おっさんとの出会いに定評があるようです
さあ。朝だ。
予定外の宿、接客態度は最悪だったが「昨晩はお楽しみでしたね?」的なイジリが無いことだけは評価できる。
さっとチェックアウトを済ませて冒険者ギルドに向かおうと思う。
「では、冒険者ギルドに案内しますね」
と言うのは、笑顔が眩しいルナだ。目が覚めた時はずいぶん恥ずかしげな顔をしていたが、今はずいぶんスッキリしている。
今日はあまり無理したくないな。体力的に。
「うん。頼むよ。冒険者にはどんな依頼があるんだ?」
「私も詳しくは知らないんです。行けばわかると思います」
と言うので、冒険者ギルドで聞こうと思う。
大通りに面した冒険者ギルドは、レンガ造りの立派な建物だった。
さっきの宿からも近いのだが、聞いた話では冒険者の利用頻度が結構高いらしい。
中に入ると、かなり広い。四角いテーブルがいくつか並んでいて、奥にはカウンター。
サービスエリアのレストランみたいな造りだ。
テーブルにはイカツイおっさんが数人でテーブルを囲み、大声で笑いながらビールらしき物を飲んでいる。
昼間っから酒とは……。テンプレなのか? フリなのか?
「何しているんですか? 行きますよ」
ギルドの中をのんびり観察している俺の手を引いて、奥へと進むルナ。
興奮を抑えられないようだ。マジで楽しみだったみたいだね。
本当なら威圧の魔法で牽制したほうが良いんだろうけど、そんなことをする暇もなくカウンターに到着した。
「いらっしゃい。御用は?」
カウンターのお姉さんが声を掛けてきた。20代前半くらい? 黒くて長い髪をなびかせている。
上品な服だ。青いチュニックワンピースの上からカーデガンのような上着を羽織っている。
スレンダーな女性で、全体的に細い。どこが、とは言わない。細い。
「冒険者の登録を頼む」
「わかりました。では、身分証を出してください」
身分証。王から貰った任命証でいいかな? これしか無いし。
ルナは何かしらの木片をカウンターに置いた。免許証みたいなものかな?
「あの……。所属が王城になっていますが……」
「いえ、元です。宮廷魔道士をしていましたが、今は辞めてしまったので」
「そうでしたか。そちらの方は?」
王城所属だと問題あるのかな? 貴族でもない一般庶民なんだけどな。
呼ばれたので、カウンターに任命証を置いた。
「え……? 失礼しました! すぐに上の者を呼んできます」
あちゃー。やっちゃったな。王城所属でも問題有りなのに、王直属の任命証だもん。大問題だわ。
「申し訳ありません。お待たせ致しました。ギルド長のアレクスと申します」
偉そうなおっさんが大慌てでやってきた。普通の布の服を着ているが、服の下の筋肉でパンパンに膨れている。
騎士相当の身分、思っていたよりヤバイ物かもしれない……。
「いえ、待っていない。俺は騎士相当の身分とされているが、そんな偉いもんじゃない。
普通に接してくれ」
「いや、しかし……」
歯切れの悪いギルド長。この身分、面倒くさいニオイしかしないぞ。
もう二度と名乗らないほうが良いかもしれない。
「期間限定のようなものだ。ただの使いっ走りだよ。
これ以外に身分証を持っていないから出しただけだ。
できれば内密に頼む」
「承知しました。では、こちらで身分証を発行します」
「そんなことできるのか?」
「はい。農村には身分証を持たない方がたくさん居ますので。
こちらで調査して問題がなければ身分証を発行します」
国としては人口の調査とか国籍の管理とかを厳密にやっていないんだな。
まあ、簡単に調べられることではないから仕方がないか。
「ありがとう。頼む。俺はただの普通の一般的な冒険者としての対応を望む」
念を押しておく。ギルドに来る度にギルド長がお出迎えとか面倒にも程がある。
「了解致しました。そうさせていただきます」
なんかまだ言葉が固いけどまあいいか。
「ただの初心者冒険者に、ギルド長が対応するのもオカシイよな?」
ギルド長を追い払って、受付係のお姉さんからギルドの説明を受けた。
冒険者にはSからFまでのランクがあり、登録してすぐはランクなしの仮登録になる。
30日以内に3件の依頼を達成すると本登録のFランクになるそうだ。
Fランクには有効期限があり、60日以内にギルドが斡旋する依頼を8件こなすか、最長60日間高ランク冒険者の指導を受けるかでEランクになる。
実質Eランクにならないと冒険者とは言えない、ということだな。
「お二人はパーティということでいいのですよね?」
「そうです」
「お二人の他にパーティメンバーはいらっしゃいますか?」
「居ないな。増やす予定も無い」
