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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第七章 神と教会
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密談

 アルコイの宿屋で朝を迎えた。

 昨晩久しぶりに部屋着に着替えて気が付いたのだが、アレンシアがクソ寒い。

 俺たちが普段着ている服は、温度調整の機能が付いているので気温の変化に気付かない。テントで寝る時に部屋着に着替えるのは、エルフの村に居る時だけ。外で寝る時は安全のために部屋着に着替えないので気が付かなかった。


 走っている時に顔に当たる風の冷たさで気付いてもいいと思うのだが、身体強化は寒さにも強くなるらしい。寒さを全く感じなかった。


 エルミンスールは普通に暖かかったので油断していた。どうやらエルミンスールでのんびりしている間に冬になっていたらしい。帰りは東の森を抜けていないので、紅葉の具合も見ていない。

 思い返してみれば、木の葉が落ちていたような気がしないでもない。薪を拾っている間に気付けよ、自分……。


 まあ、 寒いと言っても雪が降るような寒さではない。ギリ暖房が要らないくらいの寒さだ。これから本格的に寒くなるのだろう。薪ストーブが活躍するな。



 アルコイから王都までは、急げば半日掛からない。昼前には王都に到着し、軽食を食べて王城に行った。

 いつものように城門は素通りだ。外から王都に入る門の方が、まだチェックが厳しいぞ。あっちもザル警備だが。


 今日は真っ直ぐ謁見の間に進む。ギルバートや他のグラッド隊に見つかると、話が長くなる。さっと済ませて帰りたい。


 謁見の間の番人に声を掛けると、いつもとは違う通路に案内された。謁見の間に通されると思ったのだが、向かった先は謁見室の奥にある小部屋だった。豪華なソファと机が置かれた、応接室のような部屋だ。いや、社長室かな。部屋の主の椅子が最も豪華だ。

 豪奢なローブのような服を着た6人のおっさんたちに囲まれ、ソファに座るよう促された。


「どうしてこんな部屋に?」


「ここは王の休憩室である。正式な謁見の前に、打ち合わせをしたいとおっしゃられたのだ」


 一際豪奢な服を着たおっさんが言う。

 たかが冒険者の謁見に、いったい何の打ち合わせが要るというのか。あ、この部屋だと自由に逃げられないな。面倒なことを言い出さなきゃいいんだけど……。


 ソファは10人分用意されている。周りのおっさんは立ったままなので、俺たち全員が座っても怒られないだろう。

 ルナが俺の左に、右にはクレアが座る。リリィさんとクレアがリーズを挟み、リーズの動きを封じた。リーズの自由行動を防ぐために編み出した陣形だ。俺が王と話をしている間に、何をするか分からないからな。



 まだ王はこの部屋には現れていない。王を待つまでの間に、メイド服の若い女性がお茶を持ってきた。何度か会ったことがある人なのだが、場所が悪いのだろう。何も言わず、すぐに立ち去った。ここは下っ端が雑談していい部屋ではない。

 しばらくこの世界の文化に触れ、何が良い物かの判断が少しだけできるようになった。その勘が言っている。周りのおっさんたちは金持ちで、この部屋の調度品は高い。汚したり壊したりしないように気を付けよう。



 しばらく待っていると、部屋の扉が静かに開く。すると、おっさんたちが一斉に姿勢を正した。王が来たのだろう。


「待っておったぞ」


 王がそう言いながら上座の豪華なソファに腰掛けた。待ったのはこっちなんだけどなあ。いや、長いスパンで考えると、王の方が待っているか。


「打ち合わせと聞きましたが、なぜそんな物が必要なんですか?」


 とりあえず本題を切り出そう。変な雑談をして、この王にスキを見せるのは良くない。


「うむ。2、3確認したいことがあったのだ。まずは、もうすぐ任期が満了するのだが、継続で良いか?」


 調査員の話か。あまり仕事をしていないんだけど、いいのかな。まあ無報酬だから、国としてはいいのかもしれない。

 俺としては継続で問題無い。気付いたことを言える範囲で報告するだけの、簡単なお仕事だ。報酬は王城フリーパスだな。なぜか城門を素通りできるのだが、よく考えられた身分だ。門番も俺の身分を知っているので、確認する必要が無い。

 王城フリーパスは地味に役立っているんだよなあ。兵士の詰め所に行ったり、魔導院に行ったり。王には会っていないが、王城には何度も訪れている。


「ええ。今のような形でいいのなら、継続します」


「良きに計らえ。今後も変化があれば報告するように」


 王は偉そうな言い方をするが、実際に偉い人なので仕方がない。

 そういえば、まだ盗賊の件を報告していないな。盗賊討伐は兵士の仕事なので、冒険者ギルドだと二度手間になる。ちょうどいいから今報告しておこう。


「ついでなので報告しておきます。南の方角で盗賊らしき人を発見しました」


「ふむ……確認に向かおう。場所はどこだ?」


 盗賊が場所を説明する必要があるのだが、困った。越境許可証を貰っていないから、ミルジア方面に行っていた事がバレると拙い。マップの魔道具も、軍事転用されたくないから言えない。

