この世界の金貨には羽が生えている
「おはようございます」
今日は俺たちは冒険者ギルドに来ている。ゴブリンの報酬を受け取るためと、追加依頼の確認のためだ。
マリーさんが話をつけてくれていると思うのだが、念のため。
「おはよう。俺たちに追加依頼が入ったんだが、聞いているか?」
「はい。お伺いしています。達成できればランクアップになります」
この依頼は露店の代理出店。売れなくても参加するだけで達成になる。だからランクアップはほぼ確定だ。
売れなくても……と言っても、できるだけ売るつもりだがな。
「ああ。それと、昨日ゴブリンを討伐してきた。換金はここでいいのか?」
「はい。1匹あたり大銀貨1枚で換金します」
お姉さんは相変わらず爽やかな笑顔だ。朝から清々しい気分にしてくれる。
カウンターの上にゴブリンの耳が詰まった袋を出した。魔石は今は売らない。使いそうだからね。
「え? こんなに……」
「どうした?」
「いつ、どこで仕留めたものですか?
あまり時間が経っていないようですが……」
「全部、昨日の王都の東にある森の近くだよ」
「あんな所に……
キングかジェネラルは居ませんでしたか?」
「キング? 妙にデカイ奴は居たぞ。剣を持っていた」
「ジェネラルですね。ゴブリンの配下と集落を作って村や街を襲う危険な魔物です。
目撃情報として受理致します」
「倒したけど?」
「え?」
「これ」
と言ってギルドのフロアにゴブリン(大)withごっつい大剣を転がす。
「ジェネラルですね。
そういえば、二人でオーガを討伐する実力者でしたもんね。
ジェネラルくらい討伐しますよね……」
「もしかしてコイツは売れるのか?」
「いえ、大きくてもゴブリンはゴブリンですので。
報酬のみです。金貨3枚ですね」
安っ! まあゴブリンだしね。
「この剣は売れますよ。そこそこ良いものです。
修理すればまだ使えます。
ギルド買い取りで金貨3枚~5枚くらいです」
こっちはちゃんと査定してからってことかな。使わないから売ってもいい。
「おい、待て」
横から野太い声がする。髭のおっさん、レイモンドじゃないか。なんだ、居たのか。
「なんだ?」
「売るなら俺に売ってくれ。
修理はこっちでやる。現状でいい。金貨10枚払うぞ」
「そんなに良いものなのか?」
「そうだな。もし店で買うなら金貨25枚、いや30枚くらいはする。
お前らの体格じゃあ使いにくいだろう。もし使える者が居るなら無理にとは言わんが」
悪くないな。使う予定は無い。金額も申し分ない。
「ギルドはいいのか?」
「はい。問題ありません。
武器や防具は買い手を探すのが大変なので、ギルドの買取価格は割安になってしまいます。
冒険者同士の売買は皆さんやっていますよ」
「そうだ。お前みたいに武器を持ち込むやつから直接買い取る。
これがギルド待機任務の役得だよ。
俺は剣の扱いが荒いからな。できるだけ安く済ませたい」
「ルナ、どう思う?」
「良いと思います。私は使えませんし、コーさんも剣を買ったばかりですよね」
「そうだな。じゃあこれはレイモンドに売ろう」
「助かる。お礼と言っちゃなんだが、俺の姪を紹介してやる」
「は?」「え?」
俺とルナが同時に声を上げた。女の子なら間に合っているぞ?
「何を勘違いしていやがる。手を出したらぶん殴るぞ。
お前らはもうすぐFランクだろう?
