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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
最終章 使徒召喚
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お迎え

 転移の中継点として利用している訓練場だが、そろそろ兵士が集まり始める時間に差し掛かっている。

 次は直接エルミンスールに転移した方が良さそうだな。


 ……王の目の前で転移したのは拙かったかな。手の内を知られるのは良くないぞ。まあ、いいか。過ぎたことは気にしない。



 気を取り直してマップを取り出し、使徒の位置を確認する。


 転移魔法は、転移する距離と転移させる質量によって消費魔力が変わる。そして、捕捉できる場所にしか飛べない。捕捉できる場所は、自分が行ったことがある場所に限られる。今のところ、距離の制限を感じることは無い。地球を捕捉することができないので、まだ何か条件があるのだろう。


 使徒の2人の位置が判明した。王城の中ではあるが、同じ場所に居ないようだ。いつでも脱出できるように準備しておけと言ったのに……。

 そして、一条さんの方は俺が行ったことの無い場所に居るみたいだ。行くなって言ったのに……。


 場内に転移してから、少し歩かなければならない。かなり面倒だな。

 俺の身分が剥奪されていることは、まだ周知されていないはずだ。城内をうろついていても咎められることは無いだろう。



 善がいる場所は行ったことがあるので、先に一条さんかな。面倒事は先に済ませたい。



 王城の中で2人が別行動になり、俺が行ったことが無い場所。それは風呂しか無い。

 俺が「やるな」と言ったこと、パーフェクトで破っているじゃないか。今から風呂に乗り込むが、文句は言わせない。だって、裸で連れ出すって宣言しているし。


 気配を消して潜入したら犯罪臭が半端じゃない。むしろ軽く威圧をばら撒きながら堂々と入ろう。


「おい! 何のんびり風呂に浸かっているんだ! 裸で連れ出すって言っただろ!」


 一条さんだけを視界に捉え、元気に怒鳴った。風呂には何人かの女性が入っていたが、できるだけ見ないように気を付ける。こんな昼間っから誰が入っているのか気になったが、あまりジロジロと見ると変態臭がエゲツないからな。


