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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第七章 神と教会
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大予言

 守護者を名乗るゴーストモドキを前にして、警戒を強める。本人は敵ではないと言うが、それを判断するのは俺たちだ。

 幸い言葉が通じるようなので、会話を試みることにした。


「それで、あんたは何者なんだ?」


「さっきも言ったであろう。偉大なる預言者にして大神殿の守護者だ」


 ゴーストはそう言いながら尖った顎を突き出す。

 よく見ると、耳も尖っている。顎に目が行ってしまうので気が付かなかったが、どうやらエルフらしい。


「それはわかったから、具体的に言ってくれ。何のためにここにいて、何をしているんだ?」


「それは……えーっと……その……」


 ゴーストは突然口ごもり、目が泳いでいる。

 その様子を見たクレアは、挙動不審なゴーストにジト目を向けながら言った。


「もしかして、自分でも分かってないんじゃないの?」


「くっ……吾輩は大神殿の守護者だ! それに理由など無いっ!」


 ゴーストは大げさに手を振りながら叫んだ。


「もしかして、『大神殿の守護者』って言いたいだけじゃないのか?」


「いや……そんなことは……」


 図星だな。ゴーストはあたふたと手を動かして懸命に取り繕おうとしている。


「要するに、ここに住み着いた浮遊霊ということでいいのか?」


「……もうそれで良い……。

 目を覚ましたらここにいて、移動することができなかったのだ。それで、吾輩はここの番人になったのだと認識した」


 ゴーストは寂しそうに肩を落とした。

 やっぱり地縛霊なんじゃないのかな。ちょっと思い込みが激しい人みたいだ。しかし、こちらに攻撃や敵意を向ける様子は見られない。悪い奴ではなさそうだな。


 だからといって、こちらから情報を引き渡すのも良くない。何者かが判るまでは警戒を続けよう。


「その浮遊霊が、俺たちに何か用か?」


「うむ。お主らは人間だろう? どうやってここに入ったのだ?」


「たまたま扉が開いて、なんとなく入ってみたら辿り着いたんだよ」


「たまたま開くような扉ではないはずなのだが……」


 ゴーストは腕を組んで考え込んだ。エルフが居ないと開けられない扉だったのだから、不思議に思うのも当然だ。

 でも俺は嘘をついていない。詳しく教えていないだけだ。


「まあ、いいじゃないか。

 それで、あんたは何者なんだ? 俺にはただの不審者にしか見えないぞ」


「誰が不審者だ! 吾輩はエルミンスールの大預言者、ディエゴだ」


 預言者ディエゴ……聞き覚えがある。さっきの日記の持ち主じゃないか。可哀想な恋愛日記を付けていた残念な預言者だ。


「あ……預言者ディエゴ……」


 俺よりも一足早く、ルナが反応した。ゴーストを見つめてポツリと呟く。


「むむ……知っておるのか!

 ふっふっふっ。我輩の名は国境を越えて後世に轟いておるのだな!」


「違うぞ。さっき、図書室であんたの日記を見つけたんだ」


「日記だと……?」


 ゴーストが腕を組んで不審な顔をしているので、マジックバッグからディエゴの日記を取り出して見せる。


「これだよ。あんたのだろ?」


「何故持っておるのだ! 返してくれ! 早く!」


 ゴーストは俺の腕に飛びつき、日記を奪おうとした。しかし、その手は日記をスルリと通り抜けて空を切った。ゴーストは物を掴むこともできないらしい。必死の抵抗も虚しく、何度飛びついてもスカッとすり抜ける。その後も俺の手から日記が離れることは無かった。


