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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第六章 異世界観光旅行
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モンスター

 早朝、2回目の朝の鐘が鳴る前に、約束の報酬を受け取るために冒険者ギルドに向かう。すんなりと受け取れれば、今日はその足で王都に帰るつもりだ。



 冒険者ギルドの扉を開けると、カウンター係は不在だった。でも奥からは何か話し声が聞こえる。奥に居るな。

 カウンターの奥に向かって声を掛ける。


「おーい」


「あ! おはようございます!」


「まだ業務開始前だよ。待っていてくれ」


 青年が奥から現れたと同時に、精悍な顔つきをした30代くらいの男が姿を現した。


「あんたは?」


「ギルド長のケイオだ」


 王都のギルド長と違い、筋肉の塊ではなく細身でスタイリッシュな見た目をしている。


「そうか。悪いな、朝来いと言われたから来ただけだ。まだなら待つよ」


「なるほど、君が胴体を持ち込んだ冒険者君だね」


「まあ、そうだな。準備はできているか?」


「いえ、まだなんです。討伐証明で揉めていまして……」


「原則、討伐報酬は討伐部位を持ち込んだ者に支払われる。君たちは部位を持ってこなかったからね」


 青年に続いてギルド長が答える。このギルド長に言い分だと、馬鹿の肩を持っているように聞こえるな……。



「その理由はすでに話してある。そのうえで頭部の捜索を任せたつもりだったんだが?」


「角を持ち込んだ冒険者たちが言うには、君たちが持ち込む前に森に入り、自分たちが討伐したそうだよ。だから同一個体であるという証明ができないのだ」


 うわ……そんなゴネ方をしているのか。探しものが得意な冒険者と言っていたな。自力でエルクを探し出したと言われれば、否定できないぞ。

 DNA鑑定を頼みたい。この国に科捜研は無いのか? あるわけ無いわ。



「困ったな……。角を持ち込んだのはどういう奴なんだ?」


「若い冒険者の間で当たり屋ゲイリーと呼ばれている男です。

 仕事はできるのですが、細かい苦情を言って報酬を掠め取るので、あまり信用されていません」


 ロクデナシじゃないか。当たり屋って酷いな。この国にも居るのか。


「おい、そういう言い方は良くない。彼は仕事の面では評価されているよ」


 ギルド長が青年を注意する。単純に、この青年がゲイリーのことを嫌いなんだな。分からなくはないんだけどね。クレームの矢面に立つのは、この青年の役目だ。可哀想に。


「ということは、エルクを討伐できるほど有能なんだな?」


 もしゲイリーが本当にエルクを討伐しているなら問題無いんだよ。それなら俺が報酬を辞退して円満解決だ。


「いや……弱いとは言わないが、それほど強いかと言われると自信が無い」


「具体的には?」


「ウルフ数体を同時に相手できるほどだ。エルクを1対1でと言われると、難しいだろう」


 出会ったばかりの頃のクレアより少し強いくらいかな。それでは絶対に無理だ。


「その程度で勝てるわけないわ。その人は馬鹿なんじゃないの?」


 クレアが苛ついたように強く吐き捨てた。その言葉にギルド長が反応する。


「と言うと?」


「Cランクになったばかりの頃のアタシよりは腕が立つみたいだけど、その程度じゃ100人居ても勝てないわよ」


 今のクレアは力だけなら相当強い。突進するボアを剣1本で受け止めるのは、俺でもちょっと大変だ。そのクレアが押し負けたんだ。エルクの力はかなり強いはずだ。


「罠や武器を使えば戦えるのではないか?」


「そんな甘い相手じゃなかったわ。罠を仕掛けている間に察知されて襲われるわね」


 エルクはリーズの気配察知よりも鋭い感覚を持っている。のんびりと罠を仕掛けている間に、不意打ちを食らって終了だ。強力な武器を持っていても同じだろう。当てることもできずに終了する。