「嫌っ……どうして入ってきたの……?」


「どうしてって……逆に聞きたいわ! なんで風呂に入っているんだよ!」


 湯船に浸かる一条さんを引っ張り上げ、脱衣所に連れ出した。

 いそいそと体を拭き、服を着ていく一条さんの様子を、なんとなく眺める。


「……どうして見てるの?」


 あ……見る理由は無いな。頭の中のライブラリから言い訳を捻り出す。


「外傷が無いかを確認するためにだな……」


 頭をフル回転させた割には、残念な言い訳だったな。別にエロい意味があって見ていたわけじゃないんだけど、ちょっと気まずい。


「……そういうことにしておくけど……指摘されても目を離さないとは思わなかったわ」


 ん? 必死で言い訳を考えるあまり、目を逸らすことを忘れていた。

 いまさら目を逸らしてももう遅い。一条さんは、ほとんど服を着終えている。


「それはそうと、なぜ風呂に入っていたんだ。入るなと言ったはずだが」


「言葉が分かんないの! いきなり連れ出されて、向かった先がここだったのよ」


 突然言葉を奪われるって怖いな。反論も拒否もできなくなる。これは責められないか。



 一条さんが服を着終えたので、次は善が居る男風呂だ。あっちは入ったことがあるので、一条さんを連れて直接転移する。


「えっ? 嫌っ! なんで!?」


 一条さんはそう言って両手で顔を覆い、視界を閉ざした。

 こちらも善の他に何人か居るが、見苦しいので誰も居ない床を凝視する。


「善! 行くぞ。すぐに出ろ!」


「え? なんで? え?」


 戸惑う善に声を掛け、風呂から出るように指示を出した。

 善は不思議そうな表情を浮かべながら風呂から上がり、脱衣所に歩いていった。俺たちもその後に続く。


 風呂の中から野太い叫び声が聞こえてきたが、反響して何を言っているかわからない。こちらに来られても邪魔なので、脱衣所と風呂場を繋ぐ扉を押さえた。


「見苦しいから早く服を着ろよ。すぐに出発したいんだ」


「出発って、どこに? 何のために?」


 善の返事がいまいち要領を得ない。今の状況を理解していないみたいだ。


「逃げるんだよ。神送りは絶対に拒否しろって言わなかったか?」


「できれば長引かせろとは言われていたけど……それが何?」


 ……言い忘れていたらしい。俺のミスか。ということは、今回の救助依頼は一条さんが機転を利かせただけだな。


「悪い、言っていなかったわ。

 事情が変わった。神送りはヤバイ。使徒召喚もヤバイ。どちらも止めないと拙い」


「それ……どういうこと?」


 善は胡乱な顔を俺に向けて固まった。


「手が止まっているぞ。早く着ろ」


 善は「はいはい」と言って服を着た。最低限見苦しい物が隠れたので、善の腕を掴んですぐにエルミンスールに転移する。



「ここは……」


「俺の隠れ家だよ。他のメンバーはここで待機している。とりあえず中に入ってくれ」


「え? 秘密基地? 凄くない? うわぁ……」


 一条さんがウキウキとして、キョロキョロと辺りを観察している。ちょっとテンションが上ったらしい。


「なぁ、僕たちはさっきまでお城の中に居たよな? どうなっているんだ?」


 善は周囲を警戒しながら言った。意外と冷静な様子だ。


「転移魔法だよ。結構時間が掛かったけど、使えるようになったんだよ」


「え……凄っ……じゃあ、日本に帰れるの?」


 一条さんが目を丸くして言う。

 転移できる距離は大幅に延びた。とは言え、地球は遠すぎる。現状では無理だ。消費魔力も半端じゃないと予想される。


「まだ無理だな。地球の場所が捕捉できない」


「そっか……。協力できることがあったら言ってね?」


「ああ、ありがとう。ただまあ、後は俺次第みたいなところだからなあ。何かあったら頼むよ」


 宮殿の前で話をしていると、リリィさんが出迎えてくれた。


「おかえり。大変だったね」


「あ……お久しぶりです……」


 善と一条さんがが畏まって礼をした。この2人は、リリィさんから魔法を教わっていた。この2人からするとリリィさんは指導教官だ。多少固くなるのは仕方がないな。


「堅苦しい挨拶は必要ない。軽食を準備しているから、まずは中に入れ」


 リリィさんは使徒の2人に無愛想に言うと、宮殿の中に入っていった。

 うちのパーティメンバーと話ができないのは困るので、中に入る前に翻訳の指輪を渡し、宮殿の中に招き入れた。



 全員で椅子に座り、まずは食事にしようと思う。普段のテーブルでは席が足りないので、外用のテーブルも出して並べた。

 テーブルの上にはドライフルーツとスープとパンが置かれ、お茶が添えられている。午前中暇だったのか、焼き立てのパンだ。パンに塗るバターは無いのだが、オリーブオイルが良い仕事をしている。バターより美味いと思う。


「時期が悪いから保存食ばかりだが、まあ食べてくれ」


 俺がそう言うと、使徒の2人は「いただきます……」と言って手を合わせた。そのポーズ、久しぶりに見るな。俺とエルミンスール居残り組は、アレンシアの文化に従って黙祷だ。


