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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第八章 異世界放浪の旅
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人探し

 テントで一夜を明かした。魔物の襲来もなく、人が来ることもなかった。平和な夜だ。

 一夜のうちに服が乾いたので、普段の服に着替えた。アーヴィンの服だけは乾いていなかったので、布の服のまま。かなり寒いはずなので、俺の外套を貸しておいた。


 正直、アーヴィンが女だと分かってから、対応に困っている。男だと思っていたから、荷物のように抱えていたんだ。女だと知ってしまったら、それなりに気を使う。


「気にしなくていいよ。男だと思って接してよ」


 と言われてもなあ……。知らなきゃ良かったよ。今まで聞いた話の中で、ここまで知ったことを後悔したのは今回が初めてだ。



 アーヴィンをお姫様抱っこしようとして、本気で抵抗された。仕方がないので昨日と同じように小脇に抱える。


「それで、エウラはどの辺りなんだ?」


「もう少し北だよ。昨日よりはマシだけど、泥だらけになるから。覚悟してね」


 せっかく洗ったのに……。この服を買ってから、凡そ半年が経つ。かなりくたびれてきた気がする。毎日着ているし、頻繁に洗濯するからなあ。そろそろ買い替えの時期かもしれない。

 1時間ほど走ると、遠くに街が見えてきた。アーヴィンの宣言通り、足元はぐちゃぐちゃだ。どうしてこんな足場が悪い所に街を作ったのか……。


 服も靴も酷い汚れようなので、かなり早い時間だがさっさと街に入る。

 街の防壁はアレンシアほどではないが、十分に高い。厚みがあって頑丈な作りだ。防御力はアレンシア以上だろう。安心できる壁だ。


 例の如く門番は2人。木でできた門の前に立ち塞がっている。門番の前に立ち、アレンシアの身分証を見せた。


「ふむ……。ミルジア経由か。いいだろう。入れ」


 俺とパーティメンバーはすんなり入れたのだが、アーヴィンが引っ掛かった。

 門番の1人と揉めている。


「オマリィ子爵家六男のアーヴィン・オマリィだ。通してもらいたい」


「だから、身分証を見せろと言っている。そんな小汚い身なりで、信用できると思うな」


 小汚くて悪かったな。それは俺の服なんだよ。アーヴィンの服はまだ乾いていない。


「お前、身分証も置いてきたのかよ」


「だからぁ、あんな短時間で準備できないって!」


 身分証は肌身離さず持っておく物じゃないのかな……。盗まれたら大変だぞ。貴族の家だから、盗まれる心配が無い? いやいや、危機感が薄いだけだな。泥棒はどこにでも湧く。


 ここで足止めをされると面倒だな。手助けしておこう。

 逃げるように家を出た、ということは伏せた方がいい。確実にトラブルの元だと思われて、無駄に警戒される。


「服は洗濯中だ。その他の持ち出し品は、魔物の襲撃で紛失した。身分は俺が保証するが、足りないか?」


 冒険者の保証では絶対足りない。しかし、俺にはもう1つの身分証、王からの任命証がある。ここには貴族相当の身分と明記されている。できれば使いたくなかったが、これならそれなりに効果があるだろう。


「……はっ! 失礼いたしました。お通りください」


 門番が直立不動で答える。大丈夫だったようだ。


「このことは、口外しないように」


 という注意だけはしておく。単純に俺の身分が面倒なだけなんだけど、たぶん都合良く解釈してくれると思う。

 アレンシアの王直属の部隊が、ミルジアの貴族を保護している。これが俺の今の状況。多少知恵が働く兵士であれば、王からの密命を受けていると考えるだろう。余計な詮索をされる心配が無くなる。



