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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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かんたんな仕事2

 怪しい男から怪しい依頼を受けた俺たちは、依頼を遂行するためにアルコイの街に向かうことになった。


 詳しい依頼内容は男から受け取った紙に書かれている。男が言う通り、とてもかんたんな依頼だ。絶対に怪しい。今後の動きについて、みんなと話をする。


 目的地は王都の西にあるアルコイの街付近の森、そこで荷物を受け取り、無事に王都まで届けるという依頼。地図を見る限り、馬車で片道2日半の距離だ。


 引き渡し期限は6日後……ちょっとシビアだが、遅れても特にペナルティは発生しないらしい。荷物の受け取りさえ急いでくれれば、届けるのは多少遅れても問題ないそうだ。


 運ぶ荷物の詳細は書かれておらず、差出人と受取人の詳しい情報も書かれていない。荷物の中身は詮索するな、と記されている。詮索禁止は一般的なルールなので不自然ではないが、品目は明記する必要があるんじゃないかな。


 難しい要素は荷物の引き渡し期限くらいか。俺たちの足なら半日もかからず到着できるから、特に問題ないが。


「読めば読むほど怪しいな」


 冗談の類かと思えるほどの怪しさに、いっそ笑えてくる。


「危ない予感がしますけど……むしろ危ない予感しかしないと言うか……」


「この依頼を見て、怪しくないと思う人のほうがどうかしてるわよ」


 いわゆる、『見えてる地雷』というやつだな。ここまでわかりやすい地雷なら、もう踏んだやつのほうが悪いだろっていう……。誰が受けるんだよ、こんな依頼。


 そんなことを考えていると、リーズがキョトンとした目で俺に尋ねてきた。


「ねえ、どこが怪しいの?」


「え?」


「え? あっ……なんとなくおかしいっていうのはわかるんだけど、何がどうおかしいのかなって……」


 なんだ、そういうことか。一瞬、本気でリーズのことを心配したぞ。この依頼の怪しさを見抜けないって、冒険者としてはだいぶヤバいから。


 リーズは直感で怪しいことがわかったが、その理由が説明できず気になっている様子だ。軽く説明してやろう。


「一番怪しいのは、なんと言っても報酬と仕事内容が釣り合っていないことだな。ただの配達だぞ。本来なら金貨数枚の仕事だ」


 さっき王都の冒険者ギルドで見た配達の依頼は、アレシフェまでの輸送で金貨2枚だった。俺たちが受けた依頼と比べ、距離は同じくらいだ。依頼者や配達量によって報酬の変動があるとはいえ、50倍になるのはどう考えても不自然。


「金貨100枚の仕事ではないですね、相当な大荷物でもない限り。荷物の量はどれくらいですか?」


「最低でも一般的な荷馬車1台分くらいらしい。それよりも多く運べれば、量に応じて報酬が上乗せされる」


 荷馬車の荷台は軽トラ1台分くらいの荷物が載る。日本で言うなら、一人暮らしの引っ越しくらいの量だな。


 運び方は自由だ。馬車やマジックバッグを使ってもいいし、みんなで手分けして普通の鞄で運んでもいい。俺たちのマジックバッグなら、余裕で収まる。どれだけあるかわからないが、現場にある荷物は全て運べるんじゃないかと思う。


「輸送依頼にしては少ないくらいですね……」


 輸送依頼は特別な技術が必要ないため、依頼料が安い傾向にある。さらに、アホみたいに重いものをアホほど運ばされることだってザラにある。

 俺が初めて受けた依頼も配達依頼だったが、その時も安い依頼料で鉄の塊を大量に運ばされた。当時の依頼内容は……軽トラ3台分くらいの鉄の塊を運んで、大銀貨5枚だっけ。いい思い出ではあるが、今だったら絶対に受けない。


 この依頼は王都の中の移動だったから、安いのは仕方がない。今回は都市間の輸送ではあるが、金貨100枚は高すぎだ。


「それだけでも十分怪しいんだけど、もっと怪しいのは依頼の方法だな。なんであの人はギルドの前で待ち構えていたんだ? まともな依頼者なら、ギルドに持ち込んだほうが早い。それができない理由があると考えるのが妥当だ」