 マップとミルジアを伏せつつ、上手いこと説明した。……クレアが。俺は地理をよく分かっていないから、この辺りを伏せると上手く説明できないんだよ。


 後ろに突っ立っているおっさんの1人が、熱心にメモを取っていた。すぐに調査が始まるだろう。


「承知した。報酬は冒険者ギルドで受け取るように」


 報酬は辞退するつもりだったのだが、勝手に話が進んでしまった。拒否するのもおかしいよな。貰えるなら貰っておこう。


「ありがとうございます」


「それで暴徒鎮圧戦参加の報酬であるが、其方は爵位も土地も要らぬのだったな。気変わりは無いか?」


「ありません。どちらも辞退します」


「ふむ、それなら仕方がない。冒険者徴用の報酬を出そう。これも冒険者ギルドで受け取るように」


 金で解決か。貸しにしておいた方が気が楽だったんだけど、上手く躱されたな。まあ、損はしないだろう。


「わかりました」


「それから、其方らは冒険者であろう。特例で昇級試験を受けることを許可する」


 うん? 普通のことだよな。冒険者なら誰でも通る道だぞ。


「何が特例なのでしょうか?」


「AでもBでも、好きなランクを選べ。相応の試験を受けてもらうが、受かれば一気に昇級できるであろう」


 良いのか悪いのかよく分からないな……。分不相応のランクだったら、試験に受からないだろう。段階をスキップできるのは有難いが、自分に相応しいランクがわからない。


「悪い話じゃないと思うわよ。アンタなら、Bランク試験でも余裕で受かると思うわ」


 クレアが俺の耳元で囁いた。俺がBランクなら、全員Bランクでもいいような気がするな。それぞれ一長一短があるが、みんな得意分野なら俺よりもできる。

 受けるだけ受けてみるか。


「ありがたく受けさせていただきます」


 一応受け入れたけど、この王のことだ。何か裏があるに違いない。用心しておこう。


「うむ。詳しくはギルドで聞け。

 この後、教会からも使者が来ることになっておるのだが……」


 さっそく来たよ。きっと交換条件だ。本当に油断できない人だな。


「お断りします」


「む……断ってくれるか! その調子で頼む。教会から何を要請されても断ってくれたまえ」


 何か知らないけど喜ばれたぞ。


「どういうことでしょうか?」


「実は今、教会の中では其方を使徒として扱う動きがあるのだ」


 うわ、困る! 超困る! そんなことになったらこの国から脱出するよ。

 王も反対なんだな。いや、それは当然か。王からしたら、俺は都合のいい手駒なはずだ。教会に持っていかれるのは面白くないだろう。


「どうしてそんなことに?」


「教会は神託が下りたと申しておったが……。悪いが、余にはそれが信じられぬ。最近の教会は様子がおかしかったが、暴徒の件で確信した」


 クーデターは教会が主導したようなものだったからなあ。教会を信用しろというのが無理な話だ。


「王が断ればいいのではないですか?」


「余の意志では断れぬよ。余よりも神の声が優先されるのだ。後は其方の意志に委ねられる。あくまでも、其方の意志で拒否せよ」


 王は苦笑いを浮かべながら言う。王の口がいつもより軽いな。たぶん非公式な会談だからだ。今の話はプライベートなお願いに近い。

 まあ、これに関しては言われなくても断るけどね。口が軽いついでに、教会の動向を聞いてみよう。


「おかしいというのは、いつからの話です? それに、どうおかしいのでしょうか」


「1年近く前からだな。当時の教皇が、神の声が聞こえないと戸惑っておった。その後、彼は失脚し、神の声が聞こえると言う今の教皇に交代した。その教皇が信用できないのだ」


 時系列を整理すると、俺が召喚される半年くらい前におかしくなって、俺が王都を出てすぐに教皇が代わった。俺が召喚される頃には現教皇が実権を握っていたんだろう。使徒召喚をゴリ推したのもそいつだな。

 クーデターが起きた時の責任者だけど、なんでクビになっていないんだ……。


「その人は暴動の責任を取らされないんですか?」


「うむ。その予定だが、後継が決まっておらぬ。まだ先になるであろう」


 あ、これ有耶無耶(うやむや)になるやつだ。日本でもよく見かけたぞ。何かと理由を付けて、絶対に辞めないんだ。任期が満了しても居座り続けるタイプだぞ。王には頑張ってくれとしか言えないわ。



「ところで、おかしくなった時に死者が出たりとかは無かったのですか?」


「ん? 誰のことだ? 死者が出たという話は聞いておらぬぞ」


 カベルについて探りを入れたのだが、この情報は持っていないのか。それとも、もっと前の話なのかな。元々ゴーストみたいな人だから、存在自体が教会の中で秘匿されていたのかもしれない。


「いえ、それならいいです」


 王から聞ける話じゃないな。教会関係者から話を聞くのが一番だろうけど、俺が知っている教会関係者……全員無理。ちょっとおかしい人しか居ないわ。会話になりそうにない。

 フィリスの上司とかいうおっさんなら、少しは話ができるかもしれない。でもなあ……信用できないんだよ。どうも胡散臭い。


 少しの間思案していると、後ろに立っていたおっさんが王に耳打ちをした。その後ろでは、鐘が音を立てずにゆらゆらと揺れている。外からの連絡だな。話や休憩の邪魔にならないよう、音が鳴らない工夫をしたのだろう。

 おっさんの耳打ちが終わり、王はスッと立ち上がった。


「話は以上だ。枢機卿を呼び寄せておる。

 そろそろ到着する頃だ。其方も通常の手順で謁見の間に入ってまいれ」


 周囲のおっさんたちにも退出を促され、追い出されるように部屋を出た。俺達がこの部屋に居たことを、教会関係者に知られたくないのだろう。

 わざわざ裏口に案内され、一度建物の外に出てから城に入り直す徹底ぶりだ。


 城をグルリと回り込んで、建物に入った。正式な謁見はこれからだ。打ち合わせ済みなので、王の問いかけにハイハイと頷くだけだ。

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