 ギルド長は、クレアの解説に不満げな顔で首を傾げている。


「ギルドはエルクの危険度を理解していないのか?」


「いや……理解しているよ。

 私の認識が甘かったようだね。彼らにはもう一度話を聞く必要がありそうだ」


 ギルド長は納得したように深く頷いた。馬鹿が確定したな。ゲイリーという奴は確実に嘘をついている。



 ギルド長と話をしていると、ギルドの扉が勢いよく開いて(やかま)しい怒鳴り声がフロアに響いた。


「おい! 報酬の準備はできているんだろうな!」


 小柄なデブと、ヒョロ長い男だ。どちらかがゲイリーなのだろう。


「あ……コー様はテーブルで休んでいてください」


 青年はすかさず俺を遠ざけた。この場に俺が居ても良いことは無いから、その言葉には素直に従おう。

 一度身を引いてカウンターのやり取りを観察する。



「いつまで待たせる気だ!」


 デブがドスドスと走ってカウンターに詰め寄り、俺を押しのけて青年の胸ぐらを掴んだ。


「ヘンリーくん、やめたまえ。僕たちは脅しに来たわけじゃないんだよ」


 タコのような口をしたヒョロが低い声で言うと、デブが青年から手を離した。

 言葉から察するに、デブがヘンリーでヒョロがゲイリーということかな。


「でもアニキ、甘い顔をしてたらどれだけ待っても報酬が貰えませんぜ」


「まぁ待て。

 時に職員くん。キミはどういうつもりで出し渋っているんだい? 角は渡しただろう。報酬が貰えないなら返してもらおうか」


「買い取りのお金はお渡ししましたよね? ですからお返しすることはできません」


「だったら報酬も払うべきでは無いのかね? 苦労して討伐してきたのだよ。ギルドは報酬を着服するつもりなのか」


 こいつ、かなり面倒な奴だな。屁理屈を捏ねて問題をすり替えている。これじゃあ話が進まないぞ。ちょっと口を出してみよう。



「なあ、あんたらは本当にエルクを討伐したのか?」


「何だね? 君たちは。見たことが無い顔だね。余所者は引っ込んでいてくれないか」


 ゲイリーは半開きの目でこちらを見て、無表情のまま言う。面倒なうえに気味が悪いな。


「偶然にも、俺たちもつい最近この近くでエルクを討伐したんだが」


「ァにィ? アニキ、コイツラですぜ。ニセモンのエルクで俺たちの報酬を横取りしようとしてる奴!」


「そりゃお前らのことだろうが。クソ馬鹿クズコンビ」


 おっと……イラッとして本音が出ちゃった。


「ん? そのクソ馬鹿というのは僕のことかね?」


「アンタら以外のどこに居るのよ。それと、クソ馬鹿じゃなくてクソ馬鹿最低ゴミクズカスよ。間違えないでね」


 クレアが苛立った顔で低い声を出した。俺より酷くね?


