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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
最終章 使徒召喚
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足止め

 王城から転移する場所は、銀行などの施設が入った庁舎の裏だ。王城からはかなり近い。塀で死角になっているので、転移先としてはちょうどいい。

 誰にも見られていないことを確認し、王城に向かう。すると、城門近くの広場でルミアとボナンザさんを見つけた。


 ルミアは大きなハンマーを持ち、ブンブンと素振りをしている。ボナンザさんが楽しそうにその姿を眺めていたので、声を掛けた。


「……何をやっているんだ?」


「ん……? どうしてそっちから? いつの間に外に出てたのよ」


 ボナンザさんが驚いて声を上げた。

 王城の出入り口は正面と、もう一つ、直接王都の外に出る兵士の通用口しか無い。転移で外に出たので、そのことに驚いたようだ。


「秘密の出入り口だ。気にするな」


 本当は転移魔法だけど、適当に誤魔化す。この魔法については、ボナンザさんには言わないつもりだ。


「あ、おかえりなさい。現代の武器は凄いですね。こんな物で叩かれたら、さぞ痛いでしょう」


 ルミアが素振りを止め、額の汗を拭いながら言う。

 ハンマーはかなり原始的な武器だと思うのだが、ルミアには新鮮に感じられたようだ。


「このコ、かなり筋がいいわよ。鍛えてあげるから、1年くらいあたしに預けてみない?」


「いや、勘弁してくれ。俺のパーティメンバーじゃないし、実は結構忙しい奴なんだよ」


 今は食っちゃ寝しているが、事が済んだら神に戻さないといけない。と言うか、ルミアが神に戻ってくれないと俺の予定が狂うんだ。


「え? 私は暇ですよ?」


 ルミアは事も無げに言う。追われていることを忘れているようだ。久々の街に浮かれているらしい。


「暇じゃないだろ。王都に留まるわけにはいかないんだしさ」


「そうでした……」


 ルミアはしおらしく俯いた。


「じゃあ、気を取り直して教会に行こうか」


「今日は止めた方がいいわね。グラッドに水を差されてケチが付いちゃったでしょ?

 あたし、こういうの気になっちゃうのよ。験担ぎってやつ」


 ボナンザさんはうんざりしたような表情で言う。

 俺としては今日行ってもいいと思うのだが、止めた方が良いという理由も理解できる。教会は今、厳戒態勢が敷かれているだろう。多くの戦える人が集結しているはずだ。気絶させて終わりなので脅威ではないが、面倒であることは間違いない。

 もともと、今回の作戦は奇襲だから成立していたのだ。厳戒態勢が敷かれた中では、悠長に研究施設を探す余裕が無い。

 だからと言って明日になれば警戒が解かれているということもあり得ない。むしろ警戒が強化されている可能性もある。判断が難しいな。ボナンザさんの意見も聞いてみよう。


「明日にするのか? でも明日になったら、警備がもっと難しくなるんじゃないかと思うんだが……」


「そうかもしれないわね。でも、あたしたちも準備できるわ。今日は急だったから、大した準備ができなかったじゃない。あんたが探してる施設も、明日までに調査しておくわよ」


 俺の目的は、使徒召喚の研究施設だ。今日はどこか分からなかったので、勘で突き進んだ。虱潰(しらみつぶ)しに探し回ろうと思っていた。目的地が分かっているなら動きやすいな。


「そういうことなら、悪いけど調査を任せるよ。しかし、それなら先に帰っても良かったんだぞ?」


 ボナンザさんは、律儀にも王城まで付いてきて、謁見が終わるまで待っていた。これくらいの話なら、教会付近で済ませても良かったのに。


「いいのよ。それで、王の話は何だったの? 何か面白い話は聞けた?」


 なるほど……情報狙いだったか。話の流れから、教会の情報が聞けると踏んで待っていたんだな。でも残念。追加の情報は得られなかった。王とは嫌味と皮肉の応酬をしただけだ。


