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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第六章 異世界観光旅行
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会議

 いろいろあった一日が終わり、ようやく解体の講習会の日になった。

 この国には時計が無いので、鐘の音で時間を知る。朝の2回と昼1回、夕方に2回の合計5回の鐘が鳴るのだが、これはどの街でも共通のようだ。

 おそらく鐘の音を鳴らすための時計があると思うのだが、庶民は細かい時間を知るすべを持っていない。売っている所を見たこともないので、相当高価な物なのだろう。


 朝の鐘の1回目。庶民はこれに合わせて起床し、2回目の鐘で作業を開始する。早朝に来いという指示は、1回目の鐘と2回目の鐘の間に来いという意味になる。

 というわけで、1回目の鐘で起床した俺たちは、宿を出て冒険者ギルドに向かった。


 カウンターには前回と同じ無愛想なカウンター係が座っている。苦手な相手なのだが、その人しか居ないので話し掛けた。


「やあ、講習会に来たよ。獲物は持ち込みだ」


「おはようございます。持ち込みということは、ボアですか?」


 カウンター係は、相変わらず抑揚のない声で言う。

 このあたりはボアが大量に出るらしいので、持ち込みと言えばボアになるようだ。まあボアなんだけどね。

 俺が金ボアを捌き、みんなは2人で1匹のボアを協力して捌くつもりだ。


「そうだな。目撃情報があった金色のヤツだ」


「はい?」


 カウンター係が胡乱な目を向けてきたので、マジックバッグから前足を引っ張り出して見せる。


「こいつだよ。デカイからここでは出せない」


「……これはどうされたんですか?」


「どうしたって、討伐以外無いだろう。解体が終わったら引き取りを頼む」


「いえ、あの……本当に討伐されたんですか?」


 カウンター係は無表情のまま目を白黒とさせている。

 無愛想な人だと思ったのだが、意外と感情が豊かな人だな。


「討伐してなきゃ持ってこれないだろう。それとも、どこかで売っているのか?」


「……そうですね。疑って申し訳ありません」


 カウンター係は椅子に座ったまま深く頭を下げた。


「いや、いいんだ。それよりも、講習会はどこでやるんだ?」


「その前に確認させてください。

 本当に特殊個体のボアでしたら講習では扱えません。

 貴重な素材で練習させるわけにはいきませんので、ご理解をお願いします」


 マジか……。よく考えたら当然だな。このボアの毛皮はチート級の特殊効果があったんだ。台無しにしたら痛いでは済まない。

 となると、予定を変更する必要がある。



「ちょっと相談させてくれ。

 2人で1匹のボアを捌くつもりだったんだが、どうしよう?」


「え……?

 無理ですよ。5人で1匹でも結構大変だと思います」


 ルナが顔の前で手を振りながら言うと、クレアが呆れた顔で俺を見た。


「ねぇ、もしかして金のボアを1人で捌くつもりだったの?」


「そりゃそうだろう。そのために狩ったんだからな」


「あの……全員で1匹の普通のボアを捌くのだと思っていました」


 ルナも戸惑いながら言う。

 意思の疎通が上手くいっていなかったようだ。まあ好都合か。みんなには1匹を4人で捌いてもらって、俺が1匹捌けばちょうどいいな。


「それなら、みんなは協力して1匹捌いてくれ。俺は1人でやるよ」


「本当に大丈夫?

 見ての通り、かなり大きいわよ?」


 クレアが心配そうに聞く。

 ちょっとしたトラックくらいのイノシシなんだが、頑張れば1人でできそうなんだよな。


「まあ何とかなるだろう。無理そうなら手伝ってくれ」



「話はまとまりましたか?