「私としては、そこの子豚君が言ったことの方が気になったのだが。報酬を横取りしているのが誰だって? ええ?」


「リリィ、豚さんに失礼だよ。あれは子豚じゃなくて、太ったゴブリン」


「そうですね……ゴブリンでしたら話が通じないのも仕方がありません。

 武器を持ったゴブリンは少し知恵が回るので、みなさん気を付けましょう」


 罵倒が止まらないな。みんな揃って俺より酷い。


「テメェら! 言わせておけば……」


「君たちは誰に喧嘩を売っているのか分かっているのかね?」


 ヒョロがデブを押しのけて俺たちの前に出た。近くで見ると、見上げるほどに体長が長い。2m近くあるかもしれないな。

 この馬鹿2匹はとりあえず無視。ここで殴り合いになったら両成敗になる可能性がある。



「なあギルド長。あんたはどう考える?」


「そうだね。私としては、ゲイリー君がエルクを討伐できるとは思えないのだ。君たちが討伐した経緯を教えてくれないか?」


「フム。ここのギルドは討伐証明部位を持っていても疑うのか。本部の人間が聞いたらどう思うだろうね?」


 ヒョロが無表情で問題をすり替えた。たぶんいつもこの調子なのだろう。パンドラもよく話をすり替えていたが、こんなタチの悪いやり方ではなかった。

 青年はいつもこいつの対応をしているのか……。可哀想に。


「そうじゃないだろ。

 あんたらがギルドからの情報で頭だけを手に入れておきながら、報酬の全額を搾取しようとしているんじゃないかと疑っているんだよ」


「では、キミたちも僕にエルクを討伐するだけの実力が無いと言うのかね?」


「問題をすり替えるな。できるできないの問題じゃない。その角をどこで手に入れたのかと聞いている。質問に答えろ」


「それは……そう。この街の東だ。東の山奥だよ」


 俺たちが討伐したのは西だ。頭は南西に転がっていたはず。ゲイリーの言うことが正しければ、エルクは2匹居たことになる。


「待ちたまえ。東は街道があるだろう。常に兵士が巡回しているが、エルクを見たなんて聞いていないし、君たちを見たとも聞いていない」


 嘘かーい!

 そんなにすぐバレるような嘘をつくなよ……。


「い……いや、北だ! 北に真っ直ぐ行った所だ!」


「北には兵士詰め所と監視塔があるだろう。やはりエルクの報告は来ていないよ」


「ゲイリーさん、いいかげん認めてくださいよ……。討伐していないんですよね?」


「黙りたまえ! 僕の言うことより、この余所者の言うことを信じるのか? 僕がどれだけこのギルドに貢献してきたと思っているんだ!」


 ゲイリーが目を見開いて取り乱している。ゴネるのはそろそろ限界かな。


「それは今関係無いだろ? 何でも良いから討伐した証拠を出せって言っているんだ。角以外でな」


「はぁ? 角が討伐証明部位なのだよ。角よりも確実な証明など無いだろう!」


「だから、今は角が証明にならないという話をしているんだよ。話が理解できないなら森に帰れ」


 俺もそろそろ限界だ。すげえ苛つく。ぶん殴って終わりにしたい。



「ゲイリーさん、それ以上ゴネるようでしたら、謹慎処分にさせていただきますよ?」


 青年の怒りはすでに限界を超えているらしく、額に数本の血管が浮き出ている。


「横暴だ! ふざけるな!」


「ゲイリー君、今のやり取りでよく分かったよ。私は君を擁護することはできない。

 これから詳しく調査して、過去の過払いも返金してもらうかもしれない。覚悟しておいてくれ」


 ギルド長は穏やかな表情をしているが、口調に棘があって迫力がある。やはり苛ついているようだ。


「何の証拠があって言っているのだ! この事はギルドの本部に報告させてもらうからな!

 ヘンリー、行くぞ!」


「へぃっ!」



 ゲイリーたちがギルドから出ていくと、ギルド長が深々と頭を下げた。


「すまなかった! すべてギルド長である私の責任だ。君たちを不快な目に合わせて申し訳ない」


 一応解決ということで良いのかな。


「で、あいつらはどうなるんだ?」


「最低でも謹慎と降格だ。上手く行けば除名になるが、それはどうなるか分からないな」


 うーん、処分としては妥当かな。俺の被害は時間が無駄になったことと、だいぶ苛ついたことだけだ。実害があるわけじゃないから、これ以上関わらなくてもいいか。


「なるほどな。証拠集めを頑張ってくれ」


「うーん……その処分だと、アタシはちょっと残念かな」


 クレアが腕を組んでつぶやく。


「どうして?」


「てっきり決闘になると思ってたのよ。

 あの気持ち悪い2人をボッコボコにするコーが見たかったのよね」


「あぁ、それは残念だね。是非見たかった」


 物騒なクレアと、それに同調するリリィさん。そして、クスクスと笑いながら頷くルナとリーズ。


「いや、それは無いだろ。決闘する理由とメリットが無いよ」


「そうよね……。明らかに小物の雑魚だったし、時間と体力の無駄よね」


 クレアが少し寂しそうな顔で言う。次に会う機会があれば、選択肢の1つに入れてみるか……。



 少し待つと、青年が金貨が入った袋を持ってきた。


「今回は色々と迷惑を掛けたな。何か困ったことがあれば私を頼ってくれ」


 報酬を受け取り、ギルド長と握手を交わす。迷惑な出来事だったが、ギルド長と顔つなぎができたのは悪くなかった。

 俺はランクとキャリアの信用が無いから、後ろ盾になってくれる存在は素直に助かる。この街にはもう来ないかもしれないが、何かあったら相談させてもらおう。

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