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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第七章 神と教会
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女子力

 エルミンスールで予定していた作業の中に、マクハエラの解析と複製の作成がある。剣のようだが魔道具なので、俺達が作成する。

 アレンシアの鍛冶職人が必死で作ろうとしているが、マクハエラは叩いちゃダメだ。プレス加工のような作り方をする必要がある。当然、地球のようなプレス機なんかこの世界には無いので、魔法で対応する。


 過去のエルミンスールには専用の魔道具があったらしいが、ここには見当たらない。そのため、鉄を溶かして対応しようと思う。鉱石から材料を精製する魔法で、玉ではなく剣の形にするだけだ。

 細かい造形まで作るのは不可能だが、ある程度できていれば後はリーズがやってくれる。


「じゃあ作ってみようか」


「待ってくれ。どうせなら金を混ぜないか?」


 リリィさんの提案に乗り、使い道に困っている金をすべて投入することにした。追加の鉱石からも金を取り出し、10%くらいの割合で金を混ぜた。翻訳の指輪は75%くらいが金なので、それと比べると純度が低い。しかし、本来は数%含まれるだけで十分なんだそうだ。指輪の時は金が余っていたので、リリィさんとリーズが調子に乗った。



 形状は伝統に則ってファルカタの形にした。先端に向けて大きく湾曲するデザインだ。資料によると、鍛造で剣を作っていた時の名残らしい。元々は普通の剣だった物を、魔道具に置き換えたそうだ。

 日本人には馴染みが無い形状だが、クレアが使っている様子を見る限り、とてもよく斬れるようだ。片刃の片手剣としては理にかなった形状なのだろう。


 本物のマクハエラは魔道具なので、実は形状は関係無い。ただの棒でもいいくらいなんだ。その場合は『とてもよく斬れる棒』という頭のおかしい武器になる。面白そうなのでいずれ作りたい。


「切断と状態保存、治癒と身体補助。これがマクハエラの効果なのだが、金のおかげでまだ効果が追加できそうなんだ。コー君、何か良い案は無いかな?」


「そんなに余白があるのか?」


 魔道具の機能は、魔法陣を書き込むスペースに依存する。魔法陣を小さく書く以外、機能を追加することはできないはずなんだが……。


「鉄の部分に書き込むのだ。金が混じっていれば、多少強引でも起動できるよ」


 効率が上がる意味はそこにもあるのか。魔道具職人が欲しがるわけだ。高値で取引されるのも頷けるな。

 せっかくだから刀身にもびっしりと書き込んでもらおう。追加する機能は、ブロアとスタンガンと威嚇という俺の定番非殺傷魔法がいいかな。浄化の魔法(エクソーサイズ)も入れよう。


 でも、どうせなら新機能が欲しい。使うのはクレアなんだ。本人の希望も聞いてみよう。


「なあ、クレア。最近何か困ったことは無いか?」


「え……そうね、近頃吹き出物(ニキビ)がね……。油モノが多かったからかしら」


 クレアは髪をかきあげ、額を出す。そこには、白い点が3つほど浮かんでいる。

 武器、関係無いじゃないか……。まあいいか。


 あの後も何度かベーコンを作っている。脂が乗った良い肉を使っているので、確かに脂肪の摂り過ぎかもしれないな。

 だったら、美肌効果か? 新陳代謝を促すような効果なら、肌にも良さそうだ。これなら治癒の応用で可能だろう。


「了解。美肌効果を追加しよう」


「できるんですか!?」


 ルナが勢いよく身を乗り出した。俺に顔を近付け、真剣な眼差しを向ける。


「試してみないと分からないけどな。たぶん効果があると思う」


 もし上手くいけば『持ってるだけで女子力アップ、透き通るような白い肌に!』という怪しい剣が出来上がる。通販番組で紹介されても怪しすぎて売れないだろう。


「それ、私にもください……」


 協議の結果、この効果は全員に渡されることになった。俺たちが普段身につけている腕輪に追記する。シールドの腕輪は細かくバージョンアップしているので、そろそろ追記が限界になりそうだ。

 現在の効果は、俺が使える非殺傷魔法の無効化と耐熱、遭難信号の発信、そして『美肌』。美肌の存在感がヤバイな。美容系の効果をまとめた指輪でも作ろうかな……。



 美容会議を強引に終わらせ、マクハエラの話題に戻す。


「ねぇ、本当にアタシが使ってもいいの?」


 クレアはマクハエラを受け取り、眉間にシワを寄せて不安そうに言う。

 本物のマクハエラは、鉄だろうが石だろうが構わずスパッと両断する。『空間を斬る』という伝説から転移魔法の応用かと思ったのだが、全然違った。仕組みは上手く言えないが、分子の結合を剥がすイメージだ。

 しかしかなり燃費が悪く、長時間使うのはなかなか辛い。

 まだ試作品なので、誰かが使って問題点を洗い出す必要がある。片手剣を使い慣れたクレアが適任だろう。


「最初からそのつもりだっただろう。起動しないと全く斬れないから、普段はいつもの模造品を使ってくれ」


 模造品は、アレンシアでは『マクハエラ』という名称で定着している。どちらもマクハエラという呼び名に変わりが無い。ややこしいので、本物の呼び名を変えることにした。日本で見たファルカタという剣にそっくりなので、そのままファルカタと呼ぶことにする。



 予定していた滞在期間は30日。まだ時間と食料は残っているのだが、やるべきことが終わったので一度王都に帰ろうかと思う。

 金ボアの素材も引き取りに行かないといけない。アルコイ経由で王都に向かう。エルフの村は経由しなくてもいいだろう。特に用は無い。


 出発前に、カベルにだけは声を掛けておいた方がいいな。ディエゴはどうでもいい。

 今日の夕食後の雑談の時間にカベルに報告する。


 最初に朝食を共にした後、カベルは食事の時間になるとしれっと食堂に現れていた。毎回、どこかから見ていたんじゃないかと思うようなジャストなタイミングで顔を出し、当然のように椅子に座って食事をとっている。

 夕食を食べ終え、お茶が差し出されたところで話を切り出す。



「そろそろ王都に帰ろうと思っているんだ。いろいろありがとう」


 俺がそう言うと、カベルは口をつぐんで目に涙を浮かべた。そんなに寂しいのか?


