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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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人探し5

 今日は商人さんに夕食を奢ってもらえるらしい。タダ飯というのもありがたいが、リスク無く食堂に行けるのもありがたい。


 この街の店は信用できないから、誰かに紹介してもらわないとキツイんだよ。そこらじゅうにボッタクリ店がありそうで。


「知らない人に奢ってもらうのって、どうなのかな」


 アーヴィンが不安そうに言う。


「いやいや、知らない人ってわけでもないだろ」


 会ったばかりではあるが、一応知り合いと言っていいと思う。


「会ったばかりでしょ? 用心したほうがいいと思うよ?」


「メシを食うだけだぞ。変なことを口走らなければ大丈夫だ」


 俺たちは素性を隠しているので、本名や所属を悟られるのは拙い。逆に言えば、それ以外のことは許容してもいいと考えている。ケンカを売られれば返り討ちにするし、本気でヤバいときは転移で逃げることも可能だ。


 それに、あの商人は今一番ターゲットに近い重要人物だ。仲良くしておいて損はない。


 商会の外でアーヴィンと話しつつ待っていると、商会の扉が開いてさっきの商人が出てきた。


「やあやあ、待たせたかな?」


「いや、問題ない」


「そういえば、名乗ってなかったね。僕はドンキー。このモンキー商会で会頭をしている」


 惜しいっ! コングじゃなくてモンキーだったか。


「ああ、わざわざどうも。俺はレイトンだ。こっちが、親戚のジョナサン。よろしく」


「あれ? ご兄弟ではなかったの?」


「違うぞ。訳あって、俺が預かっているだけだ」


 ドンキーは、俺たちの年格好から兄弟だと推測したようだ。俺とアーヴィンはまったく似てないから、兄弟だと言い張るには無理がある。そう思って親戚という設定にした。


「あっ! そうだ! 先に今回の報酬を渡しておくね。金貨500枚入ってるよ」


 ドンキーから、ズッシリと重い巾着袋を受け取った。思ったよりも高額な報酬だな……。情報提供料として、半分くらい黒い牙に渡そう。



 報酬のやり取りを終え、さっそく出発する。ドンキーの話では、肉料理が美味しい店があるらしい。


「ときにレイトンさん、この街で過ごすのって、金銭的に大変じゃない?」


 道すがら、ドンキーが話しかけてきた。


「正規の身分証が無いとかなりキツイな。犯罪に手を染めるのも無理ないと思う」


「でしょ? レイトンさんたち黒い牙のみなさんは、かなり厳しいよね」


 ドンキーは黒い牙を心配しているのだろうか……。彼は俺たちのことを黒い牙のメンバーだと勘違いしている。最初にそう名乗ったから当然なのだが、今回の件を黒い牙の功績だと思わせるために、その勘違いは正せない。黒い牙の一員として話を続けよう。


「まあ、そうだな。非合法なことも結構やっているぞ」


 俺じゃなくて、黒い牙の話ね。俺が知る限り、詐欺と恐喝と強盗かな。たぶんもっと手広くやっている。


「僕みたいに大儲けできるよう、手助けするよ」


 ドンキーは得意げに言うが、あまり大儲けしているようには見えないんだよね……。


「儲けている割に、事務所が小さいんじゃないか?」


「ああ、あそこはただの執務室だから。従業員の詰め所は別にあるし、そっちは結構広いよ」


 ドンキーはそう言ったあと、自分がいかに儲けているか、という自慢話を始めた。どうやら大儲けは嘘じゃないらしい。


 ドンキーの話では、『在庫を余らせている所から必要としている人に届ける』という商売をしているそうだ。日本で言うところの総合商社みたいな方針なのかな。アレンシアでは聞いたことがない商売だ。


「珍しいことをやっているんだな」


「そうだね。他の商人からは白い目で見られているよ。ははは」


 ドンキーは笑いながら言う。ドンキーのような商売は、ミルジアでも珍しいらしい。


「そんなに儲かっているなら、みんな真似すればいいのにな」


 素朴な疑問だった。それが引き金となり……。


「できるもんならやってみればいいさ。この商売は情報が命。情報がなければ大失敗して終わりだね」


 ドンキーは立ち止まって自慢話を続ける。自分の情報網がいかに優れているか、自分の人脈がいかに広いか。たしかにすごいんだろうけど、聞かされる方はしんどいだけだ。一度話を遮る。


