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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第七章 神と教会
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不注意

 エルフの村は俺たちにとってはただの中継地点。一晩休ませてもらい、次の日の朝には撤収して出発する。

 いつもなら長老に挨拶をしてから出発するのだが、今日はまだ起きていないようだったので、挨拶は無しだ。


 森を走って国境を越え、ミルジアの東側まで一気に進む。

 国境は誰も来ないような森の中を流れる一本の川だ。前回通過した時は滔々たる濁流が激しく音を立てて流れていたのだが、今日は水量が少なくて流れも穏やかだ。

 サクッと飛び越えてミルジア領に入る。あとは兵士に見つからないように進むだけだ。



 乾燥地帯付近に着くと、雨は降っていなかった。しかし空気は湿っているので、いつまた雨が降り始めるかわからない。不安定な時期なのだろう。


「ねぇ、スライムが居ないんだけど……」


 クレアが走りながら呟いた。

 前回この辺りに来た時は、それはそれは大量のスライムが湧いていた。それが、今日はほとんど見ていない。良いことなのだが、居るはずの魔物が居ないと気持ちが悪いな。


「あたしは避けてないよ? なんで居ないのかな」


 先頭を走るリーズには、普段から人と魔物を避けるように指示している。でもスライムだけは別だ。気配を感じたらすぐに踏み潰す。残しておくと、碌なことにならないからな。


「雨が関係しているのかもしれないな。

 まぁ、私たちに関係無いだろう。そんなことは研究者に任せておけばいいさ」


 リリィさんがそう言うので、この話は終わりだ。

 俺の研究テーマは魔道具だ。魔物の生態なんかも面白そうなのだが、これ以上タスクを増やしたらパンクしてしまう。うーん……誰か俺の代わりに研究してくれないかな。


 みんなはずいぶんと旅に慣れてきた様子だ。以前は走るだけで精一杯だったのに、今日は雑談をしながら走っている。山を全力で走ったのが良い訓練になったのだろう。今後も定期的にやろうか……。いや、グラッド教官みたいになりそうだ。止めておこう。



 余計な寄り道をすること無く、真っ直ぐジャングルまで走った。

 雨上がりだからなのか、前回来た時よりもさらにジメジメジトジトしている。生い茂るシダをかき分け、奥へと進んだ。

 植物だけを見ると普通のジャングルだ。地球との大きな差は、生き物の種類と量だ。異常なほど虫が少なく、動物も居ない。魔物ならたくさん居るが、面積に対する生き物の数で考えると少ないと思う。



 今回は食料の現地調達も考えている。前回来た時に、バナナとパパイヤと、シダ植物のヘゴっぽい何かを見つけている。ヘゴは新芽が山菜のように食べられる。

 他にも謎の果実を見掛けたが、日本でも見たことが無いのでそっちはスルー。見たことがある物だけを採取して、後で確認しよう。


「ねぇ、その変な長いのは食べられるの?」


 クレアがバナナをもぎ取る俺を見て不審な顔をしている。ここにある植物は、みんなも初めて見る物だった。アレンシアはバナナが生えそうな土地ではないので、知らなくても無理はない。

 匂いはバナナだが、これがバナナとは限らない。日本でよく見るバナナの半分くらいの長さで、皮も厚くて固い。


「それはまだわからないぞ。これから確認する」


 そう言いながら、バナナのような物の皮を剥いて二の腕に擦り付ける。ねっとりとした感触で皮膚を滑る。これはバナナで間違い無さそうだが……。


「何をされているんですか?」


 ルナは、俺が二の腕にバナナをスリスリしている姿を不思議そうに見ている。


「パッチテストという方法だ。毒があると腕が腫れる。皮膚に異常が起これば確実に毒だ。

 一晩待って皮膚に異常がなければ口に含み、美味しければ少量飲み込んで1日待つ。その次の日までに異常が無ければ、とりあえず食べられる。

 きのこ類でやったらダメだぞ。これで確認できるのは、果実や山菜だけだ」


 ついでに言うと、イモ類にもあまり使えない。毒抜きをすれば食べられるという物も結構あるからな。こんにゃくなんかがいい例だ。サトイモっぽい植物を見かけたが、毒抜きもできない種類を日本で見たことがあるので手を出さない。

