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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第六章 異世界観光旅行
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はぐれ犬

 王都に到着してから2日が経った。出発の準備が整ったので、今日出発しようと思う。


 滞在中に買った物は、食料と魔道具の素材とポーションの材料だ。

 今回は逆方向になるので、エルフの村には立ち寄らない。そのため、納品用の小麦は買わなかった。エルフの村への納品分はダッチオーブン2つだけ。地方では手に入らない可能性があったので先に買っておいた。


 クレアが作ったポーションは、また100本を超えている。しかし今回は売らなかった。外出時に思ったよりも消費量が多かったので、200本くらいは常備しておこうと思っている。


 王都に滞在している間に氷室(クーラーボックス)の魔道具の解析が終わった。試作品を3つ作り、現在は改良に努めている。小型化してマジックバッグの機能を追加する予定だ。

 翻訳の指輪は緊急性が低いので、後回しになっている。次にエルフの国に行くまでに完成できればいい。



 身支度を済ませたら出発だ。解体の講習会に間に合わせるために、明日までにアルコイに到着しなければならない。

 おそらく今日の午後には到着するだろうが、早めに行動開始をしても悪いことは無い。


「行けるか?」


「はい、大丈夫です。行きましょう」


 ルナの返事とともに、全員が立ち上がった。みんなも準備ができているようだ。

 1人だけ、クレアが困った顔で口を開いた。


「あ。言い忘れていたんだけど。

 解体の練習で使う獲物、もしかしたら持ち込みになるかもしれないのよ」


「そうなのか?

 なんだよ、それだったらグリーンブルを残しておけば良かったじゃないか」


 そういうことは早く言ってほしい。

 5匹の買い取りを取りやめにするだけで良かったのに。もう一度狩りに行くのは面倒だぞ。


「何言っているの。そんなことしてたら腐るわよ」


「あ、確かにそうだな」


 内臓も抜かずに5日間放置したら、ほぼ間違いなく腐る。氷室に入れておいても危ないな。すでに1日放置してあったんだ。合計6日は絶対腐る。

 途中で狩りをする場所を考えておいた方が良さそうだな。できればもう一度グリーンブルが欲しいが、同じくらいのサイズなら何でもいいや。


「それに、ギルドが準備してくれることもあるから、行ってみないと分からないのよ」


 うーん、割とありがた迷惑だな。準備してくれるのならいいが、もしそれが無いなら1日で準備しないといけないのか。持ち込む前提で考えておこう。


「まあ、アルコイに着いてから考えよう。とりあえず出発しようか」


「そうね。行きましょう」



 宿にはしばらく戻らない旨を伝え、そのまま王都の外に出た。

 俺たちの本来の目的は、周辺の地図を埋めることだ。と言っても、勝手に周囲を感知して補完してくれるので、適当に走り回るだけで埋まる。


 わざとジグザグに走り、できるだけ広範囲の地図を埋める。開けた場所なら、半径1kmくらいの地図が勝手に書き込まれていく。ここはだだっ広い草原なので、地図が出来上がるのも早いだろう。

 付近には魔物の反応が大量に見られるのだが、全部ウサギだ。狩ってもしょうがないので放置する。



 アルコイが見える位置まで来たところで、周囲を走り回って地図を埋めた。王都からアルコイまでの間の大部分が完成している。

 出来上がった地図をあらためて確認する。やはりこの辺りは大草原で、近くには大きな川が流れている。この川は王都付近を流れている川の下流になるようだ。


 今日確認できている場所は、王都から西でアルコイから東の周辺だ。明日以降、アルコイの西側を探索しようと思う。

 チラッと見たのだが、西側には森と小さな山があるようだった。キャンプをするならあの辺りが良さそうだ。


「コーさん、狩りをするなら西側です。ボアがたくさん居るそうですよ」


 ルナが地図を指差しながら言う。

 明日の狩りの打ち合わせだ。ボアなら大きさも文句無いな。毛皮から想定する限り、大型トラックくらいのサイズだ。……だいぶデカイな。

 どうせ東側に居てもウサギしか居ないんだ。狩りが必要になったら西側でボアを探そう。


 ただ、マジックバッグの容量が心配だな。想定通りの大きさだとすると、人数分5匹のボアが入らないかもしれない。


「了解だ。でも、ボアって相当デカイよな?」


「そうですね……サイクロプスよりも大きいこともあります。危険ですか?」


 そうじゃないんだ。魔法がある限り大きいことは脅威にならない。的が大きくなるから、むしろありがたい。

 首を横に振りながら言う。


「いや、マジックバッグに入るかが心配なんだ」


「……何匹狩るつもりなんですか?」


「え? 人数分だけど?」


「そんなに要りませんよ!

 あんなに大きな魔物、1人では捌けません!」


 ルナが上目遣いで頬を膨らませながら言った。

 1人でやる作業じゃないのか。確かに大きすぎて辛いな。全員で1匹? それだと少ない気もするしなあ。3匹くらい狩ればいいか。それなら容量の心配もない。


「そうだな。アドバイスありがとう。

 じゃあ、そろそろアルコイの街に入ろうか」



 アルコイの街は、王都と同じように石でできた防壁で囲まれていた。丈夫さも王都の防壁と同じくらいだろう。高さは5メートルくらいで、これも王都の防壁と同じだ。

 地球でこの規模の防壁を作ろうと思ったら、相当な労力が必要になる。しかしこの世界には魔道具があるので、割と簡単に作れる。

 土を入れると、ちょうどいいサイズの石になって出てくるというトンデモ魔道具があるのだ。これの(つぼ)バージョンと煉瓦(レンガ)バージョンもある。


 防壁の門では、王都と同じように兵士が門番をしている。門番の検査を受けてアルコイの街の中に入った。

 やはり検査はほぼ素通りだった。身分証を見せてマジックバッグを開けるだけだ。門番はバッグの容量に驚いていたが、それ以上の詮索はされなかった。


「門番の仕事はあれでいいのかなあ」


 俺がふとつぶやくと、リリィさんが答えてくれた。


「不法侵入を防ぐための門番だ。検査に時間が掛かると門を通過しない者が増えるだろう。

 だから身分証を持っている者なら、すぐに通れるようになっているのだよ」


「なるほどね」


 本末転倒になるということか。行列ができて待ち時間が長くなれば、やましいことがないのに壁を乗り越える横着者が出てくる。そうなると、本物の怪しい人物とただの横着者の判別がつかないからなあ。

