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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
最終章 使徒召喚
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顕現

 ボナンザさんは気を失ったまま動かない。辺りを警戒しながら、状況を確認する。


 気絶した人間が少し離れた場所に転がっているので、気配察知が上手く機能しない。かなり練習したのだが、やはり人混みの中では精度が格段に落ちる。おそらく、まともに機能しているのはリーズだけだろう。


 以前ハインツと戦った時、身体強化の特殊効果が全部使えるようになった。その時の効果を使えばリーズ並の気配察知が使えるのだが、物凄く燃費が悪いんだ。ただの警戒では使えない。


 警戒を続ける中、一言謝っておく。


「みんな、悪かったな。助かったよ。特にリーズ。よく割り込んでくれた」


 今日はかなりヤバかった。体が勝手に動くというのは、恐怖でしか無い。


「あの時、こんさんの気配じゃなかったよ……? 何があったの?」


 リーズが心配そうに言った。他のもんなも心配そうな表情を浮かべてそわそわしているが、俺に気を使って何も言えないでいるようだ。


「俺にも分からない。誰かに体を操られているような感覚だった。自分が何をしていたかは分かるが、体が勝手に動いて止められなかった」


「操られて……そう言われれば納得できます。動きもぎこちなかったですし、目も虚ろでした。

 今日はもう動かない方が良いかもしれませんね。転移魔法も控えましょう」


 気絶したボナンザさんを抱えて転移しても良かったのだが、ルナの提案に乗ることにした。ちょっとした魔法が引き(がね)になる可能性もあるんだ。魔法は極力使わない方がいい。



 少し話をしているうちに、ボナンザさんから「うう……」とうめき声が聞こえた。目を覚ますようだ。


「ふぁぁぁぁあ……つっかれたぁ。大変だったわ、本当に。ふぅ~」


 ボナンザさんは不器用に上体を起こすと、間が抜けた声を出した。肩に手を当ててコキコキと頭を揺らす。あまりボナンザさんっぽくない言動だな。


 その姿に、リーズが全身を強張らせて武器を構えた。訓練用の武器ではない。戦闘用のグレイヴを持っている。


「誰っ!」


「……どうした?」


「ボナンザさんじゃないよっ! あの時のこんさんと同じ気配!」


 リーズのその言葉に、俺たちも急いで武器を構える。


「うん……? ずいぶん勘のいい(けもの)が居るわねぇ。こんな一瞬で気付かれるなんて思わなかったわぁ」


 ボナンザさんはすっくと立ち上がり、不気味な笑みをこぼした。本当にボナンザさんじゃないらしい。だとしたら、誰だ?

 って、さっき俺の頭の中で喋っていた奴だよなあ……。


「お前は何者だ!」


「もう、本当に大変だったのよ。アンタたち、誰も殺さないし誰も死なないし。アンタが死ねば早かったのにね。

 近くに居た危ない魔物をガンガンぶつけたのに、全く死なないじゃない。不死のスライムまで殺しちゃうしさぁ」


 独り言のように呟いた。俺の質問には答えていない。


「……どういうことだ?」


「焦ったわぁ。召喚の術式に巻き込まれるなんて、思いもしないじゃない。術式を逆流させるなんてさぁ。アンタに取り込まれた時なんて、死を覚悟したくらいよぅ」


 思い出した! 頭の中で響いていた声。召喚された時に聞いた叫び声と同じだ。まさか……。


「あなた……ミルズね?」


 俺よりも先に、ルミアが先に指摘した。間違い無い。ボナンザさんに取り憑いたのはミルズだ。


「アンタこそ、ルミアでしょ? どうして生きてるのよ。確実に消滅させたはずだったのにぃ!

