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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第六章 異世界観光旅行
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噛ませ犬

 朝になり、昨日の疲れを取ることができた。正直、あの人には二度と会いたくないな。

 この街で冒険者ギルドに顔をだす時は気を付けよう。顔を見たら逃げる。


 まあ今日は狩りなので、会うことは無いだろう。今日は金色のボアという超レアキャラ狙いだ。危険そうな相手なら逃げるが、ボアだからなあ。あまり脅威になるとは思えない。

 出発に向け、朝食を済ませる。朝食はパン。パンはパンでもカッチカチの堅パンだ。

 鉄でできているのかな? と疑うほど堅く、普通は食べる前に水でふやかすそうだ。ふやかす水に味をつけるための謎の粉が売られているほど一般的だ。


「やっと無くなりそうですね」


 ルナが堅パンを頬張りながら言う。エルフの国に向かう前に買いだめしたパンがようやく無くなりそうなんだ。


「そうだな。こんなに時間が掛かるとは思わなかったよ」


 粉っぽくてグチュッとした食感が気になるが、味は意外と悪くない。でも常食したい物ではないので、もう買わないと思う。

 これがあるせいで、ルナの特製パンがお預けになっているのだ。すぐに無くなるだろうと思って先に食べる判断をしたのだが、ずいぶん時間が掛かった。だから俺は、堅パンのことを少し恨んでいる。


「やっぱり冒険者と言えばコレよね。硬派な冒険者はふやかさずにそのまま食べるのよ」


 クレアは『冒険者の定番』に弱い。定番だと言われればついつい買ってしまう。だから堅パンにも抵抗がないのだろう。

 ただ、これをふやかさずに食べる奴は硬派の意味が変わってくる気がする。そいつはただの堅い物好きじゃないのかな。


 この堅パンはドライフルーツと一緒に水につけるので、シリアルに近い味になる。謎の粉は豆乳のような味なので、やはりシリアルっぽい。牛乳でふやかせばもっと美味しいかもしれないな。

 もう買わないけど。



 朝食を終えて宿を出た。宿の周辺にはケバブが焼けるいい匂いが漂っている。朝の仕込みをしているのだろう。

 ケバブ屋が開店するのは午後からなので、匂いを無視して門に向かった。今日はこのままアルコイの西側に直行する。


 カウンター係の話では、金のボアはアルコイの西にある森と川に隣接する平原に居るということだった。暗号みたいな言い方だが、川に沿って西に向かうだけだ。


「リーズはボアを見たことが無いだろうから、知らない魔物の気配があったら教えてくれ」


 いつものようにリーズに指示を出して探索を開始する。基本的に冒険者は無視、ウサギも無視。今日はグリーンブルも狙っていない獲物(外道)なので、もったいないけど無視だ。

 昨日に引き続き、地図を埋めながら西に向かう。森の位置もなんとなく把握しているので、地図が埋まったら見に行こうと思っている。


 しばらく探索を続けたところで、リーズの耳がピクリと動いた。何かを察知したようだ。


「こんさん……魔物が居るんだけど、近くに人も居るよ」


 リーズが困り顔で報告する。どうやら先客が居るようだ。目撃情報の魔物は、基本的に早いもの勝ちだ。先に手を出した奴に優先権があり、そいつが放棄するまで手が出せない。

 俺たちにはリーズの気配察知とマップがあるので油断していた。どうせ最初に出会うのは俺たちだと高をくくっていた。


 この優先権の有効期限は、“日が暮れるまで”と“夜が明けるまで”だ。1日掛けて倒せなかったら敗北と看做される。

 先客の状況を確認して、二番手を狙うのも悪くないな。金ボアが倒されそうなら諦める。


「とりあえず行ってみよう」


 リーズが微妙な顔で頷いた。何か嫌な予感でもしているのだろうか。

 金ボアは俺が思っているよりも危険なのかもしれない。用心しておこう。



 俺の気配察知が遠くの草原に居る金ボアを捕捉した。同時に、その近くに居る冒険者の姿も確認できた。ソロ冒険者のようだ。1人で大物に立ち向かうとは、なかなか勇気がある奴だな。

