アポなし
使徒の2人とルミア、アーヴィンの4人をエルミンスールに送り届けた。今日はもう休みたい気持ちでいっぱいだが、まだ休むには早い気がする。
かなりハードな戦いを終えたばかりなのだが、時間にも体力にも余裕が有り余っている。どうも時間を無駄にしている気がしてしまうのだ。
これは昔からの習慣だな。日本でのキャンプ中、日が高いうちは多少無理をしても活動するようにしていた。薪拾いや食材調達は日が高いうちにしかできず、これを怠けると後で確実に困る。その感覚が、今になっても抜けない。
「じゃあ、俺は王に会ってくるよ」
依頼が完了した報告と、神を討伐したことも話すつもりだ。これから先、教会が物凄い勢いで混乱するはずだ。帝国とミルジアでも混乱が起きる。せめてアレンシアの王くらいは事情を知っておいた方がいいだろう。
「あ、ではお供しますね」
ルナはついてくる気だな。もうそれが当然と言わんばかりだ。リーズとクレアとリリィさんも、それに同調した。まあ、いつものパーティメンバーだ。
ルミアに留守を任せ、王城にある王の休憩室に転移した。
相変わらず真っ暗な部屋だ。手慣れた手付きでランプを起動し、王がここに来る時を待つ。
部屋が明るくなり、部屋の様子が変わっていることに気が付いた。ソファが増えている。テーブルを挟んだ片側は以前と同じ6人掛けだが、もう片側はやたら豪華な1人用のソファが撤去され、代わりに普通の6人掛けソファが置かれている。
何か問題があったのかな……。まあいいか。片側の6人掛けソファにドカッと座ると、ルナとクレアが俺の両脇に。クレアの向こう側にリリィさんが座った。リーズは、テーブルを挟んだ向こう側のソファに、ゴロンと寝転んだ。
「リーズ……王の席が無くなったぞ?」
「王が来たら退くよー」
リーズは眠そうな顔で答えた。これは寝るな。王を待つ間に熟睡してしまうだろう。眠いならついてこなくてもいいのに。
王のために、部屋の隅に置いてある木の丸椅子をテーブルの近くに置いた。
しばらく雑談して待っていると、気を抜いた顔の王が現れた。
リーズは案の定熟睡している。起こすのは可哀想なので、王には丸椅子を使ってもらおう。
「やあ。待たせてもらっていたよ。そこに椅子を準備したから、適当に掛けてくれ」
「……コーよ。何かおかしいとは思わぬか?」
「ん? 何かおかしいことでもあったのか?」
うーん、見覚えのあるやり取りだな。デジャヴか?
「まず、何故勝手に入るのだ……。其方には転写機を渡しておるのだから、事前に連絡をせい。
それと……言いにくいのだが……何故余が毎回丸椅子なのだ? そこで寝ておるのは其方の仲間であろう。せめて起こせ」
事前の連絡は、面倒なので取っていない。社会人なら怒られそうだが、あいにく俺は高校生なんだ。アポなし訪問でも許してほしい。
リーズに関しては、想定の範囲内だ。起こす気は無い。
「気持ちよく寝ている女性を起こすのって、紳士としてどうなんだろう」
「……いや、ここは余の部屋である。男の部屋で女を寝かせるというのは、紳士としてどうなのだ?」
おお、キレイに言い返された。ぐうの音も出ないな。
「紳士の在り方を議論しに来たんじゃない。依頼完了の報告だ。術式は無事回収したが、危険だと判断して俺が焼却処分した」
そう言いながら、術式の燃えカスをテーブルの上に置いた。
勝手に燃え尽きただけなんだけどね。でも、危険物であることは間違いない。存在すること自体がリスクになる。
「む……何故勝手に事を進めるのだ。せめて事前に報告をせぬか。
勝手に焼却されたのも問題だが……これは本物なのか?」
王は不満げに苦言を呈した。方法を任せたのは王なのに。
しかし、確かに燃えカスだけだと判断が難しい。
