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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第八章 異世界放浪の旅
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試験

 朝の鐘が鳴り、準備をしてアレシフェの冒険者ギルドに来た。

 一夜漬けは万全だ。よく漬かっているぞ。忘れないうちに試験を受けたい。カウンター係は年配の男性だ。引退した冒険者なのか、歳の割に筋肉が凄い。


「やあ。冒険者の昇級試験を受けたいのだが、いいか?」


「いらっしゃい。昇級試験ね。推薦状はあるかい?」


 正規のルートで試験を受ける場合、ギルドの推薦状が必要になる。俺たちは特例なので、そんな物は持ち合わせていない。でも、話は通っているはずだ。


「国からの特別試験だ。王都から連絡が来ていると思うが」


 カウンター係に身分証を渡すと、難しい顔で手元の資料と見比べる。


「えーと……コーさんと、その御一行様だね。聞いているよ。よく来たね」


 無事資料を発見したらしい。笑顔で歓迎された。


「ああ。よろしく頼む」


「えー……パーティ名は『コーさんと愉快な仲間たち』で良かったかな?」


 良くねえ!


「待ってくれ。何だ、その絶妙に恥ずかしい名前は」


「未設定だったから、ギルドの標準名になっているのだよ。気に入らないなら、『コーちゃんとビューティ・エンジェル』という名も……」


「もっと酷い!」


「女性パーティ限定の標準名なんだけどねぇ。意外と人気だよ」


 どこで人気なんだよ。デフォルト名が酷すぎる。もう少し何とかならなかったのかよ……。逆に男性パーティ限定の名前も気になるわ。

 しかし、女性限定ってハーレムパーティにも適用されるんだな。


「ちょっと考える。待ってくれ」


 いざパーティ名を付けるとなると、迷うな……。前にも一度パーティ名を付けるように言われたが、そのまま忘れていた。

 レイモンド(髭おっさん)のパーティは『鋼鉄の斧』だったかな。若干恥ずかしいけど、こんな感じで付ければいいのかな。あいつ、大剣使いなのになんで斧なんだろう。


「ねぇ、無理して今付けなくてもいいのよ?」


 無言で考え込む俺に、クレアが声を掛ける。


「そうなの?」


「試験中の呼び名だから。仮の名前で登録しておけばいいわ」


 あ、話の流れで騙されていた。昇級試験とパーティ名は無関係だ。そもそもパーティ名は任意だから、付けたくなければ付けなくても良い。もちろん、後から変更することもできる。今は仮名で十分だな。


「そういうことだから、標準名にしておいてくれ」


「承知した。では、『コーちゃんとビューティ・エンジェル』という名で」


「なんでそっちなんだよ! 愉快な仲間たちで頼む」


 今、カウンター係が持つ資料がチラッと見えた。男性向け標準名は、『(おとこ)筋肉祭(きんにくまつり)』だった。最悪だ。もし男性だけのパーティだった場合、『コーと漢の筋肉祭』というパーティ名にされていたのか……。



