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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
最終章 使徒召喚
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燃やす燃やす

 コーリーがやりたいことはわかったが、さすがに協力できる内容ではなかった。

 それぞれの思惑をざっとまとめる。

 俺は教会を無力化したい。そのための手段として、ミルズの討伐を目標にしている。死人は最小限に抑えるつもりだ。


 ルミアは、使徒召喚の中止とミルズの無力化を狙っている。1人の犠牲も出したくない様子だ。ただ気になるのは、ミルズと刺し違えるつもりかもしれないということ。死なれたら困るので、ルミアの動向には気を配っている。


 ボナンザさんは教会を物理的に潰したい。理由は聞いていないが、積年の恨みがあるようだ。ある程度の死人が出ることは仕方がないと思っている。


 コーリーは、教会を消滅させるつもりだ。できるだけ多くの神官を巻き込むつもりで行動していた。


 うーん……このコーリーという人、かなり危ないな。思考がテロリストだ。あまり仲良くしたくない。


「術式は俺が破棄するから、あんたは諦めろ。あんたの目論見とは違うだろうが、悪いようにはしないぞ」


「でも……教会が残ってる限り、またやると思う。それに、この前の反乱だって教会のせいでしょ?

 教会が無くなれば平和になるよ」


 平和と言いながら、やろうとしている事は平和と真逆なんだよ。その事に気付いていないのか、気付いて無視しているのかは分からない。


「反乱は教会のせいだったけど、教会がなくなったからと言って平和になるとは限らない。人が居れば諍いが起きるんだよ。原因を取り除いても、また新しい原因が発生するだけだ」


「やってみなきゃわかんないじゃん!」


 コーリーは感情的に言い返す。

 できるだけ優しく言ったつもりなのだが、俺の説得に応じる様子は見られないな。


「あんたがやろうとしていることは、『ちょっと試してみる』という規模じゃないだろ。危険すぎるんだよ。ちょっと頭を冷やせ」


 俺はそう言って、威圧の魔法で気絶させた。話が終わりそうにないので、強制終了だ。


「あの……コーリーさんはどうしましょうか……」


 ルナが気絶するコーリーを眺めながら言う。


「兵士に突き出すようなことをしたわけじゃないからなあ。このままでいいんじゃないか?」


「教会で問題にならないでしょうか……」


「たぶんなるだろうが、俺の知ったことではないぞ。自力でなんとかするだろう」


「うむ。コー君の言う通りだ。コーリーの責任だよ。

 コーリーがやろうとしたことは、頭ごなしに間違っているとは言えない。だが、共感できるものでは無かった。コーリーとはここでお別れだ」


 リリィさんは少し寂しそうに言う。元々仲の良い同僚だったのだろうが、ここまで考え方が違えば仲間にはなれない。ボナンザさんがギリギリ許容範囲だ。



 コーリーを放置して部屋から出ると、監視を任せた2人が退屈そうに待っていた。


「悪いな。待たせた」


「ほんとに待ったわよ。退屈すぎて1階をぶっ壊したわ。階段が無くなったから、気を付けてね」


「何やってるんだよ……。ルミアも、見てないで止めろよ」


 俺たちを待つ間、研究施設を徹底的に破壊したらしい。防音の魔道具のせいで、ボナンザさんの暴挙に気付くことができなかった。階段が無くなるって、どんな暴れ方をしたんだ……。


「ふふふ。ルミアちゃんもノリノリで壊してたわよ?」


 マジかよ……。ルミアにとっては自分の家みたいな物なのに。


「なんで協力しちゃうんだよ」


「申し訳ございません。使徒召喚の研究施設だったもので、つい……」


 ああ、これは責められないか。自分の家だ。壊すのも自由と言っていいだろう。……いいのかな?


