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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
最終章 使徒召喚
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初めての旅は異世界で

 エルミンスールに籠もってから約1カ月。魔道具の作成と雑用に追われ、あっという間に経過した。

 王都にも何度か行ったので、その時に使徒の2人を連れていき、挨拶を済ませた。帰る準備は整っている。


 なんだかんだでエルフの村作りもかなり進んでいる。掘っ立て小屋のような建物ではあるが、住む所は決まったようだ。

 移住してきたエルフの総数は、127人とペットが1匹。思っていた以上に人口が少ないな。ちなみに、ペットは残念ドラゴンだ。久しぶりに会った時、不満げにペコリと頭を下げた。一応ここの主と認めているらしい。


 まあ、あれでも長老の大事なペットだ。多少失礼でも、追い出すようなことはしない。


 ただ、1つ物凄く予想外なことが起きた。エルフたちが移住してきてすぐ、2匹のウロボロスがあっという間に駆除されていた。残念ドラゴンが近くを飛び回り、潜んでいたウロボロスを発見したと言う。


 ここまでは想定の範囲内。予想外だったのは、その駆除方法だ。空のキャパシタをぶつけたら、ウロボロスを構成している魔力をガンガン吸収したらしい。十数個のキャパシタを満たし、ウロボロスは消滅した。