「無駄な抵抗はやめろ。後で燃やしてやるから」


「すまぬ、恩に着る。とにかく大至急燃やしてくれ……」


 余程必死だったのか、ゴーストなのに息を切らしながら四つん這いになった。土下座スタイルで懇願している。

 あれ? 『自分の物ではない』と言い張れば問題無かったんじゃないかな。これだけ取り乱した後ではもう誤魔化せないけど。



 日記に気を取られて聞き流したが、ディエゴはポロッと何かを言った。確認しておこう。


「ところで、エルミンスールというのは何だ?」


 この場所に至る扉にも書いてあった。でもそれが何なのか分からない。

 ディエゴは立ち上がって姿勢を正し、ジャケットの襟を整えながら答える。


「む……そんなことも知らぬのか。元々はこの世界を支える柱の名だ。我々はこの国をエルミンスールと呼んでおる」


 エルフの国はエルミンスールというらしい。自分の国を『世界を支える柱』と言い切るあたり、なかなか思い上がっているよな。当時は技術の最先端だったんだろうけど。



「なるほどな。

 もういいだろう。その部屋の中を見たいんだ。通してくれ」


「まぁ待て。

 初めて見た時から気になっておったのだ。娘よ、お主は何者だ?」


 ディエゴはルナに顎を指した。いちいち尊大な態度をとるなあ。その仕草に少しイラッとする。


「私……ですか?」


 戸惑うルナに代わって俺が答えよう。


「どこにでもいる普通の女の子だ。何か問題でもあるのか?」


「ふむ。どこかで会ったことが無いか?」


「あるわけ無いだろ。あんたが死んでから、どれだけ経ったと思っているんだ」


「どれだけ? そういえば、今は何年なのだ?」


 あ、それは俺も知らないな。重要な事じゃなかったから気にしていなかった。


「王記1280年ですけど……」


 俺が考え込んでいると、ルナが代わりに答えてくれた。おそらくアレンシアの建国から数えた年だろう。こういう年数はサバを読んでいるはずだから、本当に建国から1280年経過しているとは限らない。


「王記? 竜暦で言ってもらわないと分からぬ」


「竜暦が何か知らないが、この国が滅んでから1000年くらいだと聞いているぞ」


「なぬ! もうそんなに経っておるのか……。娘よ。お主の親族にククという女性はおらぬか?」


「いえ……心当たりはありませんね」


 ディエゴが素知らぬ顔でルナに質問を投げかけると、ルナは少し考えて答えた。エルフの寿命は500年以上あるらしいから、ディエゴの感覚だと母か祖母なのだろう。

 もしかして前にエルフの村の長老が言っていた、ルナの先祖の話かな。長老はエルフの国の姫だと言っていた。でも、1000年も前の祖先が誰かなんて分かるはずがない。


「人間の寿命はそんなに長くない。そんなに昔のことが分かるわけがないだろう」


「わからないのならそれで良い。娘よ、吾輩と共にここに残れ」


「はあ?」


 ディエゴはさも当然のことかのように言い放ったので、突然のことに面食らって間が抜けた声を出してしまった。


「ククというのは最後の姫の妹君だ。我輩の求婚を断り、人間の国に嫁いでいったのだ。娘はその親族であろう。吾輩の伴侶に相応しい」


「ふざけないでください!」


 ルナが間髪容れず怒鳴った。同時にルナから勢いよくビンタが飛び出たが、ディエゴが上半身を揺らして躱す。ディエゴは反射的に体が動いたようだ。こいつ、ビンタ慣れしていやがる……。


 しかし確定した。こいつは敵だ。無言で殴り掛かる。

 振り下ろした拳はディエゴの体をスカッとすり抜け、壁に当たって壁にヒビが入った。この壁、意外と固いな。……そうじゃなくて、攻撃が効かないぞ。拙いな。


「ぬぉっほっほぉ。何をしておる? 娘よ、素直に頷けばいいのだ」


 ディエゴは腕を組んで顎を突き出し、いやらしく笑った。ゴーストに物理攻撃は効かない。魔法なら……でもこんな狭い空間で使える魔法なんて持っていない。魔法を弱くする調整は未だに苦手なんだ。


