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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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追加調査3

 盗品の調査は極めて難航している。今日も1人で聞き取り調査だ。行くあてもないので、知り合いを求めて冒険者ギルドにやってきた。エリシアさんからはすでに話を聞いているから、今日の狙いは冒険者の知り合い。

 敢えて混み合う早朝に、冒険者ギルドにやってきた。すると、狙い通り知り合いが声をかけてきた。


「いよぅ、久しぶりじゃねぇか。元気してたか?」


 髭面の大男、レイモンドだ。見た目は山賊だが、実は紳士的でいいヤツ。クレアの身内でもある。俺の数少ない知り合いの1人だ。


「ああ、久しぶりだな。ちょうどよかった。数日前に盗賊に関わって捕まった冒険者について調べているんだけど、何か知らないか?」


「……何のために?」


 レイモンドは一瞬間を開けて、怪訝そうに聞き返す。


「依頼だよ。盗品の行方を追っている」


「ははは。また、ずいぶんとめんどくせぇ依頼を受けたもんだな」


 レイモンドは笑いながら言った。一目でこの依頼がめんどくさいことに気付いたのか。俺はやり始めるまで気付かなかったぞ。経験の差かなあ。


「そうなんだよ……。軽い聞き取り調査で終わるつもりで受けたんだけど、ぜんぜん終わらない」


「うん、それもまた勉強だ」


 レイモンドは得意げに頷く。悔しいが、何も言い返せない。この依頼を引き受けるという、俺の判断が甘かった。


「マジで困っているんだ。協力してくれよ」


「いいぜ。オレが知ってることなら何でも答える。でもよ、オレは王都で活動してた3人組のことしか知らねぇぞ」


 マナーが悪くて嫌われていた3人組Eランク冒険者のことだな。エリシアさんもよく知らないらしく、その3人については何の情報も得ていない。盗品には関係ないかもしれないが、聞いておくべきだろう。


「助かる。ぜひ教えてくれ」


「とにかく生意気で、調子に乗った連中だったよ。上の人間には大口を叩き、下の人間には高圧的。さらに、誰に対しても上から目線ときたもんだ。冒険者からの評判は最悪だよ」


 関わりたくないと思わせるに十分な情報だな。とんでもなく嫌な連中だったようだ。冒険者のみならず、依頼者からの評判も悪いだろうなあ。


「へぇ……むしろ、よくEランクになれたな。誰が指導したんだ?」


 Eランクとは、正式な冒険者の一番下だ。その下にあるランクなしとFランクは、こういうヤバイやつをふるい落とすために存在する。


 まず依頼遂行能力を試すためのランクなしがあり、次に人間性を試すためのFランクがある。FランクからEランクに上がるためには、指導係からの許可が必要だ。もし人間性が終わっていれば、Eランクにはなれない。


「これがな、どうやら裏に貴族が絡んでいたらしい。貴族が大金を出して指導係を付け、強引に昇格させたようだ」


「そんなことが可能なのか?」


 ハッキリ言ってしまえば不正だが、たぶんバレない。冒険者ギルドの中でだけ、それもランクなしとFランクの間だけおとなしくしていれば、審査は通過する。


 しかし、強引にEランクになったところで、人間性に問題があればギルドや依頼者から嫌われる。それ以上の昇格や収入は見込めないだろう。


 貴族連中だってアホじゃない……いや、何人かアホが居るな。まあ、そうだとしても、ふさわしくない人間を強引に昇格させたところで、得られるものは少ないと理解できるはずだが。


「普通はやらないわな。権力を使って強引にそんなことをしたら、貴族自身だって評判が悪くなる。でもなあ、下級貴族の中にはアホが混じっているから……」


「ん? 下級貴族ってなんだ?」


「ああ、知らないのか。子爵と男爵のことだよ。人数も多いし歴史も浅いから、そう言われている」


 下級貴族という呼び方は初耳だが、わからなくもないな。この前見たアホ貴族は、王城でよく見かける貴族とは少し違った。服も少し安そうだったし、謁見の間の中では下っ端みたいな扱いだった。