 それでは、先に特殊個体のボアをお預かりします。講習中に査定をしておきますので、終わったら寄ってください」


 金のボアは金貨120枚で買い取りされる。あの性能に対してこの値段はちょっと安いよな。

 肉は食いきれる量じゃないから売るけど、毛皮は返してほしい。


「毛皮なんだが、処理をした後に返してもらうことはできるか?」


「それは構いませんよ。その場合、加工費用を負担していただきます。

 特殊個体ですので、金貨10枚くらいになりますね」


「ああ、それでいい。何日掛かる?」


「30日くらいですね。時期が来たらここに来てください。

 それから、1年経っても取りに来ない場合はギルドが回収しますので、お気を付けください」


 あのサイズの皮なめしで30日は結構早いな。かなり大変な作業だと思うんだけど。

 すぐに必要な物ではないので、終わった頃にこの街に戻ればいい。予定通りビルバオに行こう。



 金を払って受付を終えると、冒険者ギルドのすぐ裏にある広場に通された。王都にもある、訓練場のような場所だ。煉瓦の壁で囲まれた、運動場のような平らな広場だ。

 王都の訓練場とは違い、野球とサッカーが同時にできそうなくらい広い。この広場の片隅で、講習が行われる。


 今回の参加者は俺たちのほかに9人、合計で14人居る。それに対して講師は1人だ。俺たち以外の受講生は、ウサギを解体するらしい。長い耳を掴んでぶら下げている。


 広い場所を確保して、2匹のボアをマジックバッグから取り出した。すると、講師らしきおっさんがこちらに近寄ってくる。


「……君たちはこれを解体するつもりなのか?」


「そのつもりだが、何か問題があるか?」


「君たちは5人だな? なんで2匹もいるんだ?」


「俺が1人で1匹、もう1匹は4人でやるよ」


「……1匹は仕舞っておきなさい。1人でできる作業じゃないよ」


「だから言ったじゃない……」


 クレアが残念そうな顔で言う。

 本当に残念だ。この作業が1人でできれば、みんなが食事の準備をしている時の暇つぶしになると思ったんだよな。


「そうかあ。1人でやりたかったんだけどなあ」


「熟練の職人が3人でやる作業だよ。1人でやったら3日掛かるぞ」


 講師のおっさんとクレアに(たしな)められ、泣く泣く諦めることになった。慣れたら1人でやろう。



「じゃあ開始しようか」


 講師のおっさんが開始の合図を掛けたので、作業を開始する。



 ボアに集まる視線が邪魔だったが、なんとか1日で終えることができた。

 トラックサイズのイノシシを捌くのは、5人掛かりでも重労働だ。これを1人でやろうなんて無茶が過ぎたな。ちょっと反省。



 無事講習が終わったのだが、思いの外時間が掛かってしまった。街をぶらつくのも中途半端な時間なので、今日はもう宿に戻ろう。

 この宿でも2部屋使っている。いつものように、2人部屋と4人部屋だ。会議は広い方の4人部屋でやる。


「ねぇ。2人部屋なんだけど、上級の部屋を取ってもいいんじゃない?」


 クレアの提案に、みんなが頷く。

 上級の部屋とは、寝室とは別にリビングが付いた部屋のことだ。値段は単純に2人部屋の2倍。

 いちいちベッドを移動しなくても済むから、たぶん楽だな。実際、この部屋はチームリーダーが会議室と兼用するために使う。


「そうだな。次からそうしよう」


 俺の金はみんなの金だ。俺が勝手に豪華な部屋を使うのはどうかと思うが、みんなの勧めがあるなら話は別だ。遠慮無く上級の部屋を使わせてもらおう。

 4人部屋に入る時は少し気を使うからな。着替え待ちがあったり、掃除待ちがあったりするから、一度連絡をしてから部屋に行かないといけないんだ。


「で、次はビルバオに行くのだな?

 出発は明日で良いのか?」


「本当に行くんですね……」


 リリィさんの提案に、珍しくルナが渋った。その横でクレアも嫌そうな顔をしている。でもマチェットの修理が必要だからなあ。

 王都に戻って新しいマチェットを買えば済む話なんだが、修理できる物を買い直すのは気が引ける。もったいないし、これを作った職人に申し訳ない。あと、単純に気に入っている。


