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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第七章 神と教会
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レア素材

 出発の時が来た。カベルが名残り惜しそうに見つめているが、連れていくことはできない。ここに逃げ込んだ意味が無くなってしまう。

 まあ、カベルが名残惜しいのは料理だろうから、気にするだけ無駄だな。


 余分に持ってきた食材の中で、比較的日持ちする物はすべて置いていく。氷室も1つ残し、その中に詰め込んだ。1人なら1カ月くらい持つだろう。その後は自力で頑張ってもらうしか無い。


「じゃあ、俺たちは行くから」


「はい。お気を付けて……」


「忘れ物は無いよな?」


「置いていく物が多すぎて、把握できないわね……」


 持ち物の大部分を置いていく。主にキャンプ用品だ。最初に使っていたティピーテントや、クレアの1人用テントも置いていく。その中に大事な物が混じっていても分からないだろう。

 多少の忘れ物は仕方がない。最悪、装備品さえあれば何とかなる。


「まあ忘れ物があれば王都で買い直そう」


「あ……あの、私のことなのですが、くれぐれもご内密にお願いします。できれば、この地のことも伏せて下さい」


 カベルは別れ際におずおずと申し入れるが、そんなことは言われなくても誰にも言わない。強いて言うなら、エルフの長老には話をするかもしれないな。でもそこから外部に漏れる心配は皆無だ。

 ここまで念を押されると、逆に気になる。でも下手に突付くと、知ったら拙いことまで喋っちゃいそうなんだよな。


 王都に帰ったら、それとなく探ってみよう。カベルが教会関係者であることは分かっているんだ。善と一条さんに、最近の教会の動向を教えてもらえばいい。


「わかっているさ。誰にも言わない」


 挨拶も済んだ。出発しよう。

 余分に持ってきた食料はすべてカベルに渡した。必要最低限の食料と、僅かばかりの非常食を持って帰路につく。アルコイまで、急いで3日くらいだと思う。



 ミルジア領内はこっそりと走り抜ける。越境許可証を持っていないので、兵士に呼び止められると非常に厄介だ。マップと気配察知を駆使して、すべての人間を避けながら走った。

 ミルジアとアレンシアの間にある街道は、全く整備されていない。獣道よりはマシ、くらいのボロボロな道があるだけで、普段は人通りも少ない。しかし今日は、妙に人通りが多い。


「なあ、なんでこんなに人が居るんだ?」


「骨董市の準備が始まっているようだな。

 アレンシアから出店する商人も居るのだよ。おそらく、その商隊だろう」


「なるほどな。王都に帰ったら、越境許可証を貰おう」


「いや、まだ早いだろう。この様子だと、まだ一月(ひとつき)先だよ」


 今許可証を貰ってしまうと、開催を待つ間に期限が切れてしまうな。でも、それは今歩いている人たちも同じなんじゃないのか?


「あの人たちはいいのか?」


「商人ギルドで発行される許可証なら60日滞在できるよ。それに、ミルジアで露店を開くことも許可される」


 冒険者ギルドで発行される許可証は、ただ滞在するためだけのものだ。勝手に店を開くことはできない。その点では商人ギルドの方が得だな。


「それなら、商人ギルドに登録した方が良かったのかな」


「それはやめた方が良いです。無理ではありませんが……」


 ルナに止められた。

 走りながら詳しい話を聞いたので、ざっとまとめる。


 商人ギルドの加入条件は、『仕入れた物を売る』ことだそうだ。毎月の加入料を払えるだけの営業実績が無いと登録できない。『自分で作った物を売る』ではダメだ。それは各職人系ギルドの領分だからだ。


 加入することで得られる主なメリットは、依頼を受けられることと、店を持てること。

 冒険者ギルドと同じように、ギルド経由で依頼が来ているらしい。いつまでに何をどれだけ納品する、みたいな依頼だそうだ。

 店を持つというのは、そのままの意味だ。店舗だけではなく、常設の露店と屋台も含まれる。フリーマーケットのような、その日限りの露店は含まれない。行商人も露店扱いになるそうで、冒険者との線引が曖昧だ。


 冒険者なら誰でも商人の真似事をやっている。誰も商人ギルドに登録しないのは、メリットが必要無いからだな。加入料を取られて損するだけだ。


「なんか、あまり魅力を感じないなあ」


「でも、商人は人気の職業ですよ」


 どこかに定住するなら商人もアリだが、今のところどこかに定住する予定は無い。住んでもいいと思うのは、エルミンスールかな。意外と居心地が良い。でも俺たち以外誰も居ないから、商人にはなれない。



 雑談をしながら国境を飛び越え、アレンシア領内に入った。ここからは無理に人を避ける必要が無い。と言っても、街道で他人に会うと面倒なので、一応避ける。

 ウサギが走り回る草原の真ん中で立ち止まり、野営をすることにした。川も木も無い中途半端な場所なのだが、近くにはちょうどいい場所が無いようなので仕方がない。


「アンタと一緒に居ると、感覚がおかしくなるわね。普通はこんな場所で野営しないわよ」


 クレアが苦笑して言うが、それは俺もわかっている。水と薪が確保できない場所を好き好んで選ぶ奴は、そんなに居ない。

 俺は魔法で水が出せるので、場所を選ぶ必要が無いだけだ。薪の心配はあるのだが、走りながら拾っている。


「人に会わないから、いいんじゃないか?」


「そうですね。これだけ街道と離れていれば、盗賊に襲われる心配もありません」


 盗賊居るんだ……。遭ったこと無いな。面倒な臭いしかしないぞ。今後も街道沿いは避けよう。


「それもそうね。本当はこの辺りは危険なのよね」


 クレアから詳しく聞いた。王都から離れると、盗賊に襲われるリスクが高まるそうだ。特にミルジア方面は下手に兵士を動かせないため、非常に危険らしい。

 盗賊は返り討ちで問題無いのだが、原則生け捕り禁止だ。理由は、移送の道中で逃げられると困るから、そして取り調べをしても何も得られないことが多いからだ。生け捕りにしても即死刑なので、現場で対応した方が早い。