「他愛も無い雑談をしただけだぞ。現場に居れば面白かっただろうが、今聞いて面白い話じゃない」


「現場に居ても面白くなかったわ……。冷や汗が止まらなかったんだから」


 クレアがポツリと呟く。


「面白そうじゃない。あたしも行きたかったわね」


 ボナンザさんはニヤリと口角を上げて言った。


「面白かったよー。王様の顔とか、まわりのおじさんたちの顔とか。怒りながら笑う人なんて、初めて見たぁ!」


 リーズは面白かったようだ。現場に居たおっさんたちは、終始引き攣った笑顔を浮かべていた。どうやらその顔が面白かったらしい。


「うーん……是非同席したかったわね。どんな話をしたら、そんなことになるのよ」


「まあ、いいじゃないか。

 何にせよ、また明日だ。調査は朝までに終わりそうか?」


「たぶん終わる……いえ、絶対に終わらせるわ。明日も同じ時間に、あたしの店に集合ね。3人はまだ預かっておくから」


 終わらせるのは宿屋の店主なんだろうなあ。ちょっと申し訳なくなってきた。後で旧式のクソ不味いポーションを差し入れしておこう。


「じゃあ任せたよ。また明日な」


「待ちなさい。連絡が付かないと面倒でしょ。転写機を貸すわ」


 ボナンザさんから転写機を受け取った。王から渡された物と同じだ。この転写機は1対1の構造になっているので、相手が増える度に本体が増える。物凄く嵩張る魔道具だ。

 転写機をマジックバッグに仕舞っていると、リリィさんが一歩前に出た。


「コーくん、私もボナンザさんに用があるのだ。なかなか渡す時間がなかったのだが、『過働の指輪』5個だ。納品させてくれ」


「あ……待ってたのよ。ありがたく受け取るわ。おいくらかしら?」


 過働の指輪は金貨5枚に設定している。5個なので、金貨25枚だ。リリィさんが代表して受け取り、指輪を渡した。

 ボナンザさんに別れを告げると、ボナンザさんはすぐに屋根に駆け上がり、颯爽と走り去っていった。



 俺たちは暇になってしまった。ルミアはウロウロすると危険なので、宿屋に連れていく。本当ならエルミンスールに送りたいところなのだが、明日迎えに行くことを考えると、近い場所に居てほしい。エルミンスールまでの往復は、魔力の無駄遣いになってしまう。



 宿屋の庭に転移し、中に入った。宿屋の中では、看板娘のマイラが忙しく働いている。


「やあ。今日も頼むよ。いつもの部屋でよろしく」


「あ! いらっしゃいませ!

 ごめんなさい……今日も食事が……」


 店主が居ないんだな。うん、知ってた。


「こっちで適当に準備するよ。気にしないでくれ」


 だって今、店主は俺の用事で動いているんだもん。これで食事に文句を言ったら、店主に殴られると思うよ。


「お客様用の台所を設置したんです。良かったら使ってください」


 マイラが指をさした場所は、ハインツの一件があった時に拷問部屋として使われた部屋だ。ハインツとの戦いで壁が壊れたのだが、修理のついでに改装したらしい。

 客が自由に使える共同キッチンって、ゲストハウスみたいだな。こんな構造の宿は初めてだ。


「ありがとう。使わせてもらうよ」



 部屋に案内された。部屋割りはいつも通りだ。俺の部屋のリビングに集合する。


「さて、暇だな。せっかく暇なんだから、冒険者ギルドに行ってみないか?」


 街の外に出ることはできない。かと言って、急ぎの作業があるわけでもない。宿屋に居ても暇なだけだ。明日に備えて休んでもいいのだが、時間を無駄にしている気がするから何かしたい。


