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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
9/162

それは例えるなら五条大橋で仁王立つ、弁慶のようにの巻

登場人物紹介


キン星山


本名、キン星ショウヘイ。惑星、キン星から来た外宇宙生命体。手が四本、足は六本ある。ここが原作との最大の違いである(何の原作だ!)好物はたこわさび。野ワサビをかじると巨大化する。金星部屋の親方、キン星ヒデキの長男。必殺技は開運バスターと大凶ドライバー、両方ともプロレス技にしか見えない。

 やがて俺は土俵の西側の端で待っているチームメイトたちの姿を見つけた。

 一瞥しただけでわかる極度の緊張状態。誰も笑ってはいない。

 世界中から集まった強豪たちが、この戦いから倫敦橋の情報を少しでも引き出そうと虎視眈々と狙っているのだ。

 

 親方が熱いダージリンの入ったティーカップを俺に手渡した。

 英国流の力水ならぬパワー・ティーだった。

 俺は無言で頭を下げて、湯気を立てるティーカップの中身を一気に飲み干した。


 熱い?

 

 全く違うね。


 今は熱々の紅茶よりも俺の魂は燃えている。俺はこの戦いに勝ちに来たのだ。俺は不敵に笑うとそのままティーカップを親方に返した。


 親方はじっと俺を見つめている。


 大丈夫だ。親方オヤジ、あんたの弟子ムスコを信じろ。


 俺はさらに深く頭を下げる。そしてただ一言、告げた。


 「GOD AND DEATHゴッツァンデス


 英国に伝わる古い言葉。


 ベストは尽くした、

 後は神のみぞ知るという意味だ。


 「ハル。暴れてこい」


 そう言ってから俺の肩をポン叩いた。

 そして、親方は俺に背を向けて去って行く。

 俺は無事な方の手を振り回しながら、その時を待った。


 「東。我上院部屋はスモーナイト、倫敦橋」


 レフェリーが奴の名を呼ぶ。

 すると会場の東口にスポットが当てられ、闇の中から倫敦橋が姿を現した。

 倫敦橋の傍らに控えていた執事は彼の肩にかかっているだけのロングコートを外す。

 コートの下から近代イングランド風の青い鎧が姿を現す。倫敦橋は鎧を脱ぐつもりはないらしい。


 俺の額に浮いた血管がピクリと反応する。


 まだ俺を見下しているのか。それとも俺を怒らせて勝負を有利に運ぶ作戦でも立てていやがるのか。


 その時、あるかないかのほんの一瞬の隙をついて俺は視線を当てられた。


 この鎧が最初の試練だ。

 果たしてお前はこの鎧を脱がすことが出来るのか。


 俺は視線に込められた意図を即座に理解する。

 その後、倫敦橋は俺のことを一瞬だけ見るとすぐに前に進み始めた。


 ライバルからの思いがけぬ挑戦状にかつてない興奮を覚える。

 返答はどうだって?

 

 聞くまでもない。上等だ。やってやる。


 俺は暗闇の中、倫敦橋を見返してやった。


 その刹那、奴の瞳には好奇に満ちたエメラルドグリーンの輝きが宿る。仮面の奥で奴は笑っていた。


 「西。鰤天部屋はスモーウォーリアー、春九砲丸」


 手で左右の頬を打つ。

 威勢の良い音が二度、ホールに響く。

 気合を入れ直すおまじない。実はこの手の俺は頑張ってます、という感じのパフォーマンスは嫌いだ。

 しかし今日に限っては事情が違うので禁忌タブーを侵すことにしたのだ。


 土壇場になっても消えることのない未知の強敵との恐怖、つまり俺はビビり過ぎて震えが止まらない状態なのだ。

 こうして定期的に活を注入してやらなければ俺は会場から逃げ出してしまうだろう。

 今日に限って心臓の鼓動がやたらと耳に響く。

 俺も人の子ってことか。

  

 「それでは女王陛下の名において、この勝負を神聖なるものとする。両者、よろしいか?」


 お決まりの挨拶。

 レフェリーの手が再び、振り下ろされれば勝負は始まる。

 ただそれだけの話だ。


 だが、それだけだというのに俺の喉はカラッカラになってしまった。

 

 これは良くない。

 

 そう考えるや否や俺は少しでも喉を潤そうと唾を飲み込もうとする。

 