 なんだか物凄く感謝されたが、それは俺も想定していないから。かなり戸惑った。


 ウロボロス1匹分の魔力は、おおよそ片道分の魔力に相当するらしい。あっという間に往復分の魔力が確保できた。

 ミルズから吸い取った片道分の魔力が余ったので、そろそろ使徒の2人を地球に送ろうかと思っている。



「俺はまだ用事があるから、お前らだけ先に帰れ。俺は用事が終わったら帰るよ」


 宮殿の使っていない部屋に関係者全員を集め、帰還の準備を進めている。今日帰るのは、善と一条さんの2人だ。


「本当にありがとう。僕たちは世話になりっぱなしだったよ……」


「どうやってお返ししたらいいかな?」


「……出世払いだな。金貨200枚でどうだ?」


 ゴブリン2万匹分だ。そんなに居るのかな……。まあ、金ボア級のレア魔物1匹分だ。サイクロプスでもいい。そんなに難しくないだろう。


「日本円じゃないんだ……」


「もうこの世界の人みたいだね。日本じゃ金貨なんて手に入らないよ?」


「む……わかった。じゃあ1kgの金の延べ棒でどうだ! これなら日本でも手に入るだろ」


 約500万円だ! 金貨200枚よりも価値が上がったけど、気付かれていないみたいだから良し。


「頑なに日本円は受け取らないんだね……」


 日本円で貰っても、正直お金っていう気がしないんだよなあ。ただの紙だし。金の現物の方が安心できる。この世界に馴染みすぎたかな。


 最後に、善に確認をする。


「なあ、善。フィリスのことはもういいのか?」


 何が良かったのか理解に苦しむが、善はフィリスのことが好きだったらしい。


「うん……。コーはこの世界に戻ってくるつもりなんだよね。出来れば、その時にまたここに送ってほしいんだ。大学を卒業したら、またここに来たい」


 かなり先になるな。最短でも約4年後だぞ。その頃には心変わりしていそうなんだけど、大丈夫なのかな。


「それは構わない。地球に帰ったら連絡するよ」


「悪いな。頼むよ」


 4年後、フィリスがどうなっているかは保証できない。この世界の女性は結婚が早いので、4年もあったら既に結婚している可能性が高い。こんなことは善には言えないけどな。


 見送りが終わると、ルミアが一言付け加える。


「皆様、本当に申し訳ございませんでした。お元気で……」


「ルミアが謝ることじゃないだろ」


「いえ……そもそも、私がミルズに負けなければ、こんなことにはならなかったのです。責任の一端は私にもあります」


 考えすぎじゃないかな。まあ、この後キッチリと責任を果たしてもらうつもりなんだけどね。


「そんなことは無いですよ。短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございます」


「そうです。僕たちはそれなりに楽しめましたから。その思いは、この世界の方々に伝えてください」


 一条さんに続き、善もそう言ってルミアに微笑みかけた。

 挨拶はこれで終わりかな。この2人は、ルミアに会うのは最後になるかもしれない。まあ、それほど仲良くなったわけではないから、こんなもんだろ。


「じゃあ行くぞ。スマホの魔道具はそのまま持っておけよ。地球での動作を確認してもらいたいんだ。魔法とかも実験しておいてもらえると助かる。

 それと、ポーションも持っていってくれ。地球での効果が知りたい。クソ不味いけど、腐っているわけじゃないからな」


「うっ……注文が多いね。やっておくよ」


 俺が帰った後のための指示も終わらせた。

 帰還用の魔道具を起動し、世界を繋いだ。繋いだ先は、いつもの帰り道。使徒召喚が実行された、あの日のあの時だ。目標地点の都合上、今はあの場所に行くしか無い。善と一条さんの気配は把握できているので、今後はその2人を目標にすれば問題無いはずだ。


 使徒の2人は眩い光に包まれ、スゥッと消えた。世界はまだ繋がっている。気配察知で2人の無事を確認し、世界の繋がりを閉じた。



 使徒の2人を送り届けた数日後、ルミアを神に戻すための魔道具が完成した。強制的に声を届ける魔道具だ。『拡声器』と名付けた。形状は一般的なハンドマイクの形だ。持っている人の喋った言葉が、全世界に配信される。

 燃費が悪く、一度の配信のために小型キャパシタを一個消費する。短時間の配信を複数回行う必要があるだろう。


「テストはできないけど、まあ上手くいっただろ。完成だ」


 いつもよりも時間が掛かったのは、動作確認ができないからだ。不具合は許されない。設計の段階から、かなり気を配ってある。


「それは何のための魔道具なのでしょうか?」


 ルミアは、夕食のパンを齧りながら不思議そうに呟いた。


「……ん? そういえば言っていなかったな。ルミアを神に戻すための、重要な魔道具だよ」


「はぃ? 私は神になるつもりは無いと言いましたよね……?」


「ん? ああ、神という呼び名が嫌いだったか。教会で祀られる存在に戻れと言っているだけだ。元通りになるだけだぞ」


「どこが元通りなんですか! 教会は荒れ放題ですし、ミルジアと帝国の教会も神が居なくなったんですよ!

 今教会に戻ったら、絶対に大変じゃないですか!」


 ルミアは興奮しながらも、手に持ったパンを離そうとしない。もしかして……。


「食べたいだけじゃないよな?」


 神に戻るということは、また食べられなくなるということだ。食い意地の化身であるルミアにとって、耐え難い苦痛になる可能性がある。


「ちちち違いますよぉ~」


 ルミアの目が泳いでいる。実際に教会が大変ということもあるが、大半はこの理由だな。


「違うならいいじゃないか。元に戻るだけだぞ。土地の管理をしないといけないんだろ?」


「はい……でもでも! そんなに必要無いんですよ。危ない時期は終わりましたし! ほとんど見ているだけなのです」


 ゴネるなあ……。こんなにゴネるとは思わなかったぞ。


「教会が混乱するだろ。おとなしく神に戻って、世界中の教会をおさめてくれ」


「それが嫌なんです! 1人じゃ無理ですって! 絶対!」


 かなり難しいだろう。相当苦労すると思う。他人事だけど。でも、神として行動できる奴はルミアしか居ないんだ。頑張ってもらうしか無い。


「確かに大変だと思いますが、ルミアさんしか居ないんです……。私たちも協力しますから、どうかお願いします」


「そうだな。俺たちも多少なら協力するぞ。だから頼むよ」


 ルナたちと一緒に必死で説得した。その甲斐あって、どうにか頷かせることができた。



 演説の日が来た。アレンシアの王には、今朝のうちに連絡をしてある。『もっと早く言え』という内容の返信が来たのだが、事前に知らせたことを評価してほしい。


「よし。準備はいいな?」


 俺が台本を準備したので、ルミアはそれを読むだけだ。


「……本当に協力してくれるのですか? 嘘や冗談じゃないですよね?」


「しつこいな。協力するって。

 早く演説を始めろ」


 ルミアはコクリと頷くと、拡声器を起動した。


『全世界の皆様……聞こえますか?