 目の前で動いてるっていうのに、何も手出しできないの! 歯痒いったら無かったわ……」


 ミルズは、ボナンザさんの見た目なのに幼い子どもがダダを捏ねるような仕草をした。見た目と行動が合っていないので、どうにも気持ちが悪い。


「……私は魔力を奪われたのではありません。()()()()()()()のです。あの時は勝てそうにありませんでしたからね」


 ルミアはそう言うが、ちょっと負け惜しみにしか聞こえないな……。魔力を奪いきれば勝ち、ということなのか? 神同士の戦い方はよく分からないな。


 それよりも、今はもっと重要なことを聞きたい。


「ちょっと待て。お前はずっと俺の中に居た……?」


「そうよ。ずっと見てたわ。アンタが誰かを殺せば、すぐに依代にできたのよ。でも全然殺さないんだから……。何なの? 馬鹿なの?」


 ミルズは、そう言って眉をひそめた。ミルズは全く仕事をしていなかったが、怠けていたわけではなかったようだ。どうりで、全然出てこないわけだ。ずっと俺の中に居たんだ。

 ミルズにバレないように……とか、そういう配慮をしていたこともあるが、全部無駄だったんだな。ついでに、ミルズを誘き出す作戦も全部無駄だった。


 俺が誰かを殺せば、すぐにミルズを発見できたということか……。俺の『できるだけ人を殺さないように』という配慮も遠回りだったんだな。


「自分よりも弱い奴を殺しても、気分が悪くなるだけだろ。誰も得しない」


 狩りは自分よりも弱い奴を狙うが、対人戦は狩りじゃない。たとえ魔物であってもトドメを刺す時は少し気分が悪いんだ。たとえ自分よりも強かったとしても、殺したいとは思えない。絶対に気分が悪くなる。


「自分よりも弱い……ねぇ……。

 おかしいと思わなかった? この世界に来たばかりのアンタがさ、使徒でも無いくせにすぐに戦えてさぁ。アンタが訓練してた部隊、この国の精鋭部隊よ? ただのガキが訓練についていけるわけ無いじゃん。

 全部、アタシの力を奪ったからよ。まぁ、魔力の半分くらいは他に流れたけどね」


 俺はこの世界に来てすぐに魔法が使えるようになった。同時に、戦闘訓練にも参加していた。その時から身体強化のお世話になっている。以前、俺の魔力の量は異常だとも言われた。俺の魔法は神の魔法だと言われたこともあったな。


 どれも悪いことじゃないと思って受け入れていたが、ミルズの力を使っていたに過ぎないのか……。


 そういえば、ミルズはさっき気になることを言った。


「危ない魔物というのは何のことだ?」


「近くに居た一番強いのを引き寄せてあげたのよ。アンタが死ねば、そのまま依代にするはずだったの。それなのに……全っ然死なないじゃない! あぁ腹立つ!」


 俺たちがレアな魔物ばかりを引き当てたのは、偶然ではなかったようだ。おかげでとても儲かった。俺の運に感謝したが、感謝するべきはミルズ(神様)だったか。やっぱり自分の運は信用できないな。


「なるほど。おかげで金に困ることは全く無かった。これだけは礼を言っておく。ありがとう」


「……なにそれ。嫌味?」


 ミルズは不機嫌そうに眉間にシワを寄せて、口をへの字に曲げた。素直に感謝したのに、不満があるらしい。


 これまでの情報をまとめると、使徒召喚の時にミルズも同時に巻き込まれたらしい。使徒に付与する要領で、ミルズの魔力が存在ごと俺に付与された。原因は、どう考えても主任だ。偽造した術式が暴走した結果だろう。


 ルミアに流れ込んだ魔力もミルズの魔力だ。いや、本来の持ち主に帰ったと言うべきか。ディエゴ(変態)が復活したのは、たぶんその時の余波だな。たまたま近くに居たからだ。


 おそらく、俺の体がミルズに乗っ取られたのは、強引に使徒召喚の術式を起動したのが原因だ。あの時にかなり魔力を吸われた。あの時に俺が死んでいたら、そのまま依代にされたはずだ。


