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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
201/317

魔道具普及大作戦5

 カルール周辺に迫っていた魔物は、スライムも含め全て討伐した。素材も8割以上回収できた。ボロボロになったリザードは、面倒なので回収していない。どうせ売っても二束三文だ。放置して帰る。


 もうこの街に用はない。街の中にいるオマリィの私兵に挨拶をして、オマリィ邸に行こう。

 オマリィ本人もこの街に来ると言っていた。急がないとすれ違いになる。


 カルールの街に入ると、オマリィの私兵と街の住民たちが大歓声で迎えた。


「黄金の騎士団! 万歳!」


「万歳!」


「バンザーイ!」


 え? ちょ……やめて! すげえ恥ずかしい!


 呼び名も恥ずかしいんだけど、万歳三唱はもっと恥ずかしい。何も言わずに去るべきだったかな……。


「あの……帰りましょう。今すぐに……」


 ルナが顔を真っ赤にして呟いた。


「えー? なんだか楽しいよ?」


 リーズが観衆に手を振りながら言う。能天気だな……。この状況が恥ずかしくないらしい。


「ふふん。称賛を受けるのは悪くないな」


 リリィさんも恥ずかしくないようで、得意げに言った。リーズとリリィさんの鈍器コンビは、心臓(ハート)も鈍器でできているようだ。羨ましくはない。


「いや、帰ろう。とりあえず、オマリィに報告だ」


「そうしましょう。なんだか居心地が悪いわ……」


 クレアは少し顔色が悪い。体調を崩すレベルで居心地が悪いらしい。

 観衆に向かって元気に手を振るリーズの手を掴み、転移魔法を使った。



 もういろいろが面倒になったので、直接オマリィ邸の中に転移する。そして同時に気付く。観衆の目の前で、転移魔法を使ったらダメだろ。目立ちすぎだ。

 ちょっと迂闊な行動だったな。黄金の騎士団コールは、冷静さを失わせるだけの魔力があった。マジで勘弁してほしい。


 オマリィ邸のメイドを捕まえ、オマリィを呼び出す。


「勝手にお邪魔しています。オマリィさんを呼んでもらえますか?」


「え? あ……はい。少々お待ちを……」


 中年のメイドは、戸惑いながら走り去った。応接室のソファに腰掛け、オマリィの到着を待つ。



 オマリィはすぐにやってきた。いつもの貴族っぽい服じゃない。冒険者が鎧の下に着るような布の服だ。出発直前だった?


「おいィ、どこから入ったんだァ……。ずいぶん早い帰還だがァ、街に何かあったのかァ?」


 情報が遅れているらしい。おそらくオマリィは、今日の夕方に街に行く予定で動いていたのだろう。

 しかし、魔物の襲撃は予定よりも1日早くやってきた。その情報は、まだこの街には伝わっていないようだ。


「ああ。街に迫っていた魔物は、全部討伐したぞ。もう心配ない」


「何ィ! どういうことだァ!」


「俺たちが近所のスライムを潰しているうちに、襲撃が始まっていたんだよ。俺たちが街に戻った頃には、街の中に魔物が侵入していた」


 俺に詰め寄るオマリィに、事の顛末を説明した。俺のせいで早まったことは伏せてある。


「……フンムゥ……。確認のしようがないナァ。証拠はあるのかァ?」


 オマリィは、信じられない様子だ。討伐したリザードは、大半がマジックバッグに詰め込んである。マジックバッグの口を開き、1匹のリザードの首を出した。


「これが数百匹なんだが、全部出した方がいいか?」


「ぬおッ! リザード……。これが数百だとォッ!?」


「状態が悪すぎるやつは捨ててきたぞ。欲しいなら拾いに行けばいい」


「本当なのだナァ……。信用しよォ。約束の報酬なのだがァ、少し待ってくれェ。今は何かと入り用だァ」


 復興資金かな。街は結構壊れたので、それなりに金が掛かるはずだ。


「了解。まあ、金に余裕ができたら払ってくれ」


 オマリィが支払いをゴネるとは思えないし、俺たちも金に困っているわけではない。リザードの素材だけでも十分な黒字だ。


「すまないナァ。アーヴィンの警護の報酬と合わせて支払わせてくれェ。

 必要経費があるなら今払うぞォ。何か買ったものはあるかァ?」


 もしかして、武器代やポーション代も支給してくれるの? 意外と親切じゃないか。アレンシアの冒険者の報酬は、必要経費込みの金額が提示されている。怪我や道具の故障は完全に自己責任だぞ。



