


 王は力強い口調で言う。絶対に自分が飲みたいだけだわ。


「わかった。こっちでも調べてみるよ。ちなみに、いくらで買ってくれるんだ?」


「最低でも、一樽あたり金貨86枚を約束しよう」


 聞いてはみたものの、相場がさっぱりわからない。酒を仕入れるにしても、ちょっと勉強する必要がありそうだな。原産地に行くのが一番だろう。またミルジアに行くことになるのか……。


 話をしているうちに、王の側近が金を持ってやってきた。今回の報酬はいつものツケ払いにして、経費だけを受け取る。


 ちなみに、王城に対する売掛金は、数年に分けて受け取ることになっている。銀行に預けるくらいの感覚だ。税金もその中から勝手に引かれるから、俺としても楽でいい。



 次の行動は決まった。ミルジアで酒の買い付けだ。しかし、王も噂を聞いただけだったらしく、見た目もわからないし名前も聞けなかった。具体的なことが何もわからない。こういうときは、知っていそうなやつに聞くだけだ。


「なあ、アーヴィン。酒には詳しい?」


 夕食の終わりに、アーヴィンに訊ねてみた。


「何? いきなり。まだ飲める年齢じゃないよ?」


「いや、お前なら飲んだことがあるんじゃないかと思ってな」


 アーヴィンは元使徒の転生者で、一度は大人を経験しているからね。まあ、この世界は飲酒の年齢制限がないから、年齢は関係ないんだけど。


「まあ、あるけど……ボクはあまり好きじゃないかな。喉が焼けそうになるし、次の日は気持ち悪くなるし。あまりいい印象がないんだ」


 過去に何かをやらかして、少しトラウマになっているようだ。嫌いなら、詳しい情報なんて期待できないだろうなあ。


「そっか。ミルジアの酒が高く売れるっていう噂を聞いたんだけど、何か知らないかと思ったんだ。詳しくないならいいよ」


「あっ、そういうことかあ。だったら、実家の隣の領が作ってるよ。たぶんそれのことじゃないかな」


 アーヴィンは思い出すような素振りをして答えた。


「ん? 他には種類がないのか?」


「あるけど、どこの国でも作ってるようなお酒だから。ミルジアでしか作れないってなると、そこの竜舌酒っていうお酒のことだと思うよ」


 竜舌……? ずいぶん大げさな名前だなあ。


 アーヴィンの話では、ミルジアの主流もエールのような酒らしい。例の竜舌酒は、生産量が少ないために高価で、ミルジアでもそれほど流通していないそうだ。


「他にも大衆酒場で出回ってるお酒もあるけど……それのことではないと思う」


「なんでそう言い切れる?」


「材料不明の怪しいお酒だから。どこで誰がどうやって作ってるのかも謎。それでいてすっごく安いから、怖くて飲めないよ」


 怖っ! なんってものを売っているんだよ。飲むと酔っ払う謎の液体……酒のような何かだ。アルコールで酔っているとは限らないんじゃないかなあ。


「なるほどな。よし、今回も案内を頼む」


「え……? また?」


 アーヴィンは、嫌そうに顔を曇らせた。


「近所だろ。頼むよ」


「悪いけど、今回は無理。あの領は教会の力が強いところだったからさ。多少はマシになったんだろうけど、問題が起きないとは思えないんだよね」


 アーヴィンを預かることになったのは、アーヴィンが教会に追われていたからだ。アーヴィンを教会に近付けるのは拙いかもしれない。


「そうか……仕方ないな。自力で探すよ」


 ついでに教会の様子を見てこよう。教会がガタガタになっているという噂は聞いたが、実情を確認したわけではないからな。


 1人で行ってもいいんだけど、ちょっと手間がかかりそう。人海戦術で探すべきだろうか。ちょっと希望者を募ってみよう。


「行きたい人ー!」


「はーい!」


 リーズが真っ先に手を挙げた。すると、ルナが申し訳無さそうに口を開く。


「ごめんなさい……ちょっと急ぎの仕事が……」


「私もだ。ルナくんとの共同作業だから、抜けるわけにはいかない」


 ルナとリリィさんは忙しいらしい。となると、チームで魔道具を作っているリーズはどうなんだろう。忙しくないのかな。


「リーズは大丈夫なのか?」


「ああ。魔導院から資料作成の依頼だ。魔導院の勝手がわかる、私とルナくんの仕事だな」


 ルナとリリィさんの古巣である、魔導院からの依頼を受けているらしい。なんか、最近そんな仕事ばかり受けているなあ。


「報酬の交渉はちゃんとしているか?」


「当然だ。と言うか、魔導院に勤めていたときよりも高額の報酬を貰っているぞ。こんなことなら、もっと早く辞めておけばよかった」


 リリィさんは得意げに言う。月給よりも高いのか。2人に技術があるからだろうな。さすが、手に職を持つ人は強いね。


「ずっと仕事があるわけではありませんからね。今だけです」


 ルナがリリィさんを窘めるように言う。それもその通りだろうな。魔導院だって、ずっと高額な報酬を出して依頼し続けることはないだろう。魔導院だけで回せるようになれば、ルナトリリィさんに回ってくる仕事は減る。


「ルナとリリィは不参加だな。クレアはどうする?」


「アタシも行くわ。そのお酒、ずっと前から叔父さんたちが探してたのよね」


 叔父さんというと、レイモンドのことかな。見た目通り酒好きみたいだ。しかし、あいつは高ランクの冒険者だったはず。


「自力で探してるんじゃないか?」


「ミルジアって、人によって入れる街が制限されてるでしょ? 見た目があんなだから、怪しまれて入れないことが多いらしいの」


 アレンシアの冒険者にとって、ミルジアはかなり不自由な国だ。賄賂が必須な街もあれば、外国人お断りの街もある。そんな中、見た目だけでお断りする街があるらしい。


 ……レイモンドの見た目は明らかに怪しいから、門前払いする門番を責めるわけにもいかないか。忠実に職務を全うしているよ。


「なるほど。じゃあ、大量に買って高値で売ってやろう」


「ふふふ。叔父さんなら言い値で買うと思うわよ。お手柔らかにお願いね」


 堂々とボッタクリ宣言である。まあ、あからさまなボッタクリ価格は提示しないつもりだけどね。今回の商品は自家消費できないため、在庫を抱えるとまるごと損になる。売り先の候補が一箇所でも増えるなら、かなりありがたい。



 というわけで、今回の同行者はリーズとクレア。ただひとつ心配なのは、俺たち全員が酒について何も知らないということだ。味の善し悪しなんてわかるわけがない。


 信用できる酒飲みが1人でもいればいいんだけどなあ。ボナンザさんに訊くっていうのも考えられるけど、「連れて行け」って言い出したら厄介だからなあ……。まあ、今回は少しだけ買って様子を見ればいいか。判断は王に任せよう。

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