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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
覇道 春九砲丸編 
8/162

俺が正義だ!アメリカ最強の力士テキサス山登場の巻!

 それは静かなる動とでも言うべきか。

 本性を現したラーメン山は身動き一つしない。

 先ほどのまでの苛烈さは身を潜めているのにも関わらず、威圧感は以前よりも増している。

 

 本当に勝てるのか、この男に。

 春九砲丸はこの時、初めて自分が後退しようとしていることに気がついた。


 スモーは力だ。いつもの先手必勝はどうした。

 自らを奮い立たせようとするも、今のラーメン山を前にしては何も出来ない。

 これが中国最強のスモーレスラーの実力か。


 「若き力士ピータンよ。怖じ気づいたか?」


 俺の狼狽ぶりを楽しむかのようにラーメン山はじっくりと距離を詰めて来る。

 

 使うか、あの技を。倫敦橋の観ている前で。

 本来ならば出し惜しみなど俺のポリシーに反する行為だが、ラーメン山と倫敦橋との連戦ともなれば事情が違ってくる。


 「全力で戦って負けることは恥ではない。だが、一つの戦いで己の全てを出し切れぬまま敗北することこそが恥なのだ」


 ラーメン山は俺を嗤っている。安い挑発だ、スルーしろ。

 俺の本番は、倫敦橋との戦いだ。


 「おっさん、男の言葉は汗だ。一度、外に出ちまったら二度と元には戻らねえのよ。これ国際ルールだよな。中国でも通用するだろ?」


 やっぱり無理だ。ここだけは曲げられない。

 ここで負けるのも、この後倫敦橋に負けるのも結局は同じだ。

 スモーレスラーが戦いを挑まれて、逃げることなどあってはならないことなのだ。


 「ふむ。たしかに国際ルールだな」


 春九砲丸の言葉に、凄絶な笑みを以て返すラーメン山。

 餓狼と天龍。二匹の獣が衝突する。 


 だが、しかし。


 バキューン!バキューン!


 会場の中に響く謎の銃声。


 「!?」


 急変した事態を把握する為に俺もラーメン山も勝負を中断せざるを得なかった。

 そして、視線の先にある二回観戦席にはカウボーイのような恰好をした男の姿があった。

 男はリボルバー式の拳銃を回しながら腰のガンベルトに収める。


 俺は反射的に舌打ちした。


 しみったれたヤンキーめ、いつの時代の流行だ。俺はどうにもアメリカ人は好きになれない。


 「ヒュー!そのデュエル、ジャスト・ア・ウェイティングだぜ!」


 客席から投じられた鉄製の手錠。

 一つは俺の手首に、もう一つはラーメン山の手首に嵌った。

 俺はすぐさま外そうとするが手錠が思いのほか頑丈だった為に何も出来ないでいた。

 一方、ラーメン山は手錠が投げられてきた方角を睨んでいる。

 強者のみが持つ猛々しい闘気オーラがこちらまで漂っている。

 今度は一体、どんなスモーレスラーが待っているというんだ。


 「ミスター・ラーメン山。中国四千年の伝統か何かは知らんが、順番は守らないとな。タイムイズマネー、これがニューエイジのワールドスタンダードってやつさ」


 男はテンガロンハットのつばを立て、人差し指をラーメン山につきつけた。


 ピンク色の肌、くせの強いカールのかかった金髪、水色の手袋とまわし。言わずと知れた奴のトレードマークだ。

 

 男は観客席からここまで飛び降りた。

 帽子が落ちないように上から手を押さえている。


 ハリウッドのスター気取りか。


 ハッ。どこまでも気に食わねえぜ、アメリカ野郎ってのは。


 「余計な事をしてくれたな、テキサスの荒馬さんよ。男同士の勝負に水をさしやがって。この落とし前、どうつけてくれるんだ。アメリカ合衆国はワイルドウェスタン部屋のエース(米国では大関のことをこう呼ぶ)、テキサス山さんよぉッ!!」


 テキサス山はやれやれと言わんばかりに肩をすくめて苦笑する。

 気持ち悪いピンク色の肌をしやがって、それ絶対にエステ失敗しただけだろうが。

 しかし、新興勢力といえど広大なアメリカ大陸で最強の称号を持つテキサス山というスモーレスラーに興味が無いわけではない。

 俺はバトルのきっかけを作る為に奴の胸倉を掴もうとする。

 テキサス山は陽気でフランクな性格で知られているスモーレスラーだが、バトルとなれば苛烈な本性を晒すだろう。

 

