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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第六章 異世界観光旅行
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悪い人

 雑貨屋での買い物を終え、エリンの工房へ向かう。マチェットの修理は終わっていないかもしれないが、その時は工房で待たせてもらおう。

 今日は街を歩く冒険者や兵士が極端に少ない。今朝は朝だから少ないのかと思ったが、昼になっても少ないままだ。早朝からエルクの捜索に行っているのだろう。


 今回は彼らの頑張りが俺の収入になる。俺が現場に残したエルクの頭、頑張って捜索してほしい。原型を留めていない可能性が高いんだけど、角は残っているはずだから大丈夫だよね。



 エリンの工房に到着して中に入ると、今日もエリンが暇そうに椅子に座っている。


「よう。修理の具合はどうだ?」


「あ! お金……お客様!」


 その癖は直した方が良いと思うよ。エリンは頭の中で客のことを「お金様」と呼んでいるのだろう。思っていてもいいけど、口に出したらダメだ。


「……暇そうだな」


「そうなの! あなたが持ち込んだ剣の修理は終わったよ。他に仕事無い?

 あんな簡単な修理、すぐに終わっちゃうわ」


 エリンが立ち上がって胸の前で拳を握った。

 マチェットは結構ボロボロだったと思うんだけどなあ。1mmくらいの欠けが大量にあった。修理するためには、全体を1mm以上削る必要がある。そのうえで刃線の形を整えなければならない。


「とりあえず仕上がりを見せてくれ」


「丁寧な作りだけど、材料が良くないわよ。鉄が柔らかすぎ」


 ダメ出しされながらマチェットを渡された。大鷲屋武器店のおっさんも、そんなことを言っていた気がする。「鈍るのが早い」だったかな。それは材料が柔らかいからだ。


「いいんだ。買う時にも言われたよ」


 受け取ったマチェットを確認すると、刃がきれいに作り直されていた。それどころか、俺の雑な手入れでザラついた表面が、鏡のように輝いている。

 買った時よりも良い状態になっているぞ。これをたった1日で……依頼した時間を考えると、実質半日だな。エリンの腕は相当良いらしい。


 しまったな。俺たちの手持ちの武器を全部任せるべきだった。むしろ買い換えるか?

 でも手持ちの武器がもったいないんだよなあ。どれも買ったばかりだ。次に折れたらエリンの武器を買いたいが、その度にこの街に来るのは面倒だし……。



「……仕上がり、良くなかった?」


 エリンが不安げに俺の顔を覗き込んだ。

 どうやらまた不機嫌そうな顔になっていたらしい。気を付けないとな。マチェットを仕舞って眉間を揉む。


「そうじゃない、上出来だよ。だからこそ惜しいんだ。

 俺たちはすぐにこの街を出るつもりなんだが、エリンの武器は王都に卸していないのか?」


「それができたら暇してないわよ……」


 それもそうか。王都に卸しているなら、納期に追われて修理なんか受けている場合じゃないはずだ。

 腕は確かなんだよなあ。大鷲屋のおっさんなら喜んで売るだろう。……そうしよう。大鷲屋のおっさんに仕入れてもらえば問題ない。


「王都に知り合いの武器屋が居るから、頼んでみるよ」


「ホントに?」


「ああ。小さい武器屋だから、売上は期待できないがな」


「ありがとう! お願いするわ!」


 エリンが俺の両手を握ってブンブンと振り回す。これも癖なのかな。

 ルナがジト目で俺を見ていることに気付き、慌てて手を離した。


「試しに剣を何本か持っていくよ。店のおっさんが気に入れば、定期的に仕入れに来るだろう」


「どれがいい? 王都なら、やっぱり大剣かな?」


「それはあのおっさんの趣味じゃないなあ。ファルシオンだったか。あんな武器の方が喜ぶぞ」


 できるだけマニアックな武器の方がいい。刃さえ付いていれば、用途不明な武器でもいいくらいだ。


「じゃ、これ!」


 と言ってエリンが出したのは、10本を超えるファルシオン。長さが一定ではないが、悪いものではないな。

 拵えまでしっかりと整えられ、いつでも売れる状態になっている。拵えは別の職人が居るはずだから、材料費を合わせると結構金が掛かっているな。残念ながら全部不良在庫なのだろう。


 だからといって、全部買い取るわけにはいかない。


「いや、まずは5本だ。売れなかった時に困る」


「そうだね……じゃあ、この5本で!」


 エリンはそれぞれ長さが異なるファルシオンを5本選んだ。


「1本いくらだ?」


「うーん、金貨7枚くらい……?」


 微妙に安いな。この街の武器屋では金貨10枚で売っていた。俺は得するだけだが、エリンは損しないのかな。


「今後のことも考えろ。これからその値段で卸し続けてもいいのか?」


「大丈夫! この街の武器屋にも同じ値段で卸してる!」


 エリンは胸を叩きながら言う。この街の武器屋と同じなら文句は無いかな。


「それならいい。修理の値段と合わせて、全部でいくらになる?」


「修理は金貨1枚だよ。だから、全部で金貨36枚だね」


 逆に修理はちょっと高いな。まあ、仕上がりに文句はない。この値段ならまた頼みたいくらいだ。


「王都の武器屋は『大鷲屋武器店』だ。もし仕入れに来たら、対応してやってくれ」


「ありがとう! また来てね!」


 店を出ようとする俺たちに、エリンは大げさに手を振って見送った。お金様のお帰りだぞー。



 あとは大鷲屋のおっさんを口車に乗せて、エリンの武器を仕入れさせるだけだ。仕入れルートが確立したらオーダーメイドも受けてもらえるだろう。



 一番の目的だったマチェットの修理は終わった。買い物も終わった。あとは冒険者ギルドだな。もう日が暮れかけているが、ちょうどいいだろう。森に入った冒険者が帰ってくる時間だ。


 冒険者ギルドに入るやいなや、カウンターの青年が立ち上がって声を上げた。


「お待ちしていました! こちらへどうぞ!」


 直立不動で待つカウンター係に向かって歩く。

 まさか、頭がもう見つかったのか? たった1日で見つかるほど甘いものではないと思うのだが……。


「何事だ?」


「頭が見つかりました。角も確認できましたので、コー様が討伐した魔物がエルクであることが証明されました」


 見つかったのか。しかしどうやって?