となれば、誰か指導者が必要になる。
俺の姪は頻繁に一人で活動しているから、少人数パーティの参考になるはずだ。
今はCランクの昇級試験のために他所に行っているが、もうすぐ王都に帰ってくる」
このヒゲおっさんの姪か……。想像したら嫌な物が頭に浮かんだ。
でも、誰かの指導があると昇級が早いみたいだから悪くないのかな……。
「悪くないお話ですが、一緒に旅をする仲間ですから、お会いしてから考えますね」
俺が返答する前に、ルナが返事を濁した。でも良い答えだ。いざ会ってみて変なやつだったら断りにくいからな。
「そうか。じゃあ帰ってきたら教える。ギルドに顔を出していればいずれ伝わるだろう」
レイモンドは金貨と剣を交換し、テーブルに帰っていく。
そういえばあいつ、今日は酒を飲んでいなかったな。
いつの間にかカウンターには金貨が乗っていた。討伐報酬だ。いつの間に……。
「確認させていただきました。ゴブリンは276匹で金貨27枚と大銀貨6枚。ジェネラルが1匹で金貨3枚。
合計で金貨30枚と大銀貨6枚になります」
ギルドで渡される硬貨はどれもきれいだ。質の悪い硬貨を渡さないように注意しているみたいだな。
ここに慣れると、外で油断してしまいそうだ。気を付けよう。
「じゃあ分けようか。報酬の30枚と剣を売った10枚だから20枚ずつだね。大銀貨は共有財産てことで」
「うーん……。考えたんですけど、やっぱりコーさんが管理してくださいませんか?」
「何で? ルナもお金必要でしょ?」
「そうなんですが、お互いに欲しいものが有る時は相談して決めるということでいいんじゃないでしょうか。
宿泊も一緒ですし、食事も同じ物を食べています。
あとは服や装飾品ですが、冒険者としての装備品ばかりになってしまうと思うんです。
どうしても欲しいものがあったら相談します」
確かに俺たちは今家族のように過ごしている。分けるのが煩わしいのは間違いない。
それに、地球みたいに娯楽に溢れているわけではないから、お金の使い道は多くない。
アホみたいに本を買ったり、冗談みたいなスペックのパソコン買ったり、湯水の如く課金したり……。
地球は金を使うために回っているな。危険な世界だ。
「うーん、ルナがそれでいいなら……」
不承不承ながら承諾した。
承諾してから気が付いたんだが、ルナはパーティメンバー増やす気無いな。
うちのチームは報酬を分けないから、なんて言ったら普通ならパーティに入らない。
あとは俺の使い込み問題。こんなの横領し放題だぞ。しないけど。
信用されているということだろうな。帳簿だけは付けておこう。
「さっそくだけど、ナイフを買い直そうと思う」
「そうですね。たった一日しか使っていないのにもうボロボロです」
というわけで『大鷲屋武器店』に入る。今日もおっさんが迎えてくれた。
「おう、昨日の。どうした?」
「すまん。昨日のナイフなんだが、直るか?」
ダメ元で聞いてみる。ボロッボロの2本のナイフをカウンターに置いた。
「……あんたら、何切ったんだ?」
「ゴブリンを200匹ほど」
「私はゴブリンを70匹くらいです……」
おっさんが呆れ顔で聞いてきたので正直に答えたのだが。呆れを通り越して呆然としている。
「こりゃ、もう直らないぞ。
短く切って研ぎ直すにも大きく欠けすぎだ。
叩き直さないと無理だ」
「やっぱりダメか」
「すまんかった。そんなにできる奴らだとは思わなかった。
あんたらにはもっと良い物を出すべきだった。
もう1本の剣はどうだ?」
「ああ、そっちはまだ使ってない。近いうちに試すよ」
「いや、もっと良い物に取り替えよう。
材料はこのナイフの方が良い物を使っているが、それでも持たなかったんだ。
剣も一日で壊れるぞ」
「しかし予算がなあ」
「そうだな……。
すまないが、今日も金貨10枚出せないか?