「ちょっと待て。先を急がないか?」


 俺はメシを食いに来たのであって、自慢話が聞きたいわけではない。さっさとレストランなり食堂なりに行きたい。


「ああ、そうだね。ここだよ」


「着いていたのかよ!」


 目的の店の前で立ち話をしていたというのか……。時間をドブに捨てた気分だ。



 気を取り直して店内に入る。


 大通りに面した、それなりに大きな店だ。内装もそこそこきれいにされている。この街の雰囲気とは似つかわしくない、ちょっと高級そうな飲食店。


「悪くないな……」


「だろ? ここは庶民とは縁のない高級店だからね」


 ドンキーはカラカラと笑いながら言った。俺が探そうと思っていた、美食家が集まりそうな店だな。


 ちなみに、この世界の飲食店にはメニューというものが存在しない。毎日がシェフの気まぐれランチである。仕入れが安定せず、冷蔵庫で保管することもできないため、その日仕入れた何かで作るのが一般的だ。


「じゃあ、さっそく座ろう」


 俺がそう言うと、ドンキーはあたりを見渡して店内を進む。


「こっち。実は紹介したい人がいるんだよ」


 ドンキーはツカツカと歩き、俺はそれを追いながら声をかける。


「誰かがいるなんて聞いてないぞ?」


「ははは。驚かそうと思ってね。さっきの話にあった、領主館の関係者様だよ」


「マジか! 仕事が早いな!」


 ありがたい。面白くない自慢話を聞いたかいがあったぞ。こんなに早く話が進むとは思わなかった。


「あのあと、たまたまお会いしてね。レイトンくんの話をしたら、ぜひ会ってみたいと」


「なるほど、助かるよ。ありがとう」


 ドンキーの視線の先に居たのは、目が鋭くて、下がった眉尻が特徴的な中年男性だ。


「デビッドさん、お待たせいたしました。彼が例の冒険者です」


「はじめまして、デビッドです。お待ちしておりました。どうぞおかけください」


 デビッドは、立ち上がってお辞儀をした。ドンキーのやつ、人を待たせた上で自慢話を披露していたのか……。少しは気を使えよ。


「はじめまして。レイトンです。こっちは親戚のジョナサン。よろしくお願いします」


 領主館の関係者ということで、俺も少し気を使う。この人の機嫌を損ねたら、せっかく近付いたターゲットから遠ざかってしまうからね。


「かしこまらくても大丈夫です。私はただの使用人でございますから」


 彼は領主の小間使いのようなものらしい。まあ、貴族の腰がそんなに軽いわけないもんな。気は使うけど敬語はやめよう。


「了解だ。いつも通りにさせてもらうよ」


 そう言って席に座ると、ちょうど料理が運ばれてきた。デビッドが頼んでおいてくれたのだろう。メニューは選びようがないから、まったく問題ない。


 雑談を交えつつ料理を楽しむ。相変わらず何の肉なのか……鶏肉に近いかな。食感は鶏むね肉、味とジューシーさは鶏もも肉。やや水っぽいが旨味が濃い。不思議な肉だ。


「これはリザードの肉ですね。なかなか上質だ」


 デビッドから説明が入る。丁寧に処理をされたワニ肉だったらしい。……アリだな。全部売ってしまったのは失敗だったか。今度からは1匹くらい確保しよう。


 食事が終わりに差し掛かったところで、デビッドが神妙な面持ちをして声を出した。


「1つ、身の上話をよろしいでしょうか」


「いきなり何だ? まあ、聞くけど……」


 俺がそう答えると、デビッドは笑みをこぼして話を続ける。


「ありがとうございます。私はとある国の伯爵家に仕えておりました」


「……おりました?」


「はい。先日無実の罪で故郷を追われまして。伯爵家はもうありません」


 もしかして、この人はターゲットの関係者なんじゃないか? 少し探ってみよう。


「俺も小耳に挟んだことがあるな。王家の紋章を盗んだ、とか」


「そんなことはしておりません! 王家に嵌められたのです!」


 やったぜ、大当たりだ! 王家の紋章が盗まれるなんて珍事は他に聞いたことがない。こいつがベルフォート伯爵家の残党であることは間違いないな。


「それは気の毒に……。国家権力はろくなことをしないな」


 とりあえずデビッドに同調しておく。ちなみに俺も国家権力側の人だよー。気を付けろー。


「いえ、そのことはもう諦めました。しかし、心残りが1つだけ……」


