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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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アーヴィンくんの修業日記4

 決闘の真っ最中。俺を警戒したゲイリーは、アーヴィンを集中攻撃することを選んだ。ゲイリーは手負いなので、武器を持つことはできない。警戒するべきは魔法だが、目の前で無効化したんだ。同じ手を使うとは思えない。となると、使える手段は格闘戦だ。


 俺の予想通り、ゲイリーはアーヴィンを羽交い締めにしようとしている。当然、アーヴィンはそれを避ける。棒のリーチを活かしながら、上手く対処している。


 近付くゲイリー、それを狙いすましたかのように突き出される棒。ゲイリーの鳩尾に命中し、悶絶する。正面からはヘンリーが襲いかかるが、剣の根本を突いて動きを制する。


 ピンポイントで(かなめ)を狙っているように見えるな。ルナの攻撃も急所を狙っているが、それよりも確実に当てている。当て勘がいいというわけではないようだが……。


 身体強化には何か追加効果が現れるのだが、これは初めて見る反応だ。俺たちとは違う効果が発動しているらしい。


 やはり訓練は負荷を掛けないとダメだな。素振りと体力づくりだけのヌルい訓練では、全く上達しない。不愉快な連中だが、アーヴィンにはちょうどいい負荷になったようだ。



 しばらく見ていると、ヘンリーとゲイリーが一方的に殴られるようになってきた。アーヴィンの動きがどんどん良くなってきている。身体強化も問題無さそうだ。訓練の成果は上々かな。

 3人に近付き、声を掛ける。


「もう十分だろ。終わりでいいんじゃないか?」


 そもそも、俺はずっと見ているだけだった。俺が手を出していたら、勝負は一瞬で終わっていた。最初から勝負は決まっていたんだ。


「ぐっ……ただのガキが……どうしてこんなに強い……」


「ただのガキじゃないからだよ。見た目は子どもだが、中身はそうじゃない」


 何と言っても、元最強の使徒だからなあ。今は体力と魔力が子ども並になってしまっているが、技術と経験は並の大人以上だ。


「くそっ! ■■■■■■■■……」


 あ、ゲイリーが魔法の詠唱を始めた。面倒だな。威圧の魔法で気絶させておこう。

 2人に威圧の魔法をぶつけると、詠唱を止めて静かになった。あとはギルドに引き渡して、問題解決だな。


 決闘の条件が『冒険者の廃業』だったわけだが、ゲイリーたちは新人の2人に暴行を加えていた。それだけで十分除名にできる違反行為だ。これで嫌がらせの被害を食い止めることができたかな。