 せっかくの申し出だが、今回の討伐のために買ったようなものは無い。いや、アーヴィンのために買ったものは結構あるな。ついでなので、今精算してもらおう。


「今回の討伐じゃないんだが、アーヴィンの件で結構金を使ったんだ。

 これまでに掛かった金を精算したい。金額を紙に書いておいたから、確認してくれ」


 金額が書かれたメモをマジックバッグから取り出し、オマリィに渡した。

 食費や宿泊費が主だが、服やボナンザさんに支払った手数料なんかも含まれている。全部で金貨100枚くらいだ。


 オマリィは、金額が書き込まれた紙を見ると、顔を青くして震えた。


「フンムゥ……えェ? 高ィィ……! えェ? 高ァっ! エェェ……」


 オマリィの視線が、俺の顔と手元の紙を交互に何度も行き来する。


「……どうした?」


「何故そんなに平然としているのだァ……。いったい何を買ったらこうなるゥ?」


「ああ、事情があって、知り合いに匿ってもらったんだ。その手数料が含まれている。金貨30枚だ」


 教会と戦っていたとき、危険だったのでボナンザさんに預けた。そこで支払った手数料は金貨100枚。10枚は俺が負担して、残りを3人で3等分した。使徒の2人の分は、出世払いの約束をしている。

 俺の都合も少しあったので、1割だけ俺が負担した。全額請求するのは少し悪い気がしたんだ。


「それだけではないだろォ……何を買ったァ?」


 面倒だったので、紙には額面しか書いていない。俺は何を買ったか覚えているから、問題ないと判断した。オマリィが持つ紙を覗き込み、金額を確認する。


「ん? 服かな? え……っと、服が金貨48枚だな」


「ン高ィィィィ!」


「俺たちがいつも着ているような服なんだけど……。そんなに高いか?」


「コーさん、高いですよ。貴族の方でも、普段着にはしていませんから……」


 ルナが耳元で囁くように言った。

 貴族の服も高そうなんだけど、俺たちの普段着の方が高いらしい。素材の差かな。魔物素材の服には特殊効果があるので、いくら高くてもこっちの方がいい。


「まあいいや。それから、アーヴィン用の剣も買ったぞ。金貨5枚だ」


「それは安ィィ……いや違うゥゥゥ! 武器など要らんだろォ!」


「道中危険だったんだよ。アーヴィンの訓練もあるから、剣は必要だった。

 それに、本人は喜んでいたぞ?」


「フンムゥ……それなら良いィ。金は払うゥ。待っていろォ……」


 オマリィは、疲れたような表情で言うと、膝に手を掛けて立ち上がろうとした。


「ちょっと待ってくれ。無理なら今払わなくてもいいぞ?」


 金貨100枚くらいなら軽く払うだろうと思っていたのだが、思いの外大金だったらしい。別に急いでいるわけじゃないので、後回しだ。


「……そう言ってくれると助かるゥ……」


 オマリィは、安堵の表情で頷いた。マジで金が無いようだ。困ったな。今回の討伐は予定外の出来事だった。本来の目的は、魔道具を売り捌くことだ。オマリィに金が無いとなると、予定が大幅に崩れる。



 まあ、物々交換を持ちかければいいかな。元より物に変える予定だった。このまま貸しにすると、いつ返ってくるか分からないんだ。


「ところで相談なんだけど。魔道具は欲しくないか?」


 前回ミルジアに滞在した時、判明したことがある。アレンシアの冒険者は商売禁止というルールがあるのだが、これは店を開くことしか禁止されていない。要するに、個人売買なら何の問題もないということだ。

