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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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ワン子

 武器を買い直した後、王都の外で訓練をして過ごしたのだが、獲物は現れなかった。

 依頼の日までは新しい武器を素振りで慣らし、魔法の訓練をして過ごした。


 そして今日、依頼である露店の日だ。

 俺たちは『マリーの魔道具店』で打ち合わせを終わらせ、会場である公園にやってきた。


「コーさん、早く行きましょう!」


 ルナは朝からテンションが高い。指定された場所に着いたのでバッグから毛皮を取り出す。

 周りの店は防水シートやただの布を敷いている。毛皮を敷いて店を出せばきっと目立つはずだ。


「おい、すげえもん敷いてるな。何者だ?」


 となりのおっさんが話しかけてきた。ゴツい腕は火傷と古傷だらけで、あまり職人ぽい感じではない。

 どちらかと言うと冒険者っぽい。


「この毛皮は貰い物だ。あんたこそ何者だ?」


「オレは材料屋だよ。銀や銅を魔道具用に精錬して売っている」


「え? ちょうどよかった。

 おじ様、良い銀はありませんか? 10オンスほど欲しいのですが」


 オンスはこっち基準の重さの単位。大銀貨1枚分の重さで、約30グラムだと思っている。

 正確ではないが、こっちの世界は正確な測定器が無いから気にするだけ無駄だ。


 交渉はルナに任せて商品を並べよう。毛皮の上に直置きすると商品が目立たなくなる。

 毛皮の上にできるだけ白い布を敷いて、その上に陳列した。



 値札が無いのは不便だな。いちいち書いていられないから仕方が無いが。


「コーさん、金貨3枚と大銀貨2枚です。

 大丈夫ですか?」


 交渉が終わったみたいだ。手にとって確認する。

 約300gの銀板と約500gの銅板。


 地金価値は大銀貨10枚分と大銅貨10枚分くらいだが、魔道具用の金属は硬貨に使われるものよりも純度が高く、魔力で処理をしてある。倍くらいの価値があるかもしれない。


 材料費や精錬する手間賃があるから、妥当な金額だな。


「問題ないよ。おっさんの方は大丈夫なのか?」


「はっはっは。このお嬢ちゃんには負けたよ」



 交渉は上手くいったみたいだ。魔道具の知識はルナの方が圧倒的に上。

 この手の交渉は今後ルナに丸投げしよう。



 しかし、精錬の方法が気になる。思っていたより高いんだよ。

 自分でできるんならやりたい。


「なあ、おっさん、精錬ってどうやるんだ?」


「普通は魔道具を使うんだが、オレは自己流でやっている。

 参考になるかわからんぞ」


 おっさんは得意げにそう言うと、こぶし大の鉱石らしき石ころを取り出した。


「■■■■■■■■■■、ヒート」


 魔法の詠唱だ。鉱石の温度が上がっているようで、赤くなっている。


「ぬん!!」


 掛け声とともに、石がドロドロに溶けてうねうね動いている。

 数秒で動きが収まり、石に細かいヒビが入った。


「あとはこの石を割れば終了だ。

 不純物が抜けて、真ん中に魔力処理された銀が集まっている」




「なあ、ちょっとやってみてもいいか?」


「いいぜ。やれるもんならやってみろ。

 この鉱石一つ銀貨5枚で売ってやる。

 誰にでもできる技じゃねえからな。できなくても怒るなよ?」



 得意げに石を取り出すおっさん。


 鉱石を一つ受け取り、魔力を通した。まずは熱。銀が溶ける温度……何度だっけ?

 とりあえず1600℃。鉄が溶けるなら銀も溶けるだろ。


 次は適当にコネコネ。たぶんこの時に銀を振り分けるんだろう。Agはどれだ?

 魔力でほんの少しだけ銀を出して、同じものを集める。


 グリグリと捏ねている銀に、魔力を帯びていることに気が付いた。

 魔力処理とはこれのことか。魔力と金属を混ぜ合わせる。

 ここで二つに分けたほうが楽だな。球体を二つ作って銀とその他に分けた。


 あとは冷やして終了。崩れた石の塊と、直径2cmほどの銀の玉ができた。


「できたな」


「できましたね……」


「何でできるんだよ!

 オレにしかできない秘伝の技だったのに……」


 悲しそうな顔をするおっさん。「やれるもんならやってみろ」って言われたらやるでしょ?


「鉱石も売れるだけ売ってくれ」


「わかったよ。さっきの分と合わせて金貨5枚にしてやる」


 おっさんは山ほどの鉱石を取り出して言った。10kg以上ありそうだな。

 含有率が40%だとして……めっちゃ安くね?