「そうですね。昇級試験の結果が出ているかもしれません」


 話がまとまりかけたところで、ルミアがおずおずと言う。


「あの……私はどうしたら良いのでしょうか?」


「時間は掛からないと思う。ルミアは1人で待っていてくれ。救難信号が発信できる魔道具を渡しておくから、何かあったら鳴らしてくれ」


 ルミアにスマホと腕輪を渡した。緊急事態が起きた時はすぐに転移で駆けつける予定だ。まあ、外出は短時間だ。危険なことは無いだろう。



 ルミアに留守番を任せ、冒険者ギルドの屋根の上に転移した。サッと地面に下りて中に入る。


「あ……! コーさん! お疲れ様でした。おかえりなさい!」


 エリシアが興奮した様子で叫んだ。


「ああ、ただいま。そんなに興奮して、どうしたんだ?」


「昇級ですよ! 合格おめでとうございます!」


 エリシアさんは腰を浮かしてカウンターから身を乗り出し、満面の笑顔で嬉しそうに言う。


「全員合格か?」


「そうですよ! 皆様、合格です」


 カウンターのこちら側に落ちそうなほど身を乗り出している。危険なので、カウンターに急いだ。


「ありがとう。今日はそれが聞きたかっただけなんだ。帰るよ」


 依頼を受ける時間は無い。結果が聞ければそれでいい。扉を開けた瞬間に用事が終わってしまったが、もう帰ろう。


「依頼は良いのですか?」


「ああ。今日は時間が無いんだ。人を待たせているしな」


「では、これだけは聞かせてください。なぜ突然Aクラスに変更したんですか? あれだけBクラスに拘っていましたのに……」


 エリシアさんは不思議そうに言う。自分の間違いに本気で気付いていないらしい。


「なあ、試験の書類の控えはあるか? もしあるなら、それをよく見てみろ。戦闘評価と試験ランクの欄だ」


 エリシアさんはファイルを開き、顔色を青くした。


「あ……ごめんなさい! 書き間違えていました! すみません!」


 そう言いながら立ち上がり、ペコペコと何度も頭を下げる。


「……受かったからいいが、気を付けてくれ」


 俺がそう言うと、エリシアさんとの会話が聞こえたのか、ギルド長がカウンターの奥から顔を出した。


「なんだ、やっぱり間違いだったのか」


「間違いに気付いていたのか?」


「いや、確信が持てなかったからそのまま承認した。戦闘評価が『B』になっていたから、違和感があったのだよ。でも試験官を油断させるためだとも思えるから、その場では判断できなかった。

 最近はミスが減ったと思っていたが……エリシア、気を付けろよ。

 それから、昇級おめでとう。今後もよろしく頼むよ」


 ギルド長はそれだけ言うと、俺の返事も待たず奥に引っ込んだ。


「うう……ごめんなさい……」


 エリシアさんはしゅんと肩を落として呟いた。


「まあ気にするな。無事昇格できたんだ。文句を言うつもりは無いぞ」


「ありがとうございます……」


 エリシアさんはすっかり元気を無くしてしまった。かなり深く反省しているらしい。


「Bクラスに切り替えることもできたのに、Aクラス試験を選んだのは俺たちだ。エリシアさんは気を落とさなくてもいい」


「でも……もし受かっていなかったらと思うと……」


 落ち込むエリシアさんと、それを必死で宥める俺たち。とても祝うような雰囲気じゃないな。


「エリシアさんのおかげでAクラスになったんだ。感謝してるよ」


「……そう、ですか……?」


 エリシアさんは少しだけ顔を上げ、安心したような表情を覗かせた。もう大丈夫かな。


「ああ。いろいろありがとう。カウンターを占領しても悪いし、そろそろ帰るよ」


 そう言って冒険者ギルドを後にした。用事はこれで終わりだ。ギルドの屋根に上り、宿屋に転移する。



 宿に残したルミアは、俺の部屋のソファで横になってぐっすり寝ていた。本当に食うか寝るしか無い奴だな……。

 軽く食事を済ませ、明日に備える。



 早朝、けたたましく震える転写機によって起こされた。ボナンザさんからのメッセージだ。眠い目を擦りながら読むと、『探していた研究施設の場所が判明した』と書かれていた。

 予定していた時間よりもだいぶ早い。外はまだ薄暗いが、全員を起こしてボナンザさんの店に行こう。

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