 植物は基本的に毒があると思った方がいい。野菜は毒がない種類を選別しただけだ。


「ねー、木の実を見つけたよー。これはどう?」


 リーズが小さいマンゴーのような形をした、光沢のある赤い実を拾ってきた。見た目はいかにも食べられそうだが……。食べる前に聞きに来るようになったか。成長したな。


「どこにあったんだ?」


「あっちだよー」


 リーズの案内で落ちていた場所に向かう。周辺には、まだ数個の実が落ちている。これが食べられる物なら嬉しいな。

 身をぶら下げた木を見ると、深い緑の細く尖った葉が生い茂っている。遠目にはリンゴの木のようにも見えるが、竹のような葉がわさわさと生い茂っている。キョウチクトウ?


「クレア、こういう葉を見たことが無いか?」


 迷った時はクレアに聞く。もしキョウチクトウの一種だったら、樹液に触るだけでも危険だ。


「え? そうね……バーンスキーっていう木に似てるわ。

 でも、その木はこんな実を付けないわよ?」


「そうなんだよ。俺にも見覚えがあるんだが、こんな実じゃなかった気がするんだ」


「それにしても似てるわ。だとしたら毒よ」


「疑わしきは食べない。これは食べない方が良さそうだ」


 リーズは寂しそうに唸っているが、怪しい物は食べない方がいい。たくさん落ちているので残念だが、これはスルーだな。

 と思っていたら、クレアが一生懸命拾っている。食べないって言ったよね?


「なんで拾っているんだ?」


「もしバーンスキーなら薬にもなるのよ。珍しい実だし、確認してみるわ」


 間違って食べないように注意しよう。


 このあたりの植物は、熱帯と言うか沖縄っぽい。俺には馴染みがない植物なので、食べられるかどうかがよく分からない。アレンシアの方が馴染みの植物に近くてわかりやすいんだよなあ。

 ヘゴっぽい植物には新芽が見当たらなかったので、パパイヤらしき実を採取して今日は終わりにした。



 日が落ちる寸前に、エルフの国の宮殿に到着することができた。もう暗くなりかけているので、急いで部屋を準備する。

 前回来た時に掃除をしたばかりなので、宮殿の内部はきれいなままだ。さっとテーブルセットとオイルストーブを設置して準備は完了した。


「やっぱり、窓と扉が欲しいですね」


 ルナが窓際で月明かりを浴びながら言う。

 この宮殿には、窓も扉もない。おそらく持ち去られたのだ。1つでも現物が残っていれば複製を作れるのだが、残念ながら1つも残っていない。


「そうだなあ。作れないよな?」


「職人に頼まないと無理だろう。しかし、ガラス窓は高いぞ」


 やっぱりね。前にガラスが高いとは聞いていた。でも、街の建物はガラス窓が使われていたような……。


「街ではどの建物にも使っているよな?」


「ガラスに合わせて窓を作るのです。ここの場合ですと、窓に合わせてガラスを注文しなければなりません。そんな事は貴族か王族しかやりませんよ」


 安く量産できるサイズが決まっているらしい。オーダーメイドだと、あり得ないくらい高額になるそうだ。抜けている窓すべてに窓を入れようと思うと、家一軒分以上の金が掛かる。無理だな。

 オリジナルを探して複製を作った方が早いだろうな。ガラスなら土からでも作れる。窓枠だけ職人に任せよう。



 女性陣が食事の準備に取り掛かったので、暇だ。屋内だから土いじりも出来ない。

 鉱石の内容物でも確認して待とうかな……いや、室内が汚れてクレアに怒られる。マクハエラの構造でも確認しよう。これなら少し錆が落ちるくらいだ。怒られるほどは汚れない。