「何かやり残したことでも?」


「実は、その国の至るところに、大量の財宝を残したままなのです。それを回収するために、腕のいい冒険者さんや商人さんに協力をお願いしています」


 ベルフォート伯爵は盗賊の大元締めだったから、大量の盗品を隠し持っていても不思議ではない。以前、俺が回収した盗品だって、下手をすれば隠されていたはずだからな。


「その財宝の確保や運搬を引き受けてくれ、とうことか」


「いえ、そのための人材はこちらで確保します。最重要な情報をお渡しするので、人選が難しいのです」


 それもそうか。高額な財宝の運搬なんて、初対面の人間に頼むことではない。ましてやここは犯罪者の街だ。超高確率で持ち逃げされるだろう。


「だったら、俺は何をしたらいい?」


「お恥ずかしい話、回収するためのお金が無いのです。出資していただければ、最低でも5倍にしてお返ししますよ」


 その言葉を聞いたアーヴィンの顔が曇る。かなり怪しんでいる様子だ。俺も怪しいと思うけど、顔には出すなよ……。


 ただ、話を聞く限り、おかしなことはないと思う。ミルジアでは盗品の横流しが犯罪にならないし、実行部隊がアレンシアで逮捕されたとしても出資者に被害が及ぶことはない。無事に隠し財宝を回収することができれば、それなりの利益が出るだろう。


 せっかくだから、もう少し深く聞いてみようかな。 まあ、俺はアレンシアの王から依頼を受けて動いているんだから、伯爵に協力するなんて考えられないけどね。


「その財宝ってのは、総額いくらあるんだ?」


「申し訳ございませんが、詳しくはお答えできません。国家の財政に匹敵するほどの額、と言わせていただきます」


 相当な額だ……。あの王が放置するとは思えない。王はこれを回収するためにベルフォート伯爵を追っているのかもしれないな。


「いかがです? とりあえず、今日の報酬だけでも預けてみませんか?」


 結論を急かすなあ。信用を得るために、少しくらい金を渡してもいいとは思う。でも……。


「少し考えさせてくれ」


「それはいけません! 判断が遅れたら損をしますよ!?」


「そんなに急ぐ話か?」


「当然です。財宝には限りがありますし、回収作業はすでに開始されているのです。迷っているうちに財宝の回収が終わってもいいんですか!?」


 デビッドの話では、約10日に一度、実行部隊が帰ってくるらしい。その後にミルジアで換金され、出資者たちに分配される。その割合は、まず伯爵家が半分抜き、残った半分を出資額に応じて分配する。

 さらに、すべての財宝の回収が終わるまで出資を続けた人には、出資金を全額返金する。


 リターン総額は最低でも出資金の5倍、うまくいけば10倍まで望めるらしい。


「いい話だとは思うが、今すぐってのは無理だ」


 俺は軽く誤魔化すが、デビッドは説得を続ける。


「まずは少額で構いません。騙されたと思って、金貨10枚預けてください。そうしたら、10日後には金貨1000枚でも預けたくなります。黒い牙の頭にも、きっと褒められますよ」


 デビッドは、俺のことを黒い牙の下っ端だと思っているらしい。褒められても関係ないんだけどなあ。このままだと平行線だから、こっちからも交渉を持ちかけよう。


「出資をする前に、その伯爵様と会わせてくれないか?」


 そう言いながら、無造作に掴んだ金貨をテーブルの上に積み上げていく。まずは200枚くらい。


「なぜです? 私では信用できませんか?」


「そういう意味じゃない。大切な金貨1000枚を預ける相手だから、しっかりと顔を見ておきたいんだ」


 全部で400枚くらい積んだかな。1000枚には遠く及ばないが、ハッタリとしては十分だったようだ。デビッドの生唾を飲み込む音が聞こえた。


「……わかりました。主にもご準備がございます。3日後、同じ時間にこの店で会いましょう」


「了解。待っている間にもっと稼ぐから、よろしく頼むよ」


 金に目がくらんだデビッドは、先延ばしの要求と無理めなお願いを受け入れた。3日間の猶予と、ターゲットに対面する機会を得られたのはかなり大きい。さて、忙しくなりそうだな。

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