 森の中の落とし物は、そんなに簡単に見つかるものじゃないぞ。


「早すぎないか?」


「ええ。今回の探索には、探しもの専門の方が参加していましたので」


 そんな専門家が居るのか。魔法がある世界だ。魔法でどうにかするのかもしれないな。


「そりゃ運が良かったな。さっそく報酬の残額を精算してくれ」


「それが……少し問題がありまして……」


「問題?」


「角を持ち込まれた方々なのですが……『討伐証明である角を持ち込んだのは自分たちだから、討伐報酬は自分たちの物だ』と主張なさっています」


 うわ……面倒くさい。クソ馬鹿じゃないか。こんなことになるとは予想していなかったぞ。こんなことなら最初から討伐報酬を放棄しておけばよかった。


「ずいぶん乱暴な主張だな。ギルドは説明しなかったのか?」


「いえ、説明していますし、依頼票も書き直しました。

 でもその方々は『見ていない、聞いていない』とおっしゃいまして、まだ話がまとまっていないのです」


 ヤバイ、クソウザい。冒険者ランクはこういう馬鹿を取り除くための制度じゃないのかよ。


「頑張って話を付けてくれ。俺が関わるべきことじゃないだろ」


 ちょっとイラっとするが、こういう場に当事者が入ると余計に揉めるんだ。これはギルドの問題だから、ギルドが責任を持って対処するべきだろう。


「そうですね。

 お待たせして申し訳ございませんが、明日の朝までに片付けておきますので、皆様は宿でお休みください」


「ねぇ、その人たちの要求が通るってことは無いわよねぇ?」


 クレアが俺の後ろから口を出した。あり得ない話ではないな。俺の冒険者ランクは低い。この場合、信用が低いと看做されるんだ。


「ええ。そのようなことにならないよう、努力致します」


 青年が曖昧な表現で逃げる。

 汚い大人がよく言う「善処します」ってやつかな。そして失敗したら「記憶にございません」に続く。


 確定しているなら、報酬を受け取るのは今でも明日でも変わらないはずだ。


「なるほどね。それなら今報酬を出しても問題無いよな?」


「それが……上の承認が得られないのでできません」


 上司か。この場合はギルド長かな。

 もういっそのこと討伐報酬を放棄してもいいのだが、馬鹿に金が渡るのは気に入らない。意地でも報酬を受け取ろう。


「ギルドの意向としては、俺が討伐者として認定しているんだな?」


「そう思っていただいて構いません」


 やっぱり曖昧な表現だ。俺が思うのは自由だが、「実際は違いますよ」で逃げられる。

 よし、明確に書面に残しておこう。できるだけ大げさに。


 王城で貰った羊皮紙の中から、一番高級に見える物を選んで出した。重要な契約は、保存性の問題で普通の紙ではなく羊皮紙を使う。


「それならここに、俺が言う通り自筆で書いて署名してくれ」


 文面は俺が書いてもいいのだが、後から読んでいないとか言われると面倒だ。

 今のやり取りを明確な表現で書かせ、お互いの署名を入れて受け取った。本当ならギルド長のサインも欲しいのだが、これでも問題が起きるなら俺の身分を明かすだけだ。


「こんなことをしたのは初めてですよ……。もっと信頼していただいてもいいのですよ?」


 青年が不満そうに言う。

 信頼してほしければ、それだけの行動を示せよ。曖昧な言い方をするから悪いんだ。


「じゃあ、また明日来るから、よろしく」



 ギルドを出て、宿に向かう。しかし面倒なことになったもんだ。


「ふふふっ。久しぶりに意地が悪いコーさんを見ました」


 ルナが満足そうに笑っている。


「意地が悪い? 俺が?」


「自覚が無いのかな?

 なかなか爽快だったよ。これでギルドは言い逃れできなくなった」


「今回みたいなこと、たまにあるのよ。

 ギルドも努力してるとは思うんだけどね。ゴネ得って言うの? そういう人に限って声が大きいから……」


 どこの世界も同じだな。面倒な奴は居るし、そういう奴の意見は通りやすい。対応する人の精神をガリガリと削るから、どうでもよくなってしまうのだろう。


「ねー、どういうこと?」


 リーズはイマイチ理解していないようだ。俺に代わってクレアが解説する。


「アタシたちの報酬を横取りしようとしている人がいるの。

 どうなるかはギルドの対応次第だから、コーはギルドに間違った対応をさせないために注意したってことよ」


「へー、こんさん凄い!」


「ふっふっふっ。確かに凄いな。

 昔、警備部の人に『悪いことを考えられない人間は、悪いことを防げない』と教わった。コーはなかなか悪い人だね」


 悪い……か。悪いことを考える奴が悪い人は限らないが、ちょっとやりすぎたかもしれないな。

 本当に悪い奴は今ゴネている奴だ。どんな奴か知らないが、罰を与えるならそいつだな。ギルドが対応を誤らなければ会うことは無いが、もし会うことになったらどうしよう……。

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