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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第五十三話 ラスト・ラン‼の巻

次回は十月二十三日くらいに投稿するでごわす‼


 「要するに捕まらないように試合中、逃げ回っていれば良いでごわすな?」


 こんな状態で明後日の試合に間に合うのか、という感じの全身包帯グルグル巻きの格好で光太郎は言った。


 ギロリッ‼


 羽合庵、鈴赤、美伊東君は凄みのある眼光で光太郎の二の句を押さえ込む。

 光太郎は青い顔のまま下を向いてしまった。


 「前回のテキサス山戦では無気力試合はルール違反にはならなかったが、スモーオリンピックではそうはいかん。というか今回の戦いは国の威信も関わってくる戦いなのだ。いいか、光太郎。お前が試合でいくら恥をかいても構わんが綿津海部屋とキン星山の名に泥を塗るような真似だけはしてくれるなよ」


 世俗の評価など歯牙にもかけぬはずの羽合庵がガラにも無く憤っていた。

 それもそのはず羽合庵の師匠、海星雷電は表の顔は無名の力士にすぎなかったが実力は世界でも指折りであると今でも信じている。


 気がつくと英樹親方、タナボタ理事も熱の籠った視線で光太郎を見ていた。


 「ようし!わかったでごわすよ!今からおいどんは世界に羽ばたくキン星山になってやるでごわす!印度華麗?猪口才な‼辛いものなら辛党のおいどんの独壇場、大盛り爆盛りどんと来いでごわす‼」


 カッコ良く大見得を切ったつもりだが見事に不発する…。

 光太郎なりに祖父に敬意を見せたつもりだったが周囲の反応は灰色のままだった。

 

 「チッ‼わざとらしいんだよ、オメーのふかしはよ‼」

 

 鈴赤などは聞こえるように舌打ちをしている。


 ブロッケン山は無人になった土俵を人差し指でさす。

 上着を脱いで光太郎よりも先に入って行った。

 

 ブロッケン山は羽合庵と同様によく鍛えられた熟練の力士の肉体だった。

 年齢を感じさせない引き締まった筋肉、全身を薄らと包む脂肪はさながら肉の鎧と呼ぶにふさわしい。

 さらにブロッケン山自身、目立たないように気を使っているのかもしれないが肉体の各部には古傷が残っている。

 長い年月を戦い抜いた力士の肉体だった。ブロッケン山は太くて長い指に簡単なテーピングをして土俵に向かって手招きをする。


 「フン。お前の意気込みはわかったぞ、キン星山。餞別代わりに俺が現代版”へのへのもへじ投げ”を伝授してやる。習うより慣れろってな」


 そう言ってブロッケン山は肩を大きく回している。

 脇や横腹にも節目のような傷跡が見えた。

 光太郎はブロッケン山に続いて土俵に上がった。


 (すごい圧力でごわす。これが東欧の王者ブロッケン山‼)


 その直後、相対してわかる歴戦の勇士の貫禄に圧倒される。

 心、技、体。

 全てにおいて今の時点では光太郎が太刀打ちできるような相手ではないことは理解出来た。


 しかし、相撲である以上は組み合ってみなければわからない。


 「良いのでごわすか、ブロッケン山。あんさんとおいどんはスモーオリンピックになれば敵同士でごわすよ?」


 「ああ。敵は出来るだけ強い方がいいからな。最強の敵を、最高の状態で打っ倒す。この快感はいくつになってもたまらねえや」


 パシンッ‼パシンッ‼


 光太郎は頬、胸、腹を叩いた。

 以前よりも引き締まり、重量を増した肉体が強張りを見せる。


 (稽古といえど気を抜けば殺される)


 光太郎は力士の顔に引き戻される。

 臆病風に吹かれた小心者はどこにもいなかった。

 

 ブロッケン山は挑戦者たる力士に生まれ変わった光太郎の顔を見てニヤリと笑った。


 その横顔にわずかな違和感と悲壮感を覚えたのは、同世代を過ごした羽合庵だけだったのだろうか。


 「これは俺の師匠、ライン川の言葉だが”へのへのもへじ投げ”ってのは決められたルートに敵を追い込むことが骨子らしい。例えば、こういう感じだ‼」

 

 ぶおんっ!

 

 ブロッケン山は悠々と光太郎の前まで歩いて行き、首を掴んでそのまま倒してしまった。

 突然地面になぎ倒され、光太郎は二つの意味で驚愕を禁じえない。

 同じくらいの体格の男がどうしてこうも簡単に自分を倒してしまったのか。

 そして、光太郎自身は試合に挑むような気持ちで土俵の上に立っていたというのに…。


 「これがブロッケン山…。若とはものが違いすぎる…」


 美伊東君が額に汗を浮かべながら呻いた。

 過度の相撲オタクである美伊東君はブロッケン山の過去のデータについては、おそらくこの中では誰よりも熟知していたはずだった。

 ブロッケン山が強い力士であるということはわかっていたはずだったのだ。


 「受け身を取ることさえできんとは…。ブロッケン山師匠、今のが”へのへのもへじ投げ”でごわすか⁉」


 思わず師と礼賛してしまいそうなほどの技量だった。


 光太郎の姿を見て羽合庵が舌打ちをする。


 ブロッケン山は皮肉っぽく笑いながら答えた。


 「いいや、坊主。今のが”へのへのもへじ投げ”で対応すべき技の一つだ。かつて海星雷電と華麗南蛮が研究するうちにぶつかった壁、大昔の”へのへのもへじ投げ”では対応できない無手勝流っていうか喧嘩殺法への対処法ってヤツだな。そいつをこれからお前に叩きこむ。小便なら先に言って来い。言っとくがお漏らしても面倒は見切れないぜ?」


 ふわ…っ、ずどんっっ‼‼


 ブロッケン山は何とか立ち上がった光太郎の右手首を掴んで、持ち上げた後そのまま土俵に叩きつけた。

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