「まあいいや。今日の用事は終わったから、適当に証拠を隠滅して帰ろう」


 ボナンザさんに監視を任せたのが間違いだった。念のための監視だから居なくても問題無いが、せめて静かにしていてほしかった。



 2階の壁に穴を開け、教会の中庭に飛び出した。俺たちが次々にストッと着地すると、最後にボナンザさんがズンと着地して地面に穴を開けた。

 辺りには、気絶した教会関係者が転がっている。追加の警備や審問官は現れていないようだ。


「俺は証拠を隠滅してから帰るよ。みんなは先に出ていてくれ」


「隠せるような穴ではないと思いますが……」


「穴だから良くないんだよ。完全に壊してしまえば問題無い」


「問題あるでしょ……。悪化させてどうするのよ」


 俺の提案に、クレアが困った顔で指摘する。しかし、俺は意見を曲げなかった。『壁に開いた穴』はどう見ても人為的なものだが、『崩壊した建物』は自然災害とか爆発事故みたいになるから、いい目眩ましになると思うんだよなあ。

 しかも、今ならちょうど誰も居ない。壊すなら今だ。


「あの……できれば、あまり壊してほしくありません。半壊くらいで留めていただけませんか?」


 ルミアにも止められた。まあ、最初から全壊を狙っていたわけではない。侵入した北側だけ壊せば十分だ。


「そんなことは言わず、盛大に壊しなさいよ。あたしも手伝うわよ?」


 最後に、ボナンザさんが余計な一言を付け足した。

 全く、誰のせいでこんな手間が必要になったと思っているんだ……。「手伝えコノヤロウ」という感情はあるが、むしろ邪魔なので丁重に断った。



「じゃあ行ってくる。全員が安全な場所に避難したら教えてくれ」


 スマホを通話状態にして、証拠隠滅の準備を始める。破壊する範囲は、学校の校舎2つ分くらいだ。かなり広い。火柱を出して一気に燃やそう。周辺も多少熱いだろうが、今は冬だ。意外と喜ばれるかもしれない。


 軽く走り回って誰も居ない事を確認していると、避難が終わったという連絡が来た。屋根に上って火をつけると、周囲の空気を吸い込みながら、勢いよく燃えだした。火柱を3つセットし、中庭からそれを眺める。


 温度は5000℃くらい。あっという間に屋根が無くなり、炎が地面に到達した。土壁に囲まれた教会の内部では、勢いよく燃える火柱が立っている。

 内側に巻き込む風は建物の壁を壊し、炎の中に吸い寄せた。そう時間がかからないうちに、教会の建物は姿を消す。後にはドロドロに溶けた黒い地面だけが残った。


 鎮火を確認し、みんなが居る場所の近くに転移する。


「おまたせ。これで証拠は無くなったぞ」


「……やりすぎです。逆にバレませんか?」


「はっはっはっ。こんなことはコー君にしかできないからなあ」


「いやいや、俺がやったという証拠はどこにもない。顔は見られていないからな」


 実際はバレても問題無いのだが、教会の動きを止める意味もあるんだ。これだけ壊しておけば、当分の間はおとなしくなるだろう。俺たちは教会を離れ、ボナンザさんの店に帰る。



 コーリーとの接触と、術式の回収。予定していたことは終わらせた。


 ただ腑に落ちないのは、あれだけ派手に壊したのにミルズが出てこなかったことだ。


 教会の内部でこれだけ危険なことをしているのに、なぜ鳴りを潜めているんだろう。さすがに止めないと拙くないかなあ。


 ミルズの意図が理解できない。そもそも、今回の使徒召喚は神託が下ったわけではない。教会が勝手に動いているだけだ。

 そういえば、俺が異端審問に呼び出された時も、神託が下ったわけではないんだよな。あれはハインツの思惑で、教会が勝手に動いただけだ。ついでに、予定されていた神送りも神託ではない。これも教会が勝手に暴走した結果だ。


 ……ミルズ、仕事していないぞ? ハインツは終始ミルズを警戒していたから、アレンシアに居ることは間違いない。なんだか気持ちが悪いなあ……。本気でミルズを探した方がいいのかな。