「そうですか。二人というのは少々危険です。できればどこかのパーティに参加するか、メンバーを増やしてください」
「そうなのか? ソロ活動をしている奴とか居ないのか?」
「中にはいらっしゃいますが、とても危険ですので。
お一人で活動している方はそれなりの手段を持っておられます」
「そうか。忠告ありがとう。考えておくよ。
ルナはどう思う?」
「そうですね。確かに危険だとは思いますが……」
メンバー増強案には乗り気ではないみたいだね。じゃあ無しで。
「そうか。しばらく様子を見てから判断しよう」
一度カウンターを離れて依頼を確認することにした。
壁に設置された掲示板を眺めると、多くの依頼が掲げられていた。
しかし、現在受けられる依頼は難易度Fの依頼のみ。
「このあたりならいいかな?」
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屋根の修理
報酬:大銀貨3枚
難易度:F
備考:
雨漏りする一般家庭の屋根の修理。
資材は準備してください。
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壁の修理
報酬:大銀貨1枚
難易度:F
備考:
崩れた壁の修理。
資材は準備してください。
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棚卸し作業
報酬:大銀貨2枚
難易度:F
備考:
魔道具店での商品整理。
二人以上推奨。
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配達
報酬:大銀貨5枚
難易度:F
備考:
精錬所から鍛冶ギルドへ鉄の配達。
期限有り。
インゴット1000本の納入。
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Fランク依頼は他にもあるが、技術も知識も要らない依頼だとこんな所だ。
修理はちょっと心配だが、できなくはないと思う。
「この配達なんかが良さそうですね。難易度の割に高報酬です」
「そうだね。量が心配だけど、このマジックバッグがあれば大丈夫だよね」
普通のマジックバッグだとダメ。重量も圧縮できる高級品じゃないと。
王城から貰ってきたマジックバッグなら、軽トラック一台分ほどの荷物が入って重量が少し増えるだけ。
ルナのマジックバッグは宮廷魔道士仕様なので普通に高級品。
依頼票を剥がしてカウンターに持っていく。
受付のお姉さんから重量についての注意を貰い、場所と詳細を聞いた。
鉄の精錬所から剣の材料になる鉄を鍛冶ギルドに届けるだけの簡単なお仕事。
たぶん今日中に終わるな。
「では、初依頼頑張ってください」と見送るお姉さんに手を振って、ギルドから出ようとした。
「おい。小僧。ちょっと待て」
イカツイおっさんグループの中の一人、ヒゲが異常に濃い太ったおっさんが酒臭い息を吐きながら声を掛けてきた。
ルナの前に立ち、おっさんを睨みつける。
「なんだ?」
「お前ら、ルーキーだろ? ここの流儀を教える必要がある」
テンプレ来たか! おっさんボコって有名になる感じか?
「流儀ってのはなんだ?」
「最低限守るべきルールや礼儀、仕事の選び方や受け方などだ」
おや? 空気がおかしいぞ。マジでまともな流儀じゃないか。
「何でそんなことをする?」
「俺たちの仕事だからだ。Cランク以上の冒険者は初心者の指導をする」
「じゃあ何で仕事もせずに朝から酒を飲んでいるんだ?」
「これが仕事だからだ。
緊急時の伝令や調査のため、上級冒険者の誰かがギルドに常駐する規則がある」
「緊急時のための人員が酒飲んじゃダメだろ!」
「そうか? 酔うほど飲んでいないが」
「酒くせーよ!」
「そりゃスマンかった。まあ、何にせよ、Fランクになったら言いな。いろいろ教えてやる。
俺の名前はレイモンドだ。『鋼鉄の斧』というパーティを組んでいる」
テンプレかと思ったら、気の良いおっさんでした。
酒を飲むのはどうかと思うが、誰かが居るのは必要なことかもしれない。
危険な魔物が急接近した時や、何かの事件・事故が発生した時に動ける奴が居ないと拙い。
用心しすぎな気もする。でも必要なことなんだろう。
「ああ。わかった。俺はコーだ。よろしくな」
軽い自己紹介だけを済ませて、ギルドから出た。
お読み頂き、ありがとうございます。
明日の更新から、更新時間を午前8時から午後4時に変えたいと思います。
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