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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第一章 旅をしたいのに王城から出られません
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男の手料理に抵抗があるのは男子高校生として正常な反応だと思う

 その後の道中は何事もなく、無事? に帰還することができた。


 頂上での食事は、肉とスープとニョッキのようなパスタ。キャンプにしては豪華な内容で大満足だ。

 パスタを茹でるための水が大量に必要だったのだが、きっと嫌がらせだな。イタリア人じゃないんだから。


 下り坂はとにかく危険だった。

 下り坂のほうが体力を使うのはもちろん、少しでも速度を緩めようものなら容赦なくボアが転がってくる。

 ロープで引っ張っているからね。慣性が仕事を頑張っているね。休んでもいいのよ?


 帰りもしっかりと川を渡ったが、ボアが水に浮いて大変だった。踏ん張り続けないと一緒に流される。

 川の真ん中で踏ん張っていたら、ギルバートが「獲物は川で冷やしたほうが美味い。そのまま明日まで浸かっておくといいぞ」と言ってきたので殴っておいた。


 一度整列した後、教官の「解散」の合図で訓練は終了した。




「大活躍だったじゃないか」


 ギルバートが話しかけてきた。


「そうかな。ついていくだけで必死だったよ」


「そのボアだよ。美味いぜ。捌けないならおれがやってやるぞ」


 さすがにイノシシは捌いたことがないな。これだけでかいとどこから手を付けたらいいかわからない。


「助かる。頼むよ」


「報酬として、少し貰うぞ」


 コイツ、それが狙いか。一人で食べ切れる量じゃないからいいけど。


「構わない。毛皮はどうしたら良いだろう?」


 たぶんそこそこ高級品だと思う。


(なめ)しは出来ないな。街の(なめ)し屋に依頼すればやってくれるが、結構高いぞ」


 皮なめしは時間と手間がかなり掛かる。昔うさぎで何度か挑戦して断念した。技術も要るし、高くて当然だな。


「誰か買い取ってくれないかな」


「それだったら、王宮に買い取ってもらえばいいよ。割安だが金払いが良い。

 おれたちもよく買い取ってもらっている」


 兵士の小遣い稼ぎか。任務中の獲物は国の物になるが、訓練中の獲物は個人の物になると聞いた。

 運が良ければ訓練中にも金が稼げるとなれば、兵士のモチベーションも上がるだろう。


「ところで、干し肉の加工は食堂に頼めばいいのか?」


 冷蔵庫も無いんだ。さすがに腐る。


「いや。自分で作る。頼むのなら金がいるな。肉を寄付してもいいが、結構高いぞ」


 うーん……高いのか。腐らせるよりはマシだ。やってもらおう。


「おれがやろうか? 解体のついでだ。食堂よりも安くやってやるよ」


 前に貰った干し肉もコイツの手作りかよ。割とうまかったが。イケメンの手作り干し肉……。需要はありそうだな。


「ギルバートの手作りってのが気持ち悪いが、頼むよ。

 肉は、好きなだけ持っていけ。今日一緒に参加した兵士にも分けてやってくれ」


「気持ち悪いとか言うなよ。

 気前が良いね。あいつらも喜ぶだろう。

 じゃあ、おまえが壊した鎧は置いていけ。係の者が修理する」


 盛大にブッ壊したからなー。反省はしていない。次同じ状況になったら、たぶんまた壊す。


「修理費とかいらないのか?」


「いらないぞ。消耗品だからな。皆よく壊すよ」


 だから教官も怒らなかったのか。


「じゃあ、ボアはおれが運んでおく。干し肉は10日ほどで出来上がるから待っていてくれ」


「よろしく頼む」


 ギルバートは「じゃあな」と言ってボアを担ぎ、帰っていった。



 訓練開始から今まで平然としているが……。たぶん身体強化を切った瞬間倒れる。

 ルナに会うまではこのままにしておかないと拙いな。


「お疲れ様です!」


 透き通ったきれいな声が響く。ルナだ。


「来てくれたんだね。ありがとう」


「ずいぶんと早いお戻りでしたけど……。何かありました?」


 おや? 早かったの? 初めてだから手を抜いてくれたのかもしれない。あの教官、意外と気が利くじゃないか。


「俺は初めての参加だからね。早いのか遅いのかわからないよ」


「そうでしたね。ずいぶんとお元気そうですので、治癒魔法は要りませんでしたか?」


「いや、そうでもない。身体強化を切れば倒れるよ」


 そう言って身体強化を解く。膝が笑い、全身の力が抜け、崩れるように倒れてしまった。今日は意識を失わないだけマシだな。


 ルナは慌ててアワアワ言いながら治癒魔法を掛けてくれた。

 温かい何かが全身を巡り、刺すような痛みの後、楽になっていく感覚がある。自然治癒が早送りされているような、妙な感覚だ。


「終わりました。起きていますか? 具合はどうですか?」


「ありがとう、大丈夫だよ。楽になった。すごいね、この魔法」


「ふふふ。効いたみたいで良かったです。今日はもう無理なさらないでくださいね」


 言われなくてももう無理ー。歩けるけどフラフラだ。治癒魔法が無ければしばらく寝込んでいただろう。


「そうだね。そうするよ」


「今日はこれから何をなさいますか? 私の仕事は終わりましたので、よかったらお付き合いしますよ?」