 そういえば、あのアホ貴族は王都に住んでいるはずなのに初対面だったな。ということは、俺の知らない貴族が王都の中だけでも大量に居るのだろう。


 それだけ大量にいれば、多少のアホが紛れ込むのも仕方が無……くはないな。どうして貴族になれたのかな……。王の目が節穴なのだろうか。今度つついてみよう。


「そうなのか。その中に潜むアホが、3人を手引きしたと?」


「オレはそうだと睨んでいる。そのアホ貴族、今頃相当焦っていると思うぞ。無理をして冒険者にした子飼いが、まとめて捕まっちまったんだからな。はっはっはっ」


 レイモンドは豪快に笑った。邪魔者が居なくなってせいせいした、といった様子だ。


「じゃあ、そいつらに他に仲間が居たりとかは?」


「無い無い。オレたちだって最初こそ話しかけたが、最近は会わないように気をつけている。他の連中だってそうだぜ。『危険察知の練習になる』なんて言っている奴もいるくらいだ」


 おお、3人組が魔物扱いだ。俺が予想していた以上の嫌われっぷりだなあ。それほど嫌な奴らだったのか。むしろ可哀想になってきた。


「どうしてそんなやつを冒険者にしたかったんだろう」


「貴族連中にはなぁ、冒険者や職人を育てて、自分の専属にするっていう文化があるんだよ。たぶん、『俺が育てた』って言いたいんだろ」


 貴族が冒険者を育てるには、他にもメリットがありそうだ。出世すれば周囲に『自分は見る目がある』と言えるし、面倒な仕事を頼みやすいだろう。でも……。


「みんなでそんなことをしたら、冒険者が貴族の子飼いだらけになりそうだが?」


 俺は初めて聞いたケースだ。そこらじゅうに子飼いの冒険者が居るのなら、もっと話を聞きそうなものだが。


「強引なことはしない。貴族が支援するのは本当に見込みがるやつだけだ。だから、人数は多くないぞ」


「なるほどな。じゃあ、そいつらには見込みがあった……のか?」


「アホだから見る目が無かったんだよ。アホだから」


 大事なことなので2回言ったようだ。その貴族は相当にアホだ、ということだろう。レイモンドの偏見が多分に含まれていそうだけど、俺も概ね同意見だ。


 アホ貴族と言えば、俺も最近会ったばかり。


「もしかしてなんだけど、そいつらに関わっていた貴族って、ドゥーリンとかいう名前じゃなかったか?」


「悪いが覚えていない……が、そんな名前だったような気もするな。知り合いか?」


 レイモンドは、腕を組んで思い出す素振りを見せた。この様子だと、確定ではない感じだな。その可能性がある、くらいに留めておこう。


「アホ貴族って聞いて、真っ先に名前が浮かんだ。最近ケンカを売られたんだよ」


 俺の言葉に、レイモンドは手を叩いて笑う。


「はっはっはっ! お前にケンカを? そりゃあアホだな! だがな、アホは1人じゃないぞ。たくさんいる。1人見かけたら、10人は居ると思え」


 そんなゴキブリみたいに……いや、ゴキブリ並のウザさだったか。ドゥーリンが10人も居たらうんざりだ。うっかり出会わないように注意しよう。


「教えてくれてありがとう。助かったよ」


 俺はそう言って別れようと思ったのだが、レイモンドが急が真顔になった。


「……いや、お前が探ってたのって、盗品の行方だろ? それについては何も答えてないぞ」


「え? なにか知ってるのか?」


「いや、なんも」


 レイモンドは真顔の前で手を横に振る。


「知らないなら言うな……。俺だって、知ってるとは思ってないから聞かなかったんだよ」


「悪かったな。とにかく、オレが知っていることは以上だ。……で、盗品なんだが。もう売られているってことはねぇのか?」


「売られてる? どこに?」


 それは考えていなかったな。てっきりどこかに隠しているものだと思っていた。


「さぁな。買うのも犯罪だから、まともな店では売れねぇと思うが」


「わかった。その線でも探ってみるよ。じゃあな」


「おう、クレアにもよろしく言っといてくれ」


 軽く挨拶をしてレイモンドと別れた。


 すでに売られていたら……さらに厄介だぞ。売られたことがわかった時点で、この調査は打ち切りにしよう。さすがに個人の範疇を超えているよ。



 その後もしばらく冒険者ギルドに居座ったが、知り合いに会うことはなかった。もともと知り合いが多いほうではないし、そんなもんだろう。今日の調査はこれで終わりだ。エルミンスールに帰る。


