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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第四十九話 小さな巨人 美伊東君‼の巻

 かなり遅くなってしまったことを心よりお詫びします。繋ぎがどうしても思いつかずこういう形にんってしまいました。

 次回は9月4日くらいに投稿する予定です。


 その後、修行は順調に進んだ。

 光太郎は第二、第三のルールを習得し、試合前日までにキン星山の奥義の一つである「へのへのもへじ投げ」を完成させる。

 それまで光太郎に関わってきた周囲の人間全てを納得させるほどの完成度を誇る必殺技だった。少なくとも、あの男が現れるまでは。

 大会開会式の前日、その男たちは綿津海部屋の前に現れた。


 古めかしい軍帽をかぶり、軍服に身を包んだ男。

 これで下半身が真っ裸でまわしを身につけていなければ誰もが彼を軍人と見間違えていたであろう。

 男は葉巻の代わりに「アルトバイエルン」を咥えていた。


 「グーテンモルゲン。羽合庵、久しぶりだな」


 男は軍帽のツバを上げて、羽合庵を見据えた。

 射抜くが如き眼光に、百戦錬磨のハワイ力士も動揺を隠せない。

 東側最強の力士はかつての好敵手の対応を満足げに、だが皮肉っぽく笑った。

 彼の名はブロッケン山(※名前的には規制ギリギリ)、故郷東ドイツでは”守護神”の二つ名で知られている力士だった。

 東西の冷戦下において行われた交流戦ではゼロ勝ゼロ敗の最強の力士として今も尚世界各地の力士から恐れられている。

 実の彼を見ても動じない者は余程の世間知らずか、同じ側で戦った中国のラーメン山か、敵として名勝負を演じた羽合庵くらいのものだろう。

 しかし現王者、倫敦橋との対戦は何故かブロッケン山は避けていた。その理由を知る者はいない。


 「いきなりだな、ドイツ男。ここは日本だぞ。私の居場所を知っているなら手紙くらい寄越してから尋ねろ」


 羽合庵は右手を張り手の形にしてゆっくりと突き出す。

 ブロッケン山は帽子を取ると、同じくして右手を出して羽合庵の掌と重ねる。古い力士たちの”握手”に相当する挨拶だった。

 羽合庵の隣にいる英樹親方は新聞紙を持ったまま硬直している。

 かつての世界交流戦で対戦相手を全員殺している力士を前にしては、無理からぬことだろう。


 「フンッ、これが俺のドイツ流だ。文句があるなら昔のように相撲でエアガイツ(※勝負をする、という意味のドイツ語)するか?」


 ブロッケン山は帽子のツバに手をかけて一歩前に出る。羽合庵は両手を放り出して、ブロッケン山の挑発を受け流そうとする。

 近くには愛弟子の光太郎がいるので、いざとなれば戦う覚悟だったが。


 「御免被るな。こう見えても私は平和主義者だ。ようこそ、東の勇者よ。何もないところだが…用件が済んだらさっさと宿舎にでも引き上げてくれ」


 ブロッケン山は苦笑した後に帽子を被り直した。


 光太郎らのようなギャラリーには大変、心臓に悪い性質たちの悪いジョークである。

 

 ブロッケン山とつき合いの長い羽合庵とて今回ばかりは機嫌を悪くする。

 何せついこの間、東西の緊張の高まり具合からスモーオリンピックの出場が危ぶまれた力士の来訪である。身構えるなという方が無理からぬ話だろう。

 笑った後、ブロッケン山は後ろに隠れている坊主頭の少年を羽合庵の前に引き出す。

 

 ブロッケン山をそのまま子供時代まで戻したような姿の少年は「やめろよ!」と抵抗していた。羽合庵たちも思わず緊張を解いてしまうな微笑ましい光景だった。


 「そう気を悪くするな、羽合庵よ。俺だってケンカをしに来たわけじゃない。今日は未来のヨーロッパ相撲の王者に、かつてのライバルの姿を見せておこうかと思ってな。おい、鈴赤。さっさと出て来い。コイツが俺がいまだに格上と認める力士、羽合庵だ」


 「俺は…、鈴赤ベルアカだ‼いずれアンタと倫敦橋を倒し、統一王者になる男だッ‼この俺の顔を、覚えておけよな。老いぼれが‼」


 少年は顔を伏せたまま啖呵を切ってきた。


 羽合庵は鈴赤にどう接して良いかわからずに黙ったままになっていた。

 光太郎や英樹親方が相手なら無礼な振る舞いに雷を落とすところだが、よそ様の子供となれば勝手が違うのだろう。

 光太郎と美伊東君も、羽合庵の鼓膜が破れそうなほどの怒声を知っているので師匠の狼狽している姿にある意味納得していた。

 その時、鈴赤の頭にブロッケン山の拳骨が振り下ろされた。


 「何を言っているのだ、ソーセージ(※ドイツでは未熟な若者をソーセージと呼ぶ)。俺は挨拶をしろと言ったんだ。喧嘩をふっかけろとは言っていない。すまんな、羽合庵。そういうわけだ」


 ブロッケン山の拳骨をもらって涙目になった鈴赤は羽合庵と光太郎たちに向かって頭を下げて回った。

 そして父親のもとに戻ったかと思うといきなり飛び出して光太郎の脛を蹴り上げた。

 続けて袖を捲り上げて挑発をすることも忘れない。


 「俺は強いヤツしか認めない‼本気で頭を下げて欲しければ、うちの師匠を倒して見ろ‼」


 鈴赤は脛を蹴られて腰を抜かしている光太郎に向かって叫んだ。

 一応、鈴赤はドイツ語で光太郎は日本語を喋っているわけだが話的に意味が通じていると考えて欲しい。


 うひい、と間の抜けた悲鳴を上げると光太郎は腰を抜かしたまま美伊東君の後ろに隠れてしまった。


 これが本作におけるキン星山とドイツの不屈の力士、鈴赤との最初の出会いとなる。

 奇しくも鈴赤はこの後、不孝な出来事に連続して見舞われ光太郎との約束を忘れてしまうのだが後に無二の親友となるこの出会いを一生涯感謝することになる。

 

 下手に対処を間違えれば噛みついてきそうな鈴赤の前に美伊東君が現れた。


 「いけませんね、鈴赤君。本当に強い人は、何の予告も無しに相手にかかって行ったりしませんよ」


 相手が年下だと思って、鈴赤はさらに強気に出る。

 鈴赤の体格は小柄だが東ドイツ国内において同世代間では無敵の戦績を誇っていた。

 父親のネームバリューも入ってのことだろうが見た目からして鈴赤は強者の品格というものを持っている。

 しかし、綿津海部屋の猛者たちと共に稽古を続ける美伊東君には子供の虚勢など通用しない。


 「何だ、チビ助。相撲ってのは要するに勝てばいいんだよ‼勝ったヤツが強くて偉い‼俺が何か間違った事を言っているのか⁉」


 後年、鈴赤はこの時のセリフと非礼を美伊東君に謝ることになる。

 

 鈴赤は弟子の自衛道に「もしもあの時、美伊東君や光太郎に出会わなければ自分はスモーデビルになっていただろう」という言葉を残していたほどである。


 鈴赤は自分よりもさらに小柄な美伊東君を見下していた。


 「キミのお父様、ブロッケン山が何故至高の力士と呼ばれるか。その由縁を知らないようですね。よろしい。僕が相撲というものを教えてさしあげましょう」

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