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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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閑話 とある兵士の回想

王城でコーと一緒に訓練していた兵士のお話。

本編への影響はありません。

 この世の終わりの部隊と言われる、王国きっての精鋭部隊『グラッド隊』


 この隊はグラッド部隊長率いる斥候部隊なのだが、とにかく訓練が辛い。任務も辛い。

 並の兵士では太刀打ちできない。


 この部隊に自ら志願するような者は『自殺志願者』と呼ばれる。

 部隊の隊員やグラッド部隊長が自ら声を掛けて入隊を促すこともあるが『死神の手招き』と呼ばれて恐れられている。



 そして最近『死神の手招き』に遭遇して『自殺志願者』になってしまった男が一人。

 使徒召喚で現れた使徒じゃない方だ。ギルバートの誘いに乗ってしまったらしい。


 あいつはお調子者だからな……。きっと軽い気持ちで誘ったのだろう。



 使徒はとんでもない素質を持っていると言われているが、使徒じゃない方はそうでもないはずだ。

 きっと一日で死にかけてへばる……と思っていたのだが、何故か毎回訓練に参加している。



 何を隠そう、俺もグラッド隊の隊員の一人だ。

 じゃない方の訓練は初日から近くで見ていた。

 ずいぶんと器用に素振りをするやつだとは思っていたが、初日にしてグラッド部隊長に目を付けられた。

 グラッド部隊長との戦闘訓練だ。


 部隊長の剣術ははっきり言って異常。重くて長い大剣を、ナイフのように振り回すのだ。

 寸止めなんて優しいことはしない。思い切り当てて吹っ飛ぶまで終わらない。


 訓練で使う剣は、剣の形をした鉄の塊。斬れることはないから死にはしない。


 部隊長の弁『生きていれば死んでいないから問題ない』初めて聞いた時はどうかしていると思ったものだ。


 初めは部隊長も様子を見ていたようだが、じゃない方のやつ、なかなか鋭い打ち込みをする。

 振り方は下手だ。剣に振り回されているようだ。


 しかし不自然だ。打ち込む前に姿を消しているように見える。

 傍から見ていてもそう思うのだから、部隊長から見れば相当気味が悪いのではないか。



 そしてついに部隊長の攻撃が始まった。

 どこから来るかわからない部隊長の連続攻撃。当たっていなくても生きた心地がしないだろう。

 奴は器用に避けている。右へ左へ飛び退いては転がり、足元に切りかかれば小さくジャンプ。

 少しでも攻撃が収まればすかさず体勢を整える。


「え? 何の訓練ですか……?」


 いつの間にか隣に女の子が。彼女は宮廷魔導士の子だな。

 この時間に訓練場に来るとは珍しい。


「新人の訓練だ。使徒じゃない方の奴だな」


 ふっふっふ。兵士はモテるのだ。王城内の警備も務めるグラッド隊は、城内の女性から大人気だ。

 我々に声を掛けることは恥ずかしいことではないのだよ。


「コーさんですよね……。

 すごい……。踊っているみたいです!」


 目を輝かせてじゃない方を見る女の子……。

 目当ては俺じゃないのかよ!

 しかも、なぜ奴なのだ。いつ知り合ったのだ。最悪だな、じゃない方。



 しかし確かに見事だ。よく避けられるものだ。

 これは良くないな。部隊長が本気になってしまう。



 部隊長が大きく後ろに飛んで距離を取った。アレをやる前の動作だ。

 部隊長の必殺技『初見殺し』

 そこそこの速さの攻撃で相手の目を慣らし、とんでもない速度で斬りかかる。

 捌ききれる攻撃を受け続けているせいで油断する。それがこの技の罠。


 あれを初見で避けられる奴はまず居ない。

 死にはしないから安心して吹き飛ぶがいい。優秀な治癒魔法使いならすでに待機しているぞ。



 ……と思ったら剣を捨てて降参した。何故だ。

 奴は訓練が終わると同時に倒れ込んだ。何だ、すでに限界だったのか。



 宮廷魔導士の女の子が慌てて奴に駆け寄って、治癒魔法を掛けていた。

 羨ましくなんかない。だって兵士はモテるのだから。俺にもいずれそういう女の子が現れるのだ。





 初日の訓練を見る限り、ずいぶんと良い動きをすると思った。

 だが、行軍訓練に参加するのはまだ早いのではないか?


 部隊長命令ということで納得はしているが、大事な新人だ。

 逃げられたら大変じゃないか。部隊の隊員は常に人数不足なのだ。


 貴重な新人を逃がすわけにはいかん。優しくフォローしなければ。



 ……何故あいつは普通に付いてくるんだ?


 この部隊専用のルートは、川があろうが道がなかろうががむしゃらに直進する。

 普通の奴なら先頭が川に飛び込んだ時点でリタイアする。


 今走っているところは森の中。斜面と言えば聞こえが良いが、ただの崖だ。

 俺はもう無理……。一度練気法を解いて休む。


 奴は悠々と追い抜いていく。なかなかやるじゃないか……。



 先頭付近で魔物が出たらしい。

 警戒しながらゆっくりと前進すると、奴が小さなボアを仕留めたところだった。

 小さいと言ってもそれなりに大きい。そして凶暴だ。


 何故か奴は鎧を脱ぎ捨てていた。自殺行為だろう。いくら幼生とは言え、相手は魔物だ。

 恐らく襲われて壊されたのだな。よくあることだ。



 それから先はボアを引き摺って走っていた。あの体力はどこから来るのだろうか。

 結局ボアを引き摺ったまま完走。




 あいつが仕留めたボアの肉はうまかった……。

 いつの間にか王城を出て冒険者になってしまったらしい。

 しかもあの宮廷魔導士の女の子と……。



 グラッド隊に入隊するのではなかったのか。


 部隊長が残念がっていたぞ。

 戦闘訓練の度にボコボコにされていた兄弟も寂しがっているぞ。それを見て楽しんでいた我々も。


 できる新人というのは貴重なのだ。奴ならすぐに前線に立てる。

 ぜひ王城に戻って入隊してほしいものだ。

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