 ボナンザさんと行動を共にした理由の1つに、派手に動けばミルズが出てくるのではないかという思惑があった。ボナンザさんの行動を強く止めなかったのは、そのためだ。リスクを無視してルミアを引き連れていったのも、ミルズが出てくる可能性を考えてのことだ。



 結局、どちらも空振りだった。ここまで出てこないと、「アレンシアに居ないのでは」という疑念が生じる。ミルジアに帰っている可能性もある。作戦を変える必要がありそうだな。



 考察をしながら走り、ボナンザさんの店に帰ってきた。店の中に入ると、ここに残していった3人が呑気にお茶をすすっている。


「おかえり。使徒召喚は止められた?」


 アーヴィンの気の抜けた声が響く。


「ああ、最低限の目的は達成したぞ。あとはこれをどうするかだが……」


 そう言って、術式を取り出す。


「へぇ、これが術式なんだ。どうするの?」


「存在することが問題だから、燃やすつもりだ。この場で燃やすか、王の目の前で燃やすか。どっちがいいと思う?」


「あの……国に提出しないと拙いんじゃないですか?」


 ルナの返答に、俺が王に出した条件を思い出す。

 1つ目は、俺のやり方で自由にやる。俺が教会に対して何をしようが、俺が犯罪者になることが無い。

 そして2つ目。国が術式を手にした時、依頼が完了する。術式が俺の手元にあるうちは、1つ目の条件が適用され続ける。


「拙いことは無いぞ。王は俺に任せるという条件を受け入れたんだ。灰になった術式を渡しても依頼達成になるよ」


 1つ目の条件の中には『術式の取扱い』も含まれるので、燃やしてしまっても構わない。


「……無理やりすぎませんかね……」


 ルナが苦笑いを浮かべて顔で首を傾げた。


 話が途切れるチャンスを窺っていたのか、一条さんがゆっくりと手を挙げた。


「ねぇ……その術式って、帰るためのヒントにならない?」


 そういえば、俺は地球に帰る方法を探していたんだった。俺自身は帰れなくてもいいかなって思い始めているのだが、使徒の2人はそうではない。割と必死で帰りたいと思っているようだ。

 転移の術式なので、解析すれば何かは分かるだろう。でも、転移魔法が使えるのは俺だけだ。ルナがどれだけ解析しても、転移魔法と結び付ける事ができない。俺が解析しないとダメだ。


「うーん……俺には解析する技術が無いからなあ。いっそのこと、使ってみるか」


「え……? ダメですよ! 危険です! コーリーさんの話を忘れたんですか? それに、術者はどうするんですか……」


「いやいや、俺が1人で強引に起動するだけだぞ。この魔法の魔力の流れが分かれば、ある程度は再現できるから。

 それに雪隠結界の中で起動するから、大事故にはならない」


 これまでも見よう見まねで魔法を使っていたので、感覚を掴むことさえできれば理解できるはずだ。面倒な解析なんか必要ない。

 俺が1人で起動を試みれば、魔力不足で不発に終わるはずだ。それに転移が無効化される雪隠結界の中であれば、何かの間違いが起きても使徒が召喚されることはない。


 このことをルナに説明した。


「確かにそうですが……危険じゃないですか?」


「コーリーの話では、術者から回収した魔力が暴走するという口ぶりだった。回収される魔力がないから、大爆発を起こすようなことは無いはずだぞ」


 爆発を起こすのは、()()()()()()魔力だ。それは、使徒に付与されるはずの魔力で間違い無い。ということは、それは10人の術者から吸い出した魔力だ。10人の術者が居なければ、爆発は起きない。


「……そうですね。大丈夫そうです。危険を感じたら、すぐに中止してくださいね?」


「もちろんだ。まあ、そんなに危ないとも思えないから、安心してくれ」


 根拠は無いけどね。俺の予想だが、起動させる術者に危害を加えるような魔法は組み込まれていないだろう。



 まだ日が高い時間なので、王都の外に出て試そうと思う。

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