「終わったぞ。怪我は治ったか?」


「ありがとうございました……。一度ならず、二度までも助けていただいて……」


 兄妹の兄の方が、遠慮深くお礼を言った。

 感謝をされて悪い気はしないが、俺が問題を大きくしたような気もしている。目の前で殴られているのなら、助けないわけにはいかないだろう。


「まあ、気にするな。俺が引っ掻き回してしまった問題だ」


「この御恩は必ず返します。拠点にしている街はどこでしょうか」


「拠点は無いが、よく顔をだすのは王都のギルドだな。まあ、困ったことがあれば気軽に言ってくれ。報酬次第で引き受けるぞ」


 タダ働きはゴメンです。今回は俺のせいというのも少しあるし、アーヴィンの訓練のためでもあった。


「あの……お名前を伺ってもいいですか?」


「ああ、そういえば名乗っていなかったか。コーだ」


「コーさんですね……コー? ()()コーさんですか? そういえば声が……」


「ああ、たぶん()()コーだ。よろしく」


 苦笑いで頬を掻く。有名になってしまったなあ。なんだか気持ち悪いから、今後は名乗るのを控えた方がいいかもしれない。


「お会いできて光栄です! 僕はリッキー。こっちは、妹のケイトです。よろしくお願いします!」


「ケイトです……。ありがとうございました」


「まあ、今回は若干の私情もあったからなあ。本当に気にしなくていいぞ。じゃ、俺たちはこいつらをギルドに運ぶから」


 俺がそう言ってこの場を離れようとすると、リッキーが慌てて制止した。


「いえ! 僕たちがギルドの人を呼んできます! 皆さんは休んでいてください!」


 リッキーはそう言って、街の中心に向かって走り去った。しばらく待ちだな。



 ギルド職員を待つ間、アーヴィンの様子を確認する。


「それでアーヴィン。どうだった? 感覚は掴めたか?」


「うん……何とかね。戦うことはできたみたい」


「変わったことは無かったか? 感覚が鋭くなるとか、周りがゆっくりに見えるとか」


 身体強化の追加効果。これは人によって違うようなので、アーヴィンの効果が楽しみだったりする。


「うーん……特に、何も?」


「本当に? おかしいなあ……。身体強化ができるなら、何か現れるはずなんだけど」


「あ、強いて言うなら、体の動きが良かったかも。気のせいかと思ったんだけど、体が思い通りに動くと言うか……ボウリングだったら、毎回ストライクが出せそうな感じ?」


 地味っ! なんだよ、それ……。身体強化でできるようになることが、ボウリングで300点出すことなの?


「この世界にはボウリングなんて無いだろ。何の役に立つんだよ……」


「そうじゃなくて、上手く言えないんだけど、機械みたいに正確な動作ができる、みたいな……」


 やっぱり地味! でも、それならかなり役に立ちそうだな。投擲や射撃だと、手元が1ミリ狂っただけでも的を外す。ガンマニアのアーヴィンには、ちょうどいい効果じゃないか。


「なるほどな。銃を使う時に役立ちそうだ。良かったじゃないか」


「あ……本当だね! 凄いね! これなら絶対に的を外すことは無いよ!」


 アーヴィンは、興奮した様子で答えた。効果の有用性に気付いていなかったのかよ……。


「ところで、リボルバーは修正できたのか?」


 置物状態のリボルバーは、アーヴィンが持ち歩いている。どうにか使える状態にしようと、今も試行錯誤を続けているらしい。


「それはやっぱり無理かな……。工程が難しすぎるよ」


「せっかく鉄の街に居るんだ。エリンに相談してみよう」


 と話をしていると、近くに人の気配を感じた。


「お待たせしましたぁっ!」


 リッキーの叫び声が響く。ギルドの職員を連れてきたようだ。

 そちらを見ると、いつものカウンター係の青年だ。今にも笑い出しそうな顔で、深々とお辞儀をした。


「お手数をおかけして、申し訳ありませんでした。ご協力、感謝いたします」


 込み上げる笑いを噛み殺しながら、気絶したままのヘンリーとゲイリーを引きずっていった。積年の恨みが感じられる態度だ。除名にできることが、余程嬉しいらしい。

 あいつら、嫌われすぎじゃないか? まあ、青年の気持ちは理解できるんだけどね。



 兄妹に別れを告げ、エリンの工房に移動した。元々剣の修理を依頼していたので、リボルバーの相談はそのついでだ。

 工房の中に入り、エリンに声を掛ける。


「おはよう。修理は終わったか?」


「あ、お金……じゃなくて金づ……お客さん!」


 エリンは今日も絶好調だな。もう開き直って『金』と呼べばいいさ。仕事さえやってくれれば、どう呼んでくれても構わない。


「で、修理は?」


「もちろん終わっっているよ! 今、持ってくる」


 エリンが修理した剣は、今回も鏡面仕上げを施されている。新品の時よりも圧倒的にキレイだ。ただ、エリンが作った新品の剣も、ここまでキレイじゃないんだよなあ。新品はキレイに研がない理由があるのかもしれない。


 何にせよ、修理の出来には満足だ。代金を支払い、例の相談を持ちかける。


「ところでエリン。こんな物を作ることはできるか?」


 リボルバーを取り出すと、エリンは不出来なリボルバーをまじまじと見つめた。


「何これ……変な置物だね。何の形なの?」


「ある武器を模したものなんだけど、これを完成させたいんだ。アーヴィン、詳しく説明してやってくれ」


 アーヴィンの説明は、さっぱり理解できなかった。あまりの訳わからなさに、耳が聞くことを拒否した。

 俺の鼓膜を振動させた言葉の中に、炭素鋼とかチタンとかという単語があったことから、おそらく素材の話をしているのだろうと予想した。エリンの頭の上にも、たくさんの(ハテナマーク)が浮かんでいる。