 パンを頬張った2人が、急に動きを止めた。


「え……美味しい……」


「本当だ……パサパサしてない。本物のパンだ……」


「確かにルナのパンは美味いが、普通のレシピで作った普通のパンだぞ。普段何食ってたんだよ……」


「王城のパンはまだマシだけど、街で食べたパンは酷かったよ。固いし、パサパサだし、ちょっと苦いし……」


 王城のパンが()()? 日本でどれだけいい暮らしをしていたんだよ……。王城のパンは美味いだろう。少なくとも俺が山の中で焼いたパンよりは、よっぽど美味いぞ。


「それはたぶん北部のパンですね。安く作れて日持ちするんですけど、美味しくないんです」


 ルナが説明してくれた。ドライフルーツの液を使わず、代わりに酒を入れるらしい。酒でパンが膨らむのか甚だ疑問だが、そういう物なんだろう。


「コーくんって、いつもこんな食事なの?」


「いつもはもう少し豪華だぞ。今日は保存食ばかりで新鮮な野菜が少ないからな」


「やっぱりコーくんについてくれば良かった! 使徒ってさ、貧乏だし、服はダサいし、ご飯不味いし、良いこと何にも無いんだよ?」


 一条さんが語気を荒らげた。そんなに酷いか? 貧乏は問題だが、生きるために必要な物は全て揃っているだろうに。


「美織、言い過ぎだよ……。僕は満足していたから……食事以外……」


「そのパンって、そんなに不味いのか?」


「そうじゃないよ。……米がね、無性に食べたくなるって言うか……。コーも米が無いのは嫌だろう?」


「ん? そうか?」


 その気持ちが一切理解できない。米が無いなら小麦を食べればいいじゃない。

 そもそも、日本でも長期で山に籠もる時は米なんか持っていかない。重くて嵩張るし、調理のために必要な水が多い。非常用の食料としてなら、小麦粉を持っていった方が便利だ。


 善と一条さんが不思議そうな顔をしたまま黙ってしまったので、そのまま食事を続ける。



 食事を終えると、本格的な会議が始まった。


「それで、どうでしたか?」


「状況は良くないな。結論から言うと、王の説得は失敗した。俺の身分も剥奪されたから、少し動きにくくなったぞ」


「え……大丈夫なのでしょうか?」


「特に問題無い。そもそも、欲しくて貰った身分じゃないから。

 そう言えば、王から気になる話を聞いたよ。元宮廷魔道士のコーリーっていう人なんだけど」


「コーリーさん……? 魔道具職人になるって言っていましたが、お元気ですか?」


「いや、今は教会に居るらしい。使徒召喚の指導をしているそうだ。どういうつもりなんだろうな」


「……そんな……コーリーさんが、なぜ……」


「……いや、コーリーくんなら有り得るぞ。一度会って話がしたいな」


 リリィさんには心あたりがあるようだ。


 ここで、一条さんが手を挙げて会話を遮る。


「ちょっと待って。何の話かさっぱり分からないよ?」


「僕もだ。なぜここに連れてこられたんだい?」


 善に至っては、神送りの儀式に疑問も危機感も抱いていない様子だ。平和ボケしているのかな。



 話が進まないので、神送りの儀式について軽く説明した。


「……その話、本当なの?」


「この話が信じられないなら、すぐに王城に返すぞ。俺には手に負えないからな」


「いや……嘘をついているとは思っていないんだけど、本当なのかが分からないよ」


「待って! 善くん、信じようよ。今お城に戻っても、良いことなんて何も無いよ」


 善はしばらく考え込み、静かに頷いた。腹は決まったようなので、話を続ける。


「ところで、使徒召喚の詳しい日程を知らないか?」


 デッドラインを明確にしておきたい。神送りは明日に予定されているが、使徒召喚は近日中としか聞いていないんだ。


「僕も詳しい話は聞いていないんだけど、早くければ明日の午後、遅くても明後日中になるみたいだよ」


「詳しいじゃないか」


「指輪を没収される前に、フィリスさんに聞いたんだ」


「善くん、近頃仲が良いみたいなの。結構イイ感じだったよ」


 一条さんがニヤニヤしながら言う。

 ()()フィリスかあ……。俺はいい思い出が無いなあ。よりによって、()()フィリスがいいのかあ……。善とは女の趣味が合わないみたいだ。このことについては絶対にわかり合えないだろうな。


「なるほどな。まあ、それは良いとして、だ。明日の午前中までは猶予があるということだな。

 明日の午前中に教会に行こう。召喚の術式が教会にあるらしいんだ。召喚が始まる前にそれを奪うことができれば、使徒召喚は止められる」


 明日は全員で行こうと思っている。人手が欲しいこともあるが、ルナとリリィさんはコーリーに会いたいだろう。

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