 リリィさんとリーズは乗り気だが、ルナとクレアは浮かない顔だ。できるだけ急いで行った方がいいだろうな。


「マチェットの修理が必要だからな。朝には出発したいと思っている。

 山の麓で一泊して、後は一気に駆け抜けるぞ。マップを埋めるヒマは無いだろう。クレアに道案内を頼めるか?」


「了解。最短距離で一気に行くわ」


 クレアはビルバオについて調べていたから、大まかな位置を把握しているはずだ。

 いつものスタイルなら山で数日掛けてマップを埋めるのだが、ルナとクレアが絶対に野宿しないと言い張るので、今回は1日で強行突破する。


「それで、ビルバオというのは武器の街ということで良いのか?」


「そうとも言えないわね。もちろん武器や防具の職人がいっぱい居る街だけど、鉄器なら何でもあるみたいよ」


 鉄器と言うと、鍋や包丁だろうな。包丁は王城から貰ってきた物を使っている。悪いものではないので困っていない。鍋も最近買ったばかりだ。

 あれ? 欲しい物が見当たらないぞ? 面白い武器があればいいんだがなあ。


「まあ、行けば分かるか。さっそく明日出発しよう」


「わかったわ。

 ところで、ずっと気になっていたんだけど、一つ聞いていい?」


 クレアが姿勢を正して言う。


「何だ?」


「結局、コーは何者なの?

 使徒じゃないのよね? 宮廷魔導士でも無さそうだし……」


 あ、いずれ話そうと思って忘れていた。クレアにだけはまだ説明していないんだった。


「別に隠していたわけではないんだが、俺は使徒召喚で来たんだよ」


「は? え……はぁ?」


 クレアが間が抜けた声を出し、口を開けて目を見開いている。

 立派な変顔になっているぞ。SNSに投稿したい顔だ。


「まあ、それだけだ。ちょっとややこしくてな。説明するのが面倒なんだよ」


「コーは使徒だったの?」


 クレアが元のきれいな顔に戻して言う。


「それが違うんだ。なぜか一緒に来てしまっただけの普通の人だ」


「……絶対に普通じゃないわね。

 いえ、なんか納得したわ。最初っからいろいろおかしかったのよ。この国のことは何も知らないのに、妙なことばかりよく知っているしね。

 王城の人たちが“じゃない方”って呼んでいたのはこのことなのね」


 どうやら腑に落ちたようだ。クレアとは何度も一緒に王城に行っている。その度に違和感を覚えていたようだ。

 貴族じゃない、兵士じゃない、宮廷魔導士じゃない、教会関係者でもない。そんな人が王城に顔パスで入れるなんて、普通に考えたら違和感しか無いよな。



「説明するのが面倒だから、一応黙っておいてくれ」


「確かに、おおっぴらに言うことではないわね。

 でも、使徒としての活動はいいの? 使徒の2人とも仲が良かったみたいだけど……」


「ああ、王から自由に生きる権利を貰っているよ」


「そうなのね……。なんだかまだモヤモヤするけど、まぁいいわ。これからも冒険者として生きるのよね?」


「当然だ。元の世界に帰ることも選択肢に入っているが、当分の間は冒険者として活動する」


「え? 帰れるの?」


「帰る方法を模索している状態だよ。一方通行になるようなら帰らない。

 帰った後でこの世界に戻れないなら、帰らないつもりだ」


 この世界に居れば往復する方法が見つかるかもしれないが、地球に帰ったらその可能性がほぼゼロになる。

 いよいよ限界となるまではこの世界に居座り、往復の方法を探る。


「そのための転移魔法なのね……。

 いいわ、協力してあげる。そのかわり、アタシもコーが生まれた国に連れてってね」


「はあ?

 いや、協力してくれることは嬉しいんだ。でも、なんでクレアがついてくるんだ?」


「……面白そうなのよね。コーみたいな人がたくさん居るんでしょ?

 この国に帰ってこられるんなら、アタシも行きたい!」


 クレアが期待するような目で俺を覗き込む。

 行きたいと言うなら連れて帰るが……本当にいいのかな。まあどうせこの世界に戻ってくるんだ。問題ないだろう。


「それなら私も連れていってもらおう。もちろん協力するよ」


 すかさずリリィさんも立候補した。リリィさんならそう言うだろうなあ。ただの好奇心の化け物だから。

 ルナとリーズはすでに連れて帰ることを約束している。1人や2人増えたところで関係無いな。


「みんな、ありがとう。俺が帰る時はみんなで行こう」


 そのためには転移の魔法を習得しないとな。まだその魔法で帰れると決まったわけではないが、ヒントになることは間違いない。

 近いうちにエルフの遺跡に行って、資料を探してみよう。

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