「ご飯……」


 残念。食事でした。

 カベルは図々しいと言うか、食い意地が張っているんだよな。

 当然のように一緒に食事をしていることを疑問に思っていなかったが、ずっと俺たちの奢りだった。今度何かお返しを貰おう。貰える? カベルは何も持っていないんだけど……。

 まあ食事くらいいいか。1人分なら大したことは無い。


「自分で作ればいいだろう。材料なら少しくらいは残していってもいいぞ」


「いえ、道具もございませんし……」


 この宮殿には食堂や調理場が無い。俺たちは適当な部屋に調理器具を持ち込み、勝手に『食堂』と言い張っている。換気扇など無いが、そもそも窓がはまっていないので、煙もさほど気にならない。


「昔はどこで食事を作っていたんだ?」


「ここに併設されていたようです。戦争の時に真っ先に狙われて、食料庫と共に破壊されました」


 帝国軍、最低だな。食べ物を粗末にするなよ。

 この宮殿の外も歩いてみたが、もうほとんど原形が残っていなかった。風化して崩れた建物もあれば、不自然に倒壊した様子の建物もある。無事だったのは、強力な状態保存の魔法が掛けられたこの宮殿だけだ。

 使えそうなものは何も残っていないし、魔道具のような物も一切残されていなかった。すべて帝国軍が持ち去ったのだろう。


 調査の結果、この宮殿はとても大きな建造物の一部だったことがわかった。最も重要な部分だけは強力な魔法で守られていたが、それ以外の部分は戦争で壊されたらしい。

 重要な部分に風呂が含まれていることが腑に落ちないが、エルフにとっては食事よりも重要だったのだろう。


「エルフの名誉のために否定しておきますが、有事の際に貯水槽として利用していたのです。

 ちなみに、保存食はここの2階に保管されていました」


 カベルが笑顔で答える。

 無意識のうちに心の声が漏れていたらしい。そして聞こえていたらしい。俺のアホな予想が聞かれていたのか。ちょっと恥ずかしいな。



「まあいいや。道具なら貸すぞ。ここに来る度に設置し直すのは面倒なんだ。管理してくれるなら置いていく」


 道具類は使いやすいようにレイアウトを考えて、ベストな位置に設置した。帰る時に撤収し、来たら再設置する。考えるだけでも面倒な作業だが、すでに一度やっている。とても面倒だった。

 前回は無人の宮殿に置き去りにするのが心配だったから仕方がなかったのだが、カベルが管理してくれるなら置いていっても問題ない。


「それは有難いのですが……」


「この周辺にも食べられるものはたくさんあるぞ。外に出て採取してもいいだろう」


「いえ、料理が……ちょっと……」


 カベルは不安げな顔で口ごもっている。

 そういえば、カベルは食事の準備を一切手伝っていなかった。もしかして、料理ができないのかな。


「何度もやっていれば慣れますよ。練習しましょう」


 ルナが力強く言うと、カベルが不承不承に頷いた。


「まあ、火加減さえ気を付ければ致命的な失敗は無いさ。弱火だ。とにかく弱火でゆっくり焼け」


 中華料理のように強火で仕上げる料理はあるが、強火は難しい。初心者には無理だ。時間を掛けてゆっくり火を通した方が失敗しにくいんだ。


「コーの料理って、焼くか煮るしか無いから……」


 失礼な。『燻す』もあるぞ。美味そうにベーコンを頬張っていたじゃないか。


「でも、最初はそれで良いですよ。材料を切って焼くところから始めましょう。必要な道具はすべて置いていきますね」


「承知しました。頑張ります」


 ルナの言葉に、カベルは真剣な眼差しで拳を握って答える。



 王都で買えるような物は、一通り置いていくことになった。手に入りにくいスキレットは1つだけ。アイアングリルや鉄板も、手に入りにくいので持ち帰る。

 買い直す必要があるが、次回はもう少し良い物を買おうと思う。前回はみんなが遠慮したため、安い物を選んでしまったのだ。次は高くても使い勝手が良い道具にしよう。



 調理道具以外にも、テーブルや椅子のセットもすべて置いていく。また並べ直すのが面倒だからだ。しばらく来ないとは思うが、また来たいとは思っている。その時のために、できるだけ現状のままにしておきたい。

 そして、普段使わない予備の道具も置いていく。以前使っていたマジックバッグなんかがそうだ。持っていれば使うのだが、腰に2つぶら下げるのは邪魔なんだ。


 管理はすべてカベルに一任する。食事の対価として、倉庫番をやってもらう。散々食ったんだ。これくらい働いてもらっても問題無いだろう。

 管理人付きの秘密基地を手に入れた気分だ。今後も何かを買ったらここに持ってこよう。

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