 お付き合いしてください。ぜひ。


 しかし、どうしよう。二人で図書室に行ってもしょうがないし、魔導院に行ったら何をさせられるかわからない。


 少し考えて答える。


「実は、何も考えてないんだ。たぶん動く気力が無くなるだろうと思って、予定を入れていなかった」


「そうでしたか……。ごめんなさい。もうお休みになりますか」


 申し訳なさそうに言う。いやいや、そんなもったいないことしませんて。


「いや、そうじゃないんだ。二人でゆっくり話ができる所、無いかな?」


 ルナは顔を赤くして「え?」と聞き返してきた。


「言葉の練習がしたいからさ。場所はどこでもいいんだけど」


 俺もつられて顔が赤くなる。慌てて言葉を返したが、早口で言い訳臭くなってしまった。


「それでしたら、いつもの部屋ではダメですか?」


 色気もなく殺伐とした雰囲気のいつもの部屋(倉庫)かー。

 カフェに行こうよ♪ なんて意味でも無いんだけど、あそこだと作業感半端ないんだよな。


「嫌ではないんだけど、あそこだとなんだか作業している気分でさ」


「確かにそうですね。でも、他の場所だと他人の目が気になりますし……」


 そういう言い方をするとエロいことをしているような気がしてしまうから不思議。お勉強ですよ? 真面目な。


「そうだよね。困らせてごめん。じゃあ、いつもの部屋に行こう」


 やっぱりエロイことを(以下略


 ついでに、倉庫内の魔道具について聞いてみようと思う。めぼしい物があればパクって……ちょろまかして……貰っていこう。


 いや、毛皮を売れば普通に買えるかもな。お願いして売ってもらえばいい。




 やってきました。いつもの倉庫。物がいっぱいホコリもいっぱい、でも色気は無いでお馴染みの、デートで行きたくない場所ベスト10入り間違いなしな我が家だ。


「散らかっているけど、どうぞ」


「はい。お邪魔します」


 ルナは微笑みながら入ってくる。食堂から借りてきた食器にお茶を淹れ、差し出す。厨房のおばさんにおねだりして貰ってきた茶葉だ。


 たまたま顔を合わせたので、「美味しい料理をありがとう」と声を掛けたら上機嫌でいろいろくれた。


「どうぞ」


 と言ってお茶をテーブルに置いた。このテーブルは倉庫にあった。客室にもある丸テーブルのセットだ。おそらく予備だ。

 ランプを手に入れた俺はまさしく無双状態だった。倉庫のなかの隅から隅までチェック済みだ。


「ふふふ。ありがとうございます」


「どうしたの?」


「ずいぶん使いこなしていますね、この部屋。主って感じですよ?」


 この部屋に押し込まれてはや数日。人間は道具を使うために進化したのさー。

 適当に掃除もして、ある程度整頓した。部屋のテーマは『物が溢れ返る書斎』だ。


「はは。本当に良い部屋だと思っているよ。意外と居心地も悪くない」


「そのようですね」


「ところで、用途不明な魔道具があったから、聞きたいんだけどいいかな?」


 と言って、謎の金属片や謎の木片を並べて、順に聞いていった。

 しかし、簡易的な計算機や風を起こす扇風機的なもの、ただ音を鳴らすだけの魔道具など、殆どが大したことない物だった。


 そんな中、一際興味を引くものが。


「これは、その。トイレに行った後、おしりに……。こう……。水が出て……」


「携帯型ウォシュレットじゃないか!」


 作ったやつ天才かよ!


「え?」


「ごめん。元の世界にも似たような物があったからさ。変なもの説明させちゃってごめんね」


 これは欲しい。キャンプだとどうしても葉っぱになってしまう。良い葉っぱが見つからないと辛いんだよ。切実に。

 魔法の水だからすぐに消えてしまう。乾燥の必要がない所も素晴らしい。


「喜んでいただけて何よりです。リリィさんも喜びますよ」


 開発者あの人かよ。何作ってんだ。天才じゃないか。次会った時に温度調節機能を追加してもらおう。

 お願いすればアイディアと交換で貰えるんじゃないかな。



 一通りの説明を聞き終え、勉強を始めようとした時、ルナが何かに気が付いた。


「あの、これ」


 手に取ったのは革でできた小さなバッグ。ポーチくらいの大きさで、ベルトフープが付いている。


「どうしたの?」


「これ、マジックバッグです」


「聞き覚えがあるな。大量の荷物が入るやつ?」


「そうです。これも、元の世界に?」


 あったらいいよね。日本でも欲しい。

 たまに『どうやって入れてるの?』っていう量の化粧道具を小さなポーチに詰め込んでる女子が居るけど、もしかしたらこれかもしれない。


「いや、無かったんだけど、割と有名というか」


 フィクションでは定番です。


「そうでしたか。これも元はエルフの技術です」


「じゃあ、相当高価なの?」


「いえ、それなりに高価ですが、これは解析された技術で作られていますので。

 王都の職人さんが作っていますよ」


 なるほど、量産品か。いずれ欲しいな。買える金額ならいいんだけど。


「教えてくれてありがとう」




 そのあと、日課(お勉強)の時間はかなり捗った。時間があるのでたっぷりと。

 かなりまともに喋れるようになったので、旅立ちの日は近いかもしれない。

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