「おい、これじゃおっさんが大損するだろ」


「この鉱石からじゃ、そんなに大量の銀はとれないさ。それに、銅鉱石も混ざっている」


「そうなのか? おっさんがいいと言うならいいんだが」


 金貨5枚を支払って金属板と鉱石を受け取った。

 そのあと、おっさんは絡んでこなかった。拗ねてしまったようだ。

 元気無く客の相手をしている。




 さて、客が来ないから暇だ。

 どうやら昼の鐘までは同業者の客が中心。その後に一般客が来て、日暮れ前にピークを迎えるらしい。


 素材屋は午前中が忙しくて、魔道具屋は午前中は暇になりがちということだな。


 暇なので、ルナと一緒に隣の魔道具屋を覗いてみることにした。素材屋のおっさんとは逆側の隣だ。



 念のため、誰かに盗まれないように防犯用の魔道具を展開しておく。これも売り物だけどね。

 もし作動すれば商品のアピールにもなるから一石二鳥。



 隣の露店に並べられた魔道具を見たのだが……。

 布製や革製のものはパッチワークみたい。いや、ツギハギかな。

 金属製のものは色が良くない。不純物が混ざりすぎだな。


 作り自体は丁寧なんだが、どれも材料が良くない。ゴミを寄せ集めて無理やりに作ったみたい。


 エンチャントも甘いな。ギリギリ発動できる程度だ。

 マリーさんや宮廷魔道士の腕が良いだけなのかな?

 今まで見てきた魔道具とは質が違う。悪い意味で。


 逆にものすごく器用なんだよな。こんなゴミ素材を魔道具の形にして、強引なエンチャントでも発動できる。




 この露店の店主を見ると、かわいい女の子だった。

 見る限り同い年くらいで、髪の毛は薄茶色のショートボブ。

 くりっとした大きい目が存在感を主張している……のだが、頭にピンと立った耳が!


 本来耳があるところには耳らしき物が見当たらない。

 これはもしかして……。


「獣人?」


「え? うん。そうだよ。ここでは珍しいよね」


 犬っぽい女の子は作り笑顔を浮かべて答える。


「初めて見たよ」


「王都では珍しいですが、農村や地方都市には結構いらっしゃいますよ。

 コーさんの故郷にはいらっしゃらなかったんですね」


「そうだな。全く居ない」


「で、どう? 私の魔道具!」


「ゴミですね……」


 うわ! 容赦ない! さすがに酷くない?

 犬っ子は耳と尻尾をしゅーんと下げて、落ち込みを体全体で表している。


「ルナ、さすがにその言い方は無いと思うよ」


「あっ! ごめんなさい。言葉が足りませんでした。

 ゴミのような素材から、よくこんな魔道具が作れますね……」


「うっ。無理に褒めなくてもいいよぉ」


「無理していませんよ。本当にそう思います」


「そうだな。それは俺も思ったよ。

 捨てるはずのクズ材料から魔道具を作ったんだろ?」


「ううん、お金がないので材料が買えないだけ」



 貧乏少女だったか。何か買ってあげたいが……欲しいものは無いな。



「師匠はいないんですか?

 まだ独り立ちする年齢ではないと思うんですが……」


「ちょっと前までは居たよ。でもクビになっちゃった。ハハハ……」


 マジで不憫だな、この子。

 魔道具職人に限らず、家を継がない一般人の多くは成人するとどこかの職人の下で修行をする。


 修行中の衣食住は師匠が提供して、少ないながらも給料が出る。

 クビになったということは、無収入ということだ。


 多少は仕事があるんだろうが、今日売れないと死活問題ということだな。

 でも売れないだろうなあ。確かに安く設定されていると思うが、見た目と質が良くない。


「なんでクビになったんだ?」


「え……言いにくいんだけど。

 あたし、あまり上手じゃなくて。その、エンチャント……」


「あー。確かに下手だな」


「うっ。そんなハッキリ言われると辛いよ。

 全然上手くならなかったの。魔力消費が大きい魔道具だと完全に無理」


 確かにエンチャントができないと致命的だな。


 しかしもったいない。この子相当器用だぞ。


 いい材料でいいものを作る人はたくさんいるが、ゴミでまともなものを作れる人は少ない。

 形を作る『成形』の作業だけやってもらうのはアリだ。



「あの……、この方に成形をやっていただくことはできませんか?」


「えぇ?」


「ああ、そうだな。いいと思う」


「でも二人は立派な魔道具を作れるよね?」


「今日の商品は俺たちのものじゃないよ。

 俺たちは冒険者でな。依頼を受けて代理で出店している」


「そうなの? でも本当にいいの? 紋章とエンチャントは?」


「あとの作業は俺たちがやる。俺たち二人共成形が下手なんだ。

 かわりにやってくれる人が居ると助かる」


「ありがとっ! よろしくおねがいします!」


 目を輝かせて尻尾をブンブン振っている。嬉ションするなよ?


 これで今日の売り上げがゼロでも餓死することは無いだろう。

 魔道具も作り放題だ。このままだと魔石が溢れるからな。




「じゃあ、今日の露店が終わったら詳しく話をしよう。俺はコーだ」


「ルナです」


「リーズ! よろしく!」


「俺たちは依頼者の所に寄ってから冒険者ギルドに行く。

 終わった後、予定がないならギルドで待っていてくれ」


「わかったー!」




 昼の鐘が鳴り、徐々に人が増えてきた。

 特に入場規制があるわけではないが、冒険者を含む一般人は午前中の入場を控えているようだ。

 午後は忙しくなりそうだな。

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