 そのまま目視できる距離まで近付く。


 そこに居た冒険者は、真っ赤な革鎧を着た華奢な青年。黒い帽子に刺さった真っ赤な羽根が、ゆらゆらと揺れている。


「リーズ……こういうことは先に言おう」


 パンドラが居るじゃないか。リーズの微妙な顔はこのことだったんだな。


「うっ、ごめん。

 どっちを優先するのか分からなかったから……」


 リーズの尻尾がしゅんと垂れ下がった。確かに指示していなかったが、『近くにパンドラが居た場合』なんてピンポイントな指示が出せるわけないじゃないか。

 今度からはそれも合わせて指示した方がいいのかな。


 まあ居るのは仕方がない。予定通り二番手を狙おう。

 しかし、あいつは本当に有能だったんだな。あっさりと狙いの大物を発見して、ソロで戦う気なんだ。言うだけのことはあるのだろう。



 俺達が遠くから観察していると、パンドラがこちらに駆け寄ってきた。一瞬逃げようかとも思ったが、二番手の予約が必要なのでここに留まる。


「やあ、誰かと思ったらキミ達か。

 気付いてないと思うけど、この先に危険なボアが居るんだ。早くここから離れた方がいいぞ。

 それとも、ボクを追ってきたのかな?

 それならボクの勇姿を目に焼き付けておくといいよ」


 パンドラが爽やかな顔をしながら早口で言う。また決め付けだよ。面倒くさいなあ。


「金のボアを追ってきただけだ。アンタはさっさと戦って、さっさと負けてくれ」


 鬱陶しいからサクッと負けてくれないかな。時間が短縮できるぞ。大丈夫、冒険者はボアに吹っ飛ばされたくらいでは死なないから。


「キミたちはあれがどれだけ危険か理解していないんだね。新人冒険者ならよくあることだよ。安心したまえ。

 ボクが戦う姿を見て、どれだけ危険な相手なのか理解すればいいよ」


 得意顔のパンドラに、ちょっとイラっとする。

 こうしている間に、金ボアに逃げられたらどうするんだよ。


「いいから早く行けよ。ボアがどこかへ行ってしまうぞ」


「そうだね。キミたちは安全な場所で見学していてくれ」


 パンドラが金ボアに向かって走り出したので、俺たちも後を追う。うっかり追い越さないように注意が必要だな。



 金ボアがよく見える所で立ち止まり、椅子とテーブルを出してお茶の準備をする。お茶を飲みながらのんびり見学させてもらおう。


 金ボアの大きさは、アメリカの大型トラックくらいだ。かなり大きい。その周りには普通の茶色いボアが2匹居て、合計3匹だ。

 普通のボアもちょっとしたトラックくらいの大きさなのだが、相対的に小さく見える。1対3なんだけど大丈夫なのかな。


「ボアはどうやって倒すんだ?」


「相手が1匹だったら剣で戦うんだけど、複数だから魔法ね。

 火か氷の魔法がよく効くらしいわよ。でも、毛皮がボロボロになるから歓迎されないわ」


 クレアがお茶が入ったカップに口をつけながら解説してくれた。


「なるほどね。だとしたら、あいつに倒されるのはもったいないなあ」


「そうね。でもまぁ、損するのはアタシたちじゃないから。

 ところで、なんでこんなに寛いでるのよ。ここも危険なのよ?」


 自分もお茶をすすりながら言っているんだから、全く説得力がないぞ。

 もしボアの意識がこっちに向いたら、テーブルを担いで逃げるだけだ。ノーマルボアなら返り討ちで問題ないか。



 戦闘が開始されたようなので、観戦しようと思う。

 パンドラが怪我をした時のために、ポーションを出しておく。もし怪我をしたら高値で売ってあげよう。


 パンドラは金ボアの正面に立ち、右手に短剣、左手に魔法の杖を構えた。ノーマルボアを無視して金ボアを先に仕留めるつもりらしい。

 スタイルは魔法剣士だな。短剣で牽制しながら魔法の詠唱を始めた。相変わらず、俺にはさっぱり聞き取れない。


