表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
15/317

計算通り……ニヤリ(やりすぎ)

「よく貰えましたね、それ」


 ルナは、感心した顔をしながら腰紐に通したマジックバッグを見て言う。


「ここ数日、そのために動いていたからね」


 最後のトドメが上手く行き過ぎた感が否めないが、おおよそ計算通り。

 フィリスがやらかさなくてもマジックバッグを手に入れる方法は考えていた。

 実際は借りるだけでいいのだから、『見識を広めて王城に帰ってくるから』とか、『王城の皆にお土産を買ってきたいから』とか言い訳はいくらでもできる。


 最悪、魔導院の誰かに頼んで一つ貰っても良かったんだけど、さすがに高価だからね。遠慮したよ。




 城門に差し掛かると、リア充が立っていた。


「ごめん、コー。何も知らなかった」


「おう。悪かったな。いろいろ利用させてもらった」


「利用?」


「ああ。倉庫の件も、今日の件も。おかげで最大の収穫だったと思うよ」


 そう言ってぽんぽん、と笑顔でマジックバッグを叩く。


 大量の物資もマジックバッグも、ほぼフィリスのおかげだ。しかし、たぶん教会の立場は相当悪くなるだろう。


「ほんとにごめん……」


 一条さんが猫に睨まれたネズミのように怯えながら謝ってくる。これは俺のせい。威圧の調整がうまくいかなかったんだよ。


「いや、こちらこそごめん。さっきの威圧は演出だから。

 本当に怒っていたわけじゃないよ」


 これはフィリスとその他神官の勘違いを是正するための演出。たぶん二度と関わってこないと思う。


 正直、やりすぎた。いずれは教会と和解したいな。


「でも……。何も知らなかったから……」


「それを利用したんだって。そのおかげでいろいろ手に入った。

 だから二人が気に病む必要は無いよ。できれば、でいいんだけど、フィリスさんのことも庇ってやってくれないか」


「いいのか? 僕たちは本当に感謝しているんだけど……。コーは違うよね?」


「そうだな。微塵も感謝していない。でも、情報収集のために教会から離れすぎるのは良くない。

 それに、フィリスさんは何故あんな態度をとったのかもわかっていない。何か事情があったかもしれないしな。

 俺は全く世話になったとは思っていないが、恨んでいるわけでもない」


「そっか……。じゃあ、あたしたちから世話係を続けられるようにお願いしてみるね」


 二人はフィリスに本当に感謝しているみたいだ。悪いやつではないんだろうな。頭は悪いかもしれないが。


「頼む。それから、しばらくは王都に留まって冒険者をしていると思う。

 時間があれば情報交換のために会おう」


「いいのか? 助かるよ」


「ああ。それじゃあ、遅くなるから行くよ」


 そう言って、王城の正門を潜り、王都に入る。




 王都は王城を取り囲むように広がっていて、南側に正門がある。王都との行き来はこの門から行う。


 早朝訓練で出入りする門は王城東側にある。この門は長い通路になっており、直接王都の外に出る構造になっている。


 そのため、王城は王都の中心ではなく、東寄りに建設されている。王城の東側には居住区が無く、兵営や訓練所などの軍事施設が集中している。


 王都の外周は石の防壁で囲まれており、王都の人口は約20万人だそうだ。


 嘘だろ? って思ったんだが、土を石に変える魔道具のおかげで防壁は簡単に建設できるようだ。街道に使われている石畳もそうやって作ったらしい。


「お話はもう良いんですか?」


 後ろでおとなしくしていたルナが声を掛けてきた。

 あの二人とルナは面識無いんだよな。というか、宮廷魔道士の全員が、深く関わろうとしていない気がする。

 魔法教官のリリィさんですら、訓練の時以外は顔も合わせようとしなかった。俺とは仲が良いんだが。


「うん。どうせまた会うしな」


「そうですか。では、さっそく冒険者ギルドに行きましょうか」


「ちょっと待って。その前に、宿に行っておきたい」


「え? 宿……、ですか? もう?」


 ルナが顔を赤くして聞き返してきた。もう? って何?