「では手続きをしよう。受験ランクはAランクだったね」


「は? いやいやいや、Bランクで頼んだはずだが……ちょっと見せてくれ」


 カウンター係が手にした資料をひったくり、内容を読む。

 そこには、『受験ランク:A』『戦闘評価:B』と書かれている。AとBが逆じゃないか。

 エリシアさん、書き間違えたな……。話をしながら書いていたから、ちょっと心配だったんだよ。俺たちの戦闘評価は『A』だと言っていたから、書き間違いで間違いない。


「え……どうしましょうか……。変更できますか?」


 ルナが資料を見て驚き、心配そうに呟いた。


「すまんな、嬢ちゃん。これで受理しているから、今更変えられない」


「ギルドの受付の書き間違いみたいなんだが、それでもダメか?」


「ふむ、それなら変更できるが……。

 一度ギルド本部に差し戻し、再度申請書を書き直す必要があるぞ。受験は来月になるだろう」


 くそ。こんな所でもお役所仕事か。面倒だな。


「仕方がない、このまま受けよう。なるようになるだろう」


 ダメなら正規のルートで受け直せばいい。どうせ降って湧いたチャンスだからな。無くなっても惜しくはない。


「そうね……。望みが無いわけじゃないわ。受けてみましょう」


 クレアが決意した様子で小さく拳を握った。

 幸い、筆記が0点でも不合格とは限らないそうだ。その分、実技で挽回すればいい。まあ、実技のハードルが上がるんだけどな。


「変更しなくてもいいんだね。

 では手続きをしよう。今回はパーティで?」


「そうだな。パーティで頼む……あ、すまない。ちょっと待ってくれ。試験を受けている間に査定を頼む」


 うっかり忘れるところだった。昨日討伐したグリーンブルを渡す。


「さすがだな。Aランク試験を受けるだけあるよ」


 カウンター係はしきりに感心していたが、この程度なら普通のことだよなあ。傷が少ないからかな。1匹を除いて、程度は良好だ。



 手続きが終わり、試験が開始された。まずは筆記試験だ。パーティで受けると言っても、筆記は個人。会議室のような部屋に通され、それぞれに問題用紙を配られた。


 内容は思っていたよりも難しい。Aランクだから仕方がないか。法律とギルドのルールは問題無いが、やっぱり建築だよなあ。どこの村で産出された土が適しているとか、全くわからない。地名を出されても全て初耳だよ。

 武器や戦術についての設問は皆無だった。模擬戦があるというので、実際の動きを見れば良いということなのだろう。



 筆記試験が終わると、リーズがシュンとしながらトボトボと歩いてきた。


「どうだった?」


「うーん、ぜんぜんダメー」


 だろうね。仕草でわかるよ。リーズは法律と薬草と建築が苦手だった。要するに、ほとんどダメ。実技で頑張ろう。


「結構難しかったわ。実技、頑張んないとね」


 今回の試験は、クレアでも難しかったらしい。

 ルナも険しい顔で「うーん」と唸りながら来た。成果は芳しくないようだ。リリィさんだけはなぜか笑顔。手応えがあったのかな。


「調査員の試験とよく似ていたよ。意外と簡単だったね」


 そういえば、リリィさんはクソ難しいと評判の国家資格を持っているんだった。なんというか、リリィさんが賢いって、ちょっと意外なんだよな。普段の行動が脳筋だから。



 次は模擬戦だ。カウンター係に言われるがまま、ギルドに併設された訓練場に行く。見た目は普通の運動場だ。そこには、ロングソードを携えた冒険者風の男が、直立で待機していた。背筋を伸ばして後ろで手を組み、軍隊スタイルで指示を出す。


「私はパーティ『コーさんと愉快な仲間たち』の昇級試験の試験官を務める、シュアンだ!」


 男は直立不動のまま大声を出す。俺たちの返事を待たず、説明を続けた。

 その恥ずかしいパーティ名を叫ばないでくれ。


「これから1対1の模擬戦を行う。と言っても、君たちの戦闘評価が適正かどうかを確認するだけだ。これによって合否が決まることは無い。気負う必要はないぞ。

 武器は、刃が付いていなければ何を使ってもいい。持っていなければ貸し出す。

 救護係の治癒魔法使いも待機している。安心してかかってきなさい」


 試験官の後ろには、軽装の男が控えている。彼が治癒魔法使いなのだろう。

 ギルドの戦闘評価は、討伐した魔物で判断している。それには魔法や罠も含まれるので、単純な戦闘能力ではない。合否に関係なくても、模擬戦は個人の力を見極めるためには必要なことだ。