「ふうぅ! ここがエウラなのね! 薬師ギルドに行ってもいい?」


 クレアのテンションが高い。ずっと来たがっていたから、無理もない。


「まあ、ちょっと待て。先に着替えよう」


 服が泥だらけなんだ。まずはしっかりと洗って乾かす。


 エウラの街の中は、石畳で念入りに舗装してある。街のいたるところで水が湧き出しているようで、未舗装の部分は泥と水たまりと水路でできている。あちこちに背が高い草が生えているが、その下はきっと水たまりだ。

 石畳は泥で汚れている。あちこちで打ち水をしている人を見かけるので、これでも毎日掃除しているのだろう。


 建物は、どの家も高床式の木造だ。それもかなり簡素な造り。いくら温暖な土地だと言っても、冬は寒そうだ。

 どうしてこんな面倒で問題ばかりの土地に街を作ったんだよ。


「この辺りが薬草の群生地だからよ。薬草を採取する人が住み始めて、その薬草を求める薬師が集ったの」


 クレアが饒舌に説明してくれた。利便性を求めて、自然と集まったようだ。実際、この街は必要最低限の機能しか無いらしい。武器を作る鍛冶屋は居ないし、服を作る職人も居ない。行商人の持ち込む商品が生命線になっている。

 街にある商店が扱う商品は、薬師関係と食料品だけ。その食料も、ほとんどが保存食だ。生鮮品やその他の商品は、行商人が持ってくる。手持ちの食料が心許ないんだが、この街では買わない方がいいのかな……。


 なんにせよ、先に宿を探す。エウラの街の宿は、コテージのような木造建築だ。建物1つが1部屋になっているらしい。


 造りは意外としっかりしているが、その割に安い。

 その理由は、宿がボロいと冒険者が寄り付かないから、だそうだ。この辺りの魔物は凶暴で、定期的に間引く必要がある。兵士だけでは手が足りないらしく、冒険者にも依頼が出ている。しかも、討伐に報酬が出るそうだ。ここで狩りをすれば儲かりそうだな。