 テーブルの上にマクハエラを置いて調べる。

 マクハエラの構造は、やはり二重構造になっている。銀の芯と軟鉄の本体。材料の純度はどちらも99%程度だ。アレンシアにはこれだけ純度を高める施設が無いと言うが、俺が精製する金属はどれも99%くらいだ。材料は問題無い。

 鉄にも何か魔道具加工が施されていると思うが、銀の部分が怪しいな。鍛接してあるわけじゃないから、銀の部分だけ引っこ抜けないだろうか。


 剣の茎を捻って引いてみる。びくともしないので、今度は少し曲げてみる。やっぱりダメなので、もう一度捻る。


『ペキッ』

 折れた。というか割れた。刀身が根本から裂けるように、真っ二つになった。軟鉄が割れるなよ。錆びて脆くなっていたのかな。

 拙いな。本格的な調査を始める前に壊しちゃったぞ。怒られる前に直しておかないと……。


「コーさん? 何をされているのですか?」


 ヤバイ、ルナにバレた。背後から威圧感を覚える。


「いや……、ちょっと中の銀を調べようとしたら割れちゃった」


 てへぺろ。マジでわざとじゃないんだ、珍しく。だから許して。


「中の銀を……ですか?」


 ルナがそう呟くと、リリィさんもこちらによってきた。


「なるほど、それは名案だ。

 どうせ鉄の部分は読めないのだ。全部剥がして銀を調べた方が早いかもしれないね」


「そうだよな? 俺もそう思ったんだ!」


「だとしても、試す前にひとこと言ってください!」


 ルナが腰に手を当てて怒る。


「いや、本当にわざとじゃないんだよ。ちょっと力を入れて捻ったら、パキッと……」


「コーさん!?」


「ごめんなさい……」


「はい。もうすぐ食事の準備ができますから、テーブルの上を片付けておいてくださいね」


 ルナは笑顔で頷くと、調理場に戻っていった。怒っていたわけではないようだ。注意された? いや、叱られたって感じだな。



 折れた刀身をマジックバッグに仕舞い、テーブルを空けようとして気が付いた。テーブルの上が錆まみれになっている。朽ちた剣から剥がれ落ちた赤茶けた粉で、テーブルの上が赤く染まっている。

 拙い第二弾。絶対クレアに怒られる。早く掃除しないと……。いや、バレる前に報告しよう。


「クレア、ごめん! テーブルの上が汚れたから外で払ってくるよ」


「汚れるなら布を敷いてから作業しなさいよ。

 もうすぐ準備が終わるから、早く戻ってきてね」


 セーフ! 怒られなかったぞ。今度から、ヤバイと思ったら先に報告だな。

 テーブルを外に持ち出して上に乗った錆を払い落とした。部屋に戻るとクレアがタオルを持って待っていたので、テーブルの上を拭いてもらう。


 すると、テーブルを拭き終えたクレアが、真っ赤になったタオルを俺に見せた。


「ちょっと、テーブルの上で何をしたの。もう、これから食事なのよ?」


 結局怒られたじゃないか……。

 木目に詰まった錆は、払ったくらいでは落ちていなかったようだ。俺専用の作業テーブルを買おうかな。


「こんさん、あたしの作業用テーブル、使ってもいいからね」


 俺の気まずい様子を察したのか、リーズが服の裾を掴んで囁いた。今度から使わせてもらおう。


 ごめんね、と謝って、食事を始める。

 いつも思うのだが、本当に料理を手伝わなくてもいいのかなあ。適当に遊んでいる間に料理ができているんだ。それも結構凝った料理が。

 今日はビーフシチューのような料理とルナの特製パンだ。おいしいから良いのだが、たまには俺も料理をしようかな。

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