「あたし! あたしやりたい!」


 リーズが満面の笑みで鉄の棒を振り上げた。試験で鬱憤が溜まっていたのかもしれない。

 せっかくの立候補だ。リーズに一番手を任せよう。昨日のうちに非殺傷武器を準備している。リーズの武器は鉄の棒だ。


「さあ、いつでも良い。かかってきなさい」


 合図もなく、模擬戦は始まった。リーズが勢いよく踏み込み、牽制の一振り。が、クリーンヒット。試験官は転がっていった。

 救護係が即座に駆け寄り、治癒魔法を掛ける。


「……合格!」


 試験官はすっくと立ち上がり、手を挙げて叫んだ。


「これで良かったのかなぁ?」


 リーズが不思議そうに首を傾げている。本当に良かったのかなあ。俺も不思議だ。



「え……と、君たちは戦闘評価がBだと聞いているのだが?」


 試験官が不安そうに問いかけてきた。


「それ、書き間違いなんだよ。俺たちの戦闘評価はAだそうだ」


「なるほど、承知した。では次の者!」


 試験官の顔つきが変わった。真剣な眼差しでこちらを睨み、威圧感が膨らんだ。どうやら本気になったようだ。



 次の相手はルナ。少し不安げな表情をしているが、まあ大丈夫だろう。ルナの武器は、短い警棒が2本だ。


「では、行ってきますね」


 救護係が開始の合図をする。

 試験官が合図と同時に距離を詰める。ルナはすかさず躱し、眉間と首元に警棒を当てた。勝負アリだな。


「ご……ごぉかく……」


 試験官は冷や汗をかきながら、小さな声で呟いた。ルナも合格らしい。合格ってなんだ? 戦闘評価の確認をするだけだよなあ。



 次はリリィさんだ。俺達の中で、戦闘経験が最も浅い。ただ、宮廷魔道士時代から結構な武闘派だったみたいなんだよな。

 開始の合図があったが、両者睨み合ったまま動かない。牽制しあっているようだ。


 先に動いたのは試験官。ロングソードを中段に構えたまま、勢いよく距離を詰めた。試験官が振りかぶる。リリィさんは振り下ろされる剣を避けた。しかし、それはフェイントだ。方向を変えた剣が、横薙ぎにリリィさんを襲う。

 胸に当たる、という瞬間。『ガチィ!』と金属音が鳴り響き、リリィさんの拳が剣を弾いた。メリケンサックだ。バランスを崩した試験官の顔面に、リリィさんの拳がめり込む。


 試験官はその場で崩れ落ちた。救護係が治癒魔法を掛けると、何事もなかったかのように立ち上がり、服についた土を払った。


「……見事だ! 合格!」


 だから合格ってなんだよ。合否関係無いって言ったじゃん。



 次はクレア。落ち着いた様子だ。安心して見ていられるな。逆に、試験官には焦りが見られる。緊張した面持ちで、剣を構えた。

 開始位置につくと、試験官は開始の合図を待たずクレアに突撃した。クレアはまだ武器を構えていない。完全な不意打ちだ。剣の軌道はクレアの肩を捉え、鋭い一撃がクレアを襲う。が、クレアは片手で受け止めて押し返した。


「ちょっと、それは卑怯なんじゃない?」


 クレアが不機嫌そうに言いながら、剣の先をガッチリと掴む。力比べだな。握った剣を押し込むと、試験官はたまらず膝をついた。


「合っ! 格っ!」


 息も絶え絶えに合格を宣言した。終わりってことでいいのかな?

 クレアは「フンッ」と鼻を鳴らして踵を返した。ちょっと怒っているみたいだな。後で宥めよう。



 満を持して俺登場。俺を最後にする理由は無いのだが、リーズが一番手になったので、いつもの隊列の順番になった。

 刃が付いていない短剣をブンブンと振り回す。ちょっとした準備運動だ。


 試験官から、より一層強い威圧感が飛ばされてきた。この動作はグラッド教官も毎回やってきている。模擬戦の礼儀なのかもしれないな。俺もやっておこう。

 気絶しない程度に威圧感を飛ばす。ちょっと怖いかな? くらいのつもりで。


「よし、やろうか」


 試験官を見ると、真っ青な顔でこちらを見ている。


「合格!」


 いや、戦っていないぞ!


「何でだよ。せっかく準備したんだ。やろう」


「勘弁してくれ……」


 試験官は足をガクガクと震わせながら言う。

 威圧が強すぎたのかな……。威圧は戦闘を回避するために必要なことだと教わったが、模擬戦を回避するつもりは無いぞ。まあ、終わりならそれでいいんだけど。



 試験官が模擬戦の終了を告げたので、ギルドのホールに戻る。次は実技試験だ。試験官はトボトボと歩き、筆記試験が行われた部屋に入っていった。俺たちもそれに続く。

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