 感謝しろよ、アメリカの田舎者。この俺がきっかけを作ってやろうってんだからな。


 そんな俺の前を立ちはだかる者がいた。


 どこの命知らずだ。


 重厚な青いブレストプレート、見覚えのある鉄の仮面。

 俺の対戦相手、倫敦橋だった。

 その時、テキサス山の陽気な雰囲気が険しいものに変化した。

 ラーメン山同様にこの男の目的も倫敦橋と対戦することだったのだ。


 「喧嘩の仲裁というわけではなさそうだな、テキサス山」


 「オフコース。この戦いの観戦に来ているのはお前のファンだけじゃない。世界中のライバルたちだって注目しているんだぜ」


 テキサス山は観客席を指さす。するとそこには試合の観覧を目的に来た人々に紛れてスモーの世界ランカーたちが座っていた。

 その中でも一際目立つ闘気オーラを放っていた男がいた。

 上には昔のドイツの軍人のような黒を基調としたコートを羽織り、下半身はミリタリーファッションを意識したモスグリーンのまわし。

 そして男の象徴シンボルである大銀杏に乗せられた髑髏の徽章がついた帽子も忘れてはいけない。

 彼こそは世界大戦の悪夢、地獄の処刑人という二つ名で知られる東ドイツの力士ゾルダートブロッケン山だった。

 ブロッケン山は弟子らしき少年を随伴していた。

 少年はラーメン山と春九砲丸の前哨戦を見て、かなり興奮している。

 師匠にして父親であるブロッケン山が制していなければ単身で殴り込みに行っていただろう。


 「親方レーラァ、あれが西側の奴のスモーか。全然、甘っちょろいな。今の俺でも一本ダンケシェーン取れそうだぜ?」


 己を根拠も無しに過大評価する、若さとはこういうものか。


 帽子のつばで苦み走った表情を隠しながらブロッケン山は殺気を放つ。

 それを感じ取ったブロッケン山の息子、鈴赤ベルアカは押し黙ってしまった。


 奴等と戦うにはまだ早い。

 

 全盛期を迎え老いが迫ったブロッケン山にとって鈴赤は希望の星である。肉体、精神の両面において成長の途中であり、人生初の敗北を知るには早すぎる時期でもあったのだ。

 ブロッケン山は自身の配慮が過保護とは思いつつも、若い鈴赤に苦言を呈する。


 「急くな、小僧ソーセージ。機が熟すれば好きなだけやらせてやる。今はただ敵の動きを見よ」


 「ハイハイ。最近の親父はそればっかだな。そろそろ引退した方がいいんじゃない?」


 ゴツンッ。


 ブロッケン山の拳骨が鈴赤の脳天に落とされる。

 頭蓋骨が割れたのではないか、と疑うほどの痛みが鈴赤を襲う。

 ブロッケン山は今年四十を迎える古参の力士だが、腕力は全く衰えていない。

 その事を身をもって知る鈴赤だった。


 「親方だ。口を慎め、小僧ソーセージ


 スモーの世界に入った時から、親子の情は捨てた。

 スモーの掟を破るものは容赦せぬ、とさんざん脅かしたつもりだったが悪ガキ殿は理解していなかったらしい。


 「了解です。親方。しっかし痛いな、これ」


 オヤジの拳骨の痛さに思わず涙を出てしまう。

 痛いのはもう二度と勘弁してもらいたいところだが、やはり俺のオヤジは世界最強のスモーレスラーだと喜んでいる自分がいる。

 鈴赤は尊敬するブロッケン山の命令におとなしく従うことにした。

 ブロッケン山は鈴赤の様子に満足し、観戦に徹する。


 ラーメン山は闘気を収め、俺に背を向ける。

 

 どういうつもりだ。

 

 この勝負を降りるつもりか。

 

 俺はラーメン山の次の行動を待った。


 「興が削がれた。倫敦橋、春九砲丸。この試合の結果がどうであれ、後日この私と勝負しろ。相撲の本場が我が祖国であるということを思い知らせてやる」


 ラーメン山は落ち着いた調子で俺たちに告げる。

 そして、そのまま会場の外へ出て行ってしまった。


 相変わらず一言多いオッサンだ。


 スモーの本場は英国だってんだ。


 歴史の教科書にだって書いてあるぜ?(果たしてそれはどうかな)


 「春九砲丸」


 「倫敦橋」


 「最高のファイトを期待している」


 「ぬかしやがれってんだ」


 俺と倫敦橋は互いに背を向けて土俵リングに向かった。

 

 誰かに見られている。視線の主はグレープ・ザ・巨峰、あの男に違いない。

 たまらず俺は観客席に目を向ける。ひたすら強い闘気オーラを放つ方角を見る。

 頭にカレーライスを乗せたヤツ、頭がティーカップのヤツ、全身がタイルで覆われたヤツなんかを見せた。こいつらは紛れもなく世界有数の強豪だろう。

 だが、違う。

 俺の捜しているグレープ・ザ・巨峰はこいつらとは次元の違う強さを持ったスモーレスラーなのだ。

 倫敦橋ならばあの男を倒すことが出来るのか。


 俺は頭をふって雑念を振り払った。

 今は目の前の倫敦橋との決戦に集中しなければならないのだ。

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