「いや、さすがに王都の中でテントを張るわけにもいかないし、泊まる場所は確保しておきたい。

 あと、相場も。セキュリティが崩壊してるような安宿は勘弁だし、そこそこしっかりした宿に泊まりたい」


「あ……。そういうことですか。一番安い宿は銀貨2枚くらいです。個室は無くて、数人で同じ部屋に泊まります。

 大銀貨1、2枚あれば個室の宿に泊まれます。貴族の方が泊まるような宿ですと、金貨5枚は掛かりますね」


 パンを基準に考えるとやや高いかな? 旅のハードルが高いから需要が少ないのだろう。


 銀貨2枚の安宿は論外。治安の良い地域なら問題ないが、わからない土地で他人と寝るのはリスクが高すぎる。

 朝起きたら荷物が消えていました、ということも十分にあり得る。地球でもそうなのだから、こっちでは尚更危険だ。


「へぇ。よく知っているね。じゃあ、個室の宿に行こうか」


「わかりました。いくつか候補がありますけど」


「二人でゆっくり話ができる所がいいかな。できれば防音がしっかりしてるといいんだけど」


「え? あ、はい……」


 ルナの顔が真っ赤だ。どこに恥ずかしい要素があったのだろうか……。


「待ってくれー!」


 歩き出そうとした時、聞き覚えのある声が響いた。


「コー、ちょっと待って!」


 振り返ると、ギルバートが居た。


「何だよ。急ぐからすぐ行くぞ」


「いや、王様から任命証を受け取ってきた。おまえのだよ。何したか知らんが、俺よりも上の身分になったみたいだな」


 そういえばそうだった。気にしてないから忘れていたが、なぜか王直属の何かになっていたんだった……。


「そうみたいだな。わざわざ持ってきてくれたか。悪いな」


「確かに渡したからな。引き止めて悪かった。じゃあ、戦場でまた会おう。ハハハ」


 ギルバートはアメリカンに笑いながら去っていった。変なフラグ立てるなよ……。


 渡された物は、週刊誌ほどの厚さのある書類の束だ。


 中身は、教会の戒律が書かれた経典と、この国の法律が書かれた書類。そして任命証。法律を守れという命令だろう。


 転写機も同梱されていた。A4サイズ程の黒板のような板だ。ここに何かを書き込むと、ペアになっている転写機にも同じ物が現れる、という魔道具だ。


 メールというか、掲示板のようなものだな。




「ずいぶんと仲が良いみたいですね?」


 いたずらっぽく聞いてきた。BLじゃないよ! 腐った妄想しないでね!


「そうだね。こっちに来てからずっと一緒に訓練しているからね」


 あいつは気が付いたら俺専属の案内係になっていたからな。


 ルナの「ちょっと、羨ましいです」という小さな声の呟きが聞こえた。羨ましい? あいつに羨ましい要素など無いぞ。


「じゃあ、気を取り直して。行こうか」


「はい。案内します」


 王都内はかなり広い。徒歩だと時間が掛かりそうだ。王都内では無数の辻馬車が走っており、一人銀貨1枚で乗れる。馬車で移動することにした。




「結構揺れるね」


「そうですね……。辻馬車は高性能な馬車が使われるので、比較的揺れは少ないのですが」


「サスペンションっていう、揺れを防止する装置があるんだけど、作ったら売れないかな?」


「いえ、もうありますよ? この車体には、革製の吊り下げ式サスペンションが使われています」


「あるの? 革じゃなくて、金属製だと?」


「金属サスペンションもありますが、重すぎて馬車には使えません」


「まじかー。異世界テンプレなのに……」


「てんぷれ? って何ですか?」


「いや、向こうの世界の話。定番みたいな意味だと思って」


 いざテンプレを説明するのって難しいな。しかし、サスペンションはもうあるのか……。残念。




「なあ、もし俺が居なかったら、宮廷魔道士を辞めて何をするつもりだったんだ?」


 馬車移動。何もすることがないので、気になっていたことを聞いてみた。


「魔道具工房を開くつもりでした。そのための蓄えはあります」


「そうか。宮廷魔道士は技術職だもんな」


「いえ、そうでもないんです。魔道具の作成手順はわかりますよね?」


 王城に居た時、嫌ってほどやらされた。


 まずは形を作る。鞄であったり、指輪であったり。普通の物とは材料も手順も違うので、魔道具専用の作り方がある。技術が問われる。


 次に、魔法陣と紋章を書き込む。彫り込みであったり、焼印であったり。知識が問われる部分だ。


 最後に、エンチャント。魔力を流して定着させる。なかなか膨大な魔力が必要になる。主に俺がやらされた作業だ。


「ああ。わかるぞ」


「魔導院では、得意な工程だけを求められます。ですから、苦手な工程はほとんどできません」


「そうなの?」


 確かに、完全に分業したほうが効率が良い。市井の職人はすべて一人でやるのだろうが、多人数なら分業になるな。


「私は、魔法陣と紋章の専門ですので、道具の形を作ることができません。エンチャントは多少できるのですが……」


「なるほどね。ギルドで仲間を募るとかできないのか?」


「ギルドでそんなこと言ったら、宮廷魔導士になれ、と言われて笑われます」


 嫌味だな。宮廷魔導士になれるほどの実力も無いくせに、苦手なことから逃げてんじゃねえよ、という遠回しな批判だ。


「そうかぁ。でも、そういう職人見習いは多そうだね」


「そうですね。それで諦める方も多いと聞きます」


 これは狙い目かもしれないな。形を作る以外のことができない奴を見つけられれば、魔道具作り放題になるじゃないか。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

第二章が始まります。

これからもまったり進行します。

さっさと旅に出たいのですが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ギルバートはアメリカンに笑いながら去っていった」 アメリカンな笑い?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