 ……あれ? 依代って、確か……。気になったのでルミアに聞く。


「なあ、依代になるのって、人間の死体なんだよな……?」


「そうです。原則、同性の人間の死体ですね……。異性でも動けますが、調子は良くないです」


「そうね。男の体だと上手く動けないのよ。だから、この人に死んでもらったわ。アトラスを一瞬で殺す超強力な魔法毒だから、即死だったんじゃない?」


 ミルズが平然とした様子で言う。

 最悪だ……。ボナンザさんは死んでしまったらしい。こうして動いているので全く実感が湧かないが……ミルズに依代にされているということは、そういうことだ。


 ボナンザさんが死んでしまったのは俺のせいだ。俺が余計なことに首を突っ込んだからだ。最近の俺の行動は、少し軽率だった。


 かなり動揺するが、ここで取り乱したら拙い。とにかく、冷静に。冷静に。



 気持ちを落ち着かせてみんなの顔色を窺うと、全員が血の気が引いた顔をしている。やはり、かなり混乱しているな。


「全員離脱! 周囲の警戒を続けてくれ」


 と言うと、ルミアは興奮して一歩前に出た。


「いえ! 私がっ!」


「約束! 俺が戦う約束だっただろ? 誰かルミアを連れていってくれ!」


 俺がそう指示を出すと、ミルズがルミアの前にズイッと割り込んだ。


「逃さないわよ。今度こそ息の根を止めてあげるっ」


 ミルズの狙いはルミアに絞られているようだ。それは困る。全力で蹴って地面に転がす。


「リリィ、頼む! ルミアをここから離してくれ!」


 ミルズの動きを止めたスキを狙って、離脱の指示を出す。


「了解!」


 リリィさんは大声で返事をすると、抵抗するルミアを羽交い締めにして連れていった。


「コーさんも早く行きましょう!」


 ルナの呼ぶ声が聞こえる。撤退のつもりだったらしい。でも、俺は撤退する気は無い。今ミルズを逃がすと、次いつ会えるか分からない。それに、ボナンザさんをあのままにするわけにはいかない。


「先に行け! 早く!」


 俺が怒鳴ると、ルナとクレアとリーズは、俺の方を振り向きながらこの場を離れた。

 みんなが十分な距離を取ったことを確認し、雪隠結界を起動する。気絶した神官たちは結界の範囲内には居ない。退路の確保のために除けておいたからだ。もし残っていたら蹴り飛ばして外に出そうと思っていたが、手間が省けたな。


 これで準備は整った。


 ミルズがこの姿のまま自由に動き回るのは、ボナンザさんも不本意なはずだ。俺が後始末をするべきだろう。



 ミルズを睨みつけると、すっ立ち上がりながら苛ついた様子で言った。


「……やってくれるじゃない。この結界って、もしかしてアタシに勝てると思ってるの?」


「まあ、そのつもりだが。俺がハインツを討伐したことは覚えているよな?」


 強がってみたものの、少し心配だ。経験上、神の強さは依代の強さに依存する。化物ボナンザさんを依代にしたんだ。かなりヤバイ。


 改めてマチェットを構える。

 急な戦闘だったため、またファルカタを借りられなかった。クレアは既に結界の外にいる。スマホは通じないので、もう受け取れない。


「アンタがハインツを消滅させたのは、さすがに驚いたわ。力だけならアタシより上だけだからさぁ。

 でも、あんな筋肉馬鹿と一緒にしないでよ。殴ることしか能のない奴とは違うわ」


 ちょっと耳が痛いかなあ。ハインツの戦い方は、俺とほぼ同じだ。身体強化を使って殴るか蹴るか、武器で叩く。魔法を使ったとしても、大岩を投げるだけ。若干、俺とキャラが被っていた。


 ミルズ、遠まわしに俺をディスっている?


 まあ、俺は火が出せるし、他にも手札がある。ハインツよりはマシだと思いたい。


 ミルズの口ぶりから、魔法特化型であることが窺える。できれば装備を変えたい。タイミングを見つけて金ボアコートに着替える。でも、このコートの存在もバレているんだよなあ。


 装備や魔道具に頼るような戦い方は一切通用しない。それに、俺の攻撃手段は全て知られている。これまでで一番厄介な敵だな……。だが、ここで負けるわけにはいかない。やるしか無い。

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