第四十一話 黄龍の予言‼の巻
次回は8月23日に投稿します。遅れてごめんなさい。
「テキサス山よ。どうやら私の目は曇っていたアルよ。お前は良いライバルと出会い、真剣勝負の末に良き敗北を得た。すまなかったアル」
ラーメン山は改めてテキサス山に謝罪する。
これもまた遺恨の残らぬ敗北、善き敗北だった。
対してテキサス山は目を閉じて首を横に振る。
「いいや。負けは負けさ、ラーメン山。俺はキン星山を最初から格下と侮り、倫敦橋と戦う為の踏み台くらいにしか考えていなかった。この上アンタみたいな本物の男に慰められたら立つ瀬が無くなっちまうぜ」
テキサス山はテンガロンハットをかぶり直し、視線を隠す。
ここにいるラーメン山は誰もが認める本物の実力者である。
彼はテキサス山の実力を認めたからこそ、こうして語り合っているのだ。
以前のテキサス山ならばラーメン山と戦ったとしても歯牙にもかかることは無かっただろう。
今回の薄氷の上の勝利とてテキサス山の相撲人生において確実な糧となっていることを実感している。
互いの実力を認め合う二人の力士の前に黄龍が姿を現した。
その背後にはやはり青龍、白虎、玄武、朱雀の姿がある。四聖獣と、その主の姿を前にしては流石のテキサス山とラーメン山も身構えざるを得ない。
「さて、ラーメン山とテキサス山よ。我々はこれから天界に帰還するが一つだけ忠告をしておく。相撲の神たちが世界から姿を消した時から、世界平和の象徴たる相撲はお前たち力士に委ねられた。故に今後の世界の行く末はお前たち人間の力士の双肩にかかっている。その事をゆめゆめ忘れるなよ。そしてテキサス山、お前のライバルであるキン星に注意しておけ。あの男は次の試合、スモーオリンピックの一回戦で死神と戦うことになるからな」
黄龍の予言めいた言葉を聞いたテキサス山は驚愕する。
戦う前にライバルが一人減るのは嬉しいことだが(※アメリカ人的な合理主義)、相手がそのキン星山ともなれば話は変わってくる。
テキサス山は黄龍からキン星山の対戦相手に関する情報を少しでも引き出す為に”死神”という不吉な単語について問い質すことにした。
「死神だと⁉…そいつは穏やかじゃないな。一体どこの誰なんだ?」
しかし、黄龍は何も答えない。
ラーメン山は放っておけば掴みかかっていきそうなほどに苛立っているテキサス山を片手で制する。
この血気盛んな若者が自分の不注意で黄龍と四聖獣の餌食になることは自業自得の類だが、ここで死んでしまってはテキサス山に敗北したラーメン山の評価に関わってくることなのでアドバイスをしてやることにしたのだ(※中国人的判断)。
「待つアル、テキサス山。黄龍様の言葉はあくまで近い将来に起こる可能性がある出来事、即ち予言アルよ。我々がおいそれと干渉して良い話ではないアル」
黄龍は無言のまま首を縦に振る。
「その通りだ、ラーメン山よ。どうやら今回のお前たちの戦いを見てワシは絆されてしまったらしい。この話はここまでじゃ。だがゆめゆめ忘れるなよ、テキサス山。お前たち下界の力士の戦いが今後、世界の未来に関わっているということを…」
世界の運命。
その言葉を聞いた瞬間に、テキサス山の脳裏に世界と相撲の終焉を告げる相撲最終戦争という言葉が思い浮かぶ。
黄龍は二人の姿をじっと見た後に四聖獣を率いて巻物の中の世界と共にいずこかへと姿を消してしまった。
残されたテキサス山の肩をラーメン山が叩く。
「テキサス山よ。私はこれから中国相撲の総本山、相撲天国に戻り今日の試合と黄龍様のお告げを報告しなければならないアル。お前はどうするつもりアルか?」
テキサス山は小屋の扉に手をかけながらラーメン山の方を見る。
夕焼けに照らされながらテキサス山は少しだけ照れくさそうな表情で己の胸の内を語る。
「このまま試合当日まで強化トレーニングを続けるつもりだったが、予定変更だ。キン星山のところに行って YELLOW DRAGON の遺していった MESSAGE を教えてやるつもりさ。俺もまだまだ甘ちゃんだな」
ラーメン山は両腕を組みながら微笑む。
そして、その場で空中に飛び上がり一回転を決めてから着地した。
そして、普段から開いているのか閉じているのかよくかわらない目を「そんなに動かして大丈夫か?」というくらい開く。
ラーメン山は意を決して死神に関して己が知り得る全ての情報を口にした。
「お前の義侠心に免じて、私が死神と思われる力士について少しだけ教えてやろう。世界に数多存在する力士の中で死神の名を冠する強力な力士といえば只一人…インド角界においてインドラの化身と呼ばれた男。その名も印度華麗ッッ‼」
テキサス山はゴクリと喉奥に唾を飲み込む。
印度華麗はアメリカ角界にも知らぬ者がいないというほどの実力者である。
痩身ながら怪物じみた腕力を持つ閂の使い手、通称”インドの壊し屋”。
「印度華麗…。ME も聞いたことがあるぜ。元はインドのレスリングのチャンプだったが、ある暴力事件に巻き込まれて以来相撲に転身した力士だよな…」
ラーメン山は両腕を解き、目を閉じる。
「そう問題は、その暴力事件だ…」
ここは神秘の国インド。
鬱蒼と森の木々が繫る山の中で一人の苦行僧が一人で片足立ちをしている。
頭の上にはホカホカと湯気を立てる「みよしの」のカレーが乗っていた。
「みよしの」とは北海道を中心にチェーン展開している世界で一番おいしいカレーライスを出すお店である。
ガラゴロガラン…ッ‼
闇の中、雷鳴が轟いた。
ザザザザザザザザ…。
やがて雨が降り出した。
豪雨を浴びてあっという間に全身ずぶ濡れである。
しかし、男は祈ることを止めなかった。
「全ては大いなるカレーの御心のままに…」