 駄目だ。極度の緊張の為、言葉が出ない。

 続けて俺は膝を曲げて腰を落とす。


 ほぼ同時に倫敦橋も構えた。


 そして、ほんの一瞬だけ倫敦橋と目があった。


 今、この時だけは対等だ。


 エリートと野良犬、生まれた場所も育った環境の違う二人が対等の立場で雌雄を決する。この戦いの為に残された腕が燃えている。


 今だけは感謝するぜ、グレープ・ザ・巨峰。


 倫敦橋の両手が健在ならば自慢の得意技、タワーブリッジ投げを極められて一瞬で勝負がついてしまう可能性があった。


 だから俺は五分の戦いをする為に今回の戦いではいくつかの戦法を封印することにした。


 「聞け、倫敦橋。俺は今日の戦いで鉄砲ガンスリンガーは使わない」


 俺の発言にレフェリーや我上院部屋の連中、そして倫敦橋の執事が驚いていた。

 しかし当の倫敦橋はどこ吹く風といった具合である。


 「わかった。君の事情は知らないが、私は堂々と得意技を使わせてもらうぞ」


 口元に手を当て、やや気取った様子で苦笑、嘲弄。余裕の態度を匂わせる倫敦橋の返答。


 一瞬にして焦りと怒りが生じる。


 まさかこいつ使えるのか?


 片腕で、あの盤石の必殺技ロンドン名物タワーブリッジ投げを使うというのか!?


 かすかな期待と恐怖が、俺の闘志を掻き立てる。

 

 倫敦橋、お前はどこまで俺を熱く燃えさせてくれるんだ。


 「常にフェア・プレイを大切にするという君のスモーナイト精神は敬意に値する。だが、私を相手にそのハンディキャップは聊か驕りがすぎるのではないのかね?現に私には君の得意技、喧嘩張り手の攻略法を披露するつもりで勝負に臨んだというのに」


 面白い。


 流石は英国最強のスモーレスラー、ジョークも一流ってわけだ。


 怒り心頭を発し、俺は立ち上がって倫敦橋に詰め寄った。


 どよめく観衆、レフェリーは声をかけるべきか否か悩んでいる。

 この場で冷静な態度を保っているのは女王陛下と世界の強豪たちだけだろう。


 俺の十八番おはこの攻略法、そのセリフがきっかけだった。

 前傾姿勢から立ち上がり、腹を空かせた猛獣のように機を窺う。


 まどろっこしい儀式につき合う必要はない。

 

 普段なら伝統にうるさいレフェリーが注意してくる頃合いだが、黙ったままこっちの成り行きを見守っている。


 「レフェリー」


 息苦しい沈黙が続く最中、一人の女の声が会場に響く。


 誰であろうその声の主はスーパーエリザベス一世だった。


 「宜しければ試合の合図を私に出させてくれませんか?」


 女王の気まぐれに口ごもるレフェリー。

 

 長く続く英国の歴史でも前代未聞の事態だろうよ。

 俺は軽く頭を下げた。倫敦橋は姿勢を正してから女王に向かって深々と頭を下げる。

 女王は胸に手を当て、微笑む。険悪な雰囲気に飲まれ黙り込んでしまった観客どもが再び騒ぎ出す。

 この状況を読んでいたとしたら、つくづく食えない女王様だ。


 「では、大英帝国の名のもとに両者見合って」


 俺の渾身の喧嘩張り手、この一撃で葬る。


 俺は相変わらず立ったまま、倫敦橋を見据える。


 俺のこのまわしを取って下さい、と言わんばかりの仁王立ち。


 古くはニンジャとスキヤキの国ジャパンから伝わる伝統的なベンケー・スタイル。


 かつてジャパン東西の王者を決める大戦ゲンペーウォーにおいてヒエーマウンテンのバトルプリーストでありながらスモー・サムライでもあったベンケー・ムサシ・ボウは敵将ミナモト・ウシワカ・マールとゴジョービッグブリッジで戦った際に今の俺と同じく胸を張り両手を広げた状態で敵軍の弓兵が放つ矢の雨を全て受け止めたらしい。


 その後、命を賭してのカブキ・ソウルに心を打たれたミナモトウシワカマールは戦いの虚しさを悟りカマクラ・ガヴァメントを辞退した後にモンゴルに渡り、天武人テムジンという名のスモーレスラーとなってユーラシア大陸を統一した後に北海道でヨシツネジンギスカンという焼肉みたいな鍋料理を売り出したのはあまりにも有名な話だ。


 倫敦橋も俺と同じように姿勢を変えていない。

 片手ゆえに従来の形でのタワーブリッジ投げは使えない。

 得意のロケットダッシュで一気に土俵の外にまで突き出すつもりか。

 倫敦橋のトレードマークである鎧が足かせになって思うような速度を得ることは出来ないはずだ。

 もしも余計な動きをしようものなら、すぐに俺の張り手の餌食になる。

 だが相手は倫敦橋。このまま終わるはずがない。


 「レディー、ゴーッッ!!!」


 会場に響く運命の女神の掛け声。待ったなしの大勝負が始まった。

更新が遅くてごめんなさい。これからは血反吐を吐きながら、頑張るつもりです。

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