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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第八章 異世界放浪の旅
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任意同行

 14人の兵士に囲まれたテントの中で一夜を明かす。どうにも落ち着かないテント泊だった。


「魔物や盗賊に襲われる心配が無かったのよ。まぁ、良しとしましょう」


 クレアが両手を上げて伸びをしながら言う。そう考えれば、納得もできるかな。

 テントの外に出ると、兵士の眠そうな顔が見える。と言うか、5人ほど寝ている。酔っぱらいに徹夜の作業をさせるなよ。


 兵士を無視して朝食の準備を始める。俺たちの分だけだ。14人分の食器なんか準備していないからな。

 火を熾してお湯を沸かしていると、兵士の1人が近寄ってきて言う。


「おはよう、よく眠れたかね。できれば急いでもらえると助かるのだが……」


「なんだよ。食事くらいゆっくり摂らせろよ。それとも、あんたらも欲しいのか?」


 鍋を指差して言うと、兵士は困ったような顔をした。


「我々は他人に出された物を口にしない。一晩待ったのだ。もういいだろう」


 ちょっと苛ついているみたいだ。腹が減っているのかな。それとも眠いのか? いや、両方か。一晩寝ずに監視していたみたいだからなあ。


「腹が減っているんだろ。保存食くらいなら分けてやるぞ」


「妙な気遣いは要らん。任務中は他人から渡された食べ物は口にできんのだ。毒や薬を盛る輩がおるからな」


 毅然とした態度で首を横に振った。この声は後ろの兵士にも聞こえていたようで、物凄く険しい顔をしている。たぶん、他の兵士は食べたいんだと思うぞ……。

 食べないというのは兵士の規則なのだろう。でも遵守されているわけではなさそうだ。目の前の兵士がとりわけ真面目なだけのようだな。



 食事は辞退されたので、俺たちだけでのんびりと食事を食べる。


「あの……。『注意』の反応が3人、『警戒』に変わりましたが……」


 腹が減って気が立っているらしい。


「気にするな。大したことじゃない」


 寝ていた5人の兵士は、蹴り飛ばされて起こされた。

 14人の屈強な男たちに見守られ、落ち着かない食事を終えた。雑談はそこそこにして、テントを撤収する。あ……テントを仕舞えない。ロープでテントを括り、背負う。テーブルも仕舞えないので、みんなで手分けをして背負った。


 すべての荷物を背負ったところで、さっきの兵士が来た。


「ふむ。準備が整ったようだな。バルーチの街に来てもらおう」


 兵士に囲まれたまま、移動を開始する。徒歩なので、物凄く遅い。これでは半日ほど掛かってしまうな。


「走らないのか? 日が暮れてしまうぞ」


「我々は構わないが、諸君はついてこられるのか?」


 この兵士たちも足に自信があるようだ。勝負と受け取ってもいいのかな。でも、全力で走るほどのことではないな。


「問題無い。適度な速度で走ってくれ。俺たちは街の位置を知らないから、先導は任せるぞ」


 バルーチは、ここの近くの街だ。存在と方角は分かっている。しかし、詳しい位置は知らない。

 兵士は軽く頷き、先頭に指示を出す。すると、先頭から順に移動速度を上げていった。そこそこ速い。


「なかなかやるな。もう少し速度を上げるぞ」


 兵士はニヤリと笑い、さらに速度を上げた。まあまあ早い。アレンシアの早朝訓練よりも少し遅いくらいかな。ここは平地なので、難易度は低い。アレンシアのように流れる川に突入したり、急斜面を駆け上がったりするわけじゃない。



 暫く走ると、遠くに街が見えてきた。バルーチに到着したらしい。並走していた兵士は、半数が脱落している。訓練が足りないようだ。


「ぐふぅ……はぁはぁはぁ……なかなかやるではないか……。このまま街に入り、領主館に向かうぞ……」


 街に近付き、徒歩に切り替えた。一緒に街に入る兵士は、3人だけだ。他の連中は、到着とともに倒れ込んで動けなくなった。

 兵士の通用口から街の中に通される。ミルジアにしては珍しく、街に入る際の手荷物検査が無しで素通りだった。「丁重に」という部分は事実だったようだ。



 街の雰囲気は、グントゥールと大差ない。ボロ家ときれいな家が混在した、埃っぽい街だ。案内されるままに進むと、街の真ん中に豪華で大きな建物が建っていた。街の雰囲気に似つかわしくない、白い豪邸だ。

 鉄柵でできた立派な門があり、その前には2人の門番が居る。その門に近付くと、門番はぎょっとした表情を見せ、体を引いた。その反応は何なんだよ。変な顔していたかな?


