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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第七章 神と教会
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黄金のベーコン

 夜が明けて作業を開始する。まだ部屋割を決めていないので、拠点にしている部屋に集まっている。

 今回このエルフの国に来たのは、マクハエラと転移魔法の調査をするため。そのためには、まずは翻訳の指輪を作る必要がある。

 これはルナとリリィさんに丸投げするので、俺は暇だ。リーズもその手伝いに駆り出され、クレアはポーションの研究をしたいらしい。暇なのは俺だけだ。



 やることが無いので、燻製でも作ろうかな。氷室のおかげで肉はいい具合に熟成が進んでいる。ベーコンを作ろう。


「ルナ、食材を少し貰うよ」


 ルナに声を掛け、作業を開始した。

 ベーコンなら塩漬けにしてもいいのだが、1週間以上掛かってしまう。今回はソミュール液を作ろう。まあソミュール液でも7日くらい漬けた方が美味いのだが、気にしない。

 にんにくや醤油が無いのは少し寂しいが、適当なスパイスと塩と砂糖があればなんとかなる。

 玉ねぎと適当なスパイスと調味料と水を鉄鍋に入れ、火にかけて放置する。30分くらい煮込めばいいだろう。



「ねー、何してるの?」


 リーズが気になったようで、こちらにやってきた。


「以前言っていた、燻製の準備だよ。道具と時間の都合でなかなかできなかったんだ」


 燻製を作るためには、簡単な材料でも最低1日は必要だ。今回作るベーコンは、放置する時間を含めると5日ほどかかる。ソミュール液に漬け込んで3日、塩抜きで半日、風乾で一晩、燻製で半日といったところだ。

 氷室がないと難しかった。ここは高温多湿なので、漬け込みと風乾の間に材料が腐る可能性が高い。かと言って、ここ以外の場所で作るには時間が足りない。今回はとてもちょうど良い。


「へー、燻製! 食べたことないよー」


「ん? 一般的じゃないのか? 燻製器は安く買えたぞ?」


「金貨2枚は安くないよ……。それに、燻製は売ってるけど高いよ」


 この世界の金銭感覚はイマイチよくわからないな。燻製器1台で金貨2枚、高いと言われれば高いか。でも買えない金額ではない。

 でも、燻製は冷蔵庫が無いと手軽に作れないから、製品が高いのはなんとなく理解できる。塩分を増やせば冷蔵庫がなくても作れるけど、調味料が割と高いんだよな。この国では金持ちの嗜好品なのかもしれない。


「なるほどね。

 ところで、作業はいいのか?」


 リーズは指輪作りの手伝いをしていたはずだ。ここで雑談していてもいいのかな。


「大丈夫だよー。ルナが設計してる。あたしは苦手だから、今は暇なの」


 リーズはあっけらかんと言う。リーズの主な仕事は、設計が終わった後のベースの作成だ。設計が終わるまでは待つしかない。


「そうか。じゃ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」


「いいよー。何? スリーサイズ?」


 リーズが両手で胸を押さえて言う。興味ない……こともないけど、そうじゃない。



「いや、まずはこれを見てくれ」


 俺が精製した金をリーズに見せた。大銀貨2枚分くらいの重量だが、大きさはビー玉くらいしか無い。小さな金の塊だ。

 マジックバッグの肥やしにしたくないので、何かを作りたい。それに、あまりにも小さいから失くしそうなんだ。


「きれー! これ、この前こんさんが作ったやつだね」


「そうだな。せっかく精製したから、何か作りたいんだ。何か良い案は無いか?」


 金素材なんて扱ったことが無いので、どう使ったらいいかわからない。正直、持て余しているんだ。


「えー……あたし、そういうの苦手だよ。こんさんとかリリィの方が得意でしょ?」


 そういえば、リーズが新しい案を出したりするところを見たことが無い。変な子だから、突拍子もないアイディアが飛び出すんじゃないかと期待したのだが。

 雑談しながら考えよう。ついでにベーコンの作業も進める。

 氷室から肉を取り出して、2kgほど切り取る。今持っている肉は、グリーンブルと普通のボアの肉だ。本来なら豚バラで作るものだが、ボアはイノシシみたいなものだからいいだろう。ほぼ豚だ。いや、豚だと言い切っても過言ではない。