 宿は1棟が大きいので、1部屋で済ませることにした。ベッドは8人分準備してある。テーブルの上を見ると、文字の書かれた板が置かれている。何だこれ? 手にとって見る。


「……ルームサービス?」


 何かの商品名が羅列してある。その横には、金額も並んでいる。


「あ。それ、ポーションの値段表じゃない? 聞いたことがあるのよ。エウラの宿では、お部屋でポーションが買えるんだって」


 クレアが俺の横から覗き込んだ。

 とことん冒険者特化の宿だな。それも、狩り専門の冒険者に特化している。部屋が広いのもそのためだろう。1つのパーティが1つの部屋を使うように考えられている。


 ポーションの相場は、アレンシアと変わらない。但し、質が全く違う。ここのポーションは、他所の街に持っていけば倍の値段で取引されるそうだ。何本か買って帰ろうかな。


「ところでアーヴィン、お前は誰に会わせればいいんだ?」


 これがエウラに来た一番の目的。おっさんオマリィの友人とやらに引き渡せば、依頼は終了だ。


「この街で薬草採取をしている、ケインさんていう人だよ。僕も会ったことがあるから、見ればわかる」


 見れば……ねえ。見るのが大変なんだけど。外壁の大きさから察するに、人口は少なくない。5000人は居ると思う。まずは聞き込みかなあ。



 着替えを済ませたら、宿の店員に場所を聞き、薬師ギルドに向かう。クレアが鼻歌交じりで歩いている。相当楽しみにしているようだ。

 薬師ギルドの建物は、やはり高床式の木造。大きな建物が何棟か並んでいる。全てが関連施設だそうだ。その中の1つ、受付カウンターがある建物に入る。


 中は薬のような匂いが漂っている。嫌な匂いではない。ハーブを煮詰めたような匂いだ。

 ホールの様子は冒険者ギルドに似ている。いくつかのテーブルと椅子が並び、多少の作業ができるようになっている。そこで作業している人も数人居る。


 作業している人を無視して、カウンター係に声を掛ける。


「いらっしゃい。購入ですか?」


「いや、購入もしたいんだけど、まずは人探しだ。薬草採取をしているという、ケインという人を探している」


 名前から察するに、たぶん男だ。でもアーヴィンの例があるから油断はしない。


「……ケインさんですか……失礼ですが、どういった御用でしょうか?」


 カウンター係は不審そうな顔を向ける。突然聞くのは良くなかったかな。俺の身分証を見せる。王の任命証の方だ。大抵の問題はこれで解決する。


「ちょっとした依頼だよ。急用なんだ」


 ()()()嘘を吐いていないぞ。カウンター係がどう勘違いするかは知らない。


「そうでしたか……。大変申し訳無いのですが、ケインさんの居場所は我々も聞きたいのです」


「どういうことだ?」


「実は1月(ひとつき)ほど前、行方不明になりました。冒険者や兵士の方々にも捜索に協力していただいておりますが、生存は絶望的かと……」


 カウンター係は苦々しい表情で言う。

 困ったな。いや、かなり困った。この世界では人が死にやすい。それは分かっているけど、どうしてこのタイミングなんだよ。


「それはどこですか! 僕も探しに行きます。教えてください!」


 アーヴィンがカウンター係に食って掛かる。探すって言ってもなあ……。アーヴィンが行くなら、俺たちも付き合うことになるじゃないか。まあ、乗りかかった船だ。最後まで付き合おう。


「その人は単独行動しているのか?」


「一度に質問しないでください……。南東の湿原に向かったことは確認されています。ニュンパエアの採取が目的でした。それが最後ですね。その時は単独でした」


 ニュンパエアとは、クレアが採取していた水生の植物だ。湿地の奥に生えていて、採取中に足を取られると脱出できなくなる。コツがあるのかもしれないが、1人では危険だ。

 単独行動中の事故か、魔物に襲われたか……。これは見つからないと思った方がいいな。


「わかった。ありがとう。ところで聞きたいんだが、ポーションの作り方を教えてもらえないか?」


「……作り方、ですか。それもその……任務で?」


 沈黙で答える。どう解釈するかはカウンター係次第だ。まあ、教えてもらえたらラッキーくらいの感覚なんだけどね。


「わかりました。手配します。ただし、材料はそちらで入手してください。大抵はこの街で買えますので。

 では少々お待ちください」


 カウンター係はそう言って立ち上がると、ホールで作業していた年配の女性に声を掛けた。

 あの人が教えてくれるのかな。


「ねぇ、ケインって人を探さなくてもいいの?」


 クレアが心配そうに耳打ちをする。


「ああ。教わるのはクレア1人だ。その間に探してくるよ」


 人探しのために、全員で歩き回る必要は無いだろう。ついでの薬草採取ができないのは残念だが、ポーションの作り方を教わることの方が重要だ。


「……ありがと」


 クレアははにかんだような笑顔で答えた。

 念のためにリリィさんも街に残そう。作業中はスキだらけになるから、護衛だ。


 少し待つと、カウンター係が年配の女性を連れて戻ってきた。


「こちらが指導してくださる、ドリスさんです。腕は保証致します」


「どういうつもりか知らないけど、ワケアリのようだね。覚えたいんなら勝手にしな」


 ドリスさんは不機嫌そうに言う。厳しそうな人だが、しっかりと教えてもらえそうだ。


「教わるのは俺じゃない。彼女だ」


 ドリスさんにクレアとリリィさんを紹介した。

 クレアとリリィさんはここで別行動になる。いつでも連絡が取れるよう、スマホは通話状態にした。夜には宿に戻るので、別行動は昼のうちだけだ。

 材料集めも腕の内ということらしいので、クレアに金貨50枚を渡した。移動中に採取したニュンパエアはクレアに任せる。使うかもしれないそうだ。買うと高いので、採取しておいて正解だった。



 しかし、王から貰ったこの任命証の効果はヤバイ。使いすぎると癖になりそうだ。軽々しく使ったら拙いな。またしばらく封印しよう。

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