「冤罪になることは無いのか?」


「あるわよ。

 疑われたら身分証を出すの。身分証を持っている相手は殺しちゃダメなのよ」


 盗賊かどうかの判断は、身分証を持っているかどうからしい。都市でまともな仕事をしている人間は、絶対に身分証を持っている。農村で暮らしている人は持っていないが、その人たちは村から出ない。

 まともな仕事をしていない人が、街道で人に襲いかかったら……まあ盗賊で間違いないな。


 街道で知らない商人に会ったら、冒険者の方から身分証を見せるのがマナーらしい。トラブルを避けるためには必要な事だが、やはり面倒だ。商人が居ても無視だな。


 盗賊の首か情報を持ち帰ることで、国から報酬が渡されるそうだ。頭クラスでないとどちらも激安。しかも、冤罪だった場合は、冒険者が罰を受ける。とても割に合わない。もし見かけても、無視して情報を持ち帰るだけにした方がいいだろう。



 盗賊の話をしていたので、どこかで会うのでは、と心配していたのだが、何事も無くアルコイに到着した。会いたいわけではないので、これでいい。


「たぶん居たわよ、盗賊」


「そうなのか?」


「マップに敵対反応の人間が居たでしょ?」


 ここまでの道中は、マップを埋める作業も並行している。そのため、全員でマップを確認しながら走っていた。

 時折、真っ赤に光る反応が数点有ったことには気が付いている。敵対する人間なんて面倒な予感が溢れるばかりなので、徹底的に無視した。


「あれ、盗賊だったのか……」


「場所と人数で推測する限り、盗賊でしょうね」


 今後も盗賊に会うことは無いな。たぶん、今までも知らないうちに避けていたと思う。

 今回の盗賊については、王都の冒険者ギルドに報告しておこう。どうせ報酬は安いだろうから、確認に時間が掛かるなら辞退する。報告先がアルコイではなく王都の冒険者ギルドなのは、王都の方が兵士を動かしやすいからだ。地方のギルドからだと、対応がワンテンポ遅れる。



 さっさと用事を済ませて王都に行きたい。すぐに冒険者ギルドに向かった。

 アルコイの冒険者ギルドでは、いつものカウンター係が熱心に書類仕事をしている。


「いらっしゃいませ。

 あ、ボアの方ですね」


 カウンター係が無表情のまま言う。相変わらず無愛想だな。


「素材の受け取りに来たんだけど、終わっているか?」


「はい。終わっているのですが……」


 カウンター係が歯切れの悪い返答を返す。


「何か問題でもあったのか?」


「職人さんから苦情が来ました。ナイフが何本もダメになったそうです」


 ああ、刃が立たなかったか。だからこそ欲しいと思ったんだよ。普通の刃物ではまず切れない。傷も付かない。普通の魔法も効かないから、魔道具で切ることも難しい。


「だろうな。討伐する時も苦労したんだ」


「どうやって討伐したか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「殴ったんだよ。斬れないし、魔法も効かないから。

 何度もぶん殴るしかなかった」


 金色のボアは初めて出没したらしい。かなりのレアキャラなのだろう。情報が無さ過ぎて、初見で討伐するのは難しかった。リリィさんのメリケンサックが無ければ、討伐を断念したかもしれない。


「なるほどです。今後の参考にさせていただきます。

 それで料金なのですが……」


 たしか金貨10枚という話だった。かなり高いような気がするが、なめし液だけでも相当必要になるだろうから、仕方がないだろう。


「いくらになった?」


「ナイフ代の請求も来ておりますので、合わせて金貨50枚です。いかがでしょうか?」


 めっちゃ高い。見積もりの5倍じゃないか。解体用のナイフは高くても金貨5枚くらいだ。10本近く壊したのか。


「思っていたよりも高いな」


「そうですよね。今回に限り、このままギルドで引き取っても良いです。報酬の金貨120枚はお支払いしますよ」


 カウンター係は無表情のまま言うが、心なしか声色が申し訳無さそうだ。ギルドとしても想定外だったのだろう。


「いや、問題無い。金は払うよ。

 そういえば肉の買い取りはどうなったんだ?」


「金貨30枚くらいになったのですが、加工費用と相殺してあります」


 うわ、相殺して50枚なのか。ということは、加工だけで金貨80枚……。めちゃくちゃ高いな。もしこの素材を店で買ったら、一体いくらになるんだよ。


「まあ仕方がないな。この素材には、それだけの価値があると思うよ」


 金貨50枚を支払い、冒険者ギルドを出た。

 一晩宿で過ごし、明日には王都に行こうと思う。この素材で服を作りたい。いつもの防具屋で仕立てを頼めばいいのかな。



 アルコイの宿でケバブを食べながら寛いでいると、マジックバッグの中で何かがガタガタと暴れた。スマホか転写機だが、この震え方は転写機だな。王からのメッセージだ。

 メッセージを確認する。またしても無意味な文字列がズラズラと並べられて、用件までが長い。時候の挨拶とかどうでもいいから、さっと本題に入ってくれ。


 要約すると、『防衛戦に参加した報酬を渡すから、近いうちに来い』という内容だった。この前は爵位がどうとか土地がどうとか言っていたので、辞退して逃げた。別の報酬を思い付いたらしい。

 しかし、なぜこれだけの用件が1000文字くらいになるんだ? 暗号を疑ったぞ。


 王都に帰ったら、王城に立ち寄ってみるか。

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