ナイフ2本と剣の取り換えで合わせて10枚だ」
「いいと思いますよ。ナイフは仕方ありませんし、剣もすぐ壊れてしまうようでは危険です」
「そっか。じゃあ金貨10枚出そう」
「おう、ちょっと待ってな」
狭い店内の奥から、昨日よりもシンプルな拵えのナイフが2本。
そして、今の剣より一回り大きい大剣を1本。
「ナイフは無茶な連続使用をしても折れにくい。
そのかわり鈍るのが早いから、手入れを欠かすな。
剣は同じ作者の材料違いだ。切れ味よりも強度を売りにしている。
鉄に叩きつけても折れないが、切れ味は良くないから気を付けろ」
昨日のナイフよりも厚みがあって重い。長さは同じく30cmほど。むしろ振りやすいかもしれない。
枝打ちが捗る感触だ。……武器の感想じゃないな。でもこれマチェットだからなあ。
大剣は切るよりも破壊することに重点を置いている。
切れないナイフで戦い続けたことから、切れなくてもいいと判断したのだろう。
悪くないな。生き物を切るつもりならサーベルのような片刃の方がよく切れる。
大剣なら破壊目的で良いだろう。
もし片刃の刃物が欲しくなったら本気で日本刀を探すけどな。無ければオーダーする。
日本刀と大剣。どっちの方がかっこいいかな?
迷っているうちにナイフに定着しそうで怖い。
しかも匕首やダガーじゃない、マチェットだ。
地球では武器ではなくサバイバルグッズに分類されるよ?
俺はこのナイフで十分。無骨な感じが気に入った。
でもルナには合わないな。少し重いし、昨日の戦い方をみる限り、たぶん短刀を2本持って二刀流にしたほうが合っていると思う。
握りを確かめながら狭い店内でブンブン振り回しているルナには悪いが、替えてもらおう。
「店主、短刀を2本両手に持つとしたらどんな武器がある?
彼女はゴツい1本より軽めの2本の方が合っている」
「ふむ……。できれば戦い方を見たいところだが。
まあいい。待ってな」
持ってきたナイフは、ボウイナイフとダガー。
ボウイナイフはさっきのマチェットより少し短い。刃渡り28cmくらい?
片刃で先端のみ両刃になっている。シンプルだが形が華やかだ。
ただね。これも日本じゃサバイバルナイフに分類されるんだよ。
一応アメリカでは決闘にも使われていたらしいから、武器と言ってもいいが。
ダガーは……こりゃ普通のダガーだな。
武器以外に使いみちがない、一般的なダガー。刀身にユリの花のような模様が彫り込んである。
刃渡りは約20cmとやや短め。メインで使うなら短いが、左手に持つならこんなもんだろう。
「まずは、この片刃のナイフ。切ることを目的としているが突くこともできる。
元々は狩りのためのナイフだが、盗賊が好んで使うとこから盗賊ナイフと呼ばれている。
街中で振り回すなよ」
物騒だな、おい。言われなくても振り回さないよ。
「こっちは貴族の護身刀だ。庶民向けにアレンジしてある。
切るより突くためのナイフだ。
しかし切れないわけではないから、扱いには気を付けろ」
ルナは両方のナイフを手にとって握りと振りを確認している。
マチェットより様になっているな。
「どうだ?」
「こっちの方が使いやすい気がします。
左手は……練習が必要ですね」
「そうか。店主、この2本とさっきのナイフが1本を頼む。
いくらだ?」
「ふむ……。全部合わせて金貨14枚でどうだろう」
「問題ない。あと、砥石が欲しい。どんなものがある?」
「砥石か。ちょっと待ってろ。大銀貨1枚だが、一つやるよ」
おっさんが持ってきたのは焼きレンガサイズにカットされた天然砥石だ。
質は……悪くないかな。刃こぼれした刃物には向かない、日常手入れ用の砥石。
「いいのか?」
「まあな。そのナイフは意外と手入れに手間がかかる。
大事にしてやってくれ」
店主のおっさんに代金を支払い、前回の剣を返した。
ずいぶんサービスしてくれたんじゃないかな。
「今日はいろいろありがとう。
結構割り引いてくれただろ?」
「いいんだ。どうせあんたらはこれからも壊すだろ?
またうちで買ってくれ」
う……それを言われると耳が痛い。たぶん壊すんだろうなあ。
お金が入ったと思ったらすぐに出ていく。
この世界はお金の使い道が無いと思っていたけど、地球よりも使う額が大きいぞ。
読んで頂きありがとうございます。
現在、投稿時間と内容について悩んでいます。
今は16時に更新していますが、タイミングを見て一日二回更新をするかもしれません。
16時を固定して、あと一回どこかで、と考えています。