「じゃあ質問を変えるよ。金はどういう使い方をするんだ?」


「うーん……。あたしも使ったこと無いけど、銀の上に貼り付けて使うみたいだよ。あとは、細く伸ばして線にするとか」


 高級素材だからなのか、リーズも使ったことは無いらしい。用途としては金メッキだな。若しくは金の導線だ。

 この世界の技術水準から考えると、水銀を使った金アマルガムメッキだろうか。水銀の毒が怖いから、あまりやりたくないな。


「なるほどね。魔道具としては銀で作る物と同じということだな」


「そうだよー。質が良くなるんだってー」


 効果と効率が上がるだけか……。微妙な素材だな。もっと金ならではの効果が欲しかった。

 たぶん金じゃないと効果が発動しない物なんかもあるとは思うのだが、気軽に使う素材ではないな。



 用途が全く思いつかない。持ち腐れだけは回避したいのだが、どう使ったらいいのやら。

 俺が頭を抱える姿を、ルナがまじまじと見ている。


「コーさん、もし使い道が決まっていないなら、指輪に使わせていただけませんか?」


 ルナがしびれを切らしたように言う。

 指輪に使うのなら問題ないだろう。元々不具合が発生していたんだ。これで少しは改善するかもしれない。


「ああ、任せるよ。俺には使い道が思い付かなかった。

 でも、たったこれだけで足りるのか?」


「たった……ではないです。これだけあれば、指輪が20個くらい作れますよ」


 指輪ってそんなに軽い物だったっけ……。いや、俺は金の指輪なんて持ったことが無い。たぶん軽い物なのだろう。

 そして問題が解決していないことに気がついた。今ルナに渡しても、まだ7割以上残るじゃないか。


「そろそろ魔道具作りに戻るねー」


 リーズはそう言い残してルナと一緒に戻って行った。そろそろ出番であることを察したようだ。



 俺はベーコン作りに集中しよう。

 次は肉の下処理をする。肉の塊に金属製のフォークを突き立てて小さな穴をあけた。次は塩と香辛料をすり込む。

 さて、そろそろソミュール液が冷えた頃だ。漬け込む前に、別の入れ物に移し替えてなければならない。鉄鍋に漬け込んで放置すると、錆びてとんでもないことになってしまうからな。


 ところで、陶器の器なんて買ったっけ? 拙いな……買った覚えが無い。鉄鍋と木製の器しか無いぞ。ここまで準備したのに……。



 鍋を前にして腕を組んでいると、ルナが余った金を持ってきた。


「分けていただいて、ありがとうございました」


 ルナから渡された金を見ると、金の玉は潰されて板になり、一部が切り取られていた。なんとなく“痛そう”とか思ってしまうのは男の(さが)だな。

 そういえば金は酸化しないよな……。そしてよく延びる。鉄鍋の内側に貼り付けたら錆防止になるかも?


「ああ、必要ならいつでも言ってくれ」


 ルナは「ありがとうございます」と言いながら、調理台の上に置かれた肉塊を眺めている。


「……燻製はそんな作り方をするのですね。後で詳しく教えてください」


 もしかしたら、料理が好きなルナなら陶器の器を持っているかもしれない。メッキを試す前にダメ元で聞いてみようかな。


「ああ、後で教えるよ。ところで、陶器の器は持っているか?」


「いえ……買っていませんね。

 クレアさんなら持っていませんか?」


 やっぱり無いか。

 ルナがクレアに聞く。クレアはしばらく一人旅をしていたから、持っていても不思議ではない。


「ポーションの味と匂いが染み込んでるけど、いい?」


 良くない!