 あれだけの報酬が出せるなら、冒険者ギルドに掛け合ってすぐに動ける冒険者を斡旋してもらったほうが確実だ。冒険者ギルドなら、それくらいの対処ができる。


「例えば、あの金額でも受けてもらえない可能性がある場合ね。とんでもない危険物を運ぶとか」


 クレアが俺の説明に補足をした。


「まあ、一番可能性が高いのはそのあたりだろうな」


 荷物が爆弾や毒物、危険生物といったものなら、金貨100枚でも安いと思う。誰も受けたがらないはずだ。


「危ないものだったらどうするの?」


「用途を確認して、問題なければ転移で運ぶよ」


 危険物は輸送中が最も危険だ。爆弾を抱えての戦闘なんてもってのほかだから、絶対に魔物と遭遇してはいけない。そういったリスクを避けるため、そして一刻も早く危険物を手放すため、多少怪しまれても転移魔法を使って短時間で終わらせる。


「もし用途に問題があれば?」


 クレアが腕組みをして訊く。


「もちろん、その場で全員逮捕だよ。危険物の処理は兵士に任せる」


 俺がそう答えると、ルナが不安げな表情を浮かべて言う。


「あの……言いにくいのですが、王都に居る首謀者を捕まえるために、荷物を王都まで運ぶ必要があるのではないでしょうか?」


「あ……確かに。嫌だけど、一度は俺が押収する必要がありそうだな」


 処理を兵士に丸投げしてしまうと俺の報酬が減る。多少のリスクは飲み込んで、こっちで処理をしなければならないだろう。


「ねえ、危険物を運ぶ前提で話をしてるけど、いいの?」


「決めつけは良くないが、用心に越したことはない。みんなもそのつもりで動いてくれ」


 取り越し苦労で済むなら、それが一番いい。だが、可能性が少しでもあるなら、警戒したほうがいい。一応だが考えはまとまった。さっそく行動に移す。



 まずはアルコイの防壁の外にひっそりと転移した。ここから目的地の森を目指す。


「じゃあ、行こうか」


 俺がみんなに声を掛けると、リリィさんが待ったを掛ける。


「先にアルコイで情報収集したほうがいいのではないか?」


「それもそうだな……。冒険者ギルドで確認しておこう」


 まず確認したいのが、近くで危険物の研究をしていないか。まあ、情報が漏れているとは考えにくいから、最低限、森の様子だけでも調べられればいいと思う。


 冒険者ギルドを後にして、街の門を目指す。すると、遠くから突然声をかけられた。


「やぁやぁ、久しぶりだね!」


 大きな羽がついたバカでかい帽子に、原色バリバリのド派手な服。遠くからでもわかる服装だ。どこかで見た覚えが……。嫌な予感がする。


 その人は、戸惑う俺たちに構うことなく話を続けながら近付いてきた。


「君たちは使徒召喚を止めてくれたんだってね! 天から聞こえる君の声を聞いて、胸がスカッとした! 本当に素晴らしい、ボクまで誇らしい気分になったよ!」


 パンドラだ。ルミアに巻き込まれた、あの恥ずかしい放送を聞いていたようだ。


 久しぶりに会う……というか、もう会いたくなかった。この青年はミルジアの元神官で、使徒召喚の真実を知ってミルジアから逃げてきた逃亡犯だ。今はアレンシアの身分証を偽造して冒険者をやっている。


 それはいいのだが、問題はその性格。だいぶウザい喋り方をするんだよなあ。


「あんた、まだこの街に居たのか」


「とんでもない! 国中を飛び回っているさ! なんせボクは、1つの街に留まることを許されないのだから!」


 不法滞在だからね。バレたらミルジアに強制送還されるからね。


「まあいいけど。どうしてまたアルコイに?」


 よりによって、俺たちと同じタイミングで……。勘弁してよ。


「この街の近くで盗賊が出たという噂を聞いたのさ! 盗賊狩りは儲かる、ともね! 君たちも同じ目的じゃないのかな? 残念だけど、盗賊団はすでに壊滅したらしいよ!」


 パンドラは賞金稼ぎのために来たらしい。盗賊狩りは儲かるのか……。俺はあまり興味がないから、今後もやることはないだろうな。そういった荒事はボナンザさんに任せるよ。あの人の趣味らしいから。


