せっかく異世界に来たんだから存分に楽しんでやる
目を覚ましたら、おかしな場所で妙なおっさんときれいなお姉さんに囲まれていた。
テーマパークのアトラクションにありそうな城っぽい部屋で、妙なおっさんの1人は王様のような格好をし、他のおっさんは鉄の鎧を着込んでいる。
きれいなお姉さんはローブのような服を着ている。ローブを着た男も居るようだが。
そこにいる人は皆、日本語じゃない言葉を使っているようだ。英語でもないし、聞き覚えのない言語。
リア充共はすでに目を覚まし、真っ青な顔で座り込んだまま、おっさんの話を聞いている。
まるで言葉を理解しているような反応をしている。
俺の耳がおかしくなったか? と声を出すと、ローブ姿の若い兄ちゃんが無言で俺の手を取り、指輪をはめた。
気持ち悪いんですけど。なんでお姉さんじゃないんだよ。
「目が覚めたようだね。言葉は通じるかい?」
王様っぽい服のおっさんが声をかけてきた。
「はぁ」
気のない返事を返す。言葉が理解できるようになったことも謎だが、正直わからないことばかりで困る。
「使徒は2人だったはずなのだが、1人増えたことで神託の指輪が足りなくなったのだ。
急遽複製の指輪を持ってきたのだが、不具合は無いだろうか」
「何のことですか?」
「先程の指輪は、使徒と会話をするための道具だ。君も預言者の鈴に導かれたのであろう」
「いや、何のことかさっぱり」
「なんだ! その口の利き方は!」
おっと、隅っこに立ってたおっさんが顔を真赤にして怒鳴りつけてきた。
てめえこそ何だ、その口の利き方は……と言おうとしたところで王様(仮)が口をはさむ。
「いや、良い。気にせず質問に答えよ。お主らも、余計なことは言わんで良い」
王様(仮)は、あたりを見回して言うと、俺の方に向き直した。顔真っ赤のおっさんは黙ってうつむいてしまった。
「鈴の音と神の声を聞いて導かれたのではないのか?」
「違いますね」
きっぱりと言い切る。
すると、ローブのお姉さんが鈴を振りながら近づいてきた。
「確かに違いますね。預言者の鈴が反応しません」
向こうの陣営は混乱しているみたいだ。俺のほうが混乱してるんだけど。
おっさん連中は、王様(仮)を囲んで会議を始めた。放置プレイ、ヨクナイ。
ああだこうだと言い合いをしているようだが、長くなりそうなので、今のうちにリア充どもと話をすることにした。
「なぁ、何があった? どういう状況だ?」
「僕たちもいまいちよくわかってないんだ。鈴の音が止んだ後、神様みたいな人に会っただろ?」
「俺、会っていないぞ」
俺とは状況が違う。2人は地面が光った後、神様を名乗る女に会って説明を受けたらしい。
ファンタジーのド定番、異世界転移とかいう奴だそうだ。
この世界で修業し、神の世界に来るよう言われた。
で、この世界はこれまたファンタジーのド定番、剣と魔法の世界だそうだ。
魔法の修業をして、この世界のトップレベルになったら神からお呼びが掛かると。
いやいやいやいや、要らない。神の世界とか知らない。俺は日本に帰る。
「俺は関係ないよね? 神に会ってないし」
その場に居る全員にそう宣言した。
ちなみに、王様(仮)のおっさんは王様(本物)だった。
「うむ。すまんが其方には神のもとへ向かう権利が無いようだ。
なぜ使徒ではない其方がこの国に来たのかはわからんが、其方らはこの国の客人として迎えよう」
友人と言えるほどの付き合いではないんだけど……というのは言わない方がいいな。
しかし、困った事態だがある意味都合がいい。
『365日、ヨーロッパ放浪の旅』が『無期限、中世ヨーロッパ風異世界、放浪の旅』にアップグレードした。しかも渡航費無料。
一年間が無期限にアップグレードしたのは問題だが。
