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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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はじめての獲物は蜂の巣です

「おはよう。具合はどう?」


 朝になり目を覚ますと、ルナはすでに目を覚まして着替えを終えていた。

 昨日は無理をさせてしまったからな。今日は気を付けよう。


「大丈夫ですよ。今日はなんだかいつもより元気なくらいです」


 胸の前で拳を構えるルナ。元気な笑顔を浮かべている。


「そうか。それは良かった」


 ルナは、元々瞑想に近いことをやっていた。魔道具作成中は瞑想に近い状態にあるのだ。

 昨日は疲れで余分な力が抜け、その上俺の魔力を通すことであっさりと魔力を感じることができるようになった。


「では、冒険者ギルドで依頼を受けましょうか。」


「いや、今日は止めておこう。一応顔を出すが、依頼を受けるのは後だ。

 屋根の修理みたいな依頼しか無いんじゃ、受けようが無いからな」


「それもそうですね」


「だから、今日は防壁の外に出て訓練したいと思う。

 身体強化は動きながらできないと意味がないからな。俺は魔法の訓練もしたい」


 俺には実戦で使える魔法がない。試す場所がなくて実験できていない魔法が数多くある。


「わかりました。今日もよろしくおねがいします」




 屋台で軽く朝食を済ませ、パンを買って冒険者ギルドへ。


 追加の依頼が無いかの確認だが、気になる依頼票を見つけた。



==================================


緊急目撃情報

オーガ(青)

危険度:B

推定買取金額:金貨70枚


備考:

 街道脇の森で確認。

 特殊個体。


==================================



 討伐依頼ではなく、目撃情報。他にも目撃情報があるが、討伐依頼のような依頼は無かった。


「おはようございます」


 今日も受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。


「依頼票を確認したんだが、討伐の依頼は無いんだな」


「そうですね。冒険者ギルドでは討伐の依頼は公開していません。

 討伐にはギルドからの指名依頼が入ります」


「ん? 何故だ?」


「普通に目撃されるような魔物なら、早い段階で誰かが勝手に討伐します。

 依頼するにもお金がかかりますし、わざわざ依頼にすると討伐が遅れて被害が増える危険性がありますので。

 特別な事情がある時のみギルドから指名依頼が出されます」


「なるほどね。じゃあ、もし魔物を狩ったらどうすればいいんだ?」


「討伐証明部位を持ってきていただく場合と、素材を持ってきていただく場合があります」


 毛皮や牙などの、売れる部位を持つ魔物ならそのまま持ってきて買い取り。

 ゴブリンなどの何にも使えない魔物は討伐証明のみ。


 討伐証明のみの魔物は、国から報酬が支払われるそうだ。


 素材はおろか、討伐証明すら残らないゴーストやスケルトンは教会の領分。多少の寄付で討伐してくれる。


「じゃあ、ゴースト系は冒険者が手を出したら拙いのか?」


「そういうわけではありません。

 報酬は出ませんが、上手く倒せば魔石や素材が手に入ります。

 不人気な魔物ですので、専門に狩っている人もいらっしゃいます」


 不人気だからこその専門家か。

 獲物の取り合いにならないから都合が良いんだろうな。


「なるほど。ありがとう」


「目撃情報には情報料をお支払いします。

 危険なものに出会ったら、無理せず逃げてギルドに報告してくださいね」


 しかし、つくづく冒険者に優しいシステムだな。ギルドに待機するだけで報酬、逃げて報告するだけで報酬。


「ギルドの収益は大丈夫なのか?」


「フフフ。不思議なことをおっしゃいますね。

 大丈夫ですよ。冒険者が討伐した魔物はこのギルドでしか買い取りません。

 主な収益は魔物の素材ですから、魔物が居て冒険者が居るのなら、何も心配はありません。

 そして、情報料は買取金額の一部からお支払いとなりますので、ギルドに損はありません」


 聞くと、魔物の素材と言ってもそのまま使えるわけではなく、それなりの処理をして初めて素材になる。

 商業ギルドや商人は、加工された状態でなければ買い取らない。

 職人なら買い取るが、手が空いている時しか買い取らない。


 安定して素材を売るには、冒険者ギルドに頼るしか無いということだ。




 ちなみに、Fランクの依頼は増えていなかった。

 待つのも仕事なのだろう。




 俺たちはギルドを後にして、王都の外に出た。

 防壁の外は、だだっ広い草原が広がっている。

 東側にうっすらと山が見える。この門からの街道は、真っ直ぐ前に延びていた。

 俺たちは街道から離れるように10分ほど歩き、場所を確保した。


「このへんでいいかな」


「ここで練習を?」


「そうだね。ルナは瞑想から。上手くいったらそのまま歩いてみて」


 しばらくルナを眺める。

 何もせずに、ただじっと。


「……何ですか?」


「いやごめん。何か問題ないか確認していただけ」


 ジト目を向けられてしまった。これはこれで……。いやいや、俺も練習しよう。


「危ないからこっちには近づかないでね」




 訓練の内容は、すぐに使える遠距離攻撃。以前試した、鉄の弾を撃ち出す魔法を改良しようと思う。


 20m程離れた場所で土を固めて的にする。




 改良前の弾は土の塊にはじかれて落ちた。速度が足りない。回転も。


 空気で撃ち出す? 反動で自分が吹っ飛ぶな。運動エネルギーだけを与えればいいのかな。


 目指せ音速。と思って撃ち出した弾は、音速には至らなかった。土の壁に突き刺さる程度の威力。


 悔しかったので、次は一気に秒速1000mを目指す。


 『パァン』と音を立てて撃ち出された弾丸は、一瞬で土の壁を粉砕した。まずは成功だ。


「今、何をしたんですか?」


 音につられたルナが近くに来た。


「ストーンバレットの魔法だよ。次は連射かな」


 俺の周りに20発の弾丸を浮かべた。妖精さんが浮かんでいるみたいだろ? これ、トラックのエンジン貫くんだぜ……。


「ストーンバレットはこんな魔法じゃありません!」


 そういえばオリジナルは石だったな。石を出すくらいなら拾えよ、と言いたい。


「この魔法は無駄の塊だからね。使いやすいように改良したらこうなった」


 20発の弾丸を壁の残骸に向けて撃ち切った。その間約30秒。一分間で40発か。まずまずだがもっとイケるな。


 目指せ100発。俺の周りにふわふわと漂う鉄の塊(100個)。今なら軍用ヘリでも落とせそうだ。




 ルナが急いでその場を離れた。ドン引きした顔をしているが……。気のせいだ。


 分速100連射には失敗した。80発くらいが限界かな。魔力消費が激しいので一旦休憩。


 命中精度は……。聞くな。数撃てばいずれ当たる。




 休憩ついでに気配察知。ルナの行動が手に取るようにわかる。


 たった二日でずいぶん上手くなったな。走り込みなんかもやり始めたほうがいいか。


 動いて慣らすのが一番早いと思う。




 ルナを観察していると、薄っすらと悪寒が走る。魔物の反応だ。索敵範囲を広げて確認する。


 マズイな。ルナの方に向かっていっている。移動速度が結構速い。


 全力身体強化で一気にルナに駆け寄り、前に出て庇う。


「きゃっ。どうしたんですか?」


「魔物だ。こっちに向かってきている」


『GAAAAAAAA!』


 目視できる範囲に来た。何かをわめきながら突進してきている。


 もう来たのかよ! 早えよ! もっとゆっくりしろよ!


 近づくクソでかい男。高さは5mくらい、真っ青なごつい体をしていて、頭には角がある。

 実は人間でした、なんてことは無いよな?


「ルナ、アレ何だ?」


「オーガ……ですね。大きいです……」


 ルナは後ろで震えている。逃げるか?この緊張状態で上手く逃げられる保証はないな。


 覚悟を決めた。


 せっかくだからストーンバレットの的になってもらおう。

 倒せなかったとしても足止めにはなるはず。


 逃げる魔力を残して、20発。


 十分に引きつけて…。近づくオーガ。残り50m…30m…10m、今だ!


「行っけぇぇぇぇ!!」


 20発を一気に連射する。15秒ほどですべての弾を打ち尽くした。


 その弾丸は、腹や胸を貫通し、腕を引き千切り、肩を削り取り、頭に風穴を開けていた。




 体中に穴を開けて力なく倒れる青いオーガ。辛うじて原型を残しているが、損傷が激しい。


 ヤバイな。威力もヤバイが、この損傷具合。絶対安く買い叩かれるぞ。


 ヘッドショット一発で倒せていたんじゃないかな。俺も焦っていたようだ。




「今の、何ですか……?」


 ルナが震えながら聞いてきた。さっきよりも強く震えているのは何故?


「見てたでしょ?ストーンバレットだよ」


「絶対違います!」


 おかしいな。じゃあ名前を変えよう。アンチマテリアルライフルでいいかな。

 軍用車でも貫通できそうな威力だし。




 俺たちは、オーガの死体をマジックバッグに押し込み、一度王都に戻ることにした。

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