「本物で間違い無い。証明しろって言われると難しいけどな。それは俺を信用してもらうしか無い」
「……まぁ良い。其方を信用する。で、教会の様子はどうだ? 教会の半分が消失したという報告を受けておるが、何をしたのだ?」
あれ、知っていたのか。情報が早いな。
「勝手に俺のせいにするなよ」
証拠は何も残していないから、自白しない限り大丈夫。ただ、方法を任たのは王なので、責任は王にある。
この件に王が関与している証拠は俺が持っている。この件の契約書を、かなり細かく書いたからな。万が一俺が捕まった場合、責任の追求は王にも及ぶ。
「うむ。その調子で頼む。原因不明の爆発事故だ」
王はあっさりと隠滅を決めた。事件は迷宮入り確定だ。
「教会について、補足だ。神がすり替わっていることは以前話したよな? その神だが、さっき消滅を確認した。近々、本物に戻そうと思っている」
俺が討伐したとは言わない。神が人間でも討伐可能という事実は公表しない方がいい。
「……うん?」
王が間の抜けた返事を返した。一瞬素に戻った気がする。気にせず報告を続けた。
「これは少し前の話だが、帝国の神が消滅したことも確認している。これからしばらく各国の教会が荒れるから、覚悟しておいてくれ」
「はぃ?
……其方がそう言うなら、事実なのだろうな……。心しておこう」
王は戸惑いながらも意外とすんなり受け入れた。話が早くて助かる。
「報告は以上だ。
リーズ! 帰るぞ!」
寝ていたリーズの肩を叩いて起こす。
「話の前に起こしても良かったではないか。結局丸椅子に座ったままであるし……」
眉間にシワを寄せて呟く王を無視して、王城の外に転移した。転移の先は、王都北地区の鉱石屋付近だ。魔道具の材料を買い足す。主に鉱石類だ。以前買った店で大量に購入した。
買い物を終え、いよいよやることが無くなったので、エルミンスールに帰る。日が暮れるまではもう少し時間があるので、エルフの村に寄り道しよう。
いつもの警備の女の子に、長老を呼んでもらう。
「あ……えっと……いらっしゃいませ。長老を呼んできます」
相変わらず挙動不審だが、言葉遣いが少し丁寧になったな。ようやく慣れてきたらしい。
長老はすぐに現れた。今日は転移ドッキリは実行されず、普通に目の前に転移してきた。前回やり返したからかな。
「よう。この前の話だが、どうだ? 話はまとまりそうか?」
前回ここに来た時、移住の話を持ちかけた。でも、今日は返事を貰いに来たわけではない。
「うむ。お主を信用しておらぬわけではないが、まずはこの目で見たい。一度案内してもらえぬか?」
「ああ、いいぞ」
元よりそのつもりだった。今日ここに寄り道したのは、長老をエルミンスールに連れていくためだ。
もし村人が移住するとなった時、長老に全て任せるつもりだ。長老が転移魔法で連れてきてくれることを期待している。
エルミンスールに転移した俺たちを迎えたのは、ルミアだ。
「お帰りなさいませ。そちらのご老人はどなたですか?」
上品にスカートの裾を持ち上げながら言う。普段は出迎えをするような殊勝な奴じゃないのだが、たぶん夕食の催促だな。残念ながら、夕食まではまだ時間がある。もう少し我慢してもらおう。
「エルフの村の長老だよ。村ごと移住するかもしれないから、よろしく頼む」
「そうですか……。それは良いですね。よろしくお願いします」
ルミアはそう言って優しく微笑むと、長老に頭を下げた。
その姿に、長老は口をパクパクさせて驚いている。
「な……カベル王女様ではないか……生きておられたのか?」
うん? 知っているのか? あ、カメラがあるか。写真くらいは残っていそうだな。
「そんなわけ無いだろ。ここが滅んでから何年経ったと思っているんだ」
「村に肖像画が残っておるのだが……別人か。それにしてもよく似ておるのう……」