 すると、宮殿の廊下でルナに呼び止められた。


「おかえりなさい。先程ボナンザさんとお会いしまして、市場の日程をうかがいました。急なのですが……明日だそうです」


 ルナとリリィさんは、盗賊が使っていた結界の魔道具を調査するために、毎日王都に行っている。ボナンザさんとは、そのときに会ったのだろう。


「本当に急だな……。どんな市か、とかは聞いてる?」


「はい。蚤の市(フリーマケット)競売(オークション)だそうです」


 ヤバい、めちゃくちゃ金を使いそうなやつだ。使う金の上限を決めておかないと破産寸前になるかも。家を買ったばかりで金無いし、盗賊の報酬もまだ貰ってないからなあ。まあ、しょうがないか。雰囲気だけでも楽しもう。


「了解。ルナたちは行けそうか?」


「それが……明日は重要な調査がありまして……」


「そっか。調査が難航してるんだな」


 ルナたちのほうも苦戦しているのだろうか。調査依頼は地雷の一種だと考えたほうがいいかもしれない。と思ったのだが、違った。


「いえ、そうでもないんです。いくつかわかったことがあります。まず、例の魔道具は、王都に輸送中に盗賊に奪われたようです」


 ルナがそう言うと、近くの部屋からリリィさんがひょっこりと現れて口を挟んだ。


「魔導院に届くはずだったようだぞ。途中で奪われたから、我々が目にすることができなかったのだ」


 ルナたちの調査はしっかりと進んでいるらしい。盗賊が盗んだものを使う、それはあたり前のことのように思える。だが……。


「だとすると、ちょっと不自然じゃないか? 誰が使い方を教えたんだ?」


 新しすぎる魔道具は、素人には何のための道具かすらもわからない。盗賊の一味に一人前の魔道具職人が居ればわかるかもしれないが、そもそも一人前の魔道具職人が盗賊になるとは思えないし……。いや、それもあり得るのか。


「そこまではわからない。というか、わかる人間がこの世に居ない」


 あの盗賊団って、アジトに残っていた1人を除いて全員死んでるみたいなんだよなあ。たぶんボナンザさんたちの仕業なんだろうけど……困った人たちだ。生け捕りにしてくれれば、ここまで手間がかからなかったのに。


「なるほど。こうなってくると、首謀者を捕まえないと無理かもな」


「いや、手がかりを見つけたぞ。王都の中に、同じ結界が使われている場所が発見された。明日の早朝、その結界を回収して持ち主を割り出す予定だ」


 リリィさんたちは結界を盗み出すつもりらしい。あるはずのものが無くなれば、確実に持ち主が姿を表すはず。そこを狙うのだろう。


 確実ではあるだろうが、ずいぶん雑な作戦だなあ。2人でできることじゃないだろ。


「俺たちも手伝ったほうがいいんじゃないか?」


「いえ、今回の作戦は王城の兵士さんの主導ですので。私たちは回収の手助けをするだけです」


 2人どころか中隊が動くようだ。それなら納得。結界の解除や取り外しなど、魔道具に関わる部分は兵士には手がつけられない。経験者ということで、ルナとリリィさんが参加することになったんだな。


 魔導院の他の誰か、というわけにもいかないと思う。となると、ルナとリリィさんは兵士の作戦に参加せざるを得ないか。


「我々は、魔導院に持ち帰ってすぐに解析する予定だ。コーくんたちは遊んでいて構わない」


 リリィさんは笑みを噛み殺しながら言う。新しい魔道具を分解するのが、よほど楽しみなのだろう。魔道具はリリィさんの趣味だ。俺が居ても仕方ないな。それに、兵士主導の作戦なんだから、俺が参加するのもおかしい。


 仲間が働いている間に俺が遊ぶっていうのも若干気が引けるが……慣れたほうがいいだろう。よく考えたらあたりまえのことだ。


「了解。お言葉に甘えて遊ばせてもらうよ。何かあったらすぐに連絡してくれ」


 王都の中で危険があるとは思えないが、用事がないとは言い切れない。みんなの活動範囲が広がったことでスマホが大活躍だな。



 明日は市場だ。おもしろい魔道具が出品されるなら、ルナとリリィさんにも教えてやろう。


 ついでに盗品の調査もできるかな。レイモンドの予想通りすでに売られているなら、明日の市場に並ぶことも考えられる。今日のうちに、盗品リストをおさらいしておこうかな。

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