 実際、ミルジアで討伐したサイクロプスを売り捌いたことがあるが、特に問題にはならなかった。


 今回もこの抜け穴を利用する。オマリィに直接売るのなら、このルールに違反したことにはならない。もし売れ残っても、オマリィに次の客を紹介してもらうだけだ。


「ムゥ……欲しい気持ちは山々だがァ……金がナァ……」


「分かっている。今回は品物で払ってもいいぞ。この辺りの特産品でいい。何かあるだろ?」


「それはあるがァ……コーはそれでいいのかァ?」


 オマリィは、申し訳なさそうに言った。


「ああ、問題ない。俺たちがミルジアに来たのは、魔道具を売るためなんだよ。オマリィなら欲しがると思って、真っ先にここに来たんだ」


「フンムゥ……。気を使ってくれて助かるゥ。だがァ、今回の件で本当に金が無いィ。避難に掛かった費用とォ壊れた建物の修繕費がナァ……」


 ああ、住民の避難に掛かった費用も、全部オマリィ持ちなのか。馬車を動かすにも金が掛かるし、避難先での食費もある。それに、壊れた建物も少なくない。

 相当金が掛かりそうだ。そのうえ、今回の魔物の襲撃で得られるものは何もない。天災みたいなものだな。


「それなら、ちょうどいい物があるぞ。アレンシアで一般的に使われている、石を作る魔道具だ。建物の修繕に使えるし、防壁だって作れる」


 土を石に変える、建設用の魔道具。アレンシアに石造りの建物が多いのは、これがあるためだ。

 ミルジアの街には、防壁と呼べるようなものが存在しない。簡単な木の柵があるだけだ。そんなんだから、スライムが入り放題になっているんだよ。


「いや、オイィ! そんな物ォ、勝手に売ってもいいのかァ?」


 あれ? もしかしてヤバかった? 街の防壁は軍事とも言えなくはないけど、そこまで重要な物じゃないと思う。


「砦が作れるような魔道具じゃないし、大丈夫じゃないか? たぶん。

 普通の魔道具店で買えるような物だよ」


 砦を作る時は、もっと高性能な魔道具を使う。生成される石のサイズと、1時間に生成できる数が段違いだ。俺が持ってきた建設用の魔道具は、そんなに良い物ではない。


「お主がそォ言うならァ、有り難く使わせてもらうゥ」


「他にもあるぞ。今必要なのは、魔物除けだろ。たくさんあるから、領内の街全部に設置するといいよ」


 1つあたりの有効範囲は半径約1kmで、一度起動すると半日ほど効果が持続する。アレンシアの街では一般的な防衛手段だ。


 ただし、弱い魔物にしか効果がない。アレンシアではゴブリンを寄せ付けない程度だ。ミルジアなら、スライム除けくらいにしか使えないと思う。

 だが、スライムを除けることに大きな意味がある。今回のような大規模な襲撃は、スライムが寄ってこなければ起きない。


「ム……こんな物まで……高いだろう?」


 店売りで金貨10枚くらいだったかな。値段の割にしょっぱい効果なのだが、街の防衛には一役買っている。


「無いよりはマシだ。スライムが寄り付かないだけでも、状況が変わるだろ?」


 オマリィは、「フンムゥ……」といつものねちっこい返事を返して魔道具に視線を移した。



 日が暮れるまで続いた交渉は、ようやく終わりを迎えた。

 結局、俺が持ってきた魔道具のほとんどを引き取ってくれた。生活雑貨と街の防衛のための魔道具だったので、オマリィにとっても都合が良かったらしい。


「もォ出せる物は無いぞォ。逆立ちしても銅貨しか出てこないィ……」


 オマリィが苦笑いを浮かべながら呟く。


「そうか……。なんか、悪かったな。もっと金がある時に来るべきだった」


「そんなことは無いィ。今回は本当に助かったァ。十分な謝礼が出せんのがァ、心苦しいぞォ」


「十分だよ。大量に引き取ってくれて助かった。正直、もっと時間が掛かると思っていた」


「いやァ、足りないくらいだァ。事前に連絡をしてくれればァ、次回は私の友人も紹介してやるゥ。また持ってこいィ」


 遠回しにアポなし訪問を咎められた。電話が無いから、事前連絡が面倒なんだよ。……転写機? あれも面倒なので却下。

 オマリィに泊まっていくように言われたが、丁重に辞退した。一瞬で家に帰れるので、わざわざここに滞在するメリットを感じない。オマリィ邸の外に出ると、すぐにエルミンスールに転移した。



 自室で一息つきながら、ミルジアでの出来事を思い返す。


 いろいろと問題もあったが、無事にほとんどの魔道具を捌き切ることができた。

 だが、結局ここでも携帯型ウォシュレットが売れ残った。贅沢品なので薦めにくかったんだ。せめて、商品の良さが説明できればなあ。次回に期待だな。


 品物の受け取りは数日後になる。領内の余剰在庫を、全部掻き集めると言っていた。

 オマリィから受け取る予定の品物は、主に塩と布と紙だ。どれも腐る物ではない。一度に売れる量ではないので、受け取り次第エルミンスールで保管する。気が向いた時にアレンシアで現金化すればいい。



 しかし『黄金の騎士団』か……。カルールの住民の間では、『コー』イコール『黄金の騎士団』として認識されてしまった。名乗ったつもりも無いのに。


 これ以上広がらなければいいのだが……。ミルジア全土で定着しないことを願う。かなりマジで。

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