 いいわけ無いだろ。クソ不味いポーションの味と、吐き気を催す草の香りだ。食料に使えるわけがない。


「それはもう使えそうにないな。ポーション専用にしてくれ」



「どうしても必要ですか?」


 ルナが心配そうに聞く。

 金箔貼り付けが現実味を帯びてきたぞ。でもアマルガムメッキはできない。魔法でどうにかなるのかな……。


「いや、代案はあるんだ。

 ちょっと聞きたいんだけど、金を貼り付ける時はどうするんだ?」


「専用の魔道具がありますので、それを使います。リリィさんが持っていますよ」


 水銀、要らないのか。仕組みが気になるが、化学処理じゃないのなら安全でいいな。スキレットを1つ犠牲にして、金メッキをしよう。


「じゃあ、指輪が終わったら貸してくれないか」


「いえ、今は使っていませんから大丈夫ですよ」


「指輪に使うんじゃないのか?」


「金は銀と混ぜて使います。魔道具が違いますので……」


 指輪は合金らしい。そして、合金にも専用の魔道具があるようだ。かなり便利な世界だな。



 メッキ用の魔道具を借り、スキレットの内側をメッキする。不思議な仕組みなのだが、ローラーのような物をコロコロと転がすだけで薄くメッキされていく。このスキレット、このまま魔道具にできないかな。できそうだよな。氷室の機能を追加しよう。

 それくらいなら俺1人でもできる。稼働中の氷室から丸写しするだけだ。スキレットの取手に温度調節を付け、冷蔵スキレットが完成した。冷凍まで出来るスグレモノだ。容量が少ないので消費魔力も少ない。


 これにマジックバッグの機能が付けば完璧なのだが、氷室にもこの機能はまだ付いていない。氷室が完成したら、こっちも改良しよう。


 ちなみに、金は30gくらい消費した。指輪8個分くらいかな。まだ半分近く残っている。



 ソミュール液をスキレットに移し、肉を詰め込んだ。ソミュール液がかなり余ったが、ガラス瓶に移しておけば問題ない。


 ふと気が付くと、いつの間にかルナとリリィさんが後ろから作業を見ていた。今度はルナとリリィさんが暇になったようだ。そのかわり、リーズが忙しそうに作業している。


「コー君、これは何かな?」


 リリィさんが金色に輝くスキレットの(ふた)を見て、目を丸くしながら言った。


「鉄だと錆びるから、鉄に金を貼り付けて保護したんだ。ついでに氷室の機能も付けた」


「豪華過ぎるんじゃないか?」


「ちょっともったいないです……。金じゃないとダメだったんですか?」


 そんな“2位じゃダメなんですか?”みたいに言わないでくれよ。手持ちの素材では金が最適だったんだ。


「そう言われても、他に鉄を保護する膜なんて……」


 あ……ダイヤモンド()ライク()カーボン()……。ペットボトルの内側に使われる素材だ。保護するだけならこれで十分だった。原料は水素と炭素だから、コツを掴めばできたはず。

 でもそれだと魔道具にできない。結果オーライということでいいんじゃないかな。いざとなったらスキレットから金を剥がすだけだ。



 ベーコンは3日ほど放置して、次の工程に移る。1日2回ほどひっくり返す必要があるが、基本は放置だ。塩抜きまでは特にすることは無い。燻煙はその後、4日後くらいにできるかな。



 指輪を作り終え、部屋割りについて相談する。「部屋がたくさんあるのだから、使おう」と提案した結果、食堂と寝室と作業部屋に分けることになった。結局、個人の部屋を割り当てていない。着替えの時に困るので、寝室だけは宿の時と同じにした。

 本格的な調査は明日以降だ。ベーコン作りも並行して進める。ベーコンが終わったら、次はハムかな。ベーコンの評判を見てから考えよう。

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