「■■■■■■■■■、ファイヤーボール!」


 直径1mくらいの火の玉が、金ボアに向かって飛んでいく。謎の呪文で火が出るって、やっぱり不思議だよなあ。

 俺がパンドラを観察していると、ルナが不思議そうな顔で呟いた。


「これって……」


 ルナの呟きとともに、リリィさんも怪訝そうな顔で呟く。


「おかしいな……」


 2人で訝しげな表情を浮かべている。俺には普通に魔法を使ったようにしか見えないんだけどなあ。

 クレアとリーズも、訝しげな表情の2人を不思議そうに見ている。違和感を感じているのはルナとリリィさんだけのようだ。



『ドカァ!』

 大きな衝撃音が辺りに響いたので、視線を金ボアに移す。金ボアの足元の地面が大きく抉れ、煙を上げている。

 瞬間を見逃したんだけど、外したのかな。



 パンドラが次の魔法を詠唱している。


「■■■■■■■■■、アイスレイン!」


 空中に大きな氷柱(つらら)のようなものが発生し、金ボアに向かって落下した。この魔法は無駄が多いな。氷じゃなくて鉄を出した方がよく効くと思うぞ。

 今度は見逃さない。氷柱の行方を目で追うと、金ボアの毛皮をツルリと滑り、地面に突き刺さった。全く効いていないようだ。



 その後もボアたちの突進を避けながら、炎、氷、雷と魔法を切り替えて撃つが、尽く弾かれてダメージを与えられない。


「くっ! どうなっているんだ!」


 パンドラが叫ぶ。魔法が効かないのは予想外だったらしい。

 多彩な魔法を使い、それぞれが高威力だった。かなり優秀な魔法使いなんだと思うが、それが効かないのであれば意味がないな。相性が悪すぎる。


「これだけは使いたくなかったが……。

「■■■■■■■■■■■■■■、カオスフィールド!」


 少し長めの詠唱と、聞いたことが無い魔法だ。

 金ボアの周囲の空間が歪み、景色が上下逆さになった球体のように見える。これはどこかで見たような……長老の転移魔法に似ているな。空間操作の魔法なのだろうか。後で詳しく聞いてみよう。


 歪んだ空間の球体がどんどん小さくなり、やがて『パァン!』と音を立てて弾けた。見えない壁が迫ってくるような感覚で、俺たちの体を衝撃波が抜ける。

 衝撃の中心に居る金ボアは、少し怯んだが尚も平然と立っていた。多少は効いているようだが、1発で倒すだけの効果は無いようだ。


 試していないが、たぶん俺のアンチマテリアルライフルも効かないだろうな。魔法で出した弾丸だ。ツルリと滑って貫通できないだろう。


「くっ……ここまでか……」


 パンドラがその場で倒れ込んだ。うん、見事なやられっぷりだったよ。後世に残そうじゃないか。

 たぶん魔力切れだな。出したポーションが無駄にならずに済みそうだ。後で高値で売る。


 あいつはこれでギブアップだろう。次は俺たちの番だ。


「よしっ! 行くぞ!」


 号令をかけて立ち上がった。ばっちり見学できたので、対策は万全だ。俺たちは魔法を使わず物理で殴る。

 寝っ転がっているパンドラが邪魔なので、先に回収して俺の椅子に座らせておこうと思う。


 パンドラを確認すると、まだ意識が残っていた。引き継ぎの意思を確認した方がいいな。


「ギブアップか?」


「ぎぶ……なんだって?」


「降参かと聞いている」


「ああ、降参だ。ボクにはもう打つ手が無いよ……」


 パンドラが生気のない顔で力なく答える。

 パンドラを肩に担いでテーブルの場所に戻り、椅子の上に座らせた。目の前のテーブルの上にはポーションが置かれているので、たぶん勝手に飲むだろう。罠だ。


 すべての準備が整った。金ボアの討伐に向かおう。

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