「おい、アーヴィン。一般人にも理解できる言葉を使ってやれ。エリンが困っている」


「あ……ごめんなさい。じゃあ、言い直すね」


 と言って、同じ内容をもう一度話し始めた。やはり耳が聞くことを拒否する。



 アーヴィンのよく分からない説明が終わった。エリンはどうにか理解できたようだが、難しい顔を崩さないままだ。


「このバレル? ってやつ。これは無理かなあ。あと、このシリンダーって部分も。全く同じ形の穴を6つも開けるんでしょ? しかも鍛えた鉄で。そんなことができる道具が無いよ」


「やっぱりそうだよね……。ありがとうございます」


 アーヴィンは、寂しそうにお礼を言って頭を下げた。


 激しい衝撃に耐えられることが要求されるので、銃身は鍛えた鉄で作る。溶かして型に入れるのが現実的かと思ったのだが、鍛えた後の鉄は溶けにくいそうだ。

 シリンダーの穴もドリルで開ければいいと思うのだが、硬い鉄に穴を開けられるような硬いドリルが存在しない。この世界の技術の限界だ。


 あれ? これ、俺なら両方できるな……。


 ファルカタを作った時の応用だ。単純な形であれば、粘土のように形を変えることができる。

 そして肝心の弾だが、これも俺のアンチマテリアルライフルをもとに魔道具にすれば解決だ。火薬は要らない。思ったより簡単だぞ。


「ありがとう。参考になった」


「ウチにできることは無いみたい。ゴメンね……」


「いや、大丈夫。話が聞けただけで十分だよ」


 申し訳無さそうな顔をしたエリンにお礼を言って、工房を出た。



 全ての用事が終わったので、エルミンスールに転移する。リビングにしている部屋に入り、アーヴィンに話し掛けた。


「リボルバーなんだけど、たぶん作れるぞ」


「え? 本当に? どうやって?」


「魔道具にしてしまうんだよ。鍛冶職人が作れない、バレルとシリンダーだけだがな」


 設計はこうだ。まずシリンダーに弾を生成する機能と発射する機能を付け、バレルに加速と回転を与える機能を付ける。アンチマテリアルライフルよりは弱くなるが、マグナム弾くらいの威力はあると思う。


 当初、俺はリボルバーの開発に乗り気ではなかった。普及されると、国同士のパワーバランスが崩れかねないからだ。

 しかし、俺たちにしか作れないなら問題無い。俺たちが量産しなければいいんだ。作るのは、アーヴィン用の1挺だけ。予備くらいは作るかもしれないが、売るようなことはしない。


「なるほど……。お願いしてもいい?」


「ああ。ちょっと待っていてくれ」



 リリィさんに「新しい魔道具の案だ」と言ったら、ノリノリで協力してくれた。ルナとリーズも同じくだ。全員で取り掛かった結果、リボルバーは1日も掛からず完成した。


「これが完成品だ。精度は悪くないと思うぞ」


「本当だね……。どうやって使うの?」


「普通の魔道具と同じだよ。魔力を込めると、弾丸が生成される。引き金を引けば発射だ。分かっているとは思うけど、誤射と暴発には気を付けろよ」


 まあ、俺たちが相手なら普通に避けるし、当たっても痛いだけ。一般人に当たると危険なので、それだけは注意して欲しい。


「うんっ! 分かってる! ありがとう!」


 アーヴィンは満面の笑みでお礼を言うと、リボルバーを持って宮殿の外に駆け出した。試し打ちをするつもりらしい。動作の確認をしたいので、俺も後に続く。



 ジャングルの中でしばらく試したのだが、問題は見当たらなかった。威力は、木の幹に弾がめり込む程度。そこそこの強さだ。ウルフやゴブリンのような雑魚魔物なら、一発で仕留められると思う。


 当初はアーヴィンを鍛える予定だったのだが、武器を与えるだけになってしまった。だが、アーヴィンは剣よりも銃の方が向いている。遠距離攻撃ができるメンバーも足りていないので、ちょうど良かった。


 アーヴィンの魔力量では、一度に使えるのは6発が限度だ。6発撃ったら、しばらく休まなければならない。とは言え、精密な遠距離攻撃は貴重だ。今後はアーヴィンを連れていくことも選択肢に含めることができるな。

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