 兵士の案内もあったため、何事もなく中に入れた。


「ここが領主館だ。領主様をお呼びする。諸君は玄関ホールで待て」


 兵士はそう言って、屋敷の奥に進んでいった。玄関ホールは20畳くらいの広さで、壁や天井は白く塗られている。教会の玄関ホールに近いが、ベンチなどは置かれていない。そのかわり、置物や絵画で豪華に飾られていた。


「私たちも一緒で良かったんですかね?」


 ルナが不安げに首を傾げながら言う。


「何も言われなかったんだ。いいんじゃないかな」


 何の用か知らないが、1人で来いとは言われていない。注意もされなかった。たぶん問題無い。


「でも、みんなも注意してね。領主館ということは、相手は貴族よ。特にリーズ! 勝手に動いちゃダメだからね!」


 クレアが難しい顔で言うと、リーズは不満そうに頷いた。名指しで注意されたことが納得できないようだ。しかし、リーズだからなあ。何をするか分からないんだよ。問題が発生したら逃げよう。最悪、この屋敷を燃やす。




 少しの間をおいて、奥から人影が見えた。


「ン呼び立てて悪かったねェ」


 ねちっこい口調の声が聞こえる。どこかで見たような顔だ。


「あんたは……」


 クレアが俺の横っ腹を『ドン』と叩く。加減してくれているが、痛い。言葉を改めろという意味かな。


「ン良いィ。冒険者に礼儀は求めぬよォ。楽にせェ。

 また会ったなァ。バルーチ領主のオマリィだァ。ここで立ち話というわけにはいかぬゥ。こっちへ来いィ」


 この喋り方、気持ち悪いんだよな。ねちっこいうえに抑揚が無いから、ちょっと不気味だ。

 この人は、骨董市でアホな冒険者を連行した貴族だ。アホが何か問題を起こしたのかな。それなら俺達は参考人だ。それとも、無詠唱魔法の事か。そうだとしたら、かなり面倒だぞ。



 応接室のような豪奢な部屋に通され、ソファに座るように言われた。担いだ荷物を下ろし、並んでソファに座る。すると、メイドのお姉さんから人数分のお茶が差し出された。


「あの……コーさん……」


 ルナは不審そうな顔をして、耳元で注意をうながす。それに「わかっている」と返した。

 この部屋には、防音の魔道具が使われている。ミルジアでは魔道具の使用が自粛されているはずなのに。

 これは法律ではなく、戒律だ。魔道具を使っていると、教会から文句を言われる。戒律に反するとして、審問に掛けられるそうだ。


「フンムゥ。やはり気が付いたようだナァ。察しの通り魔道具を使っておるゥ。他言はせぬようにィ」


 オマリィは、ピンと伸びた髭を撫でながら、口角を上げて言う。


「いいのか?」


「お主らにも秘密があるだろォ。お互い様だァ」


 オマリィは、「くっくっくっ」と笑いながら言う。意外と話せる人みたいだ。どうやら俺たちの事情に踏み込むつもりは無いらしい。


「それで何の用なんだ?」


「お主の魔法だァ。そォれについて話が聞きたいィ。お主らはァ、魔族と関わりがあるのかァ?」


「全く無いな」


 魔族とはな。エルフとならあるんだけどね。魔族じゃないから。


「フンムゥ……聞き方を変えよォォ。お主らはァエルフと関わりがあるのかァ?」


「うん? あんた、何を知っているんだ……?」


 オマリィは不敵な笑みを浮かべてこちらを睨んでいる。

 エルフと魔族が同一の存在だということは、エルフの魔道具を研究している一部の人だけが知っていることだ。今の口ぶりだと、そのことを知っているように聞こえる。


「ン察しの良い人は良ィぞォ。話が早いィ。私はエルフの魔道具についてェ研究しておるゥ。もちろん秘密裏にだァ。

 まずはこれを見ろォ」


 オマリィはそう言って、数枚のB5サイズの木の板を机に並べた。そこには、俺達の似顔絵が書かれている。

 いや、似顔絵と言うには精巧過ぎる。モノクロだが、まるで印刷したみたいだ。兵士が驚いたのは、これのことだろう。人相書きが似すぎていたんだ。手書きでは有り得ないほど似ている。