長老は、怪訝な表情を浮かべてマジマジとルミアを見つめた。失礼な奴だな。
「そんなに見るなよ。ルミアが困っている」
「おお、そうじゃな。すまんかった。
……ここがエルミンスールか。ずいぶん暖かいのう」
エルミンスールは熱帯雨林に囲まれた、温暖な土地だ。たぶんここには冬が無い。
「この建物が俺の別荘だ。ここの掃除をしてくれるなら、この周辺は自由に使っていいぞ」
宮殿の中に招き入れながら言う。
ずっと住んでいる場所じゃないので、掃除と荷物番をしてくれる人が欲しかったんだ。ルミアにも掃除を言い渡しているが、1人で掃除しきれる広さではない。
「うむ……本当に良いのか? 周辺と言っても、かなり広いじゃろ」
「畑を耕すなら、広くないと厳しいだろ。
俺たちも畑仕事をするかもしれないから、その時は指導してくれ」
エルフの村の主な産業は、農業だ。本物の農家が指導してくれると助かる。
「うむ、承知した。任せてほしい」
食堂に使っている部屋に向かいながら、軽く案内をする。
「この先は図書室や風呂、2階に上がる階段などがある。2階はルミアの部屋だ。
図書室と、その向かいの部屋には入らないでくれ。図書室なら許可を出せるが、その向かいの部屋は絶対に入るなよ。あんたらのためだ」
「む……何があるのじゃ?」
「危険物だよ。関わると碌なことが無い」
何かの間違いが起きて、ディエゴが出てくるようなことがあっては大変だ。それに、出会ってしまった奴も心配だ。間違いなく不愉快な目に遭う。
「うむ。気を付けよう。
して、移住するならいつが良いかのう」
実際の環境を見て、かなり乗り気になっているようだ。
「俺が居る時なら、いつでもいいぞ」
「……今からでも?」
「いいぞ」
許可は出したものの、いいのか? ずいぶんと急な話なのだが……。今から移動を開始しても、困るのは村人なんじゃないかな。
「恩に着る。では、儂は一度村に帰るぞい。後ほど改めて挨拶をさせてもらう」
長老は、そう言って消えた。転移魔法で村人を輸送する気だな。
エルフの大移動は長老に任せ、夕方までに作れるだけの小型キャパシタを作った。これを急いだのは、エルフに手伝ってもらうためだ。とにかく大量の魔力が要るので、人海戦術で頑張る。
キャパシタの充填には一撃で倒れるくらいの魔力を吸われるので、『ご自由にどうぞ』と書かれた箱の中に旧型ポーションを詰め込んでおいた。疲れた奴は勝手に飲むだろう。
ルナたちが夕食の準備をしている間に、宮殿の外を確認する。宮殿の外では、長老が転移を繰り返してせっせと村人を運んでいた。
「こんな急に大丈夫なのか?」
「うむ。荷物は転移魔法で取りに行けるからのう。どうせ今の季節は遊んでおるだけじゃ。人手だけを先に運んだ方が早い」
今は農業が休みの時期なので、ほとんどの村人が遊んでいるそうだ。暇潰しに道具の修理や小物の作成をやっているらしい。
今日移動してきた村人は、寝る場所が無い。そこで、俺たちが以前使っていたテントを貸し出す。それだけでは全然足りないが、布をタープにして対処した。
エルフが村作りをしている間に、俺たちもルミアを神に戻す準備を始める。教会関係者に『神』として認識してもらうためには、声を聞かせるのが一番早い。ミルズはその手段であっさりと入れ替わっていたからな。
但し、ルミアが声を届けられる相手は限られている。数人の敬虔な信者のみだ。これでは、あまりにも効率が悪い。そこで、魔道具を作って解決を図ることにした。
スマホの応用で、全ての人に強制的に言葉を伝える魔道具を作る。受信機が要らないラジオのような物だ。ルミアには、これを使って演説をしてもらう。アレンシア以外の地域では相当混乱起きるだろうが、後は神として頑張ってもらおう。