地球から異世界へ、そして神の世界という謎転移が標準なのだから、たぶん帰る方法もあると思う。神の世界に行くよりは日本に行く方がハードル低そうだし。
「実は、この国で使徒召喚を行うのは初めてのことでな。其方らの働きには期待しておる」
王様はリア充に向き直って話を進めた。
「世話係として、教会から神官が派遣されておる。滞在中は彼女を頼ると良い」
「フィリス・レインウッドです。どうぞよろしく」
一際豪華なローブに身を包んだ少女がリア充どもに向かって上品に挨拶をした。年は同じくらいか。美少女と言っていいと思う。
こっちを見ようともしないから、横顔しかわからんが。
「二人にはこの城にてある程度の剣と魔法の訓練を受けてもらう。その後のことは訓練終了時に改めて考える。
まだこちらに来たばかりだ。二、三日は休養とする。訓練に顔を出しても良いし、フィリスから神学を学んでも良い」
俺は何したらいいんだろう。扱い違うからなあ。
「それから、其方の名は何だ?」
王様が俺の方に向かって聞く。そういえば自己紹介してないわ。
「コーと呼んでください」
たぶん本名を言っても仕方がない。単に呼び名なんだから、普段呼ばれている名前で十分だ。
「ふむ、コーよ。今後どうする? 城に残るならそれなりの教育と仕事を与えるが」
城に残るとか無いわー。マジ無いわー。超歩きまわりたいわー。
「今は訓練に参加させていただきたいと思います。ある程度身に付いたら、城を出て旅をしたいと考えます」
ちょっと都合良すぎかな。タダ飯食って、タダで訓練させてもらって、用が済んだらバイバーイってことだからなあ。
「ほう、冒険者志望か。悪くないな」
オッケーでした。ていうか冒険者あるんだ……。
「しかし、訓練の結果次第では兵士に登用することもできる」
要らんです。逆に困るし。出来る……とは言うけど、たぶん強制だな。下の上くらいまで上達したらさっさと逃げよう。
「ありがたいお言葉ですが、いずれ元の国に帰るつもりです」
「我々に帰すことはできぬぞ」
そんなことだろうと思ってたよ。うん、知ってた。これも定番だわ。
「問題ありません。方法を探すための旅でもありますので」
「それなら構わん。使徒が帰っていったという話は聞いたことがないが、十分に訓練して向かうと良い」
タダ飯&タダ訓練ゲット。
「其方らには寝泊まりする部屋を準備している。
今日はもうすぐ日が暮れるから、食事を済ませたら部屋で気を休めると良い。部屋にあるものは自由に使って構わん。
明日の朝、話をする機会を設ける。それまで自由に過ごすが良い」
王様の話はこれで終わり、フィリスさんの先導で食堂に向かう。
「申し訳ありませんが、食堂は城内に住む文官やメイドと共同になります」
住み込み勤務の賄いメシか。豪華な食事とは言えないだろうが、割と期待が持てるな。
しかし、リア充どもは口を開く気力も無い様子で、無言でうなずくばかり。顔色も真っ青だ。
フィリスさん、善、一条さん、俺の順番で横に並んで食事を摂る。長テーブルなので横並びだ。
特に席順が決まっているわけでは無い様で、皆思い思いの席に着いている。
仕事の手が空いた人から順番に食事を摂るスタイルなのかな。賄いなのでそんなもんだ。
食事は肉(謎肉)とパンとスープだった。日本の料理と比べるまでもなくシンプルな調理方法だったが、味は案外悪くなかった。
パンの量も申し分ないレベルだったので、この国は割と裕福な国なんじゃないだろうか。
リア充どもはあまり食ってなかったが。少食なのか?
善とフィリスさんが何か喋っているけど、よく聞こえないな。善の声がとても小さい。ボリュームが普段の二割だ。
フィリスさんが立ち上がり、「部屋に案内します」と言うので、席を立った。