 驚く俺たちを尻目に、オマリィは得意げに話を続けた。


「素晴らしいだろォ。目に映る景色をォ瞬時に切り取る装置だァ。妻の実家で見つけたァ。

 我が息子は『かめら』と呼んでおったがナァ」


 可動品のエルフの魔道具かよ。国宝級だぞ……。って言うかカメラ? その呼び方はこの世界の物じゃない。


「ちょっと待ってくれ。息子というのは何者だ?」


「フンムゥ……。この素晴らしい絵画よりも息子が気になるのかァ。

 まァ良いィ。側室の子で六男だがァ最も優秀な子供だァ。民の間では神童と呼ばれておるゥ。後ほどォその息子にも会ってもらいたいィ」


 益々怪しいぞ、その子ども。素性がはっきりしているから、使徒ではないことは確かだ。話がわかる貴族の末弟として生まれた? 転生知識チートの定番じゃないか。転移があるなら転生があってもおかしくはない。

 この人は会わせたいみたいだから、好都合かな。何者か確認しておきたい。


「了解だ。楽しみにしておくよ。それで、あんたの用は? 魔法についてだったら、詳しくは話せないぞ?」


「それは息子の用だァ。息子の話を聞いてやってほしイィ。以前からァ、魔族の魔法を使える者が居たら連れてくるようにィ頼まれておったァだけだ。

 私は、君が骨董市で買ったァある物を譲ってほしいのだァ。『りぼるばぁ』という物だァ。言い値で買うぞォ」


 オマリィは、真剣な顔つきで身を乗り出して言う。あんなガラクタが欲しいの? 魔道具でもない、ただの置物なんだけど……。


「なぜあんな物を欲しがるんだ? 言っちゃあ悪いが、あれはただのゴミだぞ?」


「ゴミだァなんてとんでもないィ! あれは、私が若い頃に活躍した『最強の使徒』がァ研究していた新しい武器だァ。とても強くゥ……そして戦う姿は美しかったァ……。この世界に居るうちには完成しなかったがァ、私と息子がその研究を引き継ぐゥ」


 オマリィは、遠い目をしながら言う。『最強の使徒』とやらに憧れを抱いているようだ。

 あれを武器だと認識しているのか。息子が転生者だと仮定すると、本当に完成させる可能性があるな。渡してもいいものか、判断に困る。

 この辺りの気候や環境を考えると、硝石は豊富に採れると思う。硫黄や木炭もありふれた物だ。黒色火薬が作れてしまう。万が一量産できてしまうと、この世界の勢力図が塗り替わるぞ。


「そういう理由だとなあ……悪いけど、慎重にならざるを得ない。息子とやらに会ってから、決めさせてもらいたい」


「ねぇ、ちょっと。渡しちゃいなさいよ。貴族の権力を使われたら面倒よ?」


 クレアが肘で俺を突付きながら小声で言う。


「心配には及ばぬゥ。どォやらお主もあの道具の価値にィ気付いとるようだナァ。無理にとは言わんよォ。

 ンまァ、良い返事を期待しておるゥ」


 オマリィは、腕を組んでソファの背もたれに体重を預けた。

 俺は価値には気付いていないぞ。本気でゴミだと思っている。ただし、これが動くようになったら話は別だ。

 銃と魔法が対決したら、たぶん勝つのは魔法だ。しかし、魔法には厳しい訓練があるうえに、個人差が激しい。集団戦になれば、誰にでも扱える銃に軍配が上がるだろう。完成したら戦争専用の武器になる。誰も幸せにならないなら、俺がそっと握りつぶした方がいい。


 まあ何にせよ、謎の息子に会ってからだな。もし戦争大好きっ子だったら、目の前で破壊してやろう。

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