「てめえ、ふざけんなよ」


巫山戯(ふざけ)てなどおらぬよ。娘がここに現れたのも、天の導きだろう。運命とはそういうものだ」


 どこまでも自分勝手な奴だ。すぐにでも討伐したいのだが、攻撃手段が……これだけは使いたくなかったが、最後の手段を使おう。


 マジックバッグから魔導書『ディエゴの日記』を取り出して詠唱を開始する。


「えー、モルの月、8日。曇り……」


「待て待て待て! 何を読んでおるのだ!」


 ディエゴは顔色を変えて叫んだ。効果はてきめんだ! 予想通りだった。予想通りすぎて使いたくなかったんだよ。ディエゴがあまりにも哀れだから。でも、これ以外にダメージを与える手段が思い付かなかった。

 この日記は、痛々しいほどに詩的な表現に溢れている。今もチラッと見たのだが、読むだけでも恥ずかしい文章だった。『世界が不幸と不安で上書きされた』とか『絶望の王が空から舞い降りた』とか、どういうつもりで書いたんだろう。


「血迷ったことを言っているから、黙らせようと思ってな」


「……どこまで読んだのだ?」


「思いを寄せる女性にフラれるところまでは読んだぞ」


 ディエゴは「言うな!」と叫び、俺の口を塞ごうと両手を俺の口に伸ばした。だが、煙のようにすり抜けてそのまま地面に這いつくばった。ディエゴと俺が重なって気持ちが悪いので、一歩引いてディエゴの頭の前に移動する。


「そんな所まで読んでおるのか……」


「おかしな要求を続けるなら、これを王都に持ち帰って公表するぞ。

 立派な題名が付いた謎の預言書だ。興味を持つ研究者は多いだろう。良かったな、これであんたも有名人だ」


 痛すぎる詩的表現だが、読みようによっては本物の予言のようにも見えるんだ。何も知らない研究者が読んだら、絶対に勘違いして大騒ぎするだろう。


「待ってくれ!

 すまなかった、撤回する。お主の身内に手出しはせぬ。頼むから……燃やしてくれ」


 ディエゴが土下座スタイルのまま、必死の形相で懇願する。

 燃やしても良いのだが、またおかしな事を言い出したら困るな。ゴーストへの有効な攻撃ができるようになるまでは、大切に保管しておこう。


「そのうち燃やすよ。でも、次におかしなことを言い出したら……」


「もう言わぬ!」


 ディエゴが食い気味で即答した。だが、その言葉を信用するつもりは無い。念のために写本しておいたほうがいいかもしれないな。



「まあいい。じゃあ通してもらおうか」


「その前に、お主らの目的は何だ?」


 ディエゴは立ち上がり、付いてもいないホコリを払う仕草をした。流れるように自然な動きだったが、土下座慣れしているのかな……。

 しかし、目的ねえ。無いんだよね。扉が開いたから先に進んだだけだ。強いて言うなら観光かな。遺跡の見学がしたい。宮殿の仕組みも調べたい。ひとことで言うなら何だろう。


「見物だ」


「はぁ? もっと何かあるであろう! エルミンスールの遺産を狙っておるとか……」


「そんな物があるのか?」


「いや……遺産など何も無いが……」


「開けてくれないのなら、中に何があるのか教えるだけでもいいぞ。

 ちなみに、財宝を持ち出したりするつもりは無いから安心してくれ。魔道具は借りるかもしれないが……」


 財宝には興味があるが、持ち出して売るようなことはしたくない。財宝まで全部セットで遺跡なんだ。眺めて楽しむだけだ。


「……まぁ良いだろう。但し、中の物には手を触れないでもらいたい。ここは姫の墓所でもあるのだ」


 墓所とは、なかなか遺跡らしいじゃないか。この中を見られれば、この建物の中をすべて見たことになるだろう。

 ふと気が付いたのだが、長々とこいつの相手をする必要があったのか? ディエゴには俺たちの行動を止める手段を持っていないみたいだった。無視して進んでも良かったような気がする……。まあ中に入ることができるんだ。良しとしよう。

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