「いや、俺たちは別件の依頼だ。関係ない」


「そうなのか? 盗賊団のアジトや財宝にも懸賞金が掛けられている。ボクはそれを狙っているんだ!」


「情報はありがたいが、兵士も関係してくるんじゃないか? 兵士に近付いて、大丈夫なのか?」


 パンドラは不法入国で不法滞在だから、兵士には近付かないほうがいい。特に、身分証を確認されるような場所は近づくのもアウトだ。


「え……? あ……拙いかも……」


 パンドラは、間の抜けた声を出してがっくりと肩を落とした。パンドラの肩に手をおいて、哀れみの視線を送る。


「残念だったな」


「仕方がない! 今回は諦めて、この街を出るよ! ここには人が集まりすぎた! ボクは目立つわけにはいかないのさ!」


 パンドラは元気に大声を出す。切り替えの速さには感心するが、目立ちたくないなら大声を出すなよ。いや、そもそも……。


「目立ちたくないなら、まずはその服を脱げ」


「こんなところで脱げだなんて、君は変態だなあ」


 パンドラは、両手で胸を覆って言う。


「誰がここで脱げって言ったよ! もっと目立たない服を着ろって言っただけだ!」


「君には言われたくないよ。君のほうが目立つ服を着ているじゃないか」


 それは言われたくなかった。俺が持ってる服って、中二病全開の真っ黒なコートとか、金色に輝くコートとか、吸血鬼のコスプレみたいなコートとか、全部派手なんだよな。

 ちなみに今着ているコートは、先日買った中二病全開の真っ黒なコートである。


「それはそうなんだけど……いや、俺は目立っても問題ないだろ!」


「ははは! そうだったかな!?」


 ダメだ……こいつと話をしていると疲れる。さっさと追い払おう。


「もういいか? 俺たちは仕事中で忙しいんだ」


「そうだったのか! 足を止めさせて悪かったね! お詫びにこれから食事でも……」


 パンドラは、そう言って俺の手首を掴んだ。ねえ、人の話、聞いてる?


「忙しいって言っただろ! もう行くからな!」


「そうか。残念だが了解だ! これではみなさん、また会いましょう!」


 パンドラは、最後まで騒々しくこの場を去った。大嵐が来たみたいな気分だったよ……。


「疲れた……さっさと情報収集をして先を急ごう」


 精神的にかなり疲れた。一度休みたい。


「コーくん……アルコイに寄ろうなんて言って、悪かったな」


 リリィさんが申し訳無さそうに呟く。


「リリィさんのせいじゃないさ……。事故みたいなものだよ」


 こんなところで変な人に出くわすなんて、誰に予想できるんだよ。事故か天災だと思ったほうがいい。または、マップに『魔物』として登録しておくとか。アラームが鳴るように設定してもいいかも。考えておこう。



 疲れた頭にムチを打ち、冒険者ギルドに入る。すると、中は珍しく大盛況。いつもなら閑古鳥が鳴いている時間だ。アルコイは冒険者が多い街だとは聞いているが、ちょっと込み過ぎじゃないだろうか。


 人混みをかき分けて依頼表を確認する。


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盗賊のアジトの調査


危険度:F

報酬:金貨5枚~


備考:

兵士との共同作業による街道の調査

参加人数無制限

アジトが見つかり次第終了


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情報求む

盗賊のアジト・残党


危険度:B

報酬:金貨100枚~


備考:

先日壊滅した盗賊団の情報


財宝の情報または潜伏先について

残党との戦闘があるかもしれません

報告はアルコイ兵士詰め所まで


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 パンドラが言っていた、盗賊関係の依頼だな。かなり割のいい仕事だ。特にこの調査、Fランクの初心者でも参加できるのに、報酬が金貨5枚だって。初心者にはありがたい依頼だ。この依頼を目当てに集まっているのかな。


 一通り確認したが、魔物の討伐依頼は掲示されていない。ここでも魔物は落ち着いているらしい。盗賊が心配ではあるものの、安全だという話は本当のようだ。依頼内容がますます怪しくなってきた。


 冒険者ギルドにいる間、周囲の雑談に耳を傾けたが、これと言って有用な情報は得られなかった。数人の冒険者が盗賊の財宝の行方を追っているらしい、ということがわかったくらいだ。


 森の中で賞金稼ぎとかち合ったら少し面倒かな……。得られた情報はこれだけ。依頼は急いだほうがいいようだから、これ以上時間を掛けるわけにもいかない。すぐに森に向かおう。

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