偉い人との会話はめんどくさい
定期的な報告が必要とのことで、俺たちはまた謁見の間に集まった。
たぶん俺にとっては最後の定期報告になると思う。
「使徒の諸君。こちらでの生活はどうだね?」
俺は悪くないと思っている。この城の人たちにはとても良くしてもらっている自覚がある。
「戸惑いはありますが、慣れてきたと思います。訓練にも、なんとか慣れてきました」
そう答えるのは善だ。あいつらは新兵と一緒に基本教練を受けている。あれはあれで結構ハードなはずだが。
「私は、兵士さんの訓練にはまだついていけないので、魔法の訓練に集中しています」
一条さんは善よりも魔法の威力が大きかったから、魔法に集中することにしたみたいだ。
賢明な判断だと思う。この国の兵士の訓練は現代人にはハード過ぎる。
「使徒ではないが、コーはどうだ?」
はい、じゃない方です。王城では『コー』と言う名よりも『じゃない方』の方が有名だった。解せぬ。
「俺は、数日のうちに王城を出て行きたいと考えています」
「ふむ。余はまだ早いと思うが。一人で行くのであろう。宛はあるのか?」
「元宮廷魔導士のルナと行動することにしました」
「ふむ。ルナか。余も彼女のことは存じておる。彼女の意向はどうだ」
「確認してあります。冒険者をしながら魔法の修行を続けるそうです」
このあたりは打ち合わせ済みだ。ルナも早く王城を出たがっているので、できるだけ早く出発したい。
「其方の主張は保留とする。一部の兵士から其方の兵士登用の打診がある」
「俺は兵士になる意志はありません。もし兵士になれ、とおっしゃるなら、今すぐにでも城を出ます」
やはりそう来たか。俺を利用するつもりなら俺も立場を存分に利用するぞ。
「余の命に背くか?」
ちょっとイラッとした。でも冷静な対処を心がける。
「勘違いしておられるようですが、俺はこの国の国民ではありませんよ?」
あんたはこの国では偉いんだろうが、俺には関係無いんだよ。この国の者じゃないから。
「そうであったな。それならば、其方には武具を支給することはできない。
神託の指輪も返してもらう。それでも良いか?」
まさか言葉を交渉材料にするとはね。命令に背けば言葉が通じなくなるよって、なかなか酷い脅迫じゃないか。
でも、指輪は正直もう全く必要ない。返せと言われれば「はい喜んでー」と返すよ。
「必要ありません。指輪は無くても何とかなります。冒険者たるもの、武器の調達も技量のうち、と聞きました。自分で手に入れます」
「ふむ。何も必要ない、と申すか」
「いえ、その代り、部屋にある物を少し分けていただきたく思います」
王は俺の置かれた状況を知らないはず。フェリスは教会からの出向で、俺たちの管理は丸投げしているはずだ。
「手に持っていけるものであれば構わん。調度品などは許可できん。一度目録を提出すように」
ビンゴ! 王は俺の状況を知らない。これは大きなアドバンテージになる。
一応許可は取り付けた。イラッとする交渉を持ちかけたのは王だ。必要なだけごっそり持っていくぞ。
あとは、俺の要求を断れなくなる最後のカードなんだが。まだドローできていないんだよな。
出発までに引くことができればいいんだけど。
数日の時が経ち、訓練の傍ら、出立に向けて荷物の準備は済ませてある。
ルナとの打ち合わせを綿密に済ませ、リリィさんとギルバートにも協力を依頼した。
かなりの時間を魔導院で過ごしたため、宮廷魔導士全員の協力も得られた。
俺かルナに大きな動きがあればすぐに知らせてほしいと頼んである。
王との交渉に失敗したら直ちに脱出するためだ。最悪、逃亡者として隣国に逃げ込むことも考えられる。可能性はかなり低いけどね。
あとは、次の謁見で出立の報告をするだけだ。
その時……チャンスは唐突にやってきた。