 私はルミアです。しばらく悪い神によって封印されていました。世界中の教会は悪い神によって教えを歪められ、間違ったことをさせられていました。悪い神たちは、私利私欲のために使徒召喚を利用し、教会をも利用していました。

 その悪い神が消滅し、今日この時より、私が神に戻ります』


 いい調子だな。この配信を複数回行うことで、ルミアが本物の神であることを納得させるのが目的だ。後は適当に締めの言葉につないで、今日の配信は終了する。


『そこで活躍したのが、最後の使徒、アレンシアのコーという者です。これから彼が世界を旅して、私の教えを広めてくれることでしょう』


「ちょちょちょちょっと待て! そんなことは台本に書いてないだろ!」


 拙い。ルミアが暴走している。俺がどれだけ叫んでも、俺の言葉が配信されることは無い。


『全世界の皆様も、コーが現れたら、どうか親切にしてあげてください』


「やめろって! マジで!」


 ルミアの暴走が止まらない。早く止めないと拙い。


『使徒召喚などに頼らずとも、私たちだけで解決できます。そのことを、最後の使徒コーが伝えてくれます。

 困ったことがあれば、私とコーを頼ってください』


「マジで困るから! 現時点で俺が困っているから! 本当に止めて!」


 ルミアが「頼れ」なんて言ったら、まるで『無報酬で動く奴』みたいなイメージが付いちゃうじゃないか。俺はタダ働きなんて絶対しないぞ。

 拡声器を奪い取るため、ルミアの腕を掴んだ。しかし、ルミアの暴走は止まらない。


『最後に……この世界に住む全ての人に、感謝を。この世界の未来に、祝福を……』


『勝手に締めるなって! 訂正! 俺は金を取るからな! 報酬を払わない奴は助けないから!』


『コー様……その言葉は世界に配信されましたけど……良いのですか?』


 ルミアのその言葉を最後に、拡声器の効果が切れた。


「なんてことをしてくれたんだよ……」


「協力してくださると言いましたよね?」


「言ったけど! 協力の範疇を越えているだろ! 俺が主役みたいになっているじゃないか」


「本当に大変なんですから。お願いです! 手伝ってください!」


 ルミアはそう言ってガバっと頭を下げた。絶対に狙っていたよな、この暴挙……。計画的な犯行だろう。


「まぁいいんじゃない? 冒険者としては、いい宣伝になったと思うわよ?」


 クレアの冷静な言葉に、どうにか納得した。さっきの言葉は、この世界の全ての人に届いたはずだ。宣伝としてはこの上ない効果を発揮するだろう。

 ただなあ……『金次第で何でもやる奴』みたいなイメージが付かないかが心配だぞ。まあ、『悪名は無名に勝る』という言葉もあるか。


「そうだな……。もう仕事に困ることは無いな。地球に帰るのは後回しだ。

 みんなも、しばらく俺に付き合ってくれ」


「当然じゃない」


「もちろんだ」


「楽しそうだよねー。どんな依頼がくるかなぁ」


「私たちはどこに行こうとも、コーさんと一緒に居ることを選びますよ」




 結局、俺はこの世界に居座ることを選択した。

 まあ、この世界と地球を往復する手段は確保してある。気が向いたら帰省しよう。旅先で定住することはよくあることだ。たまたまそれが異世界だっただけ。大した問題じゃない。


 俺の夢だった『世界旅行』は、夢のような『異世界旅行』になった。初めての旅が異世界になるとは思いもしなかった。


 この世界に来てから、これまでに俺が行った場所は意外と少ない。これから長い時間を掛けて歩き回ろう。きっと楽しい旅になると思う。それに飽きたら、地球を観光してもいいかな。夢が広がる。

『初めての旅は異世界で』

 今回で本編は完結となります。

 長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。


 皆様の応援で、どうにか完結に辿り着くことが出来ました。応援してくださった皆様には、本当に感謝しか御座いません。

 この物語は、今後も不定期で連載を続けていきます。他の人の視点による閑話や後日談を予定しております。


 どうかこれからも変わらぬ応援をよろしく願いします。


PS.

 新作は年明けに公開する予定です。

 活動報告やtwitterなどでも告知をしますので、そちらもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結済みにしておいた方がいいのでは?と感じました 不定期に更新するにしても完結済みにしているのと 連載中との印象が結構違います
[一言] この作品は気軽に読めるのでとても読んでいて楽しいです。完結してしまって残念だけどまだまだ続きが書かれるとわかりうれしかったです!とても面白いのでこれからも応援しています!!コロナに負けない…
[一言] 最終章読み終わりました。 ボス戦があっさりすぎて物足りなさがありました。
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