 今防壁を乗り越えて街に入ろうとする奴は、本物の不審者か、とんでもない横着者かのどちらかだ。それなら遠慮なく逮捕できる。



 街に入ると、王都と同じような煉瓦造りの家が並んでいる。ただし、王都ほどすし詰め状態にはなっていない。それぞれの家が余裕を持って建てられていた。

 王都では、どの地域に行ってもギッチギチに家が詰まっていた。だからこそ屋根走りがしやすかったのだ。この街では屋根走りが難しいな。


 石畳の道路を歩きながら街の中を見て回る。

 この街は、のどかな雰囲気が漂っていた。街の中を縦断する水路の側には街路樹が植えられていて、さらにのどかさを演出している。

 第一印象で決めるなら、住みたいのは王都よりもこの街だな。


「良い街ですね」


「そうね。西側の街はどこもこんな感じよ。

 ここなら王都も近いから、住むにはいいかもしれないわね」


 ルナとクレアも気に入っているようだ。ここなら家も安そうだし、キャンプに良さそうな場所にも近い。住むなら本当にいいかもしれないな。



 ……リーズの返事がないな。まさか、と思って辺りを見回す。


「リーズが居ない!」


 油断した! また勝手にどっか行った!

 門を通過した時にはまだ一緒に居た。その後どこかに行ったのだろう。


「またですか……。スマホで確認しましょう」


 ルナが冷静にスマホを取り出して、画面を見ている。

 スマホには位置情報を通知する機能が付いていて、どの方角で何メートル離れているかが表示される。

 この機能はマップと連動させた方がいいな。地図上で見えた方がわかりやすい。



 クレアとリリィさんも、ルナのスマホの画面を覗き込んでいる。


「え……? 結構遠くまで行ってるわね」


 クレアにそう言われて、俺もリーズの位置を確認した。

 街の奥に向かって約2kmの位置に居るみたいだ。かなり遠くまで行っているな。


「追いかけよう」



 道路を走ってリーズのもとに急ぐ。屋根の上と違い、他の通行人が居るので全力では走れない。これは少し不便だぞ……。

 暫く走ると、大きな建物の前でそわそわしているリーズを発見した。迷子の犬みたいになっているな。


「コラ! 勝手に離れるなよ」


「ごめーん。美味しそうな匂いがしたから……。

 こんなに遠いとは思わなかったよ―」


 リーズがしゅんとした表情で身をすくめた。

 2km先の匂いに反応したのか。リーズの嗅覚がさらに鋭くなっているな。そのことに自分でも気が付いていないんだと思う。だから予想よりも遠かったんだ。


 リーズの近くには、串焼きの店がある。大きな建物の一角で、小さなカウンターだけが外に面している。

 おそらくメインは別の店で、串焼きだけを通行人に売っているのだろう。小さく口を開けたカウンターの奥からは、香ばしい匂いが漂っている。

 カウンターの奥を覗き込むと、筋骨隆々なゴツいおっさんが、串に刺さった大きな肉塊を焼いていた。何層にも重ねられた肉をくるくる回しながら、暖炉のようなオーブンで炙っている。ケバブみたいな焼き方だな。



 確かに美味しそうだ。買ってみようか。


「おっさん、これは何の肉だ?」


「おっさんではない、オーサンだ。そして俺はお兄さんだ。デリケートな年齢だから気を付けてくれたまえ」


 おっさんはオーサンでお兄さんなのか。ややこしいわ!


「悪い。で、何の肉なんだ?」


「ボアだよ。この辺りはボアが多いからな。

 この焼き方は、俺が冒険者をしている時に開発したんだ。世界中のどこを探しても、ここでしか食えないぜ」


 得意顔で答えるオーサン。

 元冒険者のアイディア料理なのか。夜の見張り中はヒマだから、肉を焼くにはちょうど良いのかもしれないな。


「みんなも食べるよな?」


「あ……いただきます」


 ルナの返事と同時にみんなが頷いたので、5人分を注文した。

 薄い生地にキャベツ的な野菜と謎の野菜を乗せ、その上に謎のソースをドバドバと。薄くスライスした肉を乗せ、クレープみたいにクルッと舞いたら完成だ。

 うん、ケバブだね。中東あたりの屋台で売られているタイプのケバブだ。地球では、屋台によっては死ぬほど辛いソースを使っていることがあるらしいんだけど、大丈夫かな……。


 心配をしながら一口齧ると、肉が焼ける香ばしい匂いが口の中にふわっと広がる。ソースは程よく甘みと酸味があって、突き刺すような辛さを感じなかった。


「おいしー!」


 リーズが嬉しそうにケバブを頬張っている。今回はリーズの嗅覚と自由な行動に感謝だな。


 オーサンの店は、宿屋の一角にあると言う。大きな建物は宿屋だった。しばらくはこの宿に泊まることになった。値段は王都の『風鈴亭』と同じだ。この街にしては高い方らしいが、肉が美味いので許す。

 